『旅懐』は森田純一郎(1953 - )の第3句集。
著者は「かつらぎ」主宰。
風吹けど浮巣全容見せ呉れず
父死去
夏の季語増え来し頃や峠逝く
夏痩の耳に英語の呪文めく
墨まみれなる手にて選る糶の蛸
交野市神宮寺墓参 二句 より
ポンプ井を汲むが楽しき墓参かな
何となく家族の集ふ夜長かな
何やかや蠢く干潟去りがたし
ニューヨーク 三句 より
万緑に溶け込むごとく着陸す
どこにでも端居できさう志賀旧居
鯛おまけされて福笹なほ撓る
漂流のビニールプール出水川
隙間風さぞや海女小屋トタン張り
クリスマス神父老いたり吾もまた
滝道は滑ると決まり我滑る
ボケ封じ札に蓑虫ぶらさがる
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
腹痛は三ヶ月目に入って病院へ行ってもなかなか治らず。積読の消化も滞ったまま。ことに小説が気乗りせず、あまり読めなくなった。
装幀の懐かしさで読んだのは西村寿行『君よ憤怒の河を渉れ』と江夏豊『野球はアタマや』。野球には全然興味がないのだが。
川口晴美『やがて魔女の森になる』は著者から寄贈いただきました。記して感謝します。
銅大『SF飯 宇宙港デルタ3の食料事情』ハヤカワ文庫・2017年
《時は人類を過保護すぎるほど守ろうとした機械知性〈太母〉が〈涅槃〉へと旅立ったあとの時代。中央星域の大商家の若旦那マルスは、人柄はよいものの騙されやすく、勘当されて辺境の宇宙港へと流れてきた。行き倒れた若旦那を救ったのは、祖父の食堂〈このみ屋〉を再開させようとがんばる少女コノミ。ふたりは食材の不足、単調なメニュー、サイボーグや異星人という奇天烈な客にめげず、創意工夫でお腹と心を満たしていく!》
ラファエロ・ブリニェッティ『黄金の浜辺』河出書房新社・1972年(ストレーガ賞)
《海と空と風と太陽の世界を詩的に描いた現代のメルヘン
71年度ストレガ賞受賞作!》
《亡くなった島――河野多恵子
彼等の帆船は、目指す島へは行き着かない。いつまで経っても島は見えず、だが海図で見れば船は島のうえを進んでいることになる。しかし、この小説は伝奇小説ではないし、また観念小説でもない。象徴小説というのも、はばかられる気がする。
海上での部分と処々で入れ替って出てくる、男の内なる島でのよき――恐らく嘗つてのよき日常生活は冷たく描かれておりながら、人間味を漂えており、また消え去るべき前触れを感じさせる。》
尾崎秀樹『歴史文学夜話―鴎外からの180篇を読む』講談社・1990年
《森鴎外『興津弥五右衛門の遺書』から、吉村昭『海も暮れきる』につらなる歴史小説180篇の名作・力作。その愉しさの背景と秘密を語る。》
賀川豊彦『死線を越えて』現代教養文庫・1983年
《スラム街に移り住んで、他人のために自己を捧げ尽すというキリスト数的隣人愛を実践した著者の自伝的小説。後半は特に、スラム街に住むさまざまな人びとの生活記録ともいえ、その中での主人公の働きは万人の胸をうつことだろう。
第一次世界大戦の前後、アジアの片隅で伝導師として活動していた賀川豊彦を世界的人物にまで押し上げた古典的名著。三部作の第一番目。》
西村寿行『君よ憤怒の河を渉れ』徳間文庫・1980年
《「この人がうちに入った強盗です!」
新宿の交番で未知の女性からそういわれて指さされたとき、東京地検のエリート検事杜丘冬人の人生が崩れた。一転、他人の眼を逃れ、闇を奔り、あるときは北海道で羆と闘い、新宿の繁華街をサラブレッドで走り抜ける逃亡生活が始った。
彼を駆りたてているのは自分を罠に陥れたものに対する滾るような憤怒――それだけだった。西村寿行の記念碑的出世作。》
吉井亜彦『演奏と時代 指揮者篇』春秋社・2017年
《「名盤鑑定百科」シリーズでお馴染みの著者による名曲名盤の篩「指揮者篇」。時代の流れとともにコンダクターシップはどのように変遷してきたか。巨匠時代の采配ぶり(ライナー&セル)から今日の精緻なアンサンブル志向まで、指揮者とオーケストラの協働と聴衆に与える影響関係を、突出した指揮者13人の活躍を通して綴る。CD案内付き。》
イサム・ノグチ『イサム・ノグチ エッセイ』みすず書房・2018年
《「子ども時代以来ほとんど忘れかけていた身近な自然の再発見。大人として自然をふたたび知るため、自分の手を自然の泥のなかで疲れさせるためには、人は陶芸家あるいは彫刻家でなければならず、それも日本においてでなければならない」
種々の素材による彫刻作品にくわえ、ユネスコ本部庭園、ビリー・ローズ彫刻庭園、チェース・マンハッタン銀行プラザ・サンクンガーデンなど自作解説からコンスタンティン・ブランクーシ、バックミンスター・フラー、マーサ・グレアム、北大路魯山人、ルイス・カーンの思い出まで。「グッゲンハイム奨学金申請書」「近代彫刻における意味」「彫刻家と建築家」「平和の庭」「新しい石庭」「エルサレムの彫刻庭園」「悲劇『リア王』、舞台装置家のノート」「作品集『ノグチ』序」「日本の《あかり》ランプ」ほかエッセイ25篇、インタビュー3篇。世界的彫刻家が石を彫るその手で紡いだ思索の軌跡。図版多数収録。》
ジャック・デリダ、豊崎光一/守中高明監修『翻訳そして/あるいはパフォーマティヴ』法政大学出版局・2016年
《デリダが最も信頼する相手と語り合い、難解で知られるその哲学について、講義や講演でも見せることがない率直な語り口でデリダ自身が明らかにし、豊崎光一が《翻訳》で応答する。アルジェリア生まれのユダヤ人としての来歴、言語との関係、自身の哲学のさまざまな概念、ハイデガー、ブランショ、レヴィナス、セール、フーコー、ドゥルーズらとの関係までを語る。現代の知の核心を開く対話による共著。世界初の書籍化。》
アンナ・カヴァン『あなたは誰?』文遊社・2015年
《「あなたは誰?」と、無数の鳥が啼く―
望まない結婚をした娘が、 「白人の墓場」で見た熱帯の幻と憂鬱。
カヴァンの自伝的小説、待望の本邦初訳作品が登場!》
古井由吉『書く、読む、生きる』草思社・2020年
《作家稼業、書くことと読むこと、日本文学とドイツ文学、近代語と古典語、翻訳と創作、散文と韻文、口語と文語、「私」と「集合的自我」、夏目漱石『硝子戸の中』『夢十夜』、永井荷風、徳田秋聲『黴』『新世帯』、瀧井孝作『無限抱擁』、馬と近代文学、キケロ、シュティフター、ゴーゴリ、ジョイス、浅野川と犀川、競馬場と競馬客、疫病と戦乱、東京大空襲、東日本大震災、生者と死者、病と世の災い―。深奥な認識を唯一無二の口調、文体で語り、綴る。日本文学の巨星が遺した講演録、単行本未収録エッセイ、芥川賞選評を集成。》(「BOOK」データベースより)
吉田秀和『クライバー、チェリビダッケ、バーンスタイン』河出文庫・2020年
《クライバーの優雅、チェリビダッケの細密、バーンスタインの情動。ポスト・カラヤン世代をそれぞれに代表する、三人の大指揮者の名曲名演奏のすべて。》
沼野雄司『現代音楽史―闘争しつづける芸術のゆくえ』中公新書・2021年
《長い歴史をもつ西洋音楽は、二十世紀に至って大きく変貌する。シェーンベルクやストラヴィンスキーに始まり、ジョン・ケージ、武満徹、バーンスタイン......。多くの作曲家が既存の音楽の解体をめざして無調、十二音技法、トーン・クラスター、偶然性の音楽などといったさまざまな技法を開発し、音の実験を繰り広げた。激動する政治や社会、思想を反映しながら時代との闘争を続ける「新しい」音楽のゆくえとは。》
ユーリー・ボリソフ『リヒテルは語る』ちくま学芸文庫・2014年
《「ショパンのスケルツォ第4番。あれはまだ飛び方を習得していない天使を描いている」――日本との関係も深い20世紀最大のピアニスト、スヴャトスラフ・リヒテルが、駆け出しの演出家に語った驚きの言葉のかずかず。音楽作品が描き出す物語、他の芸術分野への連想、著名な人たちの思い出などがいきいきと語られる。プルーストやシェイクスピアを引用し、フェルメールやピカソを評し、フェリーニやクロサワを讃える。天才の想像力が全開する類いまれな一冊。文庫化に際し、「八月を想う貴人」を増補。》
川口晴美『やがて魔女の森になる』思潮社・2021年
《シスターフッドの未来
もう知らない誰かに勝手に使われたり奪われたりしなくていい
かわいいとか幸せそうとかおもわれなくてもいい
わたしがわたしじゃなくたっていい森の
秘められた水の辺にはわたしかもしれないひとたちがいる
(「世界が魔女の森になるまで」)
あなたはもうひとりのわたしなのかもしれない。だからこれはひとりの、わたしたちの声。話題となった「世界が魔女の森になるまで」(「早稲田文学増刊「女性号」」初出)を収録。高見順賞受賞の『Tiger is here.』以後、着実な歩みを見せる新詩集。装画=イケムラレイコ、装幀=白本由佳》
草上仁『5分間SF』ハヤカワ文庫・2019年
《あなたはこのお話のオチ、想像できますか? 宇宙に放り出され生死をさまよう男たちが取った究極の選択とは? 恐竜を探しに降り立った惑星で取材陣が出会った衝撃の真実とは? 幸せな生活を願って二人の未来をシミュレートしたカップルが手に入れた真実の愛とは? 思わずあっと驚く結末が、じわりと心に余韻を残す、すこしふしぎなお話が盛りだくさん。1話5分で読めて、いつでもどこでも楽しめるSFショートショート》
収録作品=大恐竜/扉/マダム・フィグスの宇宙お料理教室/最後の一夜/カンゾウの木/断続殺人事件/半身の魚/ひとつの小さな要素/トビンメの木陰/結婚裁判所/二つ折りの恋文が/ワーク・シェアリング/ナイフィ/予告殺人/生煙草/ユビキタス
坂本龍一・後藤繁雄『skmt 坂本龍一とは誰か』ちくま文庫・2015年
《坂本龍一は、何を感じ、どのように時代をとらえ、どこへ行こうとしているのか? 彼の感受性にぶつかるのは何であり、時事性がどのように創作へと彫琢されるのか? インタビューの達人として知られる独特編集者・後藤繁雄とともに、坂本の思考の系統樹をたどり、「時代」に解消されない独創性の秘密にせまる。『skmt』『skmt2』を合本した「予見」の書。》
細野晴臣『アンビエント・ドライヴァー』ちくま文庫・2016年
《はっぴいえんど、ティン・パン・アレー、YMO……。日本のポップ・シーンで著者はさまざまな花を咲かせた。アンビエントの海を漂い、ふたたび陸に上がり、なおも進化しつづける自己省察。著者の、自然観、人生観、音楽観などの伝わるエッセイ集。》
ケネス・クラーク『名画とは何か』ちくま学芸文庫・2015年
《ボッティチェッリ“ヴィーナス誕生”、ベラスケス“宮廷の侍女たち”、レンブラント“夜警”、ピカソ“ゲルニカ”―これら誰もが知る傑作は、なぜ時代を超えて人びとの心に感動を呼び起こし、いまなお多くの謎を投げかけてくるのか。名画を名画たらしめているものとは、いったい何なのか。作品を天才による才能の発露としてのみならず、時代の精神を体現するものとして「文明」とのかかわりで読み解く広大な眺望を切り開いてきた美術界の碩学が、約40点の名画を精選。一点一点丁寧に、味わい深く解説する。その思想の核が凝縮された珠玉の美術入門。》
鈴木貞美『日本人の生命観―神、恋、倫理』中公新書・2008年
《「神からの授かりもの」「輪廻転生」「物質の集まり」―生命の見方は多様だ。日本人は生命をどのように捉えてきたのか。本書は、宗教、哲学、文学、自然科学と多彩な分野からこの疑問にアプローチする。神々が身近だった記紀万葉の昔から、生命科学が著しい発展を遂げた現代まで、生命観の形成と変遷をそれぞれの時代相とともに描きだす。日本に脈々と流れる「生命本位の思想」の可能性と危険性も浮かび上がってくる。》
朝日新聞黄河行取材班『黄河行』徳間文庫・1984年
《あばれ黄竜――人々は、黄河をこう呼ぶ。
その黄河の辺りに立つ――。
青海省の屋根に源を発し高原地帯を貫流して蘭州へ。黄土高原を奔流したあと東に折れて大平原にたどりつき、雄大な流れとなって渤海湾に注ぐ。全長5664キロ。水源を出た水は一カ月かけて河口にたどりつく。
黄河は中国文明の母である。
ロマンを秘めたその歴史と流域に住む人人の素顔を伝える紀行書。》
江夏豊『野球はアタマや』徳間文庫・1985年
《ついに大リーグにまで行った男――。オールスター九連続奪三振の記録を持ち、阪神・南海・広島・日ハム・西武とわたって通算206勝193セーブ、両リーグMVP受賞。“球界の一匹狼”“優勝請負人”“セーブ王”など数々の称号を贈られた江夏が、あの球史に残る日本シリーズ・西武―巨人全七戦を紙上で再現、自己の投球術とその底に流れる野球への深い洞察の全てを初めて披露する。江夏流ピッチング術。》
朧月あき『婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する』ベリーズ文庫・2020年
《前世でガチはまりしていた乙ゲーの悪役令嬢に転生したと気づいた、令嬢・アンジェリーナ。王子に婚約破棄された上に、幽閉というバッドエンドしか待っていなくて大ピンチ! だったらのんびり優雅に(!?)監獄生活を満喫してみせましょう!と“ジャージ”でゴロゴロ&“推しごと”に没頭し放題! 自由を謳歌する悪役令嬢のリア充ライフ、ここに開幕!》
宮澤伊織『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』ハヤカワ文庫・2017年
《仁科鳥子と出逢ったのは〈裏側〉で〝あれ"を目にして死にかけていたときだった――その日を境に、くたびれた女子大生・紙越空魚の人生は一変する。「くねくね」や「八尺様」など実話怪談として語られる危険な存在が出現する、この現実と隣合わせで謎だらけの裏世界。研究とお金稼ぎ、そして大切な人を探すため、鳥子と空魚は非日常へと足を踏み入れる――気鋭のエンタメSF作家が贈る、女子ふたり怪異探検サバイバル!
投稿情報: 23:57 カテゴリー: このひと月くらいに読んだ本の書影 | 個別ページ | コメント (0)
開成学園俳句部の部誌「紫雁」第19号(2021年9月)の「紫雁集Ⅰ~Ⅳ」と「顧問の俳句」から全員一句ずつ。
以下、高三の作品。
心臓はしづかに飢ゑて焼野原 垂水文弥
以下、高二の作品。
海鳥はかがやきやまず旅始 荒川力也
次々と利発な音よ木賊刈る 佐伯冴人
春雨や楽器に満ちて昏い部屋 佐々木啄実
筋肉の三人立つてゐるプール 佐藤 颯
茄子の紺巴里の夜空に劣らざる 鈴木ヒロアキ
月蒼し熊が大樹に傷をつけ 中川収三
家ぢゆうの花に倦みけりカーペット 根木波輝
別館へみじかき橋や欅の芽 谷田部慶太
枯芒ビルの光となる前の 山崎勇獅
以下、高一の作品。
冬薔薇を土耳古の壺の過りけり 鈴木丈句朗
いかのぼり夜空を知らぬゆゑあかるし 林 洸輝
鯖雲は微妙な隙間保つてゐる 野口翔太朗
残月とビルと吊革顔の堅さ 渡部 一
以下、中二、中一の作品。
睡蓮に時計が狂ひ始めたり 工藤直樹
新雪はよごされるためつもりけり 田中 仁
以下、顧問の作品。
物件のひんやりとして初桜 佐藤郁良
被写体のみなくたびれて聖夜かな 近藤 剛
こんな夏の海で受けたくない電話 石丸恵彦
腹痛がずっと続いて当然眠れもせず、様子を見ているうちに病院に行けないほど衰弱した一ヶ月だったので先月より更に何も読めなくなった。
読むのが惜しくて買ってそのまま置いてあった眉村卓の遺作『その果てを知らず』はようやく読んだ。コーンブルース『シンディック』も高校生の頃買い逃したのを後に入手して積読だったもの。こういうのは生きているうちに通読しておきたい。
髙柳克弘『そらのことばが降ってくる―保健室の俳句会』(俳句の本だが小説)は著者から寄贈いただきました。記して感謝します。
シリル・M・コーンブルース『シンディック』サンリオSF文庫・1985年
《腐敗した政府がシンジケート組織のモブ‐シンディック連合軍によって海へ追い落されてから、北アメリカ大陸は東西に二分され、東部はシンディックに、西部はモブに支配されている……。
シンディックのファミリーの末端に連なるチャールズ・オルシノは、劇場で彼自身のガードマンによって狙撃された。幸い無事だったが、このところファミリーの人員が相次いで狙われていた。
海の向こうでシンディックの転覆を図ってしきりにスパイを潜入させてくる「政府」の仕業か?
事態を重く見たシンディックは、真相究明のために、逆に「政府」側にスパイを潜入させることに決めた。チャールズは自らその役を買って出るのだが……
フレデリック・ポールとの共作『宇宙商人』によって知られ、35歳で世を去った鬼才コーンブルースの傑作SF長編。》
森毅『数学の歴史』講談社学術文庫・1988年
《数学は勝れて抽象的な学問である。しかし、だからといって数学が社会や世俗の人間活動から孤立して発展してきたわけでなはい。また数学者が、その人間的関心の全てを二六時中数学に集中し続けているわけでもない。それが証拠に、確率論は賭博と縁が深い。という次第で、著者は、〈数学〉を主人公にしながらも〈社会〉を断念しない数学史の記述という難題に挑んだ。あふれる機知と興味深い逸話の数々。比類のない人間臭い数学史の成立。》
徳田秋声『黴』岩波文庫・1949年
《直接自身の生活に取材した最初の作品。自然主義文学の代表作であるのみならず、秋声はこの長篇で小説家としての地位を確立した。》
渡辺温『アンドロギュノスの裔―渡辺温全集』創元推理文庫・2011年
《横溝正史の右腕として『新青年』の編集をしながら小説の執筆に励んでいた渡辺温は、原稿依頼に赴いた谷崎潤一郎宅からの帰途、貨物列車との衝突事故で27年の短い生涯を閉じた。僅かな活動期間に遺した短篇、脚本、映画に関する随筆、翻訳など、多彩な分野の作品を執筆年代順に網羅。初の文庫版全集として一冊に集成した。憂愁と浪漫に溢れる、影絵の如き物語世界を御堪能あれ》
収録作品=影/少女/象牙の牌/噓/赤い煙突/父を失う話/恋/可哀相な姉/イワンとイワンの兄/シルクハット/風船美人/勝敗/ああ華族様だよと私は噓を吐くのであった/遺書に就て/アンドロギュノスの裔/花嫁の訂正/或る母の話/男爵令嬢ストリートガール/浪漫趣味者として/巷説「街の天使」/悲しきピストル/指環/モダン夫婦抄/モダン夫婦抄 赤いレイン・コートの巻/四月馬鹿/夏の夜語/春ノ夜ノ海辺/夕の馬車/小さな聖人達に与う/淋しく生きて/若き兵士/森のニムラ/足(鏡/不幸/風景/足)/兵隊の死/子供を泣かしたお巡りさん(子供を泣かしたお巡りさん/石あたま/一年生のお爺さん)/氷れる花嫁/進軍/老いたる父と母/子供と淫売婦/氷れる花嫁/山(どぶ鼠/山)/降誕祭/縛られた夫/新薬加速素/絵姿/外科医の傑作/王様の耳は馬の耳/島の娘/矮人の指環/想出すイルジオン/或る風景映画の話/オング君の説/なんせんす・ぶっく/『疑問の黒枠』撮影を見る/古都にて/関西撮影所訪問記/アルペン嬢の話/アルペエヌ嬢の話 続/兵士と女優/十年後の映画界/十年後の十字街/各種アンケート
眉村卓『自殺卵』出版芸術社・2013年
《作家生活50周年を迎えた著者が描く、8つの異世界譚!
「われわれの贈り物で、死んで下さい。人間はもう充分生き過ぎました。」……
年金生活者で独り暮らしの主人公の自宅に、そんな異様な手紙が届けられた。
世界中で、差出人不明の卵型の自殺器と手紙がばらまかれる。
徐々に人口が減り始め、〈死〉が日常になる…終末SFの傑作「自殺卵」
ほか書き下ろし「退院前」、「とりこ」の2作を収録した全8編!》
収録作品=豪邸の住人/アシュラ/月光よ/自殺卵/ペケ投げ/佐藤一郎と時間/退院後/とりこ
眉村卓『その果てを知らず』講談社・2020年
《日本SF第一世代として活躍した眉村卓が晩年の病床で書き継いでいた遺作。SF黎明期に起こったこと、そして未来はどうなるのか――
今から60年以上前、大学を卒業して会社員となった浦上映生は文芸の道を志し、SF同人誌「原始惑星」や創刊されたばかりの「月刊SF」に作品を投稿し始めた。サラリーマン生活を続け、大阪と東京を行き来しての執筆生活はどのように続いていったのか。
晩年の彼が闘病しつつ創作に向き合う日常や、病床で見る幻想や作中作を縦横無尽に交えながら、最期に至った“この世界の真実”とは。
これぞ最後の「眉村ワールド」!》
藤沢道郎『物語 イタリアの歴史―解体から統一まで』中公新書・1991年
《皇女ガラ・プラキディア、女伯マティルデ、聖者フランチェスコ、皇帝フェデリーコ、作家ボッカチオ、銀行家コジモ・デ・メディチ、彫刻家ミケランジェロ、国王ヴィットリオ・アメデーオ、司書カサノーヴァ、作曲家ヴェルディの十人を通して、ローマ帝国の軍隊が武装した西ゴート族の難民に圧倒される四世紀末から、イタリア統一が成就して王国創立宣言が国民議会で採択される十九世紀末までの千五百年の「歴史=物語」を描く。》
野矢茂樹・西村義樹『言語学の教室―哲学者と学ぶ認知言語学』中公新書・2013年
《「雨に降られた」はよくて「散布に落ちられた」がおかしいのは、なぜ? 「西村さんが公園の猫に話しかけてきた」の違和感の正体は? 認知言語学という新しい学問の、奥深い魅力に目覚めた哲学者が、専門家に難問奇問を突きつける。豊富な例文を用いた痛快な議論がくり返されるなかで、次第に明らかになる認知言語学の核心。本書は、日々慣れ親しんだ日本語が揺さぶられる、“知的探検”の生きた記録である。》
若桜木虔『アポロンの剣闘士』集英社文庫コバルトシリーズ・1979年
《紀元二〇二一年、地球は人口増加に悩んでいた。交通事故で恋人を失ったアラン・M・西城は、消えた宇宙植民船シリウス号を追ってはるかな宇宙の旅に出た。そして着いたところは、地球とよく似た恒星で、文明もまた似かよっていた。その恒星でアランは、野性的な美女ノエラと、神々しいほどに美しいエレオノーラの姉妹と出会った。アランは、一目でエレオノーラに恋したのだったが……。》
若桜木虔『ブラックホールの彼方で―アポロンの剣闘士2』集英社文庫コバルトシリーズ・1984年
《地球防衛軍で鍛えあげられた腕前をもつアランは、地球に似た第三惑星で武術の競技会に出場した。優勝すれば聖美姫エレオノーラと結婚できる。だが試合は引き分け。アランはエレオノーラを連れ出そうとして失敗。絶望したアランだったが、奇跡によって生き返ったノエラとともに悪魔族討伐の命を受けた。戦いに敗れたアラン達は、逃亡の途中でシリウス村へ立ち寄り、人々と再会を喜び合った。》
飯島洋一『37人の建築家―現代建築の状況』福武書店・1990年
《どのような表現でも、それを生み出した時代背景を背負っているのではないか―。現代世界を代表する建築家37人の作品を語りながらその思考を探り、ポストモダンの言葉と共に多様な価値観の時代を現出した戦後を、新視点から検証する。》(「BOOK」データベースより)
夢枕獏『ねこひきのオルオラネ』集英社文庫コバルトシリーズ・1979年
《すごいものに出会った時の、恐怖感にも似た寒けが、チェロ弾きの青年をおそっていた。ふと知り合ったオルオラネ爺さんの指が奏でる、三匹のねこたちの演奏が始まったのだ。曲はベートーベンの第九、三匹たちから作り出される生きた音楽、ねこの声の微妙な色あい。だがリズムは徐々に変貌していった。これはジャズではないか。拍手、喚声、口笛り!! イヴの晩の酒場は興奮と熱気に包まれていた。》
酒井邦嘉『言語の脳科学―脳はどのようにことばを生みだすか』中公新書・2002年
《言語に規則があるのは、人間が言語を規則的に作ったためではなく、言語が自然法則に従っているからである―。こうしたチョムスキーの言語生得説は激しい賛否を巻き起こしてきたが、最新の脳科学は、この主張を裏付けようとしている。実験の積み重ねとMRI技術の向上によって、脳機能の分析は飛躍的な進歩を遂げた。本書は、失語症や手話の研究も交えて、言語という究極の難問に、脳科学の視点から挑むものである。》
野坂昭如『生誕の時を求めて』中公文庫・1978年
《挫折の世代の後に現われた、無関心で心優しい、老いた若者たち。テロの祭典の果てに彼らが見たものは何か――。生誕の日から失われた、自らの〈風景〉を求めてさすらう、若者たちの終末への旅。》
西村寿行『修羅の峠』徳間文庫・1982年
《木曾経文村の守り神とされる地蔵菩薩が盗まれ、探索に出た武平は修羅の峠に刻まれた十王像にまつわる奇妙な伝聞を知るが、やがてその十王像前で惨殺された。大正時代、乞食の権治と呼ばれる石工が刻んだという十王像には何が秘められているのか?
謎を追う武平の娘津恵と県警捜査員五堂は、戦争が生んだ狂気の血を現代まで引く権力の亡者を追いつめるが……。
巨匠の作品群に一極点を示す力作長篇。》
瀬名秀明『パラサイト・イヴ』角川ホラー文庫・1996年(日本ホラー小説大賞)
《“EVE1”。
若き生化学者の永島利明にとって、それは非業の死を遂げた愛する妻・聖美の肝細胞にほかならなかった。だが彼は想像もしなかった。その正体が、《人間》という種そのものを覆す未曾有の存在であることを……!。第2回日本ホラー小説大賞を受賞、日本のエンターテイメントを変えた超話題作ついに文庫化!!》
志賀直哉『暗夜行路』新潮文庫・1990年
《祖父と母との過失の結果、この世に生を享けた謙作は、母の死後、突然目の前にあらわれた祖父に引きとられて成長する。鬱々とした心をもてあまして日を過す謙作は、京都の娘直子を恋し、やがて結婚するが、直子は謙作の留守中にいとこと過ちを犯す。苛酷な運命に直面し、時には自暴自棄に押し流されそうになりながらも、強い意志力で幸福をとらえようとする謙作の姿を描く。》
冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』ハヤカワ文庫・2013年
《あなたはそこにいますか――謎の問いかけとともに襲来した敵フェストゥムによって、竜宮島の偽りの平和は破られた。島の真実が明かされるとき、真壁一騎は人型巨大兵器ファフナーに乗る――。シリーズ構成、脚本を手がけた人気テレビアニメを、冲方丁自らがノベライズ。一騎、総士、真矢、翔子それぞれの無垢なる“青春”の終わりを描く。さらにスペシャル版「蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT」のシナリオを完全収録。》
髙柳克弘『そらのことばが降ってくる―保健室の俳句会』ポプラ社・2021年
《教室に行けず保健室に通うソラは、俳句が大好きな同級生に巻き込まれ、俳句会に参加することに。気鋭の俳人が描く青春小説!》
投稿情報: 23:00 カテゴリー: このひと月くらいに読んだ本の書影 | 個別ページ | コメント (0)
『人類の午後』は堀田季何(1975 - )の第4詩歌集。栞文:宇多喜代子、高野ムツオ、恩田侑布子。
著者は「楽園」主宰。
原文は旧字表記。
水晶の夜映写機は砕けたか
ひややかに砲塔回るわれに向く
月光に白し吾が手も合鍵も
うち揚げられし魚(いを)へ夏蝶とめどなし
世界貿易センター跡や雪間とも
金魚みな脂乗る水換へたれば
風鈴をきいたのかもうおわかれだ
バビロンの法の重さの星流る
死者たちの投票用紙落葉焚
鮫の皮剝がす全身タイツのごと
アフガンの起伏に富める蒲団かな
撃たれ吊され剝かれ剖(ひら)かれ兎われ
湯豆腐やひとりのときは肉いれて
配膳ワゴン全段雑煮隔離病棟へ
ヨーグルトに蠅溺死する未来都市
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『星貌』は堀田季何(1975 - )の第3詩歌集。
著者は「楽園」主宰。
楽園帰還雪に言語を置き捨てて
幼児期ふかく水
永遠が裸のまま被さってくる
太陽は昨日より大きい彼女は銃を取り出す
延延と階段くだる9・11
警察の蜥蜴はいつも濡れている
悪魔に憑かれ異教寺院建立す砂糖とパイ生地で
身ぐるみ剥がされた男の脇とおるタキシードの犬
核の冬まであの人を待っている
変異 切除 屈辱
全宇宙大協和音 地獄(ヘル)
正直に生命の樹から箸
この人形は非性か無性か両性か中性か くれない
以下、附録の第2詩歌集『亜剌比亜』日本語原句より
角砂糖踏みしめ蠅や王の気分
海原のこちら砂上の楼閣は
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『花の庭』は日髙まりも(1954 - )の第1句集。序文:小川軽舟、跋文:布施伊夜子。
著者は「鷹」「椎の実」同人
未来とはまだ間に合ふ日男郎花
家中の明り落とさむ虫時雨
一人づつ子を東京へ蕎麦の花
郵便の来ぬ日蜜蜂来てをりぬ
秋風や打捨ててある深海魚
床の間の遺影と魚拓春兆す
ショベルカー薊咲く野を拓きけり
石鹼玉大地輝きつつ回る
街路樹の葉音澄みけり天の川
雪を来し背広を吊す仏間かな
厩舎への道濡れてゐる桜かな
街灯に降りてオレンジ色の雪
新緑や玻璃ひろびろと美術館
かはほりに青く暮れゆく山河かな
母の死を毎日忘れ父涼し
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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