閑中俳句日記（別館） －関悦史－

【十五句抄出】堀込学句集『かまくらゆり』

2023年9月
霧工房

　『かまくらゆり』は堀込学（1966 - ）の第2句集。

　著者は「鬣」同人。

 

 

 

 

 

 

 

みのうちのやまなみとよむ斧始め

友なべて娶らずにをり冬至粥

神々は遠目とならむ寒の水

しぐるゝやでもをうつさぬ秋つしま

睡蓮のひらかば夏の自由なる

花氷をとこのなかのをんなの貌

山蟻にいつしか障子開けらるゝ

カーチス・ルメイに叙勲や冬の蟲

山の端に三日月降ろすきつねびと

人形の頭(づ)のなかに置く手紙かな

榾箱に一つ目のゐてけふはゐず

冥途へとあをき市電のひたはしる

囀りや野に一面の硝子屑

さみしいのであけがたは烟がでてくる

水道水つぎの世界のかたちはも

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

有瀬こうこ句集『磁石』

2024年1月
マルコボ．コム

　『磁石』は有瀬こうこ（1973 - ）の句集。第13回百年俳句賞最優秀作品。

　著者は「いぶき俳句会」「豆の木」所属。

 

 

 

クレーマーに息継ぎのあり花馬酔木

酔拳で近寄つてくる日焼の子

流木は畳に置かれ休暇果つ

たけなはと言ふ退屈を踊りけり

いつまでも好きと思ふな胡桃割る

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

水野結雅「不器用」

2023年？
私家版コピー本

　「不器用」は水野結雅（2007 - ）の第16回句集をつくろうコンテスト優秀賞・子規特別賞作品をまとめた手製冊子。

　著者は「南風」「いぶき」所属。

 

 

 

 

 

子規の忌のふりかけの黄のほぐれけり

穭田を鳩の行き交ふ真昼かな

採血の針の細さを訊く師走

再婚の父に日永の浮子流れ

ヒヤシンス声のこぼるる会議室

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

北條花音『花音』

2023年4月
一兎舎

　『花音』は北條花音（2007 - ）の5～15歳の作品を収めた句集。序文：飯島ユキ。

　著者は「羅の会」会員。

 

 

 

 

 

なつふくできれいにかいたあいうえお

かみコップのろけっとできた夏の昼

学校にたのしくかよう秋の空

何となくきつい上ばき休み明け

スキー教室帰りのバスはみな静か

折紙で年神さまをお迎えす

自転車のサドルもベルも凍る朝

年越しに一人ぼっちでジャンプする

黒雲の去りて三時のさくらんぼ

弟妹の電車ごっこや雪月夜

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

佐藤りえ幻想怪奇俳句集『良い闇や』

2022年11月
私家版

　『良い闇や』は佐藤りえ（1973 - ）の幻想怪奇俳句集。

 

 

 

 

 

 

 

 

　　　雨月物語　青頭巾
虚しさに鬼とはなりぬ萩の寺

或る男鳩をまねびて飛び立てり

手の甲にまなこがあつて見つめ合ふ

落ちていくのをずつと見てゐてあげる

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

小山正見句集『大花野』

2022年2月
朔出版

　『大花野』は小山正見（1948 - ）の句集。認知症を発症した妻との暮らし全36句。

　著者は「梓」同人。

 

 

 

 

 

荒梅雨の花に水やる君と居て

手を握り祭の夜を彷徨す

ここはどこあなたはだあれ大花野

つい怒鳴る虐待に違ひなき暮

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

有賀眞澄『愛密集』

2022年1月
虹蜺舎

　『愛密集』は有賀眞澄（? - ）の句集。「衣」による写真収載。

 

 

 

 

 

 

あぢさゐから連れ出す少女のかはり玉

花筏おぼれる人とおよぐ人

ら変乱菊あかなく全裸いまそかり

スカートで受け取る林檎の小躍りよ

冬銀河ピアノはまこと打弦なり

天無人蠍を癒すさそりの目

朧夜のぞっこんといふ屍かな

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

楠本奇蹄句集『おしゃべり』

2022年1月
マルコボ．コム

　『おしゃべり』は楠本奇蹄（1982 - ）の句集。「第11回百年俳句賞」の最優秀作品。

 

 

 

耕してゆくたび白い主語になる

聖五月ひつじにひかりひとつずつ

雨粒を背に天牛のゆがみかな

骨盤の奥まで港あをしぐれ

虹がはじまる家々をぬけがらにして

 

 

 

※本書は版元より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

水野結雅句集『氷砂糖』

2021年1月
マルコボ．コム

　『氷砂糖』は水野結雅（2007 - ）の句集。「第14回句集を作ろう！コンテスト」40句部門の入賞作品。

　著者は現在中学生。

 

 

 

 

コーヒーの泡の割れたる霧の朝

隙間風父の湿布を貼なほす

城跡に海の匂ひや冬菫

入学の雲なき空をもてあます

玉葱の積まれて市場完成す

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

向瀬美音編『HAIKU Column Vol.6』

2020年12月
ふらんす堂

　『HAIKU Column Vol.6』は向瀬美音（1960 - ）編の海外俳句対訳アンソロジー。

　編者は「舞」会員。

 

 

 

 

枯れ井戸に見出したるは空なりき　　　ジャン リュック ヴェルパン

雲のはし催涙ガスで血痕に　　　ジャン-ルイ シャルトラン

いくばくの空間薔薇の命かな　　　アンヌ マリー ジュベール ガヤー

薄暗き地平線見る冬隣　　　クリスティーナ チン

君の名を雪に殴り書く通学路　　　フロラン シオビカ

這ふ薔薇は空への階段春嵐　　　クレルール ガーディアン

さまよえる難民グーグルアースかな　　　アブダラ ハジ

恋人に触れ冬の星座の動きけり　　　ベロニック ゾラ ナヴァック

盥の上のどんぐりの音嵐来る　　　クリスティーヌ ウリヤック

薔薇の園迷ひたる画家哲学者　　　ブノア ロバイユ

ロングヘアー母の瞳に子の私　　　アントセラ セイディダ

風は空に夏のドレスを着せてをり　　　ミシェル ティルマン

 

 

 

※本書は編者より寄贈を受けました。記して感謝します。