雨降り続く合法のオイディプス 清水かおり
おとうとを匿う朽ちた雨戸かな 山田ゆみ葉
第五惑星こんなにあった仲介者 小池正博
ぼたもちをこねる恐怖の大天使
両の手に重さの違う箸があり 樋口由紀子
感情的にちょっと傾く木造アパート
人類の寝顔かそけき春の草 筒井祥文
弱者とはむかし朝鮮いま沖縄 渡辺隆夫
同行の二人はすでに炎上す 松本 仁
できたての大腿筋から帰る 横澤あや子
完熟の西瓜の中はジャズだらけ 丸山 進
父母が影響受けたカタツムリ
バベル語で話す猫背の少女たち
自転車の乗り方で無職だとわかる 柴田夕起子
号泣の空っぽの檻に咲くキリスト 湊 圭史
教壇で真っ赤な紐を噛んでいる
円天井天使の嘴「顔を脱げ」 吉澤久良
弛みから逆らい方の按分率 兵頭全郎
鳥居型てふてふ鋏型てふてふ 江口ちかる
母性本能くすぐってみるおから 草地豊子
手後れのここから向こう全部海 重森恒雄
皿二枚意外に速い夜の河
追い込みで飼う寂しげな羊たち 高橋 蘭
安心感はきっと空洞だと思う 前田一石
てのひらで今は待てよというゲバラ
除湿機と加湿器つけて作動する 北沢 瞳
この家は二酸化炭素でできている 浪越靖政
地下二階三階…エレベーターが止まらない
炎上の城目覚ましが鳴っている 井上せい子
羽根はどうした 父の大きな声がする 松永千秋
取るものもとり敢えず包囲される島 松原典子
ガンジスの泡を包んで食べている 畑 美樹
液状に滲みはじめる死後のオルガン 石部 明
魚の鰭かすかに動いている空家
後半は『第三回BSおかやま川柳大会』の特集。「BS」は衛星放送のことではなくて誌名「バックストローク」の略称。
川柳の方も“難解”問題があるようだ。
《個性のありそうな新人の何人かに注目していても、結局は個性のない、しかし大会などではよく抜ける平凡な書き手になってしまう。これは受け皿の問題でしょう。少し個性的な句を書き始めると「そんな独りよがりの句では、バックストロークで評価されても大会では通用しませんよ」とか自分たちの世界に引き戻してしまう。》(発行人石部明の大会での発言)
“難解”が排されると驚異的なもの、綺想的なものはその居場所を失ってしまうので、読む側としてはいささか興が失せる。
川柳作品の場合は特に、『優雅に叱責する自転車』等のエドワード・ゴーリーの不条理絵本や稲垣足穂の「一千一秒物語」、あるいはある時期以降の眉村卓のSFショートショート(『ポケットのABC』『ポケットのXYZ』『最後のポケット』『ふつうの家族』)みたいに変な状況、奇妙なイメージが合理的説明や物語性に回収されずにそのまま投げ出されていてその解放感を楽しむような作品と同列に享受すればいいのではないかと思うのだが。
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