文學の森
2010年
妹尾健第二句集『洛南』を今日送っていただいた。
妹尾氏は私と同じ「豈」の同人ということになるが、私が句会に出たことがないせいもあって同人諸氏の大部分はお会いしたことが全くなく、妹尾氏とも面識はない。
略歴の昭和58年の項に、《「草苑」同人、後、草苑賞受賞/攝津幸彦・大本義幸・大井恒行・長岡裕一郎らの俳句同人誌「豈」の同人拡大の要請に応じてこれに参加》とある。桂信子への師事が先であったらしい。句集の跋は大井恒行だが帯の10句は宇多喜代子選となっている。
家族を詠み、風土を詠む人生の流れを感じさせる句が多いが、《喜雨来たる老人多き町の辻》《レバノンの町の名を知る今日の秋》《芥捨つるばかりの川の涸れにけり》など、特に社会性が閃くような句にところどころ伝統一辺倒の来歴の作家とはやや異なる無機的な手触りの虚なるものが感じられる。
風の息樹の息渡る春の川
母とゐる長き一日や蓬摘む
古団扇風伝わらぬ奥丹後
大乱の兆しありけり旱雲
座してまた立ち上がりたる夜長かな
父母を守り背にする冬銀河
故田中裕明氏
主なき句集の届く二日かな
青鷺の思案に暮れる山河かな
喜雨来たる老人多き町の辻
哲学を専攻するといふ胡瓜
朝顔や中学校は国境
レバノンの町の名を知る今日の秋
長岡裕一郎氏追悼
市ヶ谷に君を見送る秋黴雨
攝津幸彦氏没後十年 仁平勝氏と話す
十年の後の秋風髭白し
芥捨つるばかりの川の涸れにけり
人麻呂の眼のさきにひとしぐれ
妹尾健(せのお・けん)…昭和23年兵庫県伊丹市生まれ。「草樹」創刊同人。「豈」同人。現代俳句協会会員。日本文藝家協会会員。
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