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『デルボーの人』は仁平勝(1949 - )の序数句集としては第4句集。
著者は「件」「トイ」所属。
夕方の匂ひたとへば豆の飯
いくつもの青を泳いできたといふ
窓を開ければ港が見える夜の秋
それなりに日焼してをり秋団扇
長き夜を布かけられて籠の鳥
虫売りの子供好きでもなささうな
楽隊の背後に冬将軍がをり
公園の冷たい椅子に座りけり
春遅々と配線が蛸足である
風船の落ちさうに飛ぶ春の暮
それとなく事を済ませて鳥の恋
間をあけて立つデルボーの人涼し
冬の日を集め窪んでゐるところ
店先の狸を濡らし春しぐれ
ぶつかつて言葉を交はすボートかな
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
眉村卓『仕事ください』(竹書房文庫)は『奇妙な妻』(ハヤカワ文庫、角川文庫)に数篇足した内容。こうした復刊ものを見るたびに、なぜほぼ例外なく児童文学、絵本、マンガ、ライトノベルのような装幀にされてしまうのかと思う。
ジョルジュ・プーレ『詩と円環』審美文庫・1973年
《中世的論理の体系の中では、すべては原点である神から発し、被造物である人間とものとは、その原点から整合的に説明され、それぞれが占めるべき確固たる位置を保有していた。これは図像的には中心を神に置く無数の同心円で示される。ところが、中世的信仰の崩壊とルネッサンスとが、この整合的な不動の宇宙を破壊したとき、宇宙の整合性は失われ、人間は自由とともに不安を、身から離れぬ陰のように持たざるを得なくなった。近代人は自身の実存を支える砦として、説得力のある形而上学を求めた。すぐれた近代詩人たちは想像力と言語を駆使して、それぞれの宮殿を構築する。要約すれば“生きがい”の創設である。ただし、神の座だけは不在であった。ジョルジュ・プーレは卓越した構想力と感性を操って、詩人たちの内的世界を探求する。》
ル・コルビュジエ『ユルバニスム』鹿島出版会・1967年
《レスプリヌーボー叢書の一巻。
ル・コルビュジエの都市計画理念の原点であり、本書で展開される思想は、年月を経た今日も依然として有効であり続けている。》
小林秀雄『作家の顔』新潮文庫・1961年
《書かれたものの内側には、必ず作者の人間があるという信念のもとに、著者の心眼に映じた作家の相貌を浮彫りにし、併せて文学の本質とその魅力を生き生きと伝える。青春の日に出会ったランボオ、敬愛する志賀直哉、菊池寛、個人的に深い交渉のあった富永太郎、中原中也、さらには中野重治、林房雄、島木健作、川端康成、三好達治等々、批評家小林秀雄の年輪を示す27編。》
中村紘子 他35名『私の猫ものがたり』集英社文庫・1985年
《かけがえのない人生の友、“いとしの描”たちにあてた各界36人の猫との交際術と猫へのラブレター!
中村紘子 小泉喜美子 水森亜土 犬養智子 堀内美紀 下重暁子 白石冬美 森ミドリ 小坂恭子 檀ふみ 熊井明子 長嶺ヤス子 塩田丸男 谷山浩子 荒木一郎 山本コウタロー 所ジョージ 来生たかお 羽仁未央 ホワイティング 高橋洋子 清川妙 遙くらら モレシャン 吉原幸子 長田弘 南伸坊 赤塚不二夫 伊藤比呂美 小沢昭一 大地真央 原田治 岸田衿子 川本三郎 タモリ 岸本加世子》
吉行淳之介『不作法のすすめ』角川文庫・1973年
《粋とは、不作法とは、紳士とは何か? 文壇きっての紳士が、アソビを通して人生のヨロコビと苦さを、しゃれたセンスで語る“面白半分”なエピソード。たとえば、痴語すなわちワイ談は、ムツカシイ人間関係をスムーズにする音楽であり、また、かの典雅なる“吉原大学”こそ、著者のナツカシイ青春を投影した、キビシイ人生修業の場であった…。ベストセラー『軽薄のすすめ』につづいて現代の若ものたちにおくる実践的レンアイ学入門。》
吉行淳之介『怪談のすすめ』角川文庫・1976年
《“現代の怪談”とはなにか?
ユーレイやオバケは過去のものとなった。けれども今の時代にも、コワイ話はいろいろある。そしていちばんオソロシイのは、やはり人間である。
超能力・宇宙人・変身・整形・性病・コールガール・ラブホテル・同性愛・ノゾキetc.怪奇談風の事件をユーモラスに語る、36話のエピソード集。
夏の夜におくるベストセラー・エッセイ「すすめシリーズ」の第4弾。》
吉本隆明『像としての都市―吉本隆明・都市論集』弓立社・1989年
《吉本隆明は’69年と’86年の二度、集中的に都市論を発表した。この十数年は、東京が世界都市に急浮上してきた時代でもあった。ハイ・イメージ都市論から東京論、東京下町を愛好するエッセイまでを集成して、この大変貌に対応した吉本都市論を提示する。 》(「BOOK」データベースより)
H・P・ラヴクラフト『ラヴクラフト全集1』創元推理文庫・1974年
《二十世紀最後の怪奇小説作家H・P・ラヴクラフト。その全貌を明らかにする待望の全集――本巻には、不気味な魚影がうごめく禁忌の町を舞台に〈ダゴン秘密教団〉にまつわる怪異を描く『インスマウスの影』をはじめ、デラポーア家に伝わるおぞましい血の秘密が戦慄を呼ぶ『壁のなかの鼠』やブラック・ユーモア風の『死体安置所にて』など全四編を収録。》
収録作品=インスマウスの影/闇に囁くもの/壁のなかの鼠/死体安置所にて
伊丹十三『日本世間噺大系』文藝春秋・1976年
《キミは知ってるかね。
気をつけてみるとね まだまだ 世の中には面白い話がいっぱい転がってると思うわけよ だからね 知りたがり屋の鬼才・伊丹さんがもう夢中で蒐集してみたのが この本なのよ》
蓮實重彦『ゴダール革命〔増補決定版〕』ちくま学芸文庫・2023年
《いつ炸裂するかわからない時限爆弾として映画があるとするならば、ジャン=リュック・ゴダールの作品はいかなる条件のもとにそうであるのか、あるいはそうでないのか。映画批評的/映画史的差異を捉えた者だけに現れる問題が存在する──。最初の長編『勝手にしやがれ』から遺作『イメージの本』まで、稀代の映画作家が置かれ続けた孤独。撮ることと観ることとのいまだ決着のつかない闘争の場に対峙してきた著者は、「映画はもはやゴダールなど必要としていない」と断じる勇気を持てと訴える。新たなる孤独の創造のために。ゴダールへのインタヴューなどを再録増補した決定版論集。 解説 堀潤之》
H・P・ラヴクラフト『ラヴクラフト全集4』創元推理文庫・1985年
《二十世紀最後の怪奇小説作家H・P・ラヴクラフト。その全貌を明らかにする待望の全集――本巻には、ヒマラヤすら圧する未知の大山脈が連なる南極大陸は禁断の地を舞台に、著者独自の科学志向を結実させた超大作「狂気の山脈にて」をはじめ、中期の傑作「宇宙からの色」「ピックマンのモデル」や初期の作品「眠りの壁の彼方」など全七編を収録した。》
収録作品=狂気の山脈にて/宇宙からの色/ピックマンのモデル/冷気/眠りの壁の彼方/故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実/彼方より
眉村卓/日下三蔵編『仕事ください』竹書房文庫・2022年
《仕事仕事仕事ください……。意のままになる奴隷を求めた男の前に現れた“奴”は仕事を求め続ける……。表題作ほか、不思議で哀切なる猫SF「ピーや」、恋人との会話がどんどん食い違ってゆく「信じていたい」、戦争の傷痕を異様な迫力で描く「酔えば戦場」などに加え、名作『燃える傾斜』の原型となった「文明考」などの初期未収録作三篇を所収。読めば世界がずれてくる。ぶれてくる。気づいたとき、あなたはすでに別世界。現実と幻想の狭間に迷い込む傑作短篇集。まずは一篇、踏み出してみませんか? 》
収録作品=奇妙な妻/ピーや/人類が大変/さむい/針/セールスマン/サルがいる/犬/隣りの子/世界は生きているの?/機械/くり返し/ふくれてくる/やめたくなった/蝶/できすぎた子/むかで/酔えば戦場/風が吹きます/交替の季節/仕事ください/信じていたい/その夜/歴史函数/文明考/『奇妙な妻』あとがき/変化楽しや?
高橋睦郎『読みなおし日本文学史―歌の漂泊』岩波新書・1998年
《古えには神聖にして神のものとされていた歌。その歌が、先進大陸文化の詩の到来によってその座をおわれた時、歌のさすらいは始まった。歌が放浪漂泊する中で、物語・連歌・俳諧・能・歌舞伎等々を生みだしてゆく歴史、それが日本の文学史だ。気鋭の詩人が、一つの生命の流れとして文学史を大胆に捉えなおす。想像力豊かな読みの冒険。》
ウィリアム・ゴールディング『ピンチャー・マーティン』集英社文庫・1984年
《貪欲で、自己中心的な、知的合理主義者である英国海軍士官ピンチャー・マーティン。彼は今、大西洋にうかぶ孤岩にしがみつき、ロビンソン・クルーソーよろしく生きながらえようとあがいている。生死のはざまに明滅する幻覚の数々…。一体彼の身に何か起こったのか? 極限状況下におかれた人間の意識を描いた表題作「ピンチャー・マーティン」に、大人のための寓話「蠍の神様」を併録。》
収録作品=ピンチャー・マーティン/蠍の神様
大江健三郎『燃えあがる緑の木 第一部 「救い主」が殴られるまで』新潮文庫・1998年
《百年近く生きたお祖母ちゃんの死とともに、その魂を受け継ぎ、「救い主」とみなされた新しいギー兄さんは、森に残る伝承の世界を次々と蘇らせた。だが彼の癒しの業は村人達から偽物と糾弾される。女性へと「転換」した両性具有の私は彼を支え、その一部始終を書き綴っていく……。常に現代文学の最前線を拓く作者が、故郷四国の村を舞台に魂救済の根本問題を描き尽くした長編三部作。》
大江健三郎『燃えあがる緑の木 第二部 揺れ動く(ヴァシレーション)』新潮文庫・1998年
《村人やジャーナリズムの攻撃がつづく一方、教会では、活気あふれる伊能三兄弟や、改悛したかつての糾弾者など、賛同者が次第に増えていった。一同が展望を語り合う喜びに満ちたひととき、イェーツの詩句が響き渡る。そして再び起きた奇蹟――。しかしギー兄さんの父「総領事」が突然の死を遂げ、新築なった礼拝堂で葬儀が行われた。
魂の壮大な葛藤劇、いよいよ佳境に!》
大江健三郎『燃えあがる緑の木 第三部 大いなる日に』新潮文庫・1998年
《教会を離れた私が性の遍歴から帰還すると、襲撃を受け障害者となったギー兄さんは、遥かに大きな存在となっていた。しかし、戦闘力を増す農場派と巡礼団の対立が深まり、巨大化と外的緊張の中で分裂の危機を迎える教会のメンバーに、ギー兄さんは最後の告白を行った。そしてその夜「緑の木]が燃えあがる!
「神」に極限まで近づき、なお新たな道を求めるライフワーク、完結編。》
ネリー・ザックス『ネリー・ザックス詩集』未知谷・2008年
《初期から後期まで網羅的に抽出した220余篇が、ノーベル文学賞受賞詩人“ネリー・ザックス”の全体像を浮かび上がらせる――
声高に何かを訴えるのではなく、むしろ世界を聞き取ろうとする姿勢を開いた詩人の心がおのずから作品の時空に共鳴している、それが彼女の詩に独特な、繊細な抒情の質を与えているのではないか。その心のひびきに触れること、ネリー・ザックスの詩を読むひとつは、そこにある。(「後記」より)》
陳舜臣『秘本三国志(一)』文春文庫・1982年
《群雄並び立つ乱世を描く中国古典「三国志」を語るに、著者に優る人なし──世は前漢、後漢あわせて四百年、遂にその巨木も朽ちて、まさに倒れんとする時代。相続く天変地異、疫病の流行は悪政の報いか……黄巾の乱をきっかけに、まずは、曹操、孫堅、劉備、関羽など天下制覇を夢みる梟雄、智将の登場。壮大な戦国ドラマの幕開き。》
陳舜臣『秘本三国志(二)』文春文庫・1982年
《中原に戦雲たれこめ天下まさに麻の如く乱れて、後漢の王朝はもはや崩壊同然。覇権を握った董卓の恐怖政治は猛威をふるい、遂に洛陽に火を放つ。蜂起した諸侯たちは虎視眈々中原を狙う! この時期の天下争いのトップは袁紹と袁術の兄弟であるが、黄巾軍三十万を手にした曹操が擡頭し、勢力分野に微妙な変動がおこりつつあった。》
陳舜臣『秘本三国志(三)』文春文庫・1982年
《群雄割拠の時代が続く──三国志の物語は、後漢末から隋の統一に至るまでの約四百年続いた分裂の時代の初期を舞台とする。なぜ分裂したのか? なぜ早く再統一できないのか? 英雄たちはいったいどんな気持でいたのか……さて権謀術数をめぐらす袁紹、袁術、曹操、呂布、公孫瓚、劉備、天下取りゲームに雄将の野望が滾る!》
陳舜臣『秘本三国志(四)』文春文庫・1982年
《いまや天下取りは、曹操と袁紹にしぼられた。曹操のもとに亡命していた劉備は「二人で組んで天下を狙おう」との曹操の提言で、敵陣攪乱のため袁紹軍に走るが……さあ、いよいよ諸葛孔明の登場! 劉備の陣営は、関羽、張飛ら豪傑を揃えてはいるが、権謀術数の士に欠けていた。劉備は“三顧の礼”をもって智将・孔明を参謀に迎えた。》
陳舜臣『秘本三国志(五)』文春文庫・1982年
《「曹操討つべし。曹操おそるるに足らず」と劉備の名軍師・諸葛孔明は孫権を説き、赤壁の戦いは、見事に孫権軍が勝利を得た。劉備は蜀を狙い、魏は曹操、呉は孫権と乱世は三将鼎立の時代にはいるが、天下統一をめざす曹操は、二雄を争わせんと謀略をめぐらし、遂に孫権軍の手によって劉備の片腕“ひげの関羽”の首を刎ねさせた!》
陳舜臣『秘本三国志(六)』文春文庫・1982年
《曹操、関羽、張飛、劉備と、おなじみの英雄豪傑たちは死んだ──動乱の世は、魏、呉、蜀の三国鼎立で、一応の小康を保ってはいるが、“泣いて馬謖を斬った”蜀の智将・諸葛孔明も、ついに仲秋の五丈原で陣没し、“死せる孔明、生ける仲達を走らす”と後世の語り草を生む。陳史観によるこの異色の『三国志』も本巻をもって完結。》
西村京太郎『名探偵に乾杯』講談社文庫・1983年
《遂に四人の名探偵のうち、ポアロが死んだ。その追悼会が、明智の花幻の島の別荘で開かれる。招かれたのはクイーン、メグレの他に、ポアロの親友ヘイスティングズ。そこヘポアロ二世と自称する若者が現われた。彼はポアロゆずりの才智を示すべく、突発した殺人事件に首を突っこんだが――。クリスティ女史の「カーテン」を巧みに利したパロディ。》
水上勉『破鞋―雪門玄松の生涯』岩波書店・1986年
《雪門玄松、明治の一禅僧。富山県高岡国泰寺の管長をつとめ、若き日の西田幾多郎、鈴木大拙らがその下に参禅した高僧だが、その生涯は謎に充ちている。管長の座を捨て在家禅を唱導、さらに奇怪な還俗ののち、若狭の孤村で乞食僧として没した。この破天荒な僧の実像に迫り、仏教の心を現代に問う水上文学の結晶。》(「BOOK」データベースより)
投稿情報: 18:50 カテゴリー: このひと月くらいに読んだ本の書影 | 個別ページ | コメント (0)
『愛惜』は山中葛子(1937 - )の2013~2021年の9年間の作をまとめた句集。
著者は「海原」同人。
天牛(かみきり)の地べたに降りて細長き
刃物みな優しくなりぬ梅雨の月
皇后の帽子かたぶくアマリリス
旅路麦秋ふり向く身体を海という
鶏頭の笑いそびれて枯れわたる
ぎらぎらの句碑にとびつく蟇の恋
創刊号今にひらけばきらら虫
青ふくべ天から噂が降りてきた
老ふたり川霧一〇〇トンどう曳くか
台風の上陸ふっと暗黒舞踏
木の葉髪あるかなきかの段差踏む
ちぢむ肉体マスクの掛かりにくい耳
人類まあ夏白花のごときマスク
さざんか掃くあかるい死体だと思う
おわらぬコロナとても鮮血若冲忌
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『澪杭のごとく』は幹自聲(かん・じせい、1959 - )の第1句集。序文:宮坂静生。
著者は「岳」同人。
降る雪のあをき時間を積みながら
鮭打棒の鱗光りや入日どき
雪折の枝を猿の齧りをり
予科練の本拠、太平洋戦争末期には特攻隊要員の訓練を行う
土浦や鑚り火のごとき曼珠沙華
風の盆 男踊
腕もて二百十日の風を切る
立ち替り来る禽獣や寄り鯨
風紋のまま堅雪となりにけり
東日本大震災より七年、みちのくの友人の労苦をわがこととして聞く 六句より
熱燗や廃炉作業に出稼ぎと
長男 事故死の報
炎天下事故の訃に身のがらんどう
雪雷に目覚む此の世に吾子の亡し
切り口の銅(あかがね)のごと乾鮭は
ひたすらに水吞む揚羽生臭し
音たてるまじ梟に狩らるるぞ
飯舘村
村投げるわけにはいかず田を植うる
「投げる」は方言で「捨てる」
灯(ひとも)り澪杭のごと枯野宿
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『瓦礫抄』は小澤實(1956 - )の2011年12月1日から2012年11月30日の俳句日記。
著者は「澤」主宰。
キューピー人形燃え炎みどりや焚火の中
鮟鱇の腹切り開け窓や肝見する
レンタルビデオ屋氷柱籠めなりつぶるるな
深海六千五百メートル潜りし男と鱒を食ふ
殻剝かれ鳥貝黒しなほ動く
ガラス窓風に鳴りをるさくらかな
わが舌をげそ吸盤の吸ふあはれ
たけのこ藪あるくや両手竹に触れ
雲小さきがあまた浮く午後蜥蜴静止
頭(ず)はバッグの上(え)足は靴の上三尺寝
生身魂ふたりかたらふいつまでも
瑠璃深きブルーベリーをどんぶり食ひ
段ボールにつくる迷路や学園祭
新豆腐李朝中期の白磁の白
茸採りの男消えたり車残し
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『木漏れ人』は原満三寿(1940 - )の第9句集。
著者は「海程」他を経て無所属。
群生海はぐれて往くや木漏れ人
山椒魚(はんざき)と巨木が怖れるおのが影
春泥に溺愛されし土竜の尸
洋梨のくびれにこだわる老いた風
木の芽雨 書斎にねむい鱶と居る
海震(ふ)れて原発狂(ふ)れて雁かえる
春の鼻 見知らぬ青娥が翅やすめ
禿頭を歩いていいんだ冬蠅よ
悪食して日に日に老いは鮮(あた)らしく
菊におうぎっくり腰のぎっくりに
あの世でも冬眠の穴さがすのか
月の街 ヘイトに怯える魑魅魍魎
西風の娘は未生以前から微香せり
木漏れ日の褥でみんな声あげる
魚の道たぐれば濃くなる森の胎
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
今月も引き続き装幀辰巳四郎率高め(角川文庫の大藪春彦と梶山季之の古本)。
高齋正『透け透けカメラ』講談社文庫・1984年
《服を着たままの女性を撮影しても、ヌードの写真ができる! そんな画期的なフィルターが発明されたが、その試作品を巡り、色と欲にかられた男たちが虚々実々の駆け引きを展開。果してそのメカの秘密は?(表題作) メカ・ノヴェルの鬼才による、世界初!? のおもしろくて役にも立つ、カメラ小説の傑作群。》
収録作品=円盤写真の写し方/SF作家見るべからず/円盤がいっぱい/新型車の写真/デーライト・シンクロ/若さをステレオで/ソフトフォーカス/自動遠隔撮影装置/ライカの効用/ウエストレベル・ファインダー/写真機屋さんごめんなさい/NVDフィルター/大元帥の望遠カメラ/透け透けカメラ
豊田有恒『暴走狩り』集英社文庫・1982年
《暴走族に惨殺された恋人・由美の復讐を誓って、緑の117クーペを追う若き原子物理学者・三上雄一郎――。幻の名車スカイラインGTRを駆って夜の闇を疾走する男の屈折した青春を描く表題作。他白亜末期の恐竜ドロマエオサウルスの生態にせまるハードSF「過去の翳」などバラエティー豊かな異色SF傑作集。 解説・高千穂遙》
収録作品=あるSF作家の一日/秘境/過去の翳/ゲットー/最後の列車/ソウル支社二十四時/暴走狩り
夢枕獏・真城昭・在沢伸・斉藤英一朗・嬉野泉/柴野拓美編『無限のささやき―新「宇宙塵」SF傑作選Ⅱ』河出文庫・1987年
《星新一以来、SF作家のほとんどが参加、日本SF文学の源泉であり続ける同人詰「宇宙塵」は、創刊30周年を迎えました。『新「宇宙塵」SF傑作選』Ⅰ・Ⅱは同誌主宰者・柴野拓美が、ここ10年間の掲載作から代表的傑作を精選・集成した、SF文学の新時代到来を告げる記念碑です。『無限のささやき』では、夢枕獏のほかに斉藤英一朗・真城昭・嬉野泉・在沢伸らがSFの未来を示す新風をおくります!》
収録作品=蒼い旅籠で(夢枕獏)/太陽ダイビング(斉藤英一朗)/兎とりの罠(真城昭)/天震(嬉野泉)/飛跡(在沢伸)
都筑道夫『目と耳と舌の冒険』晶文社・1974年
《娯しめるだけ娯しもう!
目は映画や軽演劇、耳に落語に講談、舌は食道楽五十三次――もちろんミステリーの話題も加えて、江戸趣味とモダーンさが一つになった好エッセイ集》
大藪春彦『謀略空路』角川文庫・1974年
《迫撃砲とバズーカの砲撃が終った。水野は落し穴から飛び出した。彼の死を確信し、油断して近づいて来る5、6人の男たちめがけて、猛然と火を吹くシュマイザー短機関銃!
内閣情報室秘密工作員の水野洋治は、ローメニア航空スチュワーデス殺人事件から、国際的スパイ合戦にまき込まれた。彼の行手にしかけられた敵の黒い罠。降りかかる身の危険を物ともせず不敵な笑いを浮べる水野。傷だらけになって彼が摑んだ真相は……?
息もつかせぬアクションの連続。大藪春彦のハードボイルド巨編!》
梶山季之『教主さまの好きな血』角川文庫・1983年
《その年は梅雨が長く続き働きにでられないから、“ドヤ街”もなんとなく殺気だっていた。オレは、安ベッドでひっくり返り古新聞を読んでいると、チンチロリンという渾名の片眼の50男が近づいてきて、“いい仕事”があるという。連中のいい仕事とは、ヤバイ仕事に決まっている。オレは、一瞬ためらったがとにかく金がほしい。思わず承知してしまった。
その翌日、“チンチロリン”に連れられて、浅草田原町の地下鉄入口に立っていると、一台の黒塗りの外車がやってきて、すーっと横づけになった……。
あとで考えると、この決断が、オレをどん底から這い上がらせてくれるキッカケになったのだ。痛快傑作小説。》
収録作品=教主さまの好きな血/さっく一代/ほいほいほい/奇妙な女傑
佐木隆三『日本漂民物語』徳間文庫・1984年
《サーカスで空中ブランコの花形となった旅役者、人生最良の日々をすごす下町キャバレーの子持ちホステス、筑豊の藤四郎焼で陶工になった元全共闘と自衛官、姉は戦跡巡拝ガイド、妹はフーテン娼婦になった沖縄の姉妹――われらが日本列島の片隅で懸命に生きる人たちの悲劇と喜劇と活劇を、直木賞作家が笑いと涙と、ひたぷるな共感で見事に描きあげた、生活感あふるる“漂民派小説”、珠玉の六篇。》
収録作品=下町キャバレーで子持ちホステスが人生最良の日々を過すこと/大日本製鉄で重市と伍平がケンカして嘉助がトクしたこと/旅役者銀之介がサーカスで空中ブランコの花形になること/閉山の軍艦島で栄光の産業戦士鶴吉が引越しを躊躇うこと/元全共闘と脱柵自衛官が筑豊の藤四郎焼で陶工になること/沖縄で姉は戦跡巡拝ガイドに妹はフーテン娼婦になること
瀬戸内晴美『冬の樹』中公文庫・1979年
《葉の落ちつくした冬の樹々は生命の終焉と同時にその新たな再生の姿を予感させる。夥しい死の周辺で、避けえない愛の死、生命の死を凝視した著者が、出離後の澄明な心境を託して描く連作十五篇。》
収録作品=形代/耳/かわはぎ/横川/秘密/味方/うららかな日/口紅/菜種梅雨/いつか朝に――/同窓会/嵐/消えた針/木犀
栗本薫『青の時代―伊集院大介の薔薇』講談社文庫・2003年
《学園紛争が吹き荒れたあとの西北大では、カリスマ演出家率いる劇団「ペガサス」が人気を集めていた。大抜擢された新人女優花村恵麻をめぐって、不可解な連続殺人が起きた。疑いをかけられた恵麻は、早くもその才能を発揮しはじめていた上級生伊集院大介に相談する。伝説の名探偵“青の時代” 24歳の事件簿!》
ジャック・ヒギンズ『真夜中の復讐者』ハヤカワ文庫・1990年
《エジプトの収容所で服役中の元傭兵ワイアットは、半死半生のところを昔の戦友たちに救出された。だが、かつての上官バークから新たな仕事を持ちかけられたとき、ワイアットの心は揺れる。山賊に誘拐された大富豪の娘をシチリアの山中から救い出すというのだ。シチリアはワイアットがかつて捨てた島、彼の祖父がマフィアの首領として君臨する場所だった。宿命に引き寄せられるように島に赴いたワイアットは、峻険な山中にパラシュート降下を試みるが、そこで待っていたものは非情な裏切りの罠だった。復讐の地に展開するヒギンズの冒険ロマン。》
辻井喬『茜色の空 哲人政治家・大平正芳』文春文庫・2013年
《スマートとはいえない風貌に「鈍牛」「アーウー」と渾名された訥弁。だが遺した言葉は「環太平洋連帯」「文化の時代」「地域の自主性」等、21世紀の日本を見通していた。青年期から、大蔵官僚として戦後日本の復興に尽くした壮年期、総理大臣の座につくも権力闘争の波に翻弄され壮絶な最期を遂げるまでを描いた長篇小説。解説・川村湊》
梶山季之『夢の超特急―新幹線汚職事件』角川文庫・1975年
《小さな事件の背後に、とてつもない大がかりな犯罪が隠されていることがある。
――ひんぱんに料亭に出入りし、芸者と昵懇になった〈新幹線公団〉の一課長補佐が逮捕された。官公吏にありがちな、実直そうな顔だちの小柄な五十男で、わずか三万円の収賄罪の疑いだった。厳しい追及に耐えかね、この男がうめきながらもらしたことが、実は、用地買収にからむ大汚職事件発覚の糸口となった……。
政界の実力者がからんだ“現代の黒い疑惑”を鋭くついた会心の長編推理。》
梶山季之『青いサファイヤ』角川文庫・1976年
《悪女ほど魅力があるというが、井戸美子は希代の悪だ。男の本能の弱みにつけこみ、〈一番大切にしているものをあげるわ〉というのが、強力な武器だった。金儲け一筋に、法網をかいくぐって財をなした長尾脩造もイチコロだった。ニセ札造りの共犯になるのを恐れた吝嗇家の彼から、出資金だと思いこませて手切れ金をまんまと騙しとった。彼女が狙う獲物は、多額の離婚料をしぼり取れる男性に決まっている。
危い橋を渡りながらも、新手のアイデアで勝負する魅力ある悪女、著者最高の痛快長編小説!》
小林信彦『大統領の晩餐』角川文庫・1974年
《猫がエビのシッポを食べる時、大統領の陰謀はくずれる。――
大企業に加担して、公害対策事務所の猫に盗聴器を仕掛けた、お馴染みオヨヨ大統領、その猫が食あたりで腰を抜かしたと知った時、急きょ誘拐を決意した。
ミナトヨコハマの中華街・ホテル等を舞台に、大統領の間抜けな配下、猫解放運動の女史、鬼警部ら入り乱れての、猫探し珍騒動!
大統領に悪の心得を説く老二十面相、料理道を求める若者を登場させた、求道者小説のパロディ、ウンチクを傾けた中華料理の紹介など趣向も十分な、〈オヨヨ大統領シリーズ〉第5作。》
島田清次郎『地上』季節社・1983年
《青春の憧憬と疼痛、野心と叛逆とこれほどまでに唄いあげた作品があったであろうか。
地上の人間界の生態をかくまでに透徹した眼でみつめた若者がかつて居たであろうか。
近代日本文学史の上に閃光を放ったこの《果敢なる青春の文学》は、しかし《破滅と狂気への序章》でもあった……。》
高杉良『虚構の城』講談社文庫・1981年
《大手石油会社に勤める青年エンジニア田崎健治は、世界に先んじて反公害のプロセス・排煙脱硫装置の開発に成功、喝采の嵐のなかでエリートの道が約束されたかに見えたが……。妬み、女、引き抜き工作、そして立ちはだかる家族的経営の壁。企業の非情がもたらす人生の無惨と製油業界の暗闘を描いた長篇企業小説。》
眉村卓『ぬばたまの…』講談社文庫・1980年
《ハードSFの旗手・眉村卓が新分野に挑戦し、見事に書きあげた異色の長編力作。晩秋の遊園地でふと迷いこんだ不気味な「ぬばたま」の世界……ドラマが展開するこの薄明の世界は何を意味するのか? 突如あらわれる主人公の分身はいったい何者なのだろうか? 不思議な魅力で読者に迫る力作。》
柳田邦男『ガン回廊の朝(上)』講談社文庫・1981年(講談社ノンフィクション賞)
《昭和三十七年、国立がんセンター設立。学閥・年齢を問わず、全国から集められた人材が、ガン撲滅の闘いを始める。患者の苦しみを自らの苦しみとして研究治療に没頭、情熱が苦難を克服して、早期発見・治療の成果を挙げていく。ガンと闘う臨床医や研究者たちの苦闘と不屈の姿を描く感動のノンフィクション大作。》
柳田邦男『ガン回廊の朝(下)』講談社文庫・1981年(講談社ノンフィクション賞)
《ガンとの闘いには休みはない。気の遠くなるような闘いだが、気管支ファイバースコープの完成、発ガン物質の究明、肝臓ガン手術の連続成功など、その研究と診断治療法は着実に前進している。国立ガンセンターで、日夜、治療と研究にとりくむ人びとの苦闘と成果を描いた傑作。講談社ノンフィクション賞受賞。》
三島由紀夫『純白の夜』角川文庫・1956年
《著者のはじめての連載小説として昭和24年に発表されたこの作品は、あまり注目されていないようであるが、フランスの心理小説の伝統をついだものとして、その卓抜な頭脳の生んだ知的な小説であり、代表作の一つとも言えよう。戦後文壇の逸材たる三島の才気はおどり、天才作家レイモン・ラディゲを思わせる。》
木村伊兵衛『木村伊兵衛の昭和』ちくまライブラリー・1990年
《焼跡から立ち上る庶民のエネルギー、子供たちの明るい笑顔、変貌する都市、失われていく路地裏の風景。なつかしい街の貌が、人々の姿が、ここにある。》
井上靖『故里の鏡』中公文庫・1982年
《――「初心集」とでも名付けたいような随筆業である。三十代、四十代、五十代、六十代、それぞれの初心がここには集められている。 (著者あとがきより)
ふるさとの山や河、忘れえぬ人々、文章修業のこと、酒との出逢い、言葉と詩歌の心、芸術論、中国旅行など、折々の心に沁みる日常を澄明に刻む掌篇随想業。》
日高敏隆『利己としての死』弘文堂・1989年
《「動物の世界」の驚くべき大転換─動物たちの生と死
動物の死を、自らの遺伝子を残すための利己的な行為と捉え直すことによって、種族維持のための自己犠牲と解釈してきた従来の「ローレンツ的動物世界」観に180度の転換をもたらした、スリリングな現代動物行動学の最前線へと誘う。》
吉行淳之介『麻雀好日』角川文庫・1980年
《最近の吉行淳之介年譜を見ると、ちょっとした粋な計らいに気づかされる。九連宝燈と天和をやった日付が、ゴシック体で記載されているのである。
雀聖・阿佐田哲也氏によれば、著者の雀風は“宮廷人”のごとく典雅である。著者自身の分類では、麻雀のやり方に「デス・マッチ派」(D派)と「ストレス解消派」(S派)の二つがあり、著者はS派の典型で、仕事疲れを癒しながら楽しむ原点マージャンのタイプだという。
この本は、雀歴30年の著者が、役満を流したりチョンボした時の失敗談から、愛人が麻雀にウツツをぬかして頭にきたH・ミラーの話など、麻雀をめぐるいろいろなエピソードを交えながら語る、絶妙のユーモア・エッセイである。同時に、親しい作家やマンガ家たちとの、愉快な麻雀交遊記でもある。》
カミュ『反抗の論理―カミュの手帖2』新潮文庫・1975年
《重苦しい絶望惑、ふと訪れる死への誘惑――ここには「太陽の讃歌」にみられた、無垢な生の悦びや多感な青春の歓喜はもうない。ナチスの進駐から撤退という多難の時代に、カミュは代表作「ペスト」やサルトルとの間に激しい論争を呼んだ「反抗的人間」などを完成した。不条理の哲学から反抗の思想へ……本書は、カミュの根本理念が形成された円熟期の、論理と感情の裏面を探る創作ノートである。》
投稿情報: 15:33 カテゴリー: このひと月くらいに読んだ本の書影 | 個別ページ | コメント (0)
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