「花鳥」(発行:坊城俊樹)2018年1月号から。
山紅葉散り青空を甍へと 坊城俊樹
はな子てふ皺の記憶に降る落葉
松手入済みし梯子の長く延び 坊城中子
大樹ゆゑ切らるるといふ栗を炊く 四宮慶月
秋果盛るアルチンボルドになりきつて 岩原磁利
2018年1月邑書林
『御意』は黄土眠兎(1960 - )の第1句集。帯文:小川軽舟。
作者は「鷹」同人、「里」会員。
寒雷に原野目覚めてまた眠る
冬帽をかぶり棺の底なりき
ものの芽の一つに卓のヒヤシンス
春の人箱階段を上りけり
遠足の列に行きあふ爆心地
うかうかとジャグジーにゐる春の暮
夏兆す木工ボンド透明に
リラ冷えのシベリアへ向く鶏冠かな
笛方を待ちかねてゐる青葉かな
金魚田の金魚や泥に潜りたがる
アマリリス御意とメールを返しおく
蜘蛛の囲にかかつてばかりゐる人よ
菊人形肩より枯れてゆきにけり
秋深しギリシャ数字の置時計
さびしからずや南極の火消壺
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
2017年9月マルコボ.コム
『サヨク』は未貫(1954 - )の第1句集。
小雨ならマフラーだけで突つ走る
空つ風をぢさん横に傾いて
パルコ出て義仲寺捜す初しぐれ
雪吊りを二つ遠くに國旗かな
冬帽をかぶりて母の完成す
体より大きな若布広げる子
永き日を笑つて過ごす遺影かな
解体の終はり紫陽花淋しいか
涼しさやトライアングル打つ間合ひ
タッキーと呼ばれてみたき那智の滝
迎火の酒屋の角を曲りけり
死を前におしやべりしよう秋の夜
着替中の札も楽しや菊人形
どんぐりを握り勇気のやうなもの
水やれば蕾首振る桔梗かな
2017年12月文學の森
『鴨』は西村麒麟(1983 - )の第2句集。
作者は「古志」所属。
宝船ひらひらさせてみたりけり
平たくて大きな家や飾臼
ささやかな雪合戦がすぐ後ろ
栃木かな春の焚火を七つ見て
紫陽花や傘盗人に不幸あれ
捻れては又戻り行く蠅取紙
鰻重を真つ直ぐ伸びてゆく光
白玉にひたと触れゐて白玉よ
大いなる遅刻が一人日の盛
鴨引くや五十冊づつ本を捨て
ブータンに綺麗な王や籠枕
蘭鋳の子が水中をよぢ登る
鈴虫は鈴虫を踏み茄子を踏み
穭田の千葉が広々ありにけり
金沢の見るべきは見て燗熱し
2017年12月28~29日
撮影はK.Onomura
2017年12月高橋人形舎
『十太夫』は高橋龍(1929 - )の「句控」。
股下か膝上かさて日脚伸ぶ
ゴッホの古靴春の泥濘(ぬかるみ)踏みにけむ
春めくとヒエログリフで書けばよい
春昼やわずらはしきは本の帯
巫女の緋の袴の春の日の光り
安保理に核爆弾の檸檬置く
葉桜の中のマニエリスム騒ぐ
綱渡りするかのようにさす日傘
AIと隠獣歩むさねかづら
浜と浦互ひ違ひに春の海
ペガサスに男の乳を飲ますなり
秋茄子と阿蘇何気なく名告り合ふ
野の果てのベケットの木に鳴く懸巣
十頁読む一糎積もる雪
鱈(たら)肝臓(レバ)と轢死(れきし)を中洲(なかす)琴(こと)啼(な)かれ
2017年11月狐尽出版
『赤鬼の腕』は中内亮玄(1974 - )の第2句集(第1句集の他に句文集一冊あり)。評論4篇も収録。
作者は「海程」「狼」同人。
黒縁の眼鏡に明朗なる大寒
雪の夜は彼方の森が近くなる
子どもといふ実に無気味な輪を覗く
九十九折りの花見の坂に少女ら揺れ
関東平野は力任せに繁る波
先に酔う明るい夜に狼いて
月よ子が石は死なんくていいなと言ふ
雨は静かな約束のかたち銀杏散る
曼珠沙華生まれる前の風でした
雪原遥か背中の開いた雪女郎
春の雨一円玉の降るように
春隣いつか鰐だった鞄
プールから健やかな脚戦めく
海に出て何もない春の何もない
誰か死んで君だけ正しくなる三月
2017年12月文藝豆本ぽっぺん堂
『永遠集』は山田露結(1967 - )の第2句集。私家版の豆本。
作者は「銀化」同人。
もう春が来てゐるガラス越しに妻
ぶらんこに乗つて一年たつといふ
気をぬくと暗い椿が見えてしまふ
スペシウム光線で勝つはるうれひ
薔薇園に行く妻と行く必ず行く
アイスコーヒー一人は祈るやうにして
穴よりも大きな蛇が穴に入る
きつねのかみそりよく燃えさうな老女ゐて
ドアノブのひとつは無効ひとつは晩秋
襟巻を外さぬ首と愛し合ふ
大きさの違ふ三つの枯野かな
落ちてくる手袋のまだ空中に
壁の絵の裏にかならず冬の蜘蛛
大阪を異国と思ふクリスマス
妻の声で低く囁く毛布かな
2017年9月私家版
『俳句甲子園出場』は益永涼子(1970 - )の第3句集。序句:森川光郎。他に生徒たちの跋文数篇。
作者は「藍生」所属、「桔槹」同人。会津高校教諭として昨年の俳句甲子園に生徒を引率。
少年の恋聞く春のアドバルーン
仙人掌の花や波音近くする
雪来るや山里に真つ赤なポルシェ
冬晴れの円形競技場に猫
俎板の魚の眼雪しきり
煮くづれし魚の切身冬銀河
曼荼羅の色の鮮やかさは春の
女四人熊野三山虹二重
ステンドグラス窓の一枚開き夏
凱旋門横より入りし人の夏
帰国後に咳一つして解散す
ばれん一個父の書斎に雪月夜
春場所の帰り陶器の花瓶欲し
図工室日だまりとなる実葛
竹皮を脱ぐや少女は水欲す
1月ももう9日ですが、あけましておめでとうございます。本年もよろしく。
年末年始はだいたい体調おかしくなっていることが多いのですが、今年は特に酷く、右足に謎の痛みが出て歩行不能になっていたこともあって、年賀状を出すのを完全に諦めてしまいました。年賀状くださった方、もうしわけありません。
昨日ようやく、今年初めて外出できるところまで来ました。
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