相変わらず眉村卓の再読が多いが、近年(作者の最晩年)に出たものは装幀に馴染めないものも多く、作者本人のイラストを使った『短話ガチャンポン』(双葉文庫)はともかくとして、『夕焼けのかなた』(双葉文庫)などは愛読してきた作者でなければ、この装幀だけで手に取りもしなかった。
絵本か児童書のような簡略化した絵柄が増えているが、そういうのが苦手なのだ。
矢野徹『自殺潜水艦突撃せよ』(角川文庫)は別の意味であまり手に取る気になれないファナティックな表紙だが、カバーのあらすじはぼかした書き方になっているものの、捕虜になることを拒んで死のうとする日本人兵士をも必死に救助しようとするアメリカの潜水艦という設定の小説。
中原道夫『ブキミ文字小辞典』は著者から寄贈いただきました。俳人の中原さんだが、俳句の本ではなく、架空の文字(紋様?)を並べた一種の画集。
眉村卓『天才はつくられる』角川文庫・1980年
《恐るべき天才少年少女のグループがあらわれた! 彼らはテレパシーを修得し、念力で自由に物を動かしテストでも抜群の成績を修めている。が、彼らは、何か巨大な悪の企みを抱いているらしい……。
ある日、ひょんなことから、ちょっぴり超能力を身につけた史郎にも、グループに入るように誘いがきた。そして、断わった史郎に、彼らは命を取ると脅しをかけてきたのだ。史郎は、友人の敬子とともに、天才グループと断固闘う決意を固めたが……。
スリルあふれる、学園SFサスペンスの傑作。「ぼくは呼ばない」を併録。》
収録作品=天才はつくられる/ぼくは呼ばない
松本清張『美しき闘争(上)』角川文庫・1985年
《井沢恵子は姑との不和がもとで、米村和夫と離婚した。自活の道を求める彼女は女流作家梶村久子の愛人の評論家大村の紹介で「週刊婦人界」記者の職を得るが、大村と職場のオーナー竹倉は恵子の体に露骨な欲望を示した。
そしてある日、熱海温泉街の桃色ルポを命じられた彼女は、宿に姿を見せた竹倉の毒牙を危うくのがれ、伊豆山の宿に逃げ込むが、その庭で意外な二つの人影を目撃した。
……女性の自立をテーマに展開する長編現代ロマン。》
松本清張『美しき闘争(下)』角川文庫・1985年
《「週刊婦人界」退社を決意した恵子にもたらされた知らせ――それは女流作家梶村の突然の死だった。梶村の愛人の評論家大村からその謎の探索に協力を求められた恵子は、奥湯河原の宿に脳溢血で一人床に伏す梶村を発見する。その境遇に同情した彼女は、梶村の未発表原稿をマスコミに売り歩き、ようやく応急の療養費を調達するが……。
男たちの醜い欲望にもまれながら健気に自立の道を求めるヒロインの美しき挑戦を描く、巨匠の長編力作。》
ビュトール『時間割』中公文庫・1975年
《濃霧と煤煙につつまれた都市ブレストンが、現代の象徴として設定される。その底知れぬ暗鬱のなかで暮した主人公ルヴェルの一年間の時間割を、この作品は再構成する――その間の記憶と回想を巨大な輪唱(カノン)にひびかせて。鬼才ビュトールが、人間の根源にひそむ暗黒への立向いを作品を書く行為に結実させて、現代文学の古典としての地歩を確立した名作》
おかゆまさき『俺のペット生活がハーレムに見えるだと?』電撃文庫・2013年
《突然の火事を契機に、お嬢さま女子寮で「ペット」として飼われることとなってしまった家出少年の名は羽生真次郎!(ほとんど野生児!)
さらに彼の目の前には『そんな豪華な寮に住む女子高生お嬢さま達は、一癖も二癖もある、超個性的な美少女ばっかり!』という運命が立ちはだかる!!
《おっぱい風紀委員》の異名を持つ天然マイペース少女・三峰白亜を筆頭に、偉いのにエロい艶然たる《寮長》影森牡丹。《忍び》なのにオドオドしっぱなしの巨乳くのいちメイド・上熊谷凛。そして金髪碧眼のツンデレ(未満)幼女の大野原茉愛ら、寮生達に振り回され、真次郎の悲鳴は今日も寮内に響き渡る……ッ!
《小悪魔寮》とも呼ばれるほどの館でペット生活を送る真次郎に明日はあるのか!?
人はそれを『女の子の園生活』と呼ぶッ!》
中原道夫『ブキミ文字小辞典』喜怒哀楽書房・2020年
《今年の春、そして今も全世界を覆う新型コロナウイルス。
ステイホームの間にも、クリエイターは仕事の合間にせっせと手を動かし、
3日間で80点ほどの文字のような絵のようなものを描き続け、
それを「ブキミ文字」と命名し、1冊の本に仕上げた。》
眉村卓『終幕のゆくえ』双葉文庫・2016年
《六七歳の柴田一郎は、独り暮らしの無聊を慰めるべく、自分史を書きはじめるのだが(「自分史」)。病院帰りに立ち寄ったビルの名店街で渡された腕時計のようなものは、自分がどのくらい嫌われているかわかるというアイテムだった(「嫌われ度メーター」)など、人生の黄昏時を迎えた者たちに訪れる奇妙であやしい出来事。全編書き下ろしで贈る、珠玉の二十の物語。》
収録作品=羨望の町/三〇秒間のシシフンジン/コキ/スガララ・スガラン/真昼の送電塔/自分史/いのちの水/N氏の姿/幻影の攻勢/お誘い/浅吉/嫌われ度メーター/予約/メモ帳/町へ行く前に/お告げ/長い待機/人形/あと一〇日/林翔一郎であります
ドストエフスキー『二重人格』岩波文庫・1981年
《主人公は小心で引っこみ思案の典型的小役人。家柄も才能もないが、栄達を望む野心だけは人一倍強い。そんな内心の相克がこうじたあまり、ついにもう1人の自分という幻覚が現れた! 精神の平衡を失い発狂してゆく主人公の姿を通して、管理社会の重圧におしひしがれる都市人間の心理の内奥をえぐった巨匠(1821‐81)の第2作。》
眉村卓『短話ガチャンポン』双葉文庫・2015年
《五二歳の杉田は、意識だけが中学時代に戻るという体験を繰り返すようになった。その真相とは?(「杉田圭一」)一九歳の坂本明の前に現れた、奇妙な顔。代償を払えば死ぬときの状況を選ぶ権利を与えてくれるというのだが(「臨終の状況」)。アルファベットのAからはじまりZまで、思いつくままに綴られた26編の全編書き下ろしショートショート。現実と仮想を仕切る回転ドアを行き来してみませんか?》
収録作品=杉田圭一/大阪T病院/パラパラ/勧誘員/超老/思い出し笑い/易者/殺意/〈人間だけ〉ゴーグル/エンテンポラール/黄色い猫/T/転倒/シティ・ビューで/離陸/昔のコース/スクルージ現象/未練/上級市民/ウジデンビル/幻の背負投げ/生田川家/ウワァァァァァァア/窓の豪雨/臨終の状況/島真一
眉村卓『夕焼けのかなた』双葉文庫・2017年
《外との接触を拒むかのように、町の入り口に位置する「峠」。就職し赴任したひなびた町で、閉塞感に包まれながら、若き日々を過ごした男は、久方ぶりに町を訪れた際に、「峠」で不思議な感覚にとらわれる――長年活躍し、齢八十を超えた現在も健筆を振るう著者の自伝的要素を含む「峠」ほか、人生の夕焼けを生きる者たちの存念や悲哀を物語に綴った、渾身の書き下ろし短編集。》
収録作品=喨々たるらっぱ/ハテナ産業・万般調査会社/空耳よ/過去のRさん/折り込み時間/大垣のこと/車内での日向ぼっこ/売られる未来史/花野とガラケー/弁当/にやにや/目がよくなる本/生まれ変わる/逃亡老人/通過駅/あやまれ/街の踏切/標的/車窓の向こう/中塚来訪/想像投射装置/栄光の幻覚/触媒さんのご襲来/夢の老人/回転音/峠
笹沢左保『美貌の鬼気』角川文庫・1988年
《霧深き榛名湖に思い出を捨てに来た正代は、偶然そこで、かつて愛し抜いた恋人昌人に再会した。だが昌人は記憶を失って、正代のことを憶えていない。別人になりすました正代は、昌人との新しい愛に燃えはじめた。そして昌人と共にバリ島、ジャカルタ、バンコクへの旅に出発した。そこに記憶を奪った原因があるらしいのだ。過去を掘り起こしていくうち、姿をみせた真相は…。巧みなストーリー展開と目くるめく官能、ミステリー界の第一人者が描くラブ・サスペンス。》
村松友視『坊主めくり』徳間文庫・1989年
《小さな出版社の編集部員・洋一は、新宿ゴールデン街の酒場で見た芝居のポスターの画家に、童話シリーズの絵を依頼した。蚊絣の着物を着、坊主のように頭を剃り上げている画家は、木札の百人一首を持っていた。二人の間でさっそく坊主めくりが始まった。だが、坊主札が出るとうれしそうに解説する画家は、なぜか顔を見せない姫札(小野小町、式子内親王、周防内侍)に異常な関心を示すのだった。珠玉の長篇。》
長部日出雄『ハードボイルド志願』河出文庫・1986年
《夜霧の波止場、異国情緒漂う外人墓地、映画の故郷・本牧、ファッションの元町、そしてグルメの中華街……港ヨコハマの魅力に取り憑かれた、三人の中年男たち――三文小説家、失業したなんでも屋、地方新聞記者――が、いつの間にか結成した素人探偵団。次々と湧いて出る事件の謎に振り回されながら、今日も横浜の街を駆ける……直木賞作家がユーモアと愛惜をこめて描く超異色ミステリー快作。》
笹沢左保『命売ります』角川文庫・1983年
《赤煉瓦に蔦がからみついた、古びた三階建ての建物。その三階に一人の青年が住んでいた。名は土門純也。
彼は、その小さな窓から見える、都会の一部を切り取ったような風景が、大好きだった。
だがある日、その眺めが突然広告塔によってさえぎられた。
あの景色を買い戻したい――彼が女友達の乙子と考え出しだのが“命を売り出し”て資金を得ることだった。
リーン…電話機が嶋る。命の買い手からの連絡だ。
二人の若い男女が出会う、さまざまな事件を描く異色ミステリー。》
笹沢左保『魔性の月光』角川文庫・1987年
《真夜中に電話のベルが鳴る。「ずいぶん、ひどいことをしてくれましたね。」その声は、アヤ子が確かに殺して埋めたはずの愛人の妻奈美江。恐怖にかられたアヤ子は、親友の女性カメラマン久須美冴子にすべてを告白し、助けを求めた。冴子は、幽霊電話のかかるのを待った。そこに真相を解く鍵があるはずだ。再び、電話のベルが鳴った時、冴子はそこに身の凍るような真相を直感した。男と女の愛のもつれが招いた殺人があらたな殺意を呼ぶ。人間心理とトリックをたくみに交錯させて描く“月光シリーズ”快調の第二弾。》
松本清張『二重葉脈』角川文庫・1974年
《会社更生法という大企業優先の悪法を逆手にとり、擬装倒産で私腹を肥やす弱電器機の大手メーカー、イコマ電気社長。傘下の中小余業は軒並み行きづまり、自殺者が出るに及んで、ついに彼等の怒りが爆発した。
そのさなか、前経理担当重役の杉村が失踪! 殺された疑いが……。
不合理な社会のひずみをクローズ・アップし激しく糾弾した松本清張の社会派長編推理小説。》
森村誠一『花の骸』角川文庫・1982年
《厳しい気候と政府の減反政策のあおりをくらって、東北零細農家の生活は苦しい。そんな東北からの出稼ぎ三人組のひとり、山根が東京で殺された。
山根の仲間、青田の供述によると、金に困った二人は強盗を計画し押し入った邸で殺人を目撃したというのだ。
また捜査の結果、当邸米原家でこ、韓国女性が大物政治家に特殊な接待をしている事実が判明した。山根は口を封じられたのか? 一介の出稼ぎ労働者の死を契機に、事件は意外な様相を示す。
国有地払い下げに絡む黒い霧。裏で暗躍する大物フィクサー。鬼才森村誠一が国家権力の周辺に潜む腐敗を鋭く追求した長編推理。》
佐野洋『贈られた女―佐野洋推理傑作選』講談社文庫・1981年
《東都新聞R支局の記者、貝塚は市長招待の宴席で不覚にも寝込んでしまい、ことの成り行きで芸妓染子と一夜をすごしてしまった。ところが翌日、染子は不審な睡眠薬自殺を遂げた。二人の間に何がおこったのか。他殺の線も棄てきれない。貝塚は市政の汚職事件を追っていたというが、はめられたのか? 表題作他9編。》
収録作品=癖の殺人/消えた診断書/切り札/日灼けの跡/贈られた女/加害者/空しい疑惑/割れたガラス/恐喝者/重い街
T・イーグルトン『クラリッサの凌辱―エクリチュール、セクシュアリティー、階級闘争』岩波書店・1987年
《18世紀英国の大長編小説『クラリッサ』を,マルクス主義文学理論の旗手がポスト構造主義やフェミニズム批評等の理論を「横領」して縦横に論じる.この小説が何を写し取っているかではなく,歴史にどのように干渉し働きかけたかに焦点をあてた本書の方法は,『文学とは何か』で描かれた理論的立場の見事な実践である.》
野坂昭如『錬姦作法』文春文庫・1981年
《ホモにレズ、マスターベーション、不能と強精、獣姦……。氾濫するセックスアニマルズ。百鬼夜行の現代を試行錯誤しながらも解明せんと頑張るセックスカウンセラーの奮闘記。熱き血潮の悶え、燃え、身を灼く性の炎に苦しむ諸兄、迷える仔羊の皆さん必読の書。性の時代相を執拗に追求した長篇問題力作。 解説・長部日出雄》
佐野洋『轢き逃げ』講談社文庫・1977年
《愛人を乗せた車で深夜人身事故を起したエリート課長守口は、とっさに蝶き逃げを決意した。身の破滅は避けねばならない。だが必死の隠蔽工作も効なく、捜査の手はじりじり周辺に伸びてくる。追いつめられた守口は、ここで大きな賭けを打ったのだが……。二部構成という野心的試みを見事に結実させた鬼才の代表作。》
眉村卓『ショート・ショート ふつうの家族』角川文庫・1984年
《父、母、そして大学生の兄と、中学三年生で受験生の信夫――こんなごくありきたりの家族なのに、周囲で起きるのは変な出来事ばっかり……。
宇宙人からのお礼の話、成績が上がるか、さもなくば死ぬかという薬の話。窓の下が異次元だった話……いったいぜんたい世の中どうなってんの? 何か天変地異の前ぶれか、それとも夢でも見ているの? ひょっとしたら、もう明日という日はないのかも……。
眉村卓が、ふつうの家庭の周囲を舞台にショート・ショートで描く、ちょっぴり危険で魅力的な全67話。》
収録作品=雨の夜/教卓ジャック/すごい薬/電車を待てば/変な役所/酷使のあと/変な箱/おばけ/訓練/柔道/工事/お礼/警官/みぞれ/仕返し/車内/赤い車/母の姿/ぬいぐるみ/瞬間移動/かん詰め/テレビの調整/スケッチ/切符/居眠り/ポスター/空き地/釣りに行こう/見世物/鉛筆/洗濯物/転落/救出(1)/救出(2)/変なこと/日野青年/なめくじ/告白/おもての子供たち/祈り屋/続おもての子供たち/波/盆踊り/火事のあと/台風来/夢のけむり/椅子の山から/無礼な来訪者(1)/無礼な来訪者(2)/無礼な来訪者(3)/隔離(1)/隔離(2)/隔離(3)/隔離(4)/隔離(5)/隔離(6)/隔離(7)/隔離(8)/隔離(9)/隔離(10)/先行テレビ/錠/五里霧中(1)/五里霧中(2)/五里霧中(3)/五里霧中(4)/五里霧中(5)/雨の夜
眉村卓『まぼろしのペンフレンド』角川文庫・1975年
《誰にでもよくある〈へんだな……?〉と思う一瞬。それが実は、あなたを知らず知らずのうちに、とんでもない事件に引きずり込む前兆であったりするのです。
ある日、中学一年生の明彦に突然舞い込んだ、見知らぬ女の子からの奇妙な手紙――そこには下手な文章で、“あなたのすべてを詳しく教えて”と書かれ、一万円を同封してあった。好奇心に駆られた彼は、それがこれから日本全国を恐怖のどん底に落しいれる事件の前ぶれとも知らずに、返事を出したのだった。
鬼才、眉村卓の描く、SFスリラーサスペンス、表題作他2篇収録。》
収録作品=まぼろしのペンフレンド/テスト/時間戦士
フリッツ・ライバー『妻という名の魔女たち』サンリオSF文庫・1978年
《そもそもの発端から奇妙だった。妻の化粧室からノーマンが発見した砂の入った壜……さまざまな墓地の砂を入れた幾つかの壜……ヘンプル大学の社会学教授ノーマンには、それらが魔術に使用するものだという妻の告白にわれとわが耳を疑った。それだけではない。ノーマンは魔術の輪に囲まれ、いままで同僚の妻たちの邪悪な力から護られていたというのだ。妻は偏執病にでも……だが、砂や護符などの呪術師の用具を仕末させたノーマンの身に偶然の一致か、妻のいう呪術の力によってか奇妙な事故が連続してふりかかってくる。やがて妻の謎めいた失踪。妻の足跡を求めて辺鄙な漁村にやってきたノーマンは、猛々しく吹き荒れる魔術の暴風雨圏に翻弄されるが、泊っている宿の扉を夜中叩いて訪れたのは、ずぶ濡れの生きている死者に変貌した妻であった。
米国SF界の鬼才が放つこの荒々しき呪術的ファンタジー。》
デイヴィッド・ジェロルド『H・A・R・L・I・E』サンリオSF文庫・1983年
《H・A・R・L・I・E(人間類似型ロボット生命入力対応装置)。これは世界で初めて作られた人間の脳の全機能を再現する自己プログラム型問題解決コンピュータである。無限の知識を操る一方、ハーリイは感情面では恐るべき子供だった。人をからかう詩を書く一方、自分が男か女か悩んでもいた。愛を体験したい、もっと人間でありたい。そう、ハーリイを作ったオーバースンに頼んでいた。だが、ハーリイは会社にとって財政的負担が大きすぎ、これ以上稼げないなら重役会はプラグを引き抜こうとしていた。道徳心はないが、投資対効果についての倫理感をもっているハーリイは、それなら人間が神になる方法を教える〈GOD〉マシンを作ってやろうと考えたのである……クラークのHAL9000の華やかな狂気とベスターのコンピュータ・コネクションの悪魔的理性を越えて、無垢で狡知なコンピュータを描いて金字塔を打ち建てたカリフォルニア・ゼネレーションを代表する随一の傑作。》
モルデカイ・ロシュワルト『レベル・セブン』サンリオSF文庫・1978年
《レベル・セブン――それは4000フィートをこえる地下にある防衛軍の秘密原爆ロケット発射基地である。来たるべき全面核戦争にそなえて築かれたこの地下壕は、500人のPBX部隊が500年間自給自足できる技術設備が完備しているのだ。ある日、押しボタン士官X-127は、地上訓練のキャンプから、レベル・セブンヘと転属命令を受ける。外部から遮断された地下壕で、彼は残りの生涯をおくるほかない。この完全密閉された世界では、人は、さまざまな心理的抑圧を経験し、対応策が練られる。突然、命令が下る。「ボタンA1押せ」戦争だ! 原爆ロケットが発射され、A2…B1……B3……C1ボタンが押されて、全面核戦争に突入する。地上は、まったくの廃墟となり、地表に近い地下壕レベル・ワン、ツー、スリー、フォーと順々に全滅していく。やがて……
東西両陣営の支配者2人に捧げられた本書は、痛烈な戦争批判と迫真の描写力によって全世界の共感を得た古典的作品である。》
フレドリック・ブラウン『フレドリック・ブラウン傑作集』サンリオSF文庫・1982年
《お待たせしました。フレドリック・ブラウンの、フレドリック・ブラウンによる、フレドリック・ブラウンのためのフレドリック・ブラウン・オン・ステージであります。何はともあれ表紙ウラなどにくだくだしく紹介の労をとるバヤイでもありませんので、まずはメロメロにして過激なるオマージュを舌がもつれるまでしつこくやっておきたいわけです。では……百花繚乱面白全部純情可憐舐猫千匹百発百中異常接近抱腹絶倒深慮遠謀真実一路地上最強七転八倒容姿端麗八面六臂満員札止連勝複式順風満帆満身創痍秘写本物見本進呈大胆不敵勇猛果敢繊細巧緻反則攻撃優柔不断極秘情報横田順彌醇風美俗獣肉惨夢豪華絢爛純血教育換骨奪胎星新一(ま、これは書肆からのヨイショでありますが、一息ついてと)家内安全一家心中春風駘蕩極限状況金銭感覚針小棒大気宇壮大反帝反スタ酒池肉林の華麗なる華麗なるカレエなるアイデアの色事師フレドリック・ブラウンの傑作集!!》
収録作品=闘技場/イメージ/事件はなかった/忠臣/アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク/人形芝居/黄色の悪夢/最初の接触/ジェイシー/狂った星座/回答/ギーゼンスタック一族/鏡の間で/ノック/反抗/星ねずみ/雪女/不死鳥への手紙/任務完了/エタオインさわぎ/おそるべき坊や/実験/タイムマシンのはかない幸福/和解/シリウス・ゼロ/意図/ユーディの原理/さあ、気ちがいになりなさい/終
アーシュラ・K・ル=グイン『辺境の惑星』サンリオSF文庫・1978年
《竜座ガンマ星太陽に属する惑星のひとつ、アルデランは、いま長く厳しい冬を迎えようとしていた。ここでは1か月は約400日、1年は60か月、つまり1年がほぼ人の一生にあたるのだ。冬の到来とともに、ガール族の今までにない大規模な襲来が予想されていた。厳しい冬を迎える準備をすべきか、それとも狂暴な異族から町を守る戦いの準備をすべきか。長くつづく協議。そして決定が下された。ファボーンの町とトバールの町は、協力して異族を迎え撃つことになった。永いあいだ対立しているファボーンとトバールは、互いに口をきいてはならぬという掟が定められていた。やがて芽生えるファボーンの頭アガトとトバールの娘ロルリーの淡い恋……冬の兆し……雪が降りはじめた。突如、トバールの町が襲撃され、略奪された……
非凡な情景設定と驚嘆すべき物語性によってル=グインが問う叙事詩的ファンタジー!》
アーシュラ・K・ル=グイン『幻影の都市』サンリオSF文庫・1981年
《44人が住むゾフの館をとりまく森の端に見知らぬ男がいた。自分についての記憶をすっかり失っていたが、館で生きるすべを驚くべき速さで学んでいった。猫のような眼をしているところから人々は、黄色を意味するフォークと呼んだ。それにしても彼は誰なのか?
遺伝子実験に失敗して見捨てられた怪物か、館の秘密を学ぶために送りこまれた道具か。長のゾフはこう考えていた。自分達に伝言をもってくる途中、かつて全世界同盟を破壊した異星人シングに記憶を消されたうえ、獣の襲撃か飢餓で死ぬよう森に放置されたのだと。やがてフォークは自分の本当の名前と素姓を発見すべく、幻影の都市エス・トックヘ向かって地図のない旅に出るのである。人語を話す獣、真実を語らせる薬を使う殺し屋、小型核ミサイル《爆撃鳥》を操り、ハンド・レザーで狩をする部族などに遭遇しながらも……壮大なスケールで描く未来史シリーズ、ハイニッシユ・ユニヴァースの神括約叙事詩。》
田中光二『勇者の血』集英社文庫・1986年
《今、自らの命を保証するものは、忍耐力しかない! ケン・田口は、本能的に悟っていた。孤島でのサバイバル・テストに勝ち残った者にのみ、3万ドルの報酬が与えられるというのだ。志願者たちの苛酷なゲームが展開されてゆく。…だが、勝利者を待ち受けていたものは!? 現代の男に要求される闘争本能を汗臭く活写する表題作ほか、SF・アドベンチャーの旗手・田中光二ワールド傑作集。》
収録作品=勇者の血/パラダイス島の幻想/旅・暮色の輝き/真性脱水症候群/幻想曲芸団/灰色の衣を着た男/殺人鬼の夜/牙と星砂
リイ・ブラケット『地球生まれの銀河人』ハヤカワ文庫・1971年
《マイクル・トレハーンは誰にも似ていなかった――奇妙なことに彼の容貌、姿形はこの地球上のいかなる人種のものでもなく、彼はただ一人、33年間の人生を深い孤独と劣等感とのうちに過ごしてきたのだった。だが、ある夜、タイムズ・スクェアーのとある書店で自分とうりふたつの男女、明らかに自分と同種族とわかる二人連れに出会った時、彼の運命は一転する。彼はおのれの身元を知った。突然変異により恒星間飛行を独占する大銀河の支配者達――—いまや、幾千億の星々きらめく大宇宙が彼を待っていた……!》
レイ・カミングス『宇宙の果てを超えて』ハヤカワ文庫・1970年
《宇宙を構成するものは何か? 古来人間の頭を悩ませてきたこの大問題について、天才物理学者ウェザビー博士は、1998年ついにその解答を発見した。すなわちこの宇宙は“無の渦巻”――無限小から無限大にいたる無数のレベルの渦動粒子より成り、地球も星々も宇宙全体も相対的に見れば一個の電子や原子、さらには極小の微粒子と同じだというのである! かくて博士は自らの理論を証明するため新型航宙船を建造、二人の美しい孫娘アリスとドロレス、その男友だちレナードとジムの四人をひきつれ、勇躍星ちりばめる宇宙の果てへと、途方もない大旅行に出発した!》
金井美恵子『柔らかい土をふんで、』河出文庫・2009年
《柔らかい土をふんで、あの人はやってきて、柔らかい肌に、ナイフが突き刺さる―逃げ去る女と裏切られた男の、狂おしい愛の物語。ジャン・ルノワールの映画『牝犬』、それをリメイクしたフリッツ・ラングの『スカーレット・ストリート』をはじめ、さまざまな物語と記憶の引用が織りなす至福のエクリチュール。巻末に解題著者インタビューを掲載。》
ウィリアム・ホープ・ホジスン『異次元を覗く家』ハヤカワ文庫・1972年
《目に見えぬ時空の深淵を越え、この世とあの世との間に建てられた一軒の家――アイルランド荒野の薄暗い森深く、大瀑布の縁にいまも巨大な廃墟が残っている。その瓦礫の中から発見された一冊の手記は、かつてそこに住んでいた老人の数々の怪異な体験を記して、読者を戦慄すべき悪夢の世界へとひきずりこむ! 奈落の底へ通ずる地下の扉、夜ごと襲い来る化け物どもの群れ……。そして異次元の彼方、老人が目撃した邪教の神の寄りつどう“沈黙の平原”とは? やがて起こった時間加速現象は、彼を世界終末の時へと導いていった……! 怪奇SFの傑作古典ついに登場!》
倉橋由美子『完本 酔郷譚』河出文庫・2012年
《慧君がかたむける魔酒の向こうに夢幻と幽玄の世界が官能的に交叉する――『よもつひらさか往還』と『酔郷譚』を合本し、孤高の文学者・倉橋由美子が亡くなる直前まで執筆していた珠玉の連作綺譚シリーズを全作収録した初の完全版。》
矢野徹『自殺潜水艦突撃せよ』角川文庫・1980年
《第二次世界大戦のさなか、敵の銃弾や飛行機が飛び交う中、海上に不時着した味方の兵士の命を救う使命をおびた潜水艦があった。その名は通称自殺潜水艦。本当の名を強行救助潜水艦といった。
が、実際には救助作業は敵味方の区別はつけられなかった。捕虜となるのを潔しとしない敵国兵士。また、敵と誤認して発砲してしまう味方兵士ら…自殺潜水艦の乗組員には、さまざまな困難と危険が待っていた。
人命の尊さと、人間の勇気とを讃える感動の戦争冒険小説。「南太平洋0号作戦」を併録。》
ロバート・シルヴァーバーグ『不老不死プロジェクト』創元推理文庫・1978年
《ウイルス戦争以後、地球は、ジンギス二世マオ四世カンの支配下にあった。シャデラックはカンの侍医。体内に埋めこんだ特殊装置でカンの体調をキャッチし処置するのが彼の仕事だ。高齢のカンを生かし続けるために三つの研究が進められていた。機械仕掛の人形に彼の精神を移植する人形計画、肉体そのものを若返らせる不死鳥計画、若者の肉体に彼の精神を移植する化身計画。ある日、化身計画の肉体提供予定者の若者が死んだ。そして次の肉体提供者にシャデラックが選ばれたのだ。事態は意外な方向に進む。》
佐藤健『マンダラ探険―チベット仏教踏査』中公文庫・1988年
《インドの北西部の秘境ラダック・ザンスカールは、マンダラの宝庫。チベット仏教の修法や壁画を現代に残すタイム・カプセルだ。5千メートルの峠をいくつも越えて、密教の宇宙をたずねる探険記。》
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