これも上げずにいた5月分。
角川文庫の横溝正史は杉本一文カバーの古本が出たから買ったもの。売る側もわかっていてこれだけ同社の他の文庫より100円高い値付けだった。
赤瀬川原平『日本にある世界の名画入門―美術館がもっと楽しくなる』知恵の森文庫・2006年
《ドガ、モディリアーニからピカソ、ミロ、クレー、マグリットまで、いちばん面白い時代のこんな名画が日本にあった。「元祖ヘタウマ」のルソー、寂しい、でもなぜか懐かしいキリコ、シャガールは家庭で揚げる天麩羅だ――ユニークな視点で「近代絵画」の見方を伝授する。巻末に美術館ガイドを収録。 解説・南伸坊》
松浦寿輝『川の光』中公文庫・2018年
《「ねえ、お兄ちゃん、川は眠らないのかな」「川は眠らないよ。いつもいつも流れつづけているんだ」――せせらぎに守られた川辺の暮らしは、突然の工事で終わりを告げる。新天地を求め旅に出たネズミ一家は、やがて大冒険をすることに――チッチが跳ね、タータが走り、タミーが飛び出す! 島津和子氏によるイラスト多数収録。 〈解説〉平川哲生》
松浦寿輝『タミーを救え!(上)川の光2』中公文庫・2018年
《みんなの人気犬ゴールデン・レトリーバーのタミーが、悪徳業者にさらわれた! 救出のため、ネズミのタータとチッチをはじめとする大小7匹の動物混成部隊が東京横断の旅へ。フリスビーで川を下り、マンションのベランダからダイブし……人間の目を掠めながらの捜索は前途多難。『川の光2 タミーを救え!』を上下巻に分冊。》
松浦寿輝『タミーを救え!(下)川の光2』中公文庫・2018年
《渋谷のスクランブル交差点でバラバラになってしまった救出チーム。ある者は地下ギャングと闘い、ある者は病に倒れ、それでも謎の「タワー」を目指し必死の旅を続ける。果たして7匹は、再び集結し、囚われのタミーを見つけ出すことができるのか?彼らに残されたのは、互いへの信頼だけ。『川の光2 タミーを救え!』を上下巻に分冊。》
赤瀬川原平・山下裕二『日本美術応援団』ちくま文庫・2004年
《絵の神様のように扱われる雪舟だが、よくよく見ると彼の描く絵はちょっとヘン。あの有名な「天橋立図」も凄いんだがどこかヘン。尾形光琳にはなくて、宗達にはある、“乱暴力”とは? 雪舟、等伯から、縄文土器や根来塗の器まで日本美術を幅広く応援。教養主義や美術史にとらわれない、大胆不敵な美術鑑賞法を提示する。カラー図版満載。》
永井荷風『濹東綺譚』岩波文庫・1948年
《取材のために訪れた向島は玉の井の私娼窟で小説家大江匡はお雪という女に出会い、やがて足繁く通うようになる。物語はこうして濹東陋巷を舞台につゆ明けから秋の彼岸までの季節の移り変りとともに美しくも哀しく展開してゆく。昭和12年、荷風(1879-1959)58歳の作。木村荘八の挿絵が興趣をそえる。(解説=竹盛天雄)》
谷川俊太郎『詩集Ⅰ 空の青さをみつめていると』角川文庫・1968年
《正直に言って、自作に対してはいつまでたっても客観的になれない。どれが駄目で、どれが少しはましなのか、さっぱり見当がつかないのである。したがって、過去の作品に今になって手をいれるということも私にはできない。手をいれてよくなるものかどうかおぼつかないし、たとえ過去に自分がどんなに未熟であったにしろ、その未熟な自分を負ってゆくより現在の自分の生きかたもないと思うからである。言いかえれば私にとって、過去の作品などというものは存在しないのかもしれない。 (著者「あとがき」より)
1952年、『二十億光年の孤独』で詩界に清新なデビューをした著者の1950年代、60年代の代表作を網羅した、文庫版『谷川俊太郎詩集』パートI。》
内田康夫『金沢殺人事件』ノン・ノベル・1989年
《東京北区の神社で商社員・山野稔(37)が「オンナニ……ウシク」という謎の言葉を残して殺害された。捜査に乗り出した所轄の滝野川署は、山野の上着から微量の火薬を検出した。繊維商品を取り扱っていた山野がなぜ火薬を持っていたのか? 最期に残した言葉の意味は何か? 事件は混迷を深めた。そんな祈、死体の第一発見者である女子大生・中谷朋子が金沢で殺された。東京と金沢で起こった二つの殺人事件にはいったいどのような繋がりがあるのか? 事件に興味を抱いた名探偵・浅見光彦は北陸へ飛ぶが……。人気絶好調の著者が、古都金沢を舞台に“旅情推理”の魅力を余すところなく描く傑作最新ミステリー!》
津村節子『銀座・老舗の女』文春文庫・1985年
《はち巻岡田、紬屋吉平、金田中、ゑり円……焦土の銀座に興した店を女手ひとつで銀座一の、つまりは日本一の老舗に育てあげたお内儀、経営者二十二人にインタビューして「銀座の女」の歓びと悲しみを暖かい目で凝視した好著。転、廃業した人、物故した人もいるが、銀座を育て、支えたのはこの女性たちだ。 序文・丹羽文雄》
内田康夫『横浜殺人事件』カッパ・ノベルス・1989年
《「『赤い靴』の女の子、どこへ行ったか知りませんか?」――TVレポーター山名めぐみはこの取材の直後、絞殺された。ビデオに撮られたBMWに乗る男の正体は? 一方、金沢八景・称名寺の裏山では、会社員浜路恵一が毒殺されていた。遺された大きなゴム紐は何? 「外人墓地から北へ百歩」のメモの意味は? 横浜テレビ藤本紅子、被害者の遺児浜路智子とともに二つの殺人事件の接点を探る名探偵浅見光彦は外人墓地を訪れるが、そこには……? 横浜を舞台にした童謡「赤い靴」と「青い眼の人形」に隠された秘密! 横浜のエキゾチシズムと謎とを交差させた旅情ミステリーの白眉、書下ろし第九弾!》
内田康夫『浅見光彦殺人事件』カドカワノベルズ・1991年
《広島に出張していた詩織の父、大輔は「トランプの本」を見つけたというダイイング・メッセージを残して非業の死を遂げた。病死した詩織の母がいまわの際に言い残した「トランプの本」とは何なのか? さらに大輔の部下、野木もまた九州・柳川から「面白いものを見つけた」という葉書を詩織にあてて書いた直後に失踪。途方にくれる詩織がたよれるのはもはや浅見光彦のみ。ところが、その浅見も……》
志茂田景樹『冷血の罠』徳間文庫・1981年
《保険時代といわれる現代――人間の生命がいとも簡単に金に換算される世相を背景に、新種の凶悪事件が続発する。自衛隊ヘリコプター飛来事件にからむ殺人事件、双生児殺害の裏にひそむ替玉契約、3億円の保険金に賭ける死のダイビング……。保険会社調査員の行く先々で様々な人生が狂い咲き、終焉をとげる。
直木賞作家が自らの体験をもとに活写する新社会派ミステリー!》
収録作品=朝の断崖/さかしまの殺意/冷血の罠(三億円保険殺人事件)/冷血の殻(もうひとつの三億円事件)/悪妻にサヨナラ
福永武彦訳『現代語訳 古事記』河出文庫・2003年
《天地開闢から始まり、日本がいかに誕生して、神々や皇室の祖先がいかに活躍し、今の地名がどんな由来で名づけられたかなどを物語るわが国で現存する最古の典籍を、最も分かりやすい現代語訳で全訳した名著。
建国の由来を、今や壮大な神話や伝説として読める現代、生き生きと躍動する古代の物語をあらためてひもとくことによって、新しい何かが発見できよう。》
ショーロホフ『人間の運命』角川文庫・1960年
《百枚に充たぬ短い物語の中に、一人の平凡な人間の一生を見事に描き尽した「人間の運命」。ここには、ささやかな幸福、残酷な戦争に打ちひしがれた絶望と、それを救う大きな人間の愛が、淡々たる筆致の中に恐ろしいまでの迫真力で表現されている。他に処女短編集「ドン物語」から「夫の二人いる女」「子持ちの男」「るり色のステップ」「他人の血」を収める。》
生田直親『逆発想のスキー術』徳間文庫・1983年
《齢40を越えてスキーに狂い、上田、函館と居を移し、1年の半分は小説執筆、あとの半分はスキー漬けという著者が開陳する異色のスキー理論。曰く“だれでも、今すぐパラレルやウェーデルンができる”“2時間でパラレルが完成する”“シュテム系の基礎レッスンは上達を阻害する”……
スキー行の基本知識から大胆な発想による即決スキー上達法までを懇切丁寧に教示する画期的なスキー入門書!》
山田詠美『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』角川文庫・1987年(直木賞)
《ソウルミュージックナンバーをバックに奏でられる、甘く哀しく美しい8つの恋物語。
今、いちばん鮮烈で、輝かしい詠美文学の代表作!
言語の感性は天賦のもの―陳舜臣。天性の才能と肯定的で力のある文章―藤沢周平。サガンを抜く女流の出現―田辺聖子。小説の本道―井上ひさし。文章に潔さ、小気味よさ―山ロ瞳。空前の才能―五木寛之。――等々、各選考委員の大絶賛をあびた、直木賞受賞作。
解説は村上龍。》
平岡正明『筒井康隆断筆をめぐるケンカ論集』ビレッジセンター・1994年
《死なずに化けて出るという筒井康隆の抵抗方法は自由なる言論のための戦いの新機軸である。(中略)筒井断筆については俺は平和主義者ではない。わかるまでやるが、わかっただけじゃすませない。彼を三流のSF作家だとバカにするのも今のうちだ。》(「まえがき」)
橋本治『これで古典がよくわかる』ちくま文庫・2001年
《あまりにも多くの人たちが日本の古典とは遠いところにいると気づかされた著者は、『枕草子』『源氏物語』などの古典の現代語訳をはじめた。「古典とはこんなに面白い」「古典はけっして裏切らない」ことを知ってほしいのだ。どうすれば古典が「わかる」ようになるかを具体例を挙げ、独特な語り口で興味深く教授する最良の入門書。》
横溝正史『黄金の指紋』角川文庫・1978年
《「君に預けておく。これを金田一耕助という人に渡してくれ……」そう言って難破船の遭難者が死ぬ前にことづけた黒い箱。邦雄少年は好奇心から中を開けて見た。それは燦然と輝やく黄金の燭台だった。邦雄は思わず息をのみ、慌ててしまおうとした。その時、彼は妙なことに気がついた。燭台の火皿のところに指紋が一つ焼きつけられていたのだ。邦男は知らなかったが、これこそ一人の薄幸の少女の運命を握る大切な証拠の品だったのである……。
巧みな変装術と鮮やかな推理で事件の核心に迫る金田一耕助の活躍! 》
横溝正史『蠟面博士』角川文庫・1979年
《アトリエの明かりをつけた探偵小僧の御子柴進は、部屋の隅に異様な物体を発見してギョッとなった。裸の男の蠟人形である。だが、そばに行って確かめた進は悲鳴を上げた。剥がれた蠟の下から、無気味な色をしてのぞいていたのは本物の人間の腕だったからだ!
蠟細工の面のような顔をした奇怪な蠟面博士。人間を殺して蠟人形に仕立て上げるこの怪人の神出鬼没の暗躍に、警視庁の等々力警部と御子柴少年は全く手も足も出ない。そんな時、朗報が届いた。アメリカ旅行中の金田一耕助が予定を繰り上げ帰国するというのだ。
表題長編ほか三篇を収録。》
収録作品=蠟面博士/黒薔薇荘の秘密/燈台島の怪/謎のルビー
横溝正史『魔女の暦』角川文庫・1975年
《報らせを受けて現場に駆けつけた金田一耕助は、思わず「あっ」と声を上げた。舞台中央には、つくり物の蛇の頭髪が揺れ動き、血まみれになった女の生首がころがっていた……。
浅草のレビュー小屋、紅薔薇座で出演していた、三人の魔女役が次々と惨殺された! 不敵な予告をする犯人「魔女の暦」の狙いは何か? たえず後手に回り苦戦する名探偵の胸に、激しい怒りがこみ上げてきた。
怪奇な雰囲気の中に本格の醍醐味を盛り込んだ、横溝正史の傑作長編推理、ほかに「火の十字架」を収録。》
松本清張『山峡の章』角川文庫・1975年
《昌子は、九州旅行で知り合った若手経済官僚の堀沢と交際し、結婚した。堀沢は役所内で出世コースを目ざす秀才で、几帳面ではあったが神経質で、強いエリート意識と、心の底を明かさない冷たさが、昌子に違和感を与えた。
やがて、平穏で空虚な日々ののちに起こった、妹伶子と夫の失踪。宮城県作並温泉の山峡で発見された死体に、新聞は、不倫の恋の精算と書きたてたが、妹は夫を好まず、夫もまた彼女を敬遠していた。
〈二人は、情死ではない〉昌子は、自分の固い信念を、自分で確かめるほかはなかった。……若手官吏の死の謎に秘められた、国際的陰謀を描く、巨匠の力作。》
森村誠一『むごく静かに殺せ』角川文庫・1976年
《“事故処理屋”星名五郎。彼は自分が厳密に張りめぐらした、信頼すべきルートからのみ客を取る殺しのエキスパートである。
ある日、奇妙な客が彼の事務所を訪れた。その男の依頼は、自分自身をできるだけむごく静かに殺して欲しいというものだった。世の中の面白そうなことは全てやり尽し、使い切れぬ財産と死ぬような退屈感だけが残ったその男には、今まで味わったことのない強烈な刺激が必要だったのだ。星名は、酷薄な顔に冷笑を浮かべると、ゆっくりうなずいた……。
森村誠一異色の連作サスペンス小説!》
森村誠一『不良社員群』角川文庫・1979年
《俺たちは、檻の中で餌を与えられ、言いなりになる飼い殺しの豚ではない! 定時に出社し、適当に手を抜き、時に見せかけの仕事熱心さを披露して保身と出世に汲々とする真面目社員など糞喰えだ。言いたい事を言い、やりたい事をやって奴らよりも会社に貢献する、それが俺たち不良社員の誇りなのだ。
総合商社唯物商事に、へそ曲りだが威勢のよい新人が大挙して入社した。向こう意気の強い彼らは、事あるごとに上司と衝突。だが、古参社員のいびりにもめげず、彼らは逞しい社員として成長していった…。
森村誠一作品の源流を探る処女長編。オムニバス風に描いた痛快サラリーマン無頼控。》
西村寿行『闇に潜みしは誰ぞ(上)』角川文庫・1982年
《〈野郎、ただではおかんぞ!〉 深夜の家荒しに続き、男たちの襲撃――警視庁刑事・仙波は怒りをこめてつぶやいた。
――しかし、奴等は何を狙っているのだ……? 仙波はそのとき、以前、交通事故を起こした男を病院に運んだ際、その男がビニール片に書いた地図のようなものを残していたことに気付いた。そこには何かの秘宝の埋蔵場所でも印してあるのだろうか……? が、仙波は何者かに拉致されてしまう……。
隠された〈物〉は何か、そして背景で暗躍する組織の正体は? 会心のスーパー・アドベンチャー巨編(上)。》
西村寿行『闇に潜みしは誰ぞ(下)』角川文庫・1982年
《財宝の正体は、時価100億円もの価値をもつ天然重水であった。これは水爆の原料となるものであり、危険な組織が手に入れれば国家的危機であった。
仙波と峰、そして明子のグループは地図に描かれた地点を求めて全国を探しまわっていた。が、暗躍するいくつかの組織、くり返される性と暴力の狂宴……。そして、目的の地にたどり着いたとき、そこは女ばかりの戦士によって守られる聖地であった……。スリルとサスペンスあふれる、会心のスーパー・アドベンチャー巨編(下) 。》
西村寿行『石塊の衢』角川文庫・1987年
《吐噶喇列島に住む金城昇は、スキューバ・ダイビングの世界記録に挑んだ。しかし、記録に三メートルおよばず失敗した。手造りの深海用カメラに映った謎の一葉の写真を持って上京した金城は、消息を絶ってしまい、あとを追った恋人、和子も行方不明になってしまった。捜査にあたった坊門刑事は奇書「東日流外三郡誌」を知る。写真をめぐって凌辱と殺人が……。
壮大なスケールで描く伝奇ロマン傑作! 》
辰野隆『フランス革命夜話』福武文庫・1989年
《「仏蘭西語は一語も解し得なかったが、辰野隆先生の講義が聞きたかったので、東京帝大仏文科に入学した」と太宰治に書かしめたほどの話術・座談の名手の筆が冴えわたる! フランス革命に材をとったエッセイ2篇(「革命夜話」「鬼才ボーマルシェ」)と翻訳1篇(「敗北者の運命」)を収める。》
斎藤栄『風の魔法陣(上)』集英社文庫・1987年
《ハワイ旅行で夫が怪死した長女の美土里。暴風雨の夜、密かに想いを寄せていた神奈川県警の真部と結ばれた三女の不二子。愛娘を誘拐され、一信円の身代金を要求された次女の由利枝。一見脈絡のない事件がひとつに結びついたとき、小泉家の三人姉妹は恐怖の渦に巻き込まれた――。誘拐犯人から電話が入り、子供の声で“パンのウラミ……”といい、一信円の身代金が要求された!》
斎藤栄『風の魔法陣(下)』集英社文庫・1987年
《身代金を積んだ車が爆破され、炎上した。なぜ? 真部警視を中心とする捜査当局は、犯人像がつかめず、日一日と苦悩の色を深めるが、誘拐された由利枝の愛娘・多美は無事に保護される。そして多美が指摘した衝撃の犯人とは? 『グリコ・森永事件』にも酷似した事件で、犯人はどんな手段で身代金を奪取するのか!? ジャーナルな着想で描く長編推理。 解説・山村正夫》
斎藤栄『機密』徳間文庫・1981年
《冨田湾第2期埋立計画の漁業補償をめぐって、K市は二つの漁業組合と市側が激しく対立、ついに犠牲者をだす始末だった。
次期市長選の布石をうつ市会議員、出世を夢見る港湾課長、市長選の資金援助を恃む市長、埋立地獲得を狙う大企業……それぞれの思惑をひめ、虚々実々の《機密合戦》が展開されたが、大詰めの交渉日当日、狂躁の裏をかいてうたれた大芝居の結末は?
宝石賞受賞の著者の代表的推理小説。》
収録作品=機密/垂直の殺意/女だけの部屋
大藪春彦『ザ・特殊攻撃隊』徳間文庫・1987年
《イギリス外務省情報部の破壊活動班員・伊達邦彦が、極秘任務を帯びて帰国した。二週間後に迫ったソヴィエト第一副首相マカレンコの来日を狙って、C・I・Aが企てた暗殺計画を阻止せよというものであった。邦彦は、C・I・Aが送り込んだ七人の殺しのエキスパートに秘かに接近し、瓜二つの替え玉を残しながら、一人ずつ消してゆくが……。「C・I・Aの暗殺者を消せ」他、大藪ハード・アクション傑作集!》
収録作品=C・I・Aの暗殺者を消せ/みな殺しの銃弾/連隊旗奪還作戦/“紅軍派”大使拉致す/瀕死の38度線/ジャングルの豹/われ、サイゴン米大使館を占領せり
大木毅『独ソ戦―絶滅戦争の惨禍』岩波新書・2019年
《「これは絶滅戦争なのだ」。ヒトラーがそう断言したとき、ドイツとソ連との血で血を洗う皆殺しの闘争が始まった。日本人の想像を絶する独ソ戦の惨禍。軍事作戦の進行を追うだけでは、この戦いが顕現させた生き地獄を見過ごすことになるだろう。歴史修正主義の歪曲を正し、現代の野蛮とも呼ぶべき戦争の本質をえぐり出す。》
下村寅太郎・小川国夫『光があった―地中海文化講義』朝日出版社・1979年
《神話と哲学のオリジンを明らめて思索する哲学者と、イコンやカテドラルや廃墟に感応する作家が、ギリシャ思想とキリスト教のそれとの違い、ルネサンスとは何かなどを問う。光たわむれる地中海に文明の交響詩がこだまし、アリストテレスの自然学からケプラー、ガリレオ、ニュートンの科学への途が、アインシュタインにまでつらなるのが見える。あるいは、黄昏の国スペインをへめぐり――こうして精神史の〈舞台〉がしつらえられる。
小川 廃墟美のいわば正反対にある観念がギリシャ人の美意識だったという感じがしますね。そこで、そのギリシャ人の精神の基本はどういうふうに考えられますか。
下村 ギリシャには廃墟美などなかった。ギリシャ人の本質は彫塑的性格です。ギリシャの哲学も思想の彫刻といっていいか、彼らが努力して概念を定義したのも概念の彫刻ですわね。われわれには一番乏しいものですね。造型的ということはギリシャ人の最も根本的な特色で、だから彫刻がギリシャの芸術の典型ですね。》
小堀巌『死海―地の塩の現実』中公新書・1963年
《湖でありながら人を浮べることで有名な死海は、海面より四〇〇メートルも低い処にある不思議な湖である。そこにゆく道は二つ――アラブ街道とユダヤ街道とがある。しかしいずれの街道をとるにせよ、死海を一周することはできない。イスラエル国家の誕生が両断してしまったからだ。アラブとユダヤの接点として複雑な緊張に包まれている死海周辺の、壮大な風土と謎の湖とを数度の現地調査によって鮮やかに描き出した地理学者の記録。》
佐野洋『緊急役員会』集英社文庫・1986年
《工場のセメント粉塵による公害問題で、高湊化工の労使は激しく対立していた。そんな析、会社側のスパイと思われる男が変死した。その裏には何が隠されていたのか……? 企業の中の人間関係を横糸に、殺人事件を縦糸にして描く表題作ほか、巧緻な構成でミステリーの面白さを堪能させるオリジナル作品集。 解説・郷原 宏》
収録作品=破綻/蛇の群れ/広い藪/狼の巣/武士の情/白い蝙蝠/震える肩/緊急役員会/誇り高い女
阿刀田高『だれかに似た人』新潮文庫・1987年
《人生のさまざまな分岐点を、その都度どちらへ行くか決断しながら通過してきた男と女。湖畔で偶然出会った二人は、またもやある決断を迫られる……(「Y字路の街」)。おとなしい新妻は、しかし閨房に入るとかたくなに夫を拒んだ。彼女の精神外傷とは……?(「無邪気な女」)だれかに似ているが、だれとは特定できない男女の物語。短編の名手による精妙な連作トリック・ミステリー10編。》
収録作品=Y字路の街/無邪気な女/灰色の名簿/黒い数列/愛妻物語/明日を売る女/海の蝶/女体/孤独な舞踏会/奇談パーティ
柴田南雄『グスタフ・マーラー―現代音楽への道』岩波新書・1984年
《「やがて私の時代が来る」と自己の前衛性を確信していたグスタフ・マーラー。彼の交響曲は自由で柔軟、感傷的で情感的、また急激な大爆発を起こすなど、近代人の知性と矛盾をさらけ出している。著者はマーラーの作品の背後に非西欧世界にも及ぶ広大な音楽文化圏の存在を見いだし、現代音楽への道を切り開いていった彼の歩みを跡づける。》
野上素一訳著『ダンテ神曲物語』現代教養文庫・1968年
《〈永遠の古典〉ということばがあるが、ダンテの『神曲』はまさにそのとおりである。
中世西洋の古典が、現代のわれわれにこれほどおもしろく読めるとは、本書を手にしない人にとっては思いもよらないことであろう。
われわれの想像のいきをこえ、高く飛翔する幻想、暗い凄惨な地獄のあざやかな描写は、われわれの目をひきつけてはなさない。
西洋の文学や美術を鑑賞するための常識として、いな現代に生きるための糧として、必読の書としてすすめたい。》
田山花袋『東京の三十年』岩波文庫・1981年
《明治14年、花袋が11歳で出京してからほぼ30年間の東京という街の変遷と、その中にあって文学に青春を燃焼させた藤村・独歩・国男ら若い文学者の群像を描く。紅葉・露伴・鷗外ら先輩作家との交流にも触れ、花袋の自伝であるとともに明治文壇史でもある。また明治の社会や風俗の資料としても興味深い。(注・解説=竹盛天雄)》
丸山健二『穴と海』角川文庫・1976年
《海辺の村から静かな森を抜け、新しい陽の光にあふれた草原の赤土の山の下に、少年が自分の手で掘った横穴があった。そこだけが彼の世界であり、そこにある時間はすべて彼のものだった……。幼い少年の無垢で孤独な心象を、鋭敏な観察力と独自のスタイルで鮮明に描出した好短篇「穴と海」。
他に「誰もいない町」「日曜日は休息を」等五篇を収録した、著者二十代の半ばに発表された傑作短篇集。》
収録作品=穴と海/誰もいない町/雁風呂/有望な日々/日曜日は休息を/十年後の一夜
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