90年代後半あたりから日本SFもあまり読まなくなってしまったので、ここに上げた山田正紀のミステリ2冊『阿弥陀』『氷雨』も古本屋で見かけるまで存在も知らなかった。
装幀が懐かしいのは福武文庫のレッシング『一人の男と二人の女』、ソノラマ文庫の辻真先『TVアニメ殺人事件』、角川文庫の山田智彦『重役候補』など。
檀一雄『美味放浪記』は持っているものをまた買ってしまったのでまた読んだ。
松林尚志『詩歌往還 遠ざかる戦後』は著者より寄贈いただきました。記して感謝します。
ドリス・レッシング『一人の男と二人の女』福武文庫・1990年
《子供は作らないと決めていたジャックとドロシーに思いもかけない赤ん坊が生まれ、理想の夫婦関係に微妙な翳が差し始める。育児疲れでヒステリックになっている妻に手を焼くジャックのもとに、仲の良い友人夫婦の妻ステラが訪れたことから……。表題作はじめ、男と女の関係を四つのヴァリエーションで描き分けた短篇集。本邦初訳。》
収録作品=陰の女/わが友ジューディス/一人の男と二人の女/あまり愉快でない話
アンナ・カヴァン『鷲の巣』文遊社・2015年
《空から流れ出る、無音の白い瀑布が、 あらゆるものを呑み込んでいく――
旅の果てにたどりついた<管理者>の邸宅<鷲の巣>と、荒涼の地、命なき壮麗な世界。不意に空にあらわれる白い瀑布、非現実世界のサンクチュアリ――強烈なヴィジョンが読む者を圧倒する、カヴァンの傑作長篇、待望の本邦初訳!》
杉本苑子『隠々洞ききがき抄』集英社文庫・1983年
《恋しい男に会いたいあまり、八百屋お七が起こした振袖火事。江戸の町は火の海と化しお七は処刑にされた。お七の一途な気持に被害者の中にさえも憐れむ者もいたが、その裏に生活の全てをもぎとられた哀れな犠牲者もいた。とぼけた顔、博覧強記、吉野金峰山に本拠をおく東密派の修験者・隠々洞覚乗が受難者の生と死をみつめた異色時代小説。 解説・神谷次郎》
山田正紀『阿弥陀』幻冬舎ノベルス・1997年
《「ねえ、こんなことってありますか。人間ひとり、どこかに消えてしまったんですよ」。今村茂は呆然とした表情で警備員の檜山に言った。今村の同僚で交際相手の中井芳子が勤める保険会社は十五階建てのビルの最上階にある。残業を終えたふたりがエレベーターで一階に降りた直後、芳子は「わたし忘れ物してきちゃった」とオフィスに戻ったはずが行方不明に……。人間消失をテーマにビル全体を覆う密室大トリックを繙く謎と論理の大逆転ミステリ!》
堀越孝一『いま、中世の秋』中公文庫・1987年
《『中世の秋』を辿るヨーロッパの旅、歴史への愛着と想像力で綴るホイジンガ紀行。ヨーロッパの陽光、陰翳、風までが、歴史空間をみたし歴史学への想いを喚起する。歴史という時の流れに佇む好エッセイ集。》
山田正紀『氷雨』ハルキ・ノベルス・1998年
《二年前に、経営していた町工場が倒産し、多額の負債を抱えた弥島は、妻と娘のために離婚し、取り立てから逃れるために、一人焦燥と絶望の日々を送っていた。そんなある日、弥島のところへ義妹から連絡があり、妻と娘が重体であることを知らされる。弥島が病院に駆けつけた時には、すでに二人は死んでいた。警察から事故がひき逃げであることを告げられた弥島は、不審な点が多いことに気づき、一人、事件の真相を知るべく乗り出すのだが……。全篇に漂う緊張感と、鮮烈なセンチメンタリズムで描く、長篇ハードサスペンスの傑作!》
南条範夫『城と街道』中公文庫・1981年
《京への道、信濃路、稲葉山城、能登三城など、戦国武将の非情な運命を物語る城と街道を舞台に、歴史を横切って消える人間像を現代の眼で鋭くとらえる。》
ジョン・ミルナー『象徴派とデカダン派の美術』PARCO出版局・1976年
《ラファエル前派に始まり、ポンタヴェン派、バラ十字会、ドイツとオーストリアの分離派、ゴーギャン、モロー、ルドン、ベックリン、クリムトなど芸術家の幻想的ヴィジョンを通じて、象徴派とデカダン派の軌跡をさぐる。》
中川米造・星新一『手当ての航跡―医学史講義』朝日出版社・1980年
《数千年のあいだ、医学はなぜ〈進歩〉しなかったか、プラジーボ=偽薬はなぜ効くか、などの問いに答えながら、病いと治療と文化について考える。病院に集めた病い篤き病者から〈病気〉を抽出し、病いと病者を分離して、近代医学は成立した。文化が病気をつくったのだ。いま、治療のはじまりにあった〈手当て〉が恢復されるべきではないか。東西の医の道を辿り、現在の医療のあり方の根源を問う。
星 手当てというのは、やはり手を痛いところに当てるという。
中川 手で接触するということですね。
星 すると、これはどっちに属するんですか。気のせいですかな。
中川 やっぱり生理的な意味があるんだと思います。とくに人間というのは群れる動物ですから、群生の動物ってのはお互いに皮膚の接触があるということが非常に生理的な安定のために大事なんで、それの一つの形態として手でさわるわけですね。》
フランツ・カフカ『ある流刑地の話』角川文庫・1963年
《荒涼たる砂漠に組立てられた奇怪な死刑執行台、それによる目もくらむ処刑。「変身」で醜悪なカブトムシに変貌し世界を震憾させた作者はその後もいろいろな形への変身を試みている。この無数の歯車と針のついた死刑台で象徴される不安は変身に通じる何ものかであろう。「二つの対話」「観察」「判決」「村の医者」「断食芸人」等他六篇。》
宮下健三『ミュンヘンの世紀末―現代芸術運動の源流』中公新書・1985年
《一九世紀末から今世紀の初頭にかけてバイエルンの都ミュンヘンには、数多くの若き才能が群れ集い、豪華な文芸誌インゼル、風刺漫画誌ジンプリチシスム、モード雑誌ユーゲントなどが一斉に刊行された。ドイツの世紀末芸術ユーゲントシュティールは、文字通り「青春の様式」たった。そして、ここには浮世絵や貞奴の影響も見逃せない。ナチの独裁と二つの世界大戦を経た今日、今世紀ただ一度だけ花咲いたドイツ文化の青春を描く。》
津本陽『最後の相場師』角川文庫・1988年
《昭和51年秋、79歳の佐久間平蔵は散歩の途中でふとつぶやいた。「いよいよ、儂のこの世で仕残した勝負をはじめるか」――これが、オイルショック後の低迷市況の中で世間を驚かせた大仕手戦のしずかな発端だった。
16歳で大陸に渡り、その後波乱の人生を送った平蔵が、老境に入って展開する死闘にも似た株式投資のかけひき……史上最大にして最後の相場師、是川銀蔵氏をモデルに、手に汗にぎる迫力で男の生き方を描き切る傑作長編! (『裏に道あり』改題)》
荒木経惟『完全版 写真ノ話』白水社・2011年
《ロンドンでの大回顧展から5年、さらなる躍進を遂げる天才アラーキーが、本音で語る写真論・写真術。デビューから現在まで、約半世紀にわたる軌跡をたどりながら、制作秘話を一挙公開!》
杉森久英『美酒一代―鳥井信治郎伝』新潮文庫・1986年
《大阪の一奉公人から身を起し、世界に冠たる洋酒メーカー“サントリー”を創り上げた男、鳥井信治郎。食卓に西欧の文化をと生まれた赤玉ポートワイン。スコッチに負けないウイスキーをという執念が生んだサントリー・オールド。次々と銘酒を世に送り出しその優れた経営感覚と新しいアイディアで、常に時代をリードして来た男の姿を、伝記文学の第一人者が浮き彫りにする。》
松林尚志『詩歌往還 遠ざかる戦後』鳥影社・2021年
《俳句や詩作の傍ら、芭蕉など古典研究を積み重ねてきた著者。卒寿を越えて、詩歌全般にわたる埋もれた貴重な労作を集録すると共に、回想記を添える。》
辻真先『夢はパノラマ』ソノラマ文庫・1986年
《物にこだわらず、少々のことは豪快に笑い飛ばす女の子・神奈夏樹でも、ふと死にたくなるときがある。恋に破れたと思い込んだ今がそうだった。足元に転がっていた石を何気なく拾い上げ、夏樹は団地の屋上から身を投げた。だが彼女が飛び降りたのはコンクリートの路面ではなく、青竜・玄武・朱雀・白虎の四霊の幻獣が幅を利かす異次元の階層世界だった。その世界で夏樹は、なんと失恋の相手・日比野秋生そっくりの別れた夫と戦いを繰り広げているのだった。そして衝撃で夏樹が気を失うたびに、二つの世界は入れ替わった。どちらが夢で、どちらが現実か、不安に駆られるほどに。すべては夏樹が拾った石のせいだった。石は彼女だけでなく、秋生や長柄冬彦にも異世界を垣間見させていたのだ。
鬼才・辻真先が描く変幻の世界!》
辻真先『TVアニメ殺人事件』ソノラマ文庫・1980年
《アルバイト先のバーでキリコが知り合った、アニメーターの江並が死んだ。東京港の埋立地にそびえ立つ広告塔めがけてオートバイで突進したのだ。広告塔はコンクリート製で、現場はちょうどCMフィルムの撮影中だった。江並が女装していたという奇異な点を除けば、多数の目撃者の証言を待つまでもなく完璧な自殺である。ただキリコだけが偽装自殺を主張し、謎の解明にあたると関係者に宣言した。そうしなければならぬ理由がキリコには有る。そして薩次が、いつもの茫洋とした顔でいるのが、キリコには腹立たしい。〈私の理由というのがわからないのか、オタンチンめ!〉――本格推理の醍醐味を軽妙な筆致に包んで評判を呼ぶ、〈キリコ・薩次シリーズ〉第6弾!》
オルコット『花ざかりのローズ』角川文庫・1961年
《美しく成長したローズは2年間のヨーロッパでの留学を終え新しい希望を持って懐かしい従兄たちの待っているアメリカヘ戻った。そこには、大人になった喜びと共に、また、悲しみがあることを彼女は知る。しかし彼女は信頼する叔父、聡明な従兄たちに見守られ、日頃の理想の通り女性としての本当の花を開かせる。「八人のいとこ」の続編。》
山田智彦『重役候補』角川文庫・1982年
《「おたくの会社の副社長と常務について、妙な噂がありますよ」と、広報課の伊勢崎に最初に情報を入れてくれたのは、二流紙の社全部記者をしていた男だった。伊勢崎が勤めている会社は中流の総合商社で、財閥系の商社と比べると見劣りはするが、ここ数年の業績伸長率は、業界では常に一、二位であった。その牽引者であり、中心人物でもある二人を誹謗する文書が出まわっているというのだ。
彼は広報部長に秘かに呼ばれ、「噂の真相と出所」をさぐるように命じられた。だが……。
“妙な噂”を背景にして、課長職にある者たちの動揺と企業内の策謀を鮮やかに描いた、経済小説の最高傑作!》
セバスチャン・サルガド+イザベル・フランク『わたしの土地から大地へ』河出書房新社・2015年
《ブラジルに生まれ、世界のさまざまな表情を撮り続けた高名な報道写真家、セバスチャン・サルガド。“神の眼”を持つとも称される彼の人生を、余すところなく描く貴重な自伝。解説=今福龍太》
金村修・タカザワケンジ『挑発する写真史』平凡社・2017年
《写真や写真家の歴史とその意義、そして現代写真のこれからについて、最前線で活躍する写真家と批評家が余すところなく語り尽くす。》
深沢敬次郎『いなか巡査の事件手帳』中公文庫・1987年
《三十五年間勤めた警察官が、自転車で駆け巡った街道の町や山道、小さな警察署、どこかのどかな駐在所などを背景に起こったさまざまな事件の捜査やできごとを、しみじみと回想する。》
梅棹忠夫『美意識と神さま』中公文庫・1985年
《現代生活の日常のなかに存在する日本人の美の意識、神の観念を根気よくひろいあげて体系的理論化をこころみる、常民の精神誌――世界文化との相関で伝統的な固有文化をかんがえる、梅棹日本学。》
梅原猛『日本人の「あの世」観』中公文庫・1993年
《古代史の再検討を通して次々と大胆な問題提起を行い、「梅原日本学」を展開してきた著者が、アイヌと沖縄の文化の中に日本の精神文化の基層を探る。日本人の「あの世」観の基本的特質が、生命の永遠の再生と循環にあることを明らかにし、併せて人類の文明の在り方を根本的に問い直す日本文化論集。》
野尻抱影『日本の星―星の方言集』中公文庫・1976年
《三十余年の歳月にわたって収集した星の和名七百種を紹介し、四季の夜空をいろどる星の生い立ちを日本の農山漁村に生きてきた人々の実生活の中にさぐる。》
落合信彦『男たちのバラード』集英社文庫・1983年
《ケネディ暗殺の真の犯人は誰か? 一匹狼・村瀬はマフィアの副首領・アンジェロの協力を得て、秘密のベールを剥ごうとする。その前にたち現われる暗殺者たち……米国史上最大のミステリーである大統領暗殺事件に取材した「暗殺契約」をはじめ、ベトナム戦争、キューバ封鎖などをテーマに胸せまる男の情念を熱気あふれる文章でつづる著者初のノンフィクション小説。 解説・大沢在昌》
檀一雄『美味放浪記』中公文庫・1976年
《およそ咀嚼できるものならば何でも食ってしまうというのが人類の大きな特質であるが、わけても著者はその最たるものであろう。先入観も偏見も特たず、国内国外を問わず、著者は美味を求めて放浪し、その土地土地の人びとの知恵と努力を食べる。私たちの食生活がいかにひ弱でマンネリ化しているかを痛感させずにはおかぬ、豪毅な書。》
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