『花の渦』は齋藤芳生(? - )の第3句集。
著者は「歌林の会」会員。
林檎の花透けるひかりにすはだかのこころさらしてみちのくは泣く
避難した子もしなかった子もその間のことには触れぬようにじゃれ合う
水を肥料を遣りすぎてついに枯らしたる蘭のこと、かつての教え子のこと
雨長き沼に亀あり泥まみれの歩みの果てに卵を産みぬ
線香花火小さく爆ぜるよろこびの後の暗みに我も眠らな
大地震を耐えたる指の細きかな取り出だす箱の中なる雛(ひいな)
アブダビってどこ、と問われてそういえばこの教室には世界地図がない
二百円を我に乞いたる自称元除染作業員にこの冬遇わず
七歳になった息子と帰省して午後をひたすらに眠るいもうと
先に帰れと言われても兄を待っている弟は兄と同じ瞳をして
風化、とは みほとけの崩(く)えゆくさまを曝してふくしまの秋は短い
猪苗代湖に鬼沼という淀みありて泣く子はそこへ捨てられるはなし
ひろいあげれば意志のようにもひかるなりヘアピンにひとつついている星
「ゾウの時間、ネズミの時間」雪の日の子どもの時間、大人の時間
おりがみケースにたっぷりとおりがみのあれば子どもの手よりつぎつぎと花
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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