川柳誌「バックストローク」(石部明発行・畑美樹編集)の第35号は、去る2011年4月9日に行なわれた「第四回BSおかやま川柳大会」特集号(BSはバックストロークの略)。
大会第一部の清水かおり・畑美樹による石田柊馬インタヴュー「だし巻き柊馬」を起こしたものと、第二部の川柳大会で抜けた(選者に採られた)句一覧及び各選者の講評がそっくり収録されている。講評のほうは当日の文字起こしではなく、選者各人が新たに書いたもの。
この大会、私も樋口由紀子さんに呼ばれて選者を務めたので、以前そのときのことをウラハイに書いている。
巻頭に「アクア・ノーツ」と称する同人雑詠があって、そこに出た作品を同じ号の中で石田柊馬が鑑賞しているのだが、川柳からの震災への反応がここに出てきていた。
密室のすぐれた月をくれませんか 横澤あや子
満ち潮から空の沖から御用聞き
瓦礫という花かんざしができあがる
きまじめな濠の長さにする孤立
等を含む今号発表分7句を引き、それに続く石田柊馬の鑑賞。
(「現代詩手帖」の震災特集に触れ)《八戸の横澤あや子は川柳を書いた。無慈悲に命を奪い、人間が生きるには不可欠の「密室」を破壊したちからを、天然自然の荒々しさが恨めしい。》
ただし岡山に本拠を置く雑誌であるせいもあろうが、同人欄全体としては震災の影響が直接見える作は多くない。
以下は震災詠に限らない印象的だった作。
鯖缶を三つ並べる都市計画 樋口由紀子
文明が滅んだ後のモーニング 丸山 明
不夜城で雨を数える人に会う 清水かおり
焼鳥のメルトダウンは脂だが 津田 暹
今宵あたり13ベクレルの月夜かな 渡辺隆夫
曼荼羅のひとつを紫陽花に変える 田中博造
揚羽だというが茹で卵のにおい 石田柊馬
生き延びよ仏の首をすげ替えても 松本 仁
蒼ざめた楽器をおのおの持参せよ 吉澤久良
この第35号には小池正博の「新・現代川柳の切り口⑦ 川柳とイロニー」も掲載されていて、その結びはこうなっている。
《キルケゴールは『イロニーの概念』の中で、真のイロニーは一般的に理解されることを望まないものである、という意味のことを言っている。一読明快はイロニーの精神から遠いのである。》
惨事に対する川柳の機知的な切り込みは、俳句・短歌に比べていかにも軽い。その軽さに深さ・鋭さを潜ませるためのヒントがイロニーの「非・一読明快さ」なのだろう。それは知性の沈黙の領域の大きさを窺わせる。
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