ふらんす堂
2009年
去年の新撰21竟宴の際たまたま著者にお会いし頂いた句集。
捕らへたる栗鼠の鮮血春の鷹
芒種かな石包丁に穴ふたつ
枯菊を括ればじわと押し返す
粉雪に耳聡くなる雪兎
篠山 五句
ひとところ深き箒目霜柱
築城のままの乳鋲や日脚伸ぶ
上段の間の赤房の襖かな
猟犬に獲物のごとく見られけり
中洲まで日暮れ来てゐる春焚火
筍飯すこし風出て来たりけり
精米となりゆく匂ひ半夏生
草刈りて寝かせし畦や推古陵
青き薔薇活けし瓶あり銀河系
2005年の角川俳句賞候補作に含まれていた句で、格別の佳句とは思わなかったものの、個人的に長いこと疑問になっていた句である。
周知のことだが青い薔薇といえば何百年もの間、数多くの薔薇愛好家たちが夢見て作り出せずにきた「不可能な夢」「この世に存在しないもの」の代名詞。そうした存在と非在のあわい、現実と可能のあわいのような花が無造作にその辺に活けてあるからこそ宇宙論へ飛ぶ必然性があるのではないかと、当時雑誌で見た私は取ったが、選考座談会の中ではただの花として流されていたのだ。
サントリーが、パンジーの青色遺伝子を導入することで青い薔薇の開発に成功したと発表したのがその前年の2004年(薄い紫に近い色で、テレビや何かで見た限り真っ青とは見えないものだったが)。
時期的に極めて紛らわしく、そちらを詠んだと取れば句中の「青き薔薇」はただの現物ともなりかねない。実際句集に収められた他の作品では視覚、嗅覚、触覚と表現技巧とのバランスが取れ、外界を薄くしなやかにプリントしたような手触りのものに佳句が多いのだ。
この「青き薔薇」はどちらなのかと思ったが、著者があとがきで前述のサントリーの青い薔薇に触れていて、以下の記述があった。《但し、純粋な意味での「青い薔薇」はこの地球には存在しない。/だが、地球を含む太陽系も属する銀河系の一惑星には、純粋な「青き薔薇」が存在するのかも知れない》。作者の意としてはやはり前者だったようだ。
父の日やライカに触れし冷たさも
夏果の卓に海洋深層水
椎茸の榾を重ねて昼の虫
俳句で「虫」は秋に鳴く虫を指す。
薄暗く湿りを帯びた昼である。
どんぐりのたまる窪みや冬旱
サボテンの針に影あり寒旱
冷たからむ月浴びてゐるかたつむり
袋よりパイナップルの葉のあふれ
句集とは直接関係ないが、広渡氏がマッターホルン登山体験を回想した句文が先々週のhaiku&meに上がっている。
2009年
去年の新撰21竟宴の際たまたま著者にお会いし頂いた句集。
捕らへたる栗鼠の鮮血春の鷹
芒種かな石包丁に穴ふたつ
枯菊を括ればじわと押し返す
粉雪に耳聡くなる雪兎
篠山 五句
ひとところ深き箒目霜柱
築城のままの乳鋲や日脚伸ぶ
上段の間の赤房の襖かな
猟犬に獲物のごとく見られけり
中洲まで日暮れ来てゐる春焚火
筍飯すこし風出て来たりけり
精米となりゆく匂ひ半夏生
草刈りて寝かせし畦や推古陵
青き薔薇活けし瓶あり銀河系
2005年の角川俳句賞候補作に含まれていた句で、格別の佳句とは思わなかったものの、個人的に長いこと疑問になっていた句である。
周知のことだが青い薔薇といえば何百年もの間、数多くの薔薇愛好家たちが夢見て作り出せずにきた「不可能な夢」「この世に存在しないもの」の代名詞。そうした存在と非在のあわい、現実と可能のあわいのような花が無造作にその辺に活けてあるからこそ宇宙論へ飛ぶ必然性があるのではないかと、当時雑誌で見た私は取ったが、選考座談会の中ではただの花として流されていたのだ。
サントリーが、パンジーの青色遺伝子を導入することで青い薔薇の開発に成功したと発表したのがその前年の2004年(薄い紫に近い色で、テレビや何かで見た限り真っ青とは見えないものだったが)。
時期的に極めて紛らわしく、そちらを詠んだと取れば句中の「青き薔薇」はただの現物ともなりかねない。実際句集に収められた他の作品では視覚、嗅覚、触覚と表現技巧とのバランスが取れ、外界を薄くしなやかにプリントしたような手触りのものに佳句が多いのだ。
この「青き薔薇」はどちらなのかと思ったが、著者があとがきで前述のサントリーの青い薔薇に触れていて、以下の記述があった。《但し、純粋な意味での「青い薔薇」はこの地球には存在しない。/だが、地球を含む太陽系も属する銀河系の一惑星には、純粋な「青き薔薇」が存在するのかも知れない》。作者の意としてはやはり前者だったようだ。
父の日やライカに触れし冷たさも
夏果の卓に海洋深層水
椎茸の榾を重ねて昼の虫
俳句で「虫」は秋に鳴く虫を指す。
薄暗く湿りを帯びた昼である。
どんぐりのたまる窪みや冬旱
サボテンの針に影あり寒旱
冷たからむ月浴びてゐるかたつむり
袋よりパイナップルの葉のあふれ
句集とは直接関係ないが、広渡氏がマッターホルン登山体験を回想した句文が先々週のhaiku&meに上がっている。
関 悦史様
お元気のことと存じます。
いつも「ブログ」拝見しております。
今般は、拙句集「ライカ」につき、殊に「青き薔薇」につき
小生の真意に合った鑑賞をしていただき大変光栄に且つ作家冥利に
つく思いがしております。
関様の信じられない位の膨大な知識から導かれる精緻な論評に加え
読みの深さには、いつも驚嘆しております。
有難うございました。
広渡敬雄
投稿情報: 広渡敬雄 | 2010年3 月21日 (日) 14:17
広渡敬雄様
コメントありがとうございます。
句集を頂いてから3ヶ月近く経ってしまいましたが(また人から頂いていて紹介できていない句集がいつの間にかかなり溜まってしまっているのではありますが)、おかげで雑誌で御作を拝見したときの疑問が思わぬ形で解けました。
投稿情報: 関悦史 | 2010年3 月23日 (火) 19:44