沖積舎
2001年
『荒髪』は塩野谷仁の第5句集。
今週豈weeklyに上げた第3句集『独唱楽譜』と同様、金子兜太の序文が付く。
兜太が挙げたのは以下の10句。《筋肉質で脂っこい影像形成を独特なものと再認識している》。そして《敢えて伝統を口にしない》にもかかわらず《季語が色濃くはたらいていることに興味を覚えている》とも。
著者はこの間、幾多の転勤を経て退職。同人誌「遊牧」を創刊している。
豪雨特急うねるとき白鷺を見た
赤松残雪快眠はごうとくる
正座ときに放浪であり曼珠沙華
冬ざくら剛球は落日が受ける
粥は吹くもの裸木は水の向こうに
梅咲いて猫背がちなるわれは飛脚
げんげ咲き胸底という長い廊下
六月とは遠くの牛の傾きなり
冬の雨救急車とは何たる純
青鬼灯文明という自転車過ぐ
以下はその他の句。
峠の春星愛(かな)しきものに卵黄あり
鐘打たんとのみ夏蝶の中を歩く
峠いまも遠耳なりし木ぶし咲いて
点字のように友消えてからたちの花
ぬかご飯水辺の母は跼んでいた
ガラスの向こうは落葉の真昼まるで風土記
梅林にて龍のやわらかきを飼えり
暗く大きな穴だ石鯛の日本海
あきあかね誰も棒立ちで眠れる
根深汁筋肉質の父が闇に
朴咲く頃は馬の尻にも震えあり
冬の象に会いたし母の咳聴きたし
はじめ雨がきて絵の馬の起つ緑夜
豊葦原ひとりで満員の花野
雨季来たる硝子屋に夥しき闇
駅の晩夏少女らぶんぶんと連なり
風景のおおかたは熟柿(かき)逝きし友よ
濁り酒野の果て人々は灯して
落書きのごとし冬の象ただ眠れ
残り鴨とてもやわらかな擦り傷
丸暗記のごとくコスモス咲きました
才気いつか狂気に通ず藪からし
道のないところが春の正面かな
オリーブの睡たい花放哉も寝たか
髪荒れてくる夏蝶が二つになる
東北眠し川蟹の朱を啜りいれば
酔後なりさてもこの熱き白菊
母、父、友、それから牛や馬、象などの大きな動物に厚みとやわらかみ(《残り鴨とてもやわらかな擦り傷》など顕著だが)のある佳句が多い。ただし詠み口はクールで、情や共感がべたつかないボリュームに還元されているのがこの作者の特色か。
『独唱楽譜』
2001年
『荒髪』は塩野谷仁の第5句集。
今週豈weeklyに上げた第3句集『独唱楽譜』と同様、金子兜太の序文が付く。
兜太が挙げたのは以下の10句。《筋肉質で脂っこい影像形成を独特なものと再認識している》。そして《敢えて伝統を口にしない》にもかかわらず《季語が色濃くはたらいていることに興味を覚えている》とも。
著者はこの間、幾多の転勤を経て退職。同人誌「遊牧」を創刊している。
豪雨特急うねるとき白鷺を見た
赤松残雪快眠はごうとくる
正座ときに放浪であり曼珠沙華
冬ざくら剛球は落日が受ける
粥は吹くもの裸木は水の向こうに
梅咲いて猫背がちなるわれは飛脚
げんげ咲き胸底という長い廊下
六月とは遠くの牛の傾きなり
冬の雨救急車とは何たる純
青鬼灯文明という自転車過ぐ
以下はその他の句。
峠の春星愛(かな)しきものに卵黄あり
鐘打たんとのみ夏蝶の中を歩く
峠いまも遠耳なりし木ぶし咲いて
点字のように友消えてからたちの花
ぬかご飯水辺の母は跼んでいた
ガラスの向こうは落葉の真昼まるで風土記
梅林にて龍のやわらかきを飼えり
暗く大きな穴だ石鯛の日本海
あきあかね誰も棒立ちで眠れる
根深汁筋肉質の父が闇に
朴咲く頃は馬の尻にも震えあり
冬の象に会いたし母の咳聴きたし
はじめ雨がきて絵の馬の起つ緑夜
豊葦原ひとりで満員の花野
雨季来たる硝子屋に夥しき闇
駅の晩夏少女らぶんぶんと連なり
風景のおおかたは熟柿(かき)逝きし友よ
濁り酒野の果て人々は灯して
落書きのごとし冬の象ただ眠れ
残り鴨とてもやわらかな擦り傷
丸暗記のごとくコスモス咲きました
才気いつか狂気に通ず藪からし
道のないところが春の正面かな
オリーブの睡たい花放哉も寝たか
髪荒れてくる夏蝶が二つになる
東北眠し川蟹の朱を啜りいれば
酔後なりさてもこの熱き白菊
母、父、友、それから牛や馬、象などの大きな動物に厚みとやわらかみ(《残り鴨とてもやわらかな擦り傷》など顕著だが)のある佳句が多い。ただし詠み口はクールで、情や共感がべたつかないボリュームに還元されているのがこの作者の特色か。
『独唱楽譜』
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