ふらんす堂
2000年
著者は『友岡子郷俳句集成』(沖積舎)で今年の詩歌文学館賞を受賞。
『葉風夕風』はあとがきで著者が「自作に余分な負担をかけず、できうるかぎりナチュラルに外界に応対すべく心がけてきた」というとおりゆるやかさの感覚があり、水辺や音の句に都会的な感性が際立ちつつも
思いの厚みがあり、その両者が手柄を目立たせることなく交差して沈潜しているといった印象。
拾った中にはあまりないが、歴史や古人を扱った句も多い。
初茜大魚に鰓(えら)の隙間あり
一月や海鳥に鋭(と)き目と嘴(はし)と
水仙を咥(くは)へ水仙切りゐたり
橋一つこえて氷湖となりゐたり
みずうみのあかるさ冬着納(しま)ひけり
罌粟赤し三鬼に地震(なゐ)の句のありや
そのかみの油長者の木下闇
油甕積み出しし津も夏蓬
梅雨くらき灯あるは漆細工かな
佃島由来記の端(は)にかたつむり
雲は雲押しつつながれ鯖の旬
布団たたみをへて清流ひびきけり
道ふさぎゐる凍蝶のむくろかな
乗り換へのひととき夜鴨騒ぐなり
冬の雨版木の彫りも細(さい)に入る
笹鳴やこの一間のみ青畳
みづうみの舟の津水漬くさくらかな
柱より梁(はり)のさみしき夏の家
ふと愉し坂の継ぎ目に銀杏の実
年用意辻の湧き湯を汲みついで
石たたき外様(とざま)は遠(をち)に置くものぞ
一・一七忌蝋涙は地に凝(こご)り
地震(なゐ)荒れのままのいつまで寒の百合
雪平らなるねむたさに鶲来る
大雨のあと木々細り金魚玉
蝸牛その下の瀬の白激(たぎ)ち
いつかかなかな立ち読みの少年に
足湯してゐる母にふと鉦叩
棟上げのあと磯鴫のあそびをり
迷へるをひろひて、十一年余ともに過ごしき
掬ひたる落葉ほどなる小犬の死
樅は風を呼ぶ木なれども風垣に
友岡子郷…1934年(昭和9年)神戸市生まれ。「ホトトギス」「青」等を経て飯田龍太主宰の「雲母」に所属。「椰子」代表、「柚」「白露」同人。第25回現代俳句協会賞受賞。
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