頸椎の不調がひどくてとにかくしんどい。
石原藤夫『生きている海』ハヤカワ文庫・1977年
《無線電波で作動するスクリーンが急に暗くなると、パイロットのカミはごくりとなまつばをのみこんだ。そして、隣に気むずかしい顔で坐りこんでいるカプタイン教授をぬすみ見るようにしていった。
「予定どおり、一定スピードで下降つづけることにします」
教授は鼻をならして、もうしわけていどにうなずいた。》(「生きている海」冒頭)
収録作品=生きている海/時間と空間の涯/地球の子ら/書物の未来/読書の習慣/なべてどの世も不安定/先駆者の述懐/助かった三人/宇宙の歴史/未来の大発明/トイレット惑星/人類の進化/タンポポ・ハウス/時間の輪/情報エリート/セックス電話時代/テレビ教育時代
川又千秋『火星甲殻団』ハヤカワ文庫・1990年
《二四世紀後半の火星。地球文明の疲弊によって頓挫した惑星改造計画により、火星に取り残された植民団の末裔たちは機械との共生社会を築き上げていた。人間と人工知性/自動機械――両者は支え合うことで火星に適応していった。そして知性ある機械生物ともいえるそれは〈ヴィートル〉と呼ばれ、人間と互いに助け合い、深く結びついて生きていた……。〈ヴィートル〉ローテ・ブリッツは不注意のために、共生関係にあった人間の相棒を盗賊団に殺されてしまう。ブリッツは復讐を誓い、新たな相棒ノルド・ヴェストとともに盗賊団に攻撃を開始する!》
谷甲州『惑星CB-8越冬隊』ハヤカワ文庫・1983年
《汎銀河人パルバティは、惑星CB-8の氷と雪に閉ざされた大陸の踏査を行っていた。汎銀河当局は、パルバティら越冬隊を送りこみ、不毛な永久凍土を人工太陽によって沃野に変える大計画を推進しようとしていたのだ。だが、極端な楕円軌道を持つCB-8が近日点を通過するやいなや、大規模な地殻変動が極点基地を襲い、制御不能となった人工太陽は暴走を始めてしまった。このままでは、CB-8もろともパラバティらの生命も危うい。彼らは生存を賭けて、凍てつく氷原を行く困難な旅に出たが!? 新進気鋭の著者が意欲的にえがく本格冒険SF。》
今日泊亜蘭『光の塔』ハヤカワ文庫・1975年
《宇宙軍医官の水原は火星から帰航中に謎の閃光と遭遇する。一方地球ではあらゆる電気が一斉に機能を停止する“絶電現象”が起きていた。ふたつの現象に関連を見出した水原と宇宙省の人々は調査をはじめるが、事態は「光」を操る謎の侵略者による人類への壮絶な攻撃に発展するのだった。緻密な構成と魅力的な登場人物で圧倒的な面白さを誇る、日本SFの記念碑的傑作。》
田辺聖子『魚は水に 女は家に』角川文庫・1986年
《舅・姑・小姑のいる大家族に嫁ぎ、「どっちでもいいの、私」方式で我を押しころし、さしたる波風もたてず、二十年。やっと、親子夫婦だけの生活がはじまった時、舟子は、せせこましい仕事にからめとられ、世の中の回転から全くそれている夫を啓蒙したい、と思った。共に楽しい人生を送るために。
魚は水に、女は家にいるもの、と思っている世の男たちに、そして、すべての女たちに贈る、自立への出発の物語。〈解説 落合恵子〉》
小松左京『一生に一度の月』集英社文庫・1979年
《奇想天外、気宇広大、夢と現実、恐怖とショック、あっと驚くどんでん返し! 自由奔放な発想ますます冴えわたる著者が贈る、絶妙な味のショート・ショート傑作集。時代順に五部に分け、各部ごとに著者のドタバタ対談「自作及びその周辺」を附した。単行本・文庫全部未収録の大喝采完全オリジナル版。 解説・横田順彌》
収録作品=向かい同士/新施設/正月料理/南の国/上る/顔/霧の向こうの団地/ゴールデンウィーク/下品な連中/歌う空間/ミリイ/雪どけ/一生に一度の月/いたずら/幽霊/乗取り/イナバのシロウサギ10/秋の味覚/早すぎる賀状/足音/迷路/廃墟の星にて/手相/休養/海よさらば/やせたい王様/「ばあや」を探せ/人生旅行エージェント/昔の火/プレイ・バック/黄金色のスポーツカー/眠りたい!/創造の喜び/むすんでひらいて/仕事預けます/養老年金/再建
小松左京『まぼろしの二十一世紀』集英社文庫・1979年
《地獄の発見からスター・ドライブまで。幻想、戦慄、超現実、恐怖のどん底、笑いの発作。奇想天外アイディア、風刺…。食欲不振、偏頭痛、悪夢の不眠にお誘いする短い短い傑作集。まえがき・なかがき・あとがきと、著者のハチャメッチャ対談附。単行本・文庫未収録のまたまた感涙オリジナル版。》
収録作品=さらば、貧乏神よ/お月見の前に/卵と私たち/オートナイ/人生保険/社内結婚/クロスカウンター/生きがい銀行/中毒/誤配/消えた預金/落しもの/むかしばなし/スケールの問題/淫蕩の星/Dシリーズ/遺跡/正月日記二〇一X年/通天閣発掘/長い旅/ひきつぎ/あちらとこちら/トップレディーむかしむかし/パパ/満腹の星/まぼろしの二十一世紀/高層都市の崩壊/ドーナッツ/すぐそこ/都市を出る
今江祥智・山下明生編『現代童話Ⅲ』福武文庫・1991年
《児童書出版興隆期のなかで生まれていった名作の数々……。灰谷健次郎「マコチン」、谷川俊太郎の詩「そのおとこ」、三木卓「ぽたぽた」などのほか、加藤周一の異色ファンタジー、大江健三郎、阿部昭ら“大人の文学”からの発言も収録するシリーズ第3弾。なお田島征三の絵本「しばてん」は本文庫のため絵のみ書き下ろし。》
収録作品=そのおとこ(谷川俊太郎)/しばてん(田島征三)/くましんし(あまんきみこ)/かいぞくオネション(山下明生)/ももいろのひよこ(岡野薫子)/まほうをかけられた舌(安房直子)/がわっぱ(たかしよいち)/こだぬき6ぴき(中川李枝子)/マコチン(灰谷健次郎)/あーん。あーん(星新一)/夜の汽車(岩本敏男)/ぽたぽた(抄)(三木卓)/花の降る夜の中で(加藤周一)/同期の桜(倉本聡著. 小羊ごっこ・子どもの文体 その他(阿部昭)/少年(向田邦子)/幼年の想像力(大江健三郎)/幼い子どもへの文学(神宮輝夫)
山下定『少女のようにキララかに』ソノラマ文庫・1988年
《「ぎゃあああああっ!!」―――――っと螺羅杷学園高校の2学期は奈々浦なな子の絹を裂くような悲鳴で始まった。学園一の美男子、剣道部のホープ殿村倫明が突然セーラー服で登校してきたのだ。死んだ姉・倫子の代わりに女として生きることに決めたという倫明をめぐって、女装した倫明に想いを寄せるお嬢さま小早川夏美、相撲部のエース佃敏宣の二人が加わり、さらに学園新聞部のお騒がせ少女野乃揚羽がかきまわすからたまらない。
倫明は男? 女? それとも変態!? なな子が頼みとする生物の石狩教諭による染色体セックス・チェックも、結果はなんと♀!おまけに倫明をつけ狙う謎の集団まで現れて……んとにもー倫明はいったいどうなっちやうのっ!?
気鋭の新人が贈る、青春学園♂♀スクランブル!!》
サミュエル・ベケット『サミュエル・ベケット短編小説集』白水社・2015年
《ベケットによる珠玉の散文作品「短編と反古草紙」「死んだ頭」「なく」「人べらし役」を収録。》
収録作品=短編と反古草紙(追い出された男/鎮静剤/終わり/反古草紙)/死んだ頭(断章[未刊の作品より]/たくさん/死せる想像力よ想像せよ/びーん)/なく/人べらし役
飛浩隆『零號琴』早川書房・2018年
《特種楽器技芸士のトロムボノクと相棒シェリュバンは惑星〈美縟〉に赴く。そこでは首都全体に配置された古の巨大楽器〈美玉鐘〉の五百年越しの竣工を記念し、全住民参加の假面劇が演じられようとしていた。上演の夜、秘曲〈零號琴〉が暴露する美縟の真実とは?》
小松左京『一宇宙人のみた太平洋戦争』集英社文庫・1981年
《短軀・短小・短足・短所・短命・短気・短見・短才、かくかくしかじかこの通り短のつくのにろくなのない。だが例外はショート・ショート。才気煥発才能無尽博覧強記のSF鬼才が、着想豊か軽妙にひねりをきかせて書上げた短い短い16篇。他に、宇宙人による日本歴史上の大事件観戦記など、単行本・文庫未収録作品中心の傑作集。 解説・土屋 裕》
収録作品=衝突/予夢/何でも見てやろう/《無題》/遺跡/よびかける石/役に立つハエ/もったいない/星からのお礼/高みに挑む/海底のおばけ/アリ/まいご/星の王子様/一日一屁/もみじ/正午にいっせいに/船と機雷/ムス・ムス星雲系生物の地球通信(江戸開城宇宙人観戦記/一宇宙人のみた太平洋戦争)
新井素子『今はもういないあたしへ…』大陸書房・1988年
《デビュー作「あたしの中の…」から10年! 新井素子ひさびさの本格SFロマン。併録、昭和57年度星雲賞受賞作「ネプチューン」。》
小谷野敦『日本人のための世界史入門』新潮新書・2013年
《いつから日本人は世界史が“苦手”になったのだろう。“コツ”さえつかめば、世界史ほど面白いものはないのに――。「物語のない歴史は退屈である」「日本人にキリスト教がわからないのは当然」「中世とルネッサンスは何が違うのか」「フランス革命の楽しみ方」……。歴史の“流れ”を大づかみするための補助線を引きながら、古代ギリシアから現代までを一気呵成に論じる。一冊で苦手意識を克服できる、便利な世界史入門。》
五味太郎『きんぎょが にげた』福音館書店・1982年
《きんぎょが1ぴき、金魚鉢からにげだした。どこににげた? カーテンの赤い水玉模様の中にかくれてる。おや、またにげた。こんどは鉢植えで赤い花のふり。おやおや、またにげた。キャンディのびん、盛りつけたイチゴの実の間、おもちゃのロケットの隣……。ページをめくるたびに、にげたきんぎょがどこかにかくれています。子どもたちが大好きな絵探しの絵本。小さな子も指をさしながらきんぎょを探して楽しめます。》
花咲一男『江戸魚釣り百姿』三樹書房・2003年
《磯釣りと陸釣りの両方が楽しめた江戸地方では、趣味としての「魚釣り」が盛んであった。魚釣りに興ずる人々の姿を、当時の絵入り本から集め、これらを川柳・雑俳といわれる短詩型文学で色揚げし、昔も変わらぬ釣りを愛する人々の心情を綴る。本書の図版は、正確を期すためにすべて原本から採録、江戸時代における、さまざまな魚釣りを紹介する。》(「BOOK」データベースより)
都筑道夫『暗殺教程』集英社文庫・1979年
《国際秘密警察チューリップの日本支局員J3こと吹雪俊介が国際謀略組織タイガーを相手に、中国人の集団失踪事件を追って東京、香港、マカオを舞台に追跡と冒険の大ロマンをくりひろげる。奇抜なアイディアを満載、攻撃と反撃のトリックプレイが続出。活字の魔術師、都筑道夫が軽妙に非情な男の世界を描いた痛快アドヴェンチャーノベル。 解説・著者》
岡山典弘『三島由紀夫外伝』彩流社・2014年
《あまりにもスキャンダラスな半世を、丹念に狩猟! 没後四十余年、未だに多くの謎を秘めた“三島由紀夫”という存在―。にわかには信じられないような驚きの半生をあらゆる角度から拾い集め、その裏に見え隠れする三島像を概観する!》(「BOOK」データベースより)
鈴村和成『テロの文学史―三島由紀夫にはじまる』太田出版・2016年
《<日本を変えるにはテロしかない>として三島は自決した。
それは今のテロに被われる21世紀を正しく予見していた。
村上春樹、村上龍、町田康、阿部和重……。
文学者たちはなぜ執拗にもテロを描いてきたのか。
「自分の姿が澄んで消えてしまつたことに、そのとき独楽が気づいてゐないことも確実なら、その瞬間、何かが自分と入れかはつたことに気がつかないのも確実である」(本文より)。市ヶ谷台で自決したとき、三島由紀夫が誰かと入れ代わったことに、彼自身も、まわりの人も、後世も、だれ一人として気づいていない。村上春樹、村上龍、桐野夏生、車谷長吉、町田康、阿部和重、中村文則、上田岳弘……。本書は三島の〈輪廻転生〉の行方をこれらの作家たちに探る試みである。》
サミュエル・ベケット『マーフィ』ハヤカワ文庫・1972年
《まず第一に考えられるのは、いわゆるブラック・ユーモア、ユムール・ノワールの小説としての新しさである。(……)『マーフィ』はまた、〈追跡小説〉として見ても、興味深いパターンを提出するだろう。(……)次に、『マーフィ』を一種の形而上学的小説と見ることもできる。》(「訳者あとがき」より)
都筑道夫『怪奇小説という題名の怪奇小説』集英社文庫・1980年
《身の毛のよだつようなコワーイおはなしをたのまれたがうまくいかない。ふと盗作を思いつき、アメリカのミステリを時代小説じたてに書いていくが、街なかを散歩中、認めいた女との出合いによって私自身しだいに幻想的世界に誘いこまれてゆく…。ポルノグラフィのようで推理小説のようでSFのようでもある、エッセーとも創作ともつかぬ奇妙な味の怪奇譚。一読三嘆 摩訶不思議 魔境魔界 乞御光来!!! 解説・色川武大》
三島由紀夫『美徳のよろめき』新潮文庫・1960年
《生れもしつけもいい優雅なヒロイン倉越夫人節子の無垢な魂にとって、姦通とは異邦の珍しい宝石のようにしか感得されていなかったが……。作者は、精緻な技巧をこらした人工の美の世界に、聖女にも似た不貞の人妻を配し、姦通という背徳の銅貨を、魂のエレガンスという美徳の金貨へと、みごとに錬金してみせる。“よろめき”という流行語を生み、大きな話題をよんだ作品。》
久我有加『君が笑えば世界も笑う』ディアプラス文庫・2014年
《高三の春、寿志はひとつ年下の幼なじみ・起から毎日のように漫才をやろうと誘われ困り果てていた。寿志も漫才は大好きだ。だが受け入れられない理由があった。起に片想いしていたのだ。起の望みはプロになることで、つまりコンビを組めば片想いの相手とずっと一緒にいなければならない。それはつらい。起の執念深さに負け、一度だけ漫才コンテストに出場することをOKした寿志だが……? 芸人シリーズ最新作!!》
花咲一男『江戸岡場所遊女百姿』三樹書房・1992年
《当時の原本から170余枚の挿画を用い、吉原を除く遊女の種々相を展開。29カ所におよぶ遊所、各種売春婦の名称別にわたっての決定版。》
花咲一男『江戸厠百姿』三樹書房・2000年
《江戸時代のトイレを考証。生活に密着した便所ならではの言語・風俗。共同便所、こえとり、便所に関係のある俗信など、江戸庶民の日常の姿を多数の通俗文芸と貴重な図版で紹介。》(「BOOK」データベースより)
原作:松本零士/若桜木虔『1000年女王―新竹取物語PARTⅡ』文化出版局・1981年
《一〇〇〇年盗賊との戦いで傷ついた雪野弥生は、やはり一〇〇〇年女王だった。今、地球を脅かしている惑星ラーメタルからやってきた女王だったのだ。弥生の入院を機に、部下の夜森大介は故郷ラーメタルヘの忠誠心のあまり独断的な行動をとりはじめる。さらに、弥生の心を疑うゴッド・マザーはゲラン大佐を派遣し、弥生の悲しみを大きくするのだった。
ドラマはテンポを急速に速め、舞台は宇宙空間へと広がっていく。》
松岡裕太『ヒミツの愛が止まらない!』角川ルビー文庫・2003年
《国民的アイドルの高校生・葉山祥は、パーティー会場で襲われそうになったところを、ルックス完璧、スポーツ万能な先輩・千嘉に助けられる。「本気で恋愛したことないんだろ?」なんて口説かれて、千嘉のすごいテクをカラダで存分に味わってしまった祥。未知の快楽にのめりこむ一方で、千嘉のことを本気で好きになってしまうけど、千嘉は突然冷たくなってしまって…!?
美貌の王様・千嘉と、ハズカシイ命令にだって耐えちゃう一途な祥の、灼熱濃厚ラブストーリー!》
南原兼『甘くてごめんね❤』もえぎ文庫ピュアリー・2010年
《全寮制男子校・緑林学園で人気を二分する和菓子屋三男の日向と洋菓子店長男の柊には、“二人で和洋折衷の菓子店を開く”という夢がある。けれど日向は、その夢を阻みかねない大きな悩みを抱えていた…。一方、幼い頃から「日向のお嫁さんになる!」と言ってきかない柊は、成熟した男フェロモンをまき散らしながら、裸エプロンで日向を翻弄❤ 攻ワンコの猛攻に、日向はもう陥落寸前!?》
淡路水『うちの嫁がすごい~だって龍神~』シャレード文庫・2016年
《実家・海渡家の五十年に一度の神事のため帰省したカメラマンの脩平。旧態依然としたしきたりに反発し自ら生贄役を買って出たものの、社で出会ったのはぬいぐるみサイズの竜神様!? 人型をとっても愛くるしい竜神・蒼波は遙か昔よりこの地を守り恩恵を与えてきた、人間が大好きな神様。信仰心が薄れ力が弱まってもなお、あたたかく土地と人々を見守り続ける蒼波に心揺さぶられた脩平は、毎日のように社通いを続けるのだが…。》
南條範夫『雪姫伝説』河出文庫・1985年
《信長麾下の名将滝川一益の晩年の不思議に思いを寄せる「影薄れゆく一益殿」、上京義孝の美しい妻の神隠しの顚末を描く「宇良よ、宇良!」、大政を奉還し、慶喜が脱出して江戸に向った夜、大阪城を預る妻本頼矩の見たものは? 「目付妻本頼矩はパラノイア」など、歴史の襞に見え隠れする奇妙不可解な出来ごとのかずかず――南條範夫が怪奇と幻想の世界に遊ぶ異色作品十篇を収録。》
収録作品=陰と陰と陰と陰と――/影薄れゆく一益殿/十六代様の幻想/宇良よ、宇良!/消えた時間から来た手紙/目付妻木頼矩はパラノイア/双生児の夢入り/入れ替わった妻/二人の侍/雪姫伝説
陳舜臣『青玉獅子香炉』文春文庫・1977年(直木賞)
《女性の膚に温められ、その精を奪った名玉――その青玉に存在の全てを賭けて若き李同源は模造の香炉を作った。佳人の面影を託した玉器は、本物と鑑定されて故宮博物館に納められた。爾来30年中国の動乱と共に青玉獅子香炉は転々と所在をかえ、意外な場所で意外な姿で李同源と邂逅した――直木賞受賞作品ほか。解説・足立巻一》
収録作品=年輪のない木/太湖帰田石/小指を追う/カーブルへの道/青玉獅子香炉
三枝和子『恋愛小説の陥穽』青土社・1991年
《漱石、荷風、谷崎、太宰、川端、秋声、三島、武田泰淳、石川淳など、日本の近代文学を代表する男性作家たちの「恋愛小説」を解剖し、〈恋愛〉を主題にしながら〈女性〉を観てこなかったその女性観の本質を明らかにして、いま、女性にとって〈恋愛〉とは何かを鮮烈に描く、意欲的な評論集。》
三枝和子『珈琲館木曜社』集英社・1973年
《事物の不確実性がその発想の規定にあるとき、長篇小説というものはどういう形をとるのか、私としてはそれがもっとも困難かつ根本的な問題でした。》(「あとがき」より)
三枝和子『死面の割れ目』新潮社・1970年
《執拗な死の誘惑を辛うじて拒みながら、尖鋭化された一個の意識として放浪することの虚無を通し、存在の底部に漂う空白の恐怖を探った観念の文学――明晰な文体を駆使して、注目を集める田村俊子賞作家の最新創作集!》
収録作品=終着駅の周囲/儀式/冬の壁の雨/曼珠沙華色の部屋/夜、そして埋葬/扉の外には霧が……/海豹が死ぬとき/反復の朝
芹沢光治良『春の谷間』角川文庫・1954年
《敗戦という衝撃のなかで解放感を与えられた姉妹を主人公に選び新しい女性の生き方を示唆する青春小説。家を離れてもけっきょく夫や子供への愛にひかされる姉と、自分の行動の中ですべてを割り切って生きてゆく典型的な戦後派の妹との生活の交錯を描き、作者は女性の幸福のための暖かい愛情を注いでいる。》
芹沢光治良『命ある日』角川文庫・1955年
《青春の書ではあるが、ここに描かれている青春は、死をみつめつつ愛の苦悩に耐える、もっともきびしい青春の道であり、すがたである。作者自身の闘病生活の体験が、その美しい表現の奥底ににじみ出ていて、そこに秘められた苦悩のゆえに、読む者に限り無い人生への希望の光を投げかけずにはいないであろう。》
芹沢光治良『坂の上の家』角川文庫・1962年
《主人公である野口勇三は、55歳の今日まで、誠実な銀行員、忠実な夫、物わかりのいい父親として過ごして来た。そのかれに訪れた停年というできごとをめぐり、働こうとする妻、父を軽んじはじめた子供たち、そしてかれの絵の才能を知って励ます画家などが登場する。「銀行員の死」は、たやすいことではなかったのである。》
フランク・ハーバート『鞭打たれる星』創元推理文庫・1979年
《正体不明の謎の存在カレバンとのコンタクトは手間のかかるいらだたしいものだった。困難をきわめる相互の語義確認作業。カレバンとは何ものか? 人間の一女性との契約によって鞭打たれエネルギーを失っていくカレバン。カレバンのエネルギーの消滅は人類をはじめ全知的生物に「快楽ノ推定的反対、究極ノ不連続ヲモタラス」というのだ。快楽の推定的反対? 究極の不連続……? 死だ! 弱っているカレバンはどこまで鞭打ちに耐えられるか? ヒューゴー、ネビュラ両賞受賞作家によるファン期待の本格SF》
横溝正史『夜光怪人』角川文庫・1978年
《春まだ寒い二月ごろ、無気味な怪盗夜光怪人の噂が東京中に広まった。つば広の帽子にダブダブのマントを着込み、全く表情のない顔をしたその怪人物は、全身からホタル火のような妖しい光を放っていた。
銀座の展示会で七色の真珠の首飾り『人魚の涙』を強奪した夜光怪人は、次に、今度は鎌倉に住む元伯爵、古宮春彦氏秘蔵のダイヤの首飾りを狙っていた。吉宮氏の依頼で、本職顔負けの名探偵、新日報社の三津木俊助記者が警備にあたった。しかし彼は、夜光怪人に裏をかかれ失敗してしまった。
そして遂に、金田一耕助が事件の解決に乗り出したのである……。
表題作ほか二篇を収録。》
収録作品=夜光怪人/謎の五十銭銀貨/花びらの秘密
横溝正史『花園の悪魔』角川文庫・1976年
《東京近郊のS温泉は四季折々の花造りの本場である。なかでもいちばん大規模なのは、花乃屋旅館経営の花壇で、広さが千坪もある。
その朝早く、園丁の山内三造は園内の見廻りに歩いていた。ちょうどチューリップの花壇にさしかかった時、彼は異様なものを発見した。花壇のまんなかに全裸の女があおむけに寝ている。不審に思った彼は、そばに行って見て呆然とした。女の首には、なんと、太い紫色の紐の跡が!
表題作ほか三篇を収めた金田一耕助の事件簿決定版。》
収録作品=花園の悪魔/蠟美人/生ける死仮面/首
横溝正史『殺人鬼』角川文庫・1976年
《ある有力な説によると、われわれの周囲には五百人に一人の割合で、未だ発見されていない殺人犯がいるという。あなたの隣人や友だちは大丈夫ですか?
あの晩、私は変な男を見た。黒い帽子をかぶり黒眼鏡をかけ、黒い外套を着たその男は、片脚が義足で、歩くたびにコトコトと無気味な音をたてる。男は何故か、ある夫婦をつけ狙っていた。彼の不審な挙動が気になった私は、その夫婦の家を見はった。だが数日後、夫の方が何者かに惨殺されてしまった
表題作ほか三篇を収録した横溝正史傑作短編集。》
収録作品=殺人鬼/黒蘭姫/香水心中/百日紅の下にて
片岡義男『B面の最初の曲』角川文庫・1984年
《彼女は多忙だ。彼に逢えない。彼は七人いる。だから、なおさら、逢えない。二日間の空白の時間ができた。その二日間で、七人の彼に会ってしまおう、という彼女のアイディア。わるくない。だから彼女は、やってみた。ある年の七月、雨模様の二日間の、彼女ならではの物語。》
片岡義男『限りなき夏1』角川文庫・1981年
《見慣れた岬がふと遠のいて、夏がまたひとつ去る。エンドレス・サマーの幻を追って、走り続けるのは誰か。
ハワイ、日本、カリフォルニアにまたがるメロドラマは、オフ・ショアの風と心中だ――。》
片岡義男『ときには星の下で眠る』角川文庫・1980年
《長篇連作シリーズ・オートバイの詩(1)秋
ターンバイクの高原に、秋は深まる。清れた昼間の空は絹積雲、夜の盆地は静かな冷気湖。そして、時が流れる。あのとき別れた彼らは、つかのまの再会のあと、青年の翳りのなかへいまあらためて旅立つ。銀色のフルムーンに見守られて。直立2気筒の排気音に解き放たれて。》
吉行淳之介『怪談のすすめ』角川文庫・1976年
《“現代の怪談”とはなにか?
ユーレイやオバケは過去のものとなった。けれども今の時代にも、コワイ話はいろいろある。そしていちばんオソロシイのは、やはり人間である。
超能力・宇宙人・変身・整形・性病・コールガール・ラブホテル・同性愛・ノゾキetc.怪奇談風の事件をユーモラスに語る、36話のエピソード集。
夏の夜におくるベストセラー・エッセイ「すすめシリーズ」の第4弾。》
筒井康隆『時をかける少女』角川文庫・1976年
《物置同然になった無人のはずの理科実験室に誰かいる! ガチャーンとガラスの割れる音が響いた。和子がうす暗い部屋の中を見回わすと、試験管が床に落ちて割れていた。中から液体がこぼれ白い湯気のような甘い匂いが漂い、急に和子の嗅覚を襲った。彼女はそのまま、軽い貧血を起こして気を失った。
だが、意識が回復すると、不思議な事件がたて続けに起こった。どうも、あの匂いをかいだことがきっかけで、彼女に特殊能力がそなわったらしい。
少女が不思議な空想の世界を体験する会心の表題作、ほか2篇収録。》
収録作品=時をかける少女/悪夢の真相/果てしなき多元宇宙
半村良『夢の底から来た男』角川文庫・1979年
《男はひんぱんにうなされていた――彼のみる夢の中には恐ろしい顔をした男が現われ、そして彼の前に仁王立ちになるのだった。しかも、その男の両手は、たったいままで人間の内臓をかきわけていたかのように血にまみれていた。
そして今、その血まみれの手の男が現実の中に出没しはじめたのだ。「畜生、俺の気が狂ったのか……?」
広告代理店に勤め、家庭を愛する平凡なサラリーマンを襲った悪夢の正体は何か? 半村良が描く、戦慄と恐怖のスリラー・サスペンス。表題作ほか「血霊」「自恋魔」など4編収録。》
収録作品=夢の底から来た男/錯覚屋繁昌記/血霊/自恋魔/わが青春のE・S・P
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