『重吉』は江田浩司(1959 - )の歌集。
著者は「未来」編集委員。
はるの風くさにすわりてふかれつつ神よとほそい枝につぶやく
もののはじめくさはならんで吹かれつつよわよわしげに光つてゐたか
ひとすぢの道のしろさよふく風にひとつの影が立つてゐるかも
はるの宵よろめいてゆくひとの世をくるしんだだけ終(つひ)はあかるし
けへもまた力をいれず生きてゆくしろい雲さへあればいいのだ
はるのひのしづかな昼につかれたりとほくにあるは悦びだらう
おほきな木あかるい月にふれさうでこころのそこはやすらかにあれ
いつぽんの釘をつかみてのぼるかな楡の大樹にたてたる梯子(はしご)
ゆふぐれになにかをひらくみづの音くろずんだ木を見あげてゐると
うかびくるキーツの詩(うた)はうつくしくわたしむねは空につづけり
雨をみてをどりたくなる人あらば花をひと束あげてください
いたづらに生きてゐたいといふ人にあきのはじめの空はひろい樹(き)
「森のような詩がつくりたい」とあなたはいふうすい日のさす冬のはじめに
うらがはに黯(くろ)いところがすこしあるふゆの雲からひかりがもれる
もうずつとあなたに話しかけてゐたやすらかな死はふゆの顔から
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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