『水月伝』は大井恒行(1948 - )の、「個別の句集としては三冊目だが(……)実質的には第4句集」(あとがき)
。
著者は「豈」「ことごと句」同人。
洗われし軍服はみな征きたがる
軍隊毛布抜け出る霊の青い陽よ
かたちないものもくずれるないの春
ことごとく春昼の海 鳶 鷗
赤い椿 大地の母音として咲けり
悼 大泉史世(二〇二二年五月一九日・享年七七)
美本づくしの史世(ふみよ)一民(かずたみ)万華鏡
悼 齋藤愼爾(二〇二三年三月二八日・享年八三)
愼爾深夜の夏の扉を開けましたか
悼 澤好摩(二〇二三年七月七日・享年七九)
極彩のみちのくあれば幸せしあわせ
倒れしのち、「しあわせ、しあわせ」とつぶやく。
行方わからぬ光放てり手の林檎
春風や人は木偶なり踊るなり
「鳥髪に雨降り胸を開きたり水の言葉を溢れさせつつ」(詠人知らず)
の歌あれば、
鳥髪の髪歓喜して鳥世界
つぐなえる死などはなくて母の秋
また一人あらわに死ねり白椿
赤い林檎かの痛点に至りけり
この国をめぐる花かな尽きたる山河
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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