放置してあった先月(2023年12月)分。
笹野真『詩集 手のひらたちの蜂起/法規』は著者から寄贈を受けました。記して感謝します。
池波正太郎『江戸の暗黒街』角川文庫・1979年
《ひくく声をかけて、いきなり女に飛びかかった小平次は恐しい力で首をしめあげ、すばやく短刀で心の臓を一突きに刺し通した。その時、恐怖に引きつった青白い顔でじっとみつめる小女と顔を合わせてしまった。
〈見られた……。生かしてはおけない〉
男は江戸の暗黒街でならす名うての殺し屋で、今度の仕事は茶問屋の旦那の妾殺しだった。
色と故につかれた江戸の闇に生きる男女の哀しい運命のあやを描いた傑作集。》
収録作品=おみよは見た/だれも知らない/白痴/男の毒/女毒/殺/縄張り/罪
山本周五郎『小説 日本婦道記』新潮文庫・1958年
《千石どりの武家としての体面を保つために自分は極端につましい生活を送っていたやす女。彼女の死によって初めて明らかになるその生活を描いた『松の花』をはじめ『梅咲きぬ』『尾花川』など11編を収める連作短編集。厳しい武家の定めの中で、夫のため、子のために生き抜いた日本の妻や母の、清々しいまでの強靱さと、凜然たる美しさ、哀しさがあふれる感動的な作品である。》
収録作品=松の花/箭竹/梅咲きぬ/不断草/藪の蔭/糸車/風鈴/尾花川/桃の井戸/墨丸/二十三年
笹野真『詩集 手のひらたちの蜂起/法規』いぬのせなか座・2023年
《いぬのせなか座叢書第6弾。一切のプロフィールを明かしておらず作品の発表歴も無い、まったく無名の新人による第一詩集。
収録されている詩には一切タイトルがなく、縦書きと横書きが混在し、視覚詩や短歌連作のような特殊なレイアウトのページもある。一行ごとに同語反復めく貧しい論理を形作りながら、それでいて読み進めると、特異な身体感覚も喚起されていく。
高度に抽象的な記述があったかと思えば、一方で動物たちや言葉遊びをめぐる記述も連なる。そうして生まれる奇妙な事物同士の写し合い、にこやかな抒情は、詩歌の読者や作り手はもちろんのこと、ダンスや演劇、美術などに関わるひとにも強く響くだろう。
詩篇の並び順は、いぬのせなか座第1期メンバーで詩人の鈴木一平と主宰の山本浩貴が編集・構成。デザインは、同じくいぬのせなか座の山本浩貴とhが担当。叢書第3弾『光と私語』と同様のプラスチックカバーで、しかしこの詩集ならではの仕掛けがいくつも施されている。》
野﨑まど・大森望編『誤解するカド ファーストコンタクトSF傑作選』ハヤカワ文庫・2017年
《突如羽田空港に出現した巨大立方体「カド」。人類はそこから現れた謎の存在に接触を試みるが――アニメ『正解するカド』の脚本を手掛けた野崎まどと、評論家・大森望が精選したファーストコンタクトSFアンソロジーをお届けする。筒井康隆が描く異星人との交渉役にされた男の物語、ディックのデビュー短篇、小川一水、野尻抱介が本領を発揮した宇宙SF、円城塔、飛浩隆が料理と意識を組み合わせた傑作など全10篇を収録》
収録作品=筒井康隆「関節話法」/小川一水「コズミックロマンスカルテット with E」/野尻抱介「恒星間メテオロイド」/ジョン・クロウリー「消えた」/シオドア・スタージョン「タンディの物語」/フィリップ・K・ディック「ウーブ身重く横たわる」/円城塔「イグノラムス・イグノラビムス」/飛浩隆「はるかな響き Ein leiser Ton」/コニー・ウィリス「わが愛しき娘たちよ」/野崎まど「第五の地平」
星亮一『幕末の会津藩―運命を決めた上洛』中公新書・2001年
《文久二年十二月、会津藩主松平容保は京都守護職として、風雲急を告げる京に入った。“薪を背負って火に飛び込むような”悲壮な決意のもと、容保と藩士は孝明天皇と都の警護に専心する。だが一橋慶喜らによる改革は実を結ばず、大政奉還、鳥羽伏見の戦いへと転落の道を辿る。幕府と運命を共にせざるを得なかった会津藩の悲劇はここにはじまった。新発見の『幕末会津藩往復文書』が明かす会津藩士の苦渋の日々とは。》
竹本健治『狐火の辻』角川文庫・2022年
《土砂降りの雨の夜、湯河原の町で起きた轢き逃げ事件。数年後、またも温泉街で生じた交通事故。どちらも犯人逮捕に至らないまま、再び起きた郊外の交通事故では、なぜか被害者が跡形もなく消えてしまった。連続する事故に興味を抱いた刑事の楢津木は、やがて街中で次々に起こる奇妙な出来事や怪談にも繋がりを見出すが捜査は難航。彼はIQ208の天才棋士、牧場智久の力を借り真相解明に乗り出す。本格ミステリ大賞受賞作、『涙香迷宮』の流れを汲む迷宮的サスペンス・ミステリ。》
フレドリック・ブラウン『火星人ゴーホーム』ハヤカワ文庫・1976年
《カリフォルニア州の砂漠の中の一軒家で、SF小説の原稿に苦吟していた小説家ルーク・デヴァルウは、世にも不思議な体験をした。突然、奇妙な緑色の小人が訪ねてきたのである。「やあ、マック」と小人はなれなれしく彼に話しかけた。「ここは地球だろ?」驚いて口もきけない彼に、小人はおりから夜空にのぼっていた月を指さし、「月が一つしかないもんな。ぼくんとこには二つある」太陽系内で月を二つもっている惑星といえば、ただ一つ……するとこの小人は、火星人なのだ! 痛烈な風刺と軽妙なユーモアにかけてはならぶものなき奇才ブラウンの古典的名作、ついに登場!》
宮下規久朗『モチーフで読む美術史』ちくま文庫・2013年
《たとえばあなたが実際に美術館に出かけて目にした、これまで見たことのない中世の西洋絵画を即座に読み解くにはどうすればいいだろうか。本書は、絵画に描かれた代表的な「モチーフ」を手掛かりに美術を読み解く、画期的な名画鑑賞の入門書である。西洋絵画だけでなく、日本を含む東洋の美術や現代美術にも言及している。人気の新聞連載に加筆し、カラー図版150点を収録した文庫オリジナル。》
新井素子『イン・ザ・ヘブン』新潮文庫・2016年
《「ねえ、史子ちゃん、天国って、あると思う?」八十過ぎ、余命数週間の今日子さんは、あたしより三十も年上のお友達。天国では「病気をしていても元気になって、なりたい年齢に若返る」というあたしに対し、「でも、小さい頃死んじゃった子供は大きくなりたいんじゃないかしら」と妙に理屈っぽい。話すたびに、天国はどんどん複雑な状況になっていって……。短編10編とエッセイを収録。》
収録作品=イン・ザ・ヘブン/つつがなきよう/あけみちゃん/林檎/ここを出たら/ノックの音が/絵里/幻臭/ゲーム/あの懐かしい蟬の声は/テトラポッドは暇を持て余しています
羽生善治『羽生善治 闘う頭脳』文春文庫・2016年
《15歳でプロ棋士になってから30年、将棋界のトップランナーとして走りつづける天才・羽生善治。その卓越した思考力、勝負力、発想力、人間力、持続力はどこから湧き出るのか――。勝負と格闘してきた日常より生まれた彼の言葉は、将棋の枠だけには収まりきらない深い含蓄に溢れている。ビジネスにも通じる発想のヒントが満載です。》
養老孟司・甲野善紀『古武術の発見―日本人にとって「身体」とは何か』知恵の森文庫・2003年
《やっぱり、事実は小説より面白い! 宮本武蔵、千葉周作、真里谷円四郎、植芝盛平……伝説の超人・天才たちの身体感覚が手に取るようにわかる。桑田真澄投手が実践して奇蹟の復活を遂げた「古武術」の秘密とは。現代人が失ってしまった「身体」を復活させるヒントを満載。メスと刀が「身心」の本質へと肉迫する。》
種村季弘『魔術的リアリズム―メランコリーの芸術』PARCO出版・1988年
《ノイエ・ザハリヒカイト(新即物主義)とも魔術的リアリズムとも呼ばれるそれは、やがてナチズムの《血と大地》の神話にとって替わられる運命にある。魔術的リアリズムの画家たちの軌跡を初めて克明に辿ったもうひとつの“1920年代論”。 》(「BOOK」データベースより)
M・ホジャート『諷刺の芸術』平凡社・1983年
《永遠に変わらぬ諷刺の主題は《人間の条件》そのものである。体制や性の状況の中でぬくぬくと肥満する人間の不条理性、愚昧性、邪悪性への諷刺衝動は、時に死そのものをひきおこす直接攻撃力として、時に反世界創造のエネルギーとして等々、さまざまに展開してきた。本書は20世紀芸術の開示する多面的なヴィジョンと人類学や心理学などの関連諸科学の上に、諷刺芸術を新しくとらえなおそうとする。アリストファネス、ラブレー、スウィフト、ジョイス、ブレヒトといった流れはもちろん、エスキモーやインディアンのフォークロア、漫画やテレビ・ショー、糞尿譚、聖書を含む宗教文学など、読者はあらゆる領域を跋渉し、人間そのものの意味をウィットにあふれて案内される。
著者M.ホジャートはケムブリッジ大学卒業後、母校の講師などをへて1964年以来サセックス大学文学部教授で、その博識は本書にとってかけがえがない。 明大講師・演劇学 山田恒人》
G・K・チェスタトン『聖トマス・アクィナス』ちくま学芸文庫・2023年
《「カトリック哲学の第一義的にして基本的な部分が、実は生の賛美、存在の賛美、世界の創造主としての神の賛美であるということを理解しない人は、誰も最初からトマス哲学、言いかえれば、カトリック哲学を理解することはできない」。文学者一流の機知とともに描かれるトマス・アクィナスの肖像。聖人の歩みをたどりながら、哲学は神学に、神学は聖性に依存することをチェスタトンは説く。鋭敏な感覚を通して築き上げられたトマスの理論体系。それは、実際的なものと不可分であるがゆえに、われわれの精神に今も近しい。専門家から無条件の賞賛を勝ち得たトマス入門の古典。》
有吉佐和子『針女』新潮文庫・1981年
《死にに行く男が、愛を打ちあけたら、銃後に残される女はどんなに困るだろう――出征した帝大生の弘一が残した〈青春の遺書〉を胸に、針仕事に打ちこむ孤児の清子。やがて戦争は終り、弘一は復員するが、彼の性格は一変していた。二人の愛の結末は? 愛も哀しみも針一本にこめて激動の時代を生きたひとりの女性の姿を通して、日本人が忘れてはならない戦争の傷跡を描く。》
ロバート・シェクリイ『不死販売株式会社』ハヤカワ・SF・シリーズ・1971年
《生命にとって〈死〉は絶対的な終りである。だが、設計技師の彼、トマス・ブレインの場合に限ってそれは逆だった。気楽な休暇旅行の帰途、自足80マイルのスピードで激突死した瞬間から、彼のすべては始まったのだ。
再び目覚めたとき、彼は150年をひと飛びし、西暦2115年の名も知らぬ他人の肉体に生まれ変っていた。この時代、霊魂の存在はすでに証明されまた時間空間の同質性に基づく超強力の動力システムが開発された結果、宇宙旅行はおろか時間旅行、生命再生、来世転移など人類多年の夢が金しだいでかなうようになり、人々はその権利の入手に狂奔していた。彼はその動力システムを開発したレックス社の販売宣伝の為に、精神だけを過去から救出されたのだ。だが、それもつかのま、この不法な救出行為を政府から告訴される危険に気づいたレックス社は態度を豹変、無情にも彼に自殺を迫った。かくて、この22世紀の見知らぬ世界で、生者に狩られ、死者に追われてさまよう運命に、彼はもてあそばれることになる……
*
奇抜でユニークな着想と奔放自在なイマジネーションにあふれる短篇の名手として、他の追随を許さぬシェクリイが、はじめて手がけた処女長篇!》
山本健吉『万葉大和を行く』河出文庫・1990年
《古代の大和びとが日々眺めて暮らした自然――香久山、畝傍山、耳成山の大和三山を始め、三輪山、二上山、そして飛鳥川、佐保川などを、実地に訪ね歩き、さらには山深い吉野路にも分け入って、日本人の魂の故郷を実感する、真摯かつ楽しい旅の記。
名著『大和山河抄』を底本とし、あらたに撮り下ろしの写真を多数挿入した、万葉大和の旅の絶好の手引き書である。》
原武史『歴史のダイヤグラム―鉄道で見る日本近現代史』朝日新書・2021年
《特別車両で密談する秩父宮、大宮vs.浦和問題を語る田山花袋、ダイヤ改正と『点と線』の四分間トリック、丸山眞男がメモした車中の会話、鶴見俊輔と竹内好の駅弁論争、リュックに猟銃を詰めた永田洋子が長岡から北海道へ渡ったルートは? 博覧強記の鉄道知識で縦横無尽に歴史の路線図を描き出す、朝日新聞土曜別刷り「be」の好評連載、待望の新書化。》
南里征典『未完の対局』徳間文庫・1982年
《1924(大正13〉年、中国を訪れた棋士松波麟作は、江南の棋王・況易山と念願の対局をするが、日本軍部の妨害で未完のまま終る。
易山の子・阿明の天分を見込んだ松波は日本に引き取り、阿明もまた期待に応えて天聖位を獲得するまでになった。だが、時代は戦雲をはらんで激しくうねり、阿明は松波の娘・巴を愛しつつも、故国に帰り抗日戦線に加わるべきかと懊悩の日がつづく。
祖国か恋か……波乱の愛を描く感動巨篇!》
原彬久『戦後史のなかの日本社会党―その理想主義とは何であったのか』中公新書・2000年
《敗戦直後、日本社会党が誕生した。戦前の無産政党を糾合し、「社会主義国日本」を目指しての結党である。しかし以後半世紀、一度として単独政権を打ち樹てることなく、ついに崩落した。社会党の歴史は、日米安保体制=自由主義陣営を打破する闘いとそれに絡まる路線・派閥抗争の軌跡でもある。ソ連型社会主義と共振するその「理想主義」は、議会制民主主義と相容れない側面をもっていた。日本社会党を通して、戦後日本の全体像に迫る。》
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