『八月』は黒田杏子(1938 - 2023)の最終句集。
来春東京本郷のマンションへ移住すと決む
満月の坂道終の棲家へと
ゆく年のどの星となく慕はしく
一句授かる大寒の覚め際に
リハビリテーション病院にて
冠雪の富士縹色合掌す
句集『陸沈』のひとに
冬麗のかなし齋藤愼爾また
七月五日「NHK俳句」収録 寂庵行 二句 より
青梅雨の森のどこかに寂聴師
寒月皓然本郷徘徊二人
山に雨谷間谷間に山櫻
八十の花の記憶の無盡蔵
新米の炊き上がるまで選句して
冬眠の蟇の一統安らかに
夢の中でも麦踏んで疎開の子
山百合の香にめざめゆくふたりかな
視力これはお護り下さいお雛様
首都東京は
三月十日炎ゆる人炎ゆる雛
※本書はご遺族より寄贈を受けました。記して感謝します。
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