御茶ノ水ソラシティの古本市その他で買い込んだ本を端から読んでいた。
西村京太郎の雪の山荘ものの傑作『殺しの双曲線』は最近再評価を受けて復刊されたが、古い講談社文庫版が出てこなければあえて手に取っていなかったはず。
豊田有恒『暗号名は鬼』徳間文庫・1988年
《バイク雑誌からツーリング・レポートの依頼を受けたルポライター宇賀神宇一郎は、取材で訪れた山陰で、不審な男たちに連れ去られようとしていた若い女を助けた。李金姫と名乗る彼女は、“五娘子、五鬼神”と記された謎の紙片を持っていた。“李舜臣の秘宝”をめぐるもう一つの取材依頼があったのはそんな時だった。秘宝の隠し場所を記した古文書を追う宇賀神は、やがて意外な人物と出会った。長篇アクションSF。》
横溝正史『仮面劇場』角川文庫・1975年
《瀬戸内海のまっただなかに木の葉のように浮かぶ一艘の小舟。だが、その上にしつらえた大きなガラスの柩の中には、一人の美少年が身動きもせず横たわっていた!
助け出された少年が盲聾唖の三重苦とわかった時、ひどく同情した富裕な未亡人が彼をひきとった。しかし、それが恐ろしい連続殺人事件の発端になろうとは……。
無気味な背景に潜む見事なトリック。横溝正史のお傑作本格推理、他2編収録》
収録作品=仮面劇場/猫と蝋人形/白蝋少年
川村二郎『白夜の廻廊―世紀末文学逍遥』岩波書店・1988年
《白夜を光源として世紀末的精神の廻廊をめぐる。ペイターとホフマンスタールの照応をはじめ、英、独、日本にかけられる文学的系譜の橋。それは怪奇幻想の夜を貫く、審美的な清澄さへの憧れではなかったか。もう一つの世紀末。》
野田秀樹『怪盗乱魔』新潮文庫・1986年
《「強くて、結核、なぜか早死に」と三拍子そろった沖田総司は、しかし喀血のため、池田屋にたどりつけず挫折した。以後、心の池田屋を求め続けるこの青年剣士も今や138歳。「強くもなくて、血も吐けず、どうしようもなく長生き」という状態で二度目の世紀末を迎えている……。吉田松陰、イサドラ・ダンカン、新宿の母、アガサ・クリスティなどが入り乱れるリリックな爆笑世界。》
金井美恵子『くずれる水』集英社・1981年
《水鏡の向うに、見なれた街が溶解する
けだるい午後の彷徨を描く金井美恵子の新思考小説》
収録作品=河口/水鏡/くずれる水/水入らず/洪水の前後/水鏡、あるいはリンゴ
山田風太郎『魔天忍法帖』徳間文庫・1980年
《見るがいい、江戸城が石田三成や真田幸村に攻められて炎上しているではないか!
やがて江戸城は落ち、徳川家康は隅田河畔で斬首。徳川を倒した石田三成は、主君の豊臣秀吉に謀反し、関ヶ原での大合戦となった。
「あえて歴史をif(若しも)の眼鏡で振りかえるタブーをおかし、時空を逆転させた魔天から“関ヶ原”前後を俯瞰」(著者)した山田風太郎渾身の長篇歴史SF。》
如月小春『都市の遊び方』新潮文庫・1986年
《あるときは山手線に乗ってターミナルごとのフィールドワーク。あるときはSF的なキャンパスや巨大高層団地へファンタスティックな冒険旅行。ディズニーランドやエスニック・レストランでは、外国気分を味わったりして……。古いものと新しいものがモザイク状に組み合わされた街・東京の、もうひとつの貌、もうひとつの魅力。巨大都市を感じ、考え、遊ぶための知的ガイドブック。》
山口昌男『流行論』朝日出版社・1984年
《序章 流行論―あるいは理性と論理
第一章 神話と否定性の原理―古近東神話を中心に
第二章 神話と共同体―古代ギリシアと古代ゲルマンの場合
第三章 マーフィの小宇宙―神話的遡行
第四章 ゴヤの冥界下降》
池波正太郎『戦国幻想曲』角川文庫・1974年
《渡辺勘兵衛――槍をとっては一騎当千。天正10年、織田信長の甲州攻略に、近江の小城主阿閉淡路守家来として加わって20歳の初陣、抜群の武功をたてたが、その賞に大将織田信忠から拝領の名刀を自分にねだる、吝嗇くさい主人淡路守に、つくづく愛想がつき果てた……。
戦国の世に「槍の勘兵衛」として知られながら、変転の生涯を送る一武将の夢と挫折を描く力作。》
高木彬光『灰の女』角川文庫・1976年
《――則子は氷を素肌にあてられたような戦慄を感じた。一人の男の姿が、ぱっと眼にとびこんで来た。貞彦だった。絶対に間違いはない。この距離で、恋しい男の姿を見違えるわけはない……。
不倫の恋に激しく燃えていた則子が偶然に目撃した恋人の姿。その直後、彼が慌てて出て行ったピルの中にある武蔵商事の社長が、絞殺死体となって発見された。社長秘書だった彼に殺人容疑が……。非合法すれすれの商法、会社の秘密を知りぬいている彼にしかけられた罠だろうか? 情事を続ける則子と、アリバイを主張しながらも何者かの影に怯える恋人の貞彦。密室トリックと連続殺人の謎に挑戦する検事霧島三郎、本格長編推理の決定版!》
川端康成『千羽鶴』新潮文庫・1955年
《鎌倉円覚寺の茶会で、今は亡き情人の面影をとどめるその息子、菊治と出会った太田夫人は、いっさいの世俗的関心から解き放され、お互いに誘惑したとも抵抗したとも覚えはなしに夜を共にする……。志野茶碗がよびおこす感触と幻想を地模様に、一種の背徳の世界を扱いつつ、人間の愛欲の世界と名器の世界、そして死の世界とが微妙に重なりあう美の絶対境を現出した名作である。》
饗庭孝男『幻想の都市―ヨーロッパ文化の象徴的空間』講談社学術文庫・1998年
《フランドルの宝石とも呼ばれる中世都市・ブリュージュやルネサンスの花開いたフィレンツェなど、ヨーロッパの古都を歴訪。重層する文化の集約点であり、象徴である都市の独自の文化を観察して、共時的で多様な西欧の歴史を読む。また古代ローマの遺跡を残すパリから、ブルターニュやアイルランドなどケルトの故郷を訪ねて、ヨーロッパの基層をも考察。西欧文化の実像を描いた旅情豊かな歴史紀行。》
椎名誠『さらば国分寺書店のオババ』情報センター出版局・1979年
《この本のオモシロサとスルドサは、どうしたって中味を読んでもらわないと、分かってもらえないでしょうね。だから、どこでもいいから開いてください。それがメンドーな人は、表カバーを折り返したところの「あらすじ」を読んでください。しかしやっぱり、どこでもいいから開いてもらいたいナ。そうしたら、なぜ「昭和軽薄体」の文体と呼ばれるかが分かってもらえるし、「14歳から77歳の人を中心に、笑いと興奮のルツボにブチ込む、少し遅れて出てきた大スターといわれる理由も分かってもらえると思うのです。》
《おまわりさんから国鉄・地下鉄・教育関係、その他もろもろの制服着用人間が大キライで、税金を払うのがもったいない思いが何故かプラスされて、怒りはどんどん膨れあがる。ついに日本全土を巻き込む痛快な大戦争に発展していった、かに思えたが、急に心やさしく彼らを理解しだし、愛しだす。その理由は、古本屋・国分寺書店のオババに惚れてしまったからなのだ。しかし時はすでに遅く、オババは店をたたんで消えていく……。
社会風俗を巧みにとらえて、あなたに「うんうん、そうなのだ」と共感を呼びおこし、つい内容を知合いに語りたくなる本。》
泡坂妻夫『天井のとらんぷ』講談社ノベルス・1983年
《「埋葬」というバーで、バーテンの谷利喜男が殺された。現場の天井にはダイアモンドのJのカードが貼りつけてあった。これは「天井カード」という奇術の手法である。被害者ダイアモンドのJで何を示そうとしたのか? 女流奇術師・曾我佳城も名推理でダイイング・メッセージの真の意味が解明され、事件は意外な結末へ……。》
収録作品=カップと玉/消える銃弾/ビルチューブ/バースデイローブ/シンブルの味/空中朝顔/白いハンカチーフ/天井のとらんぷ
吉田秀和『トゥールーズ=ロートレック』中央公論社・1983年
川端康成『舞姫』新潮文庫・1954年
《舞台の夢をあきらめた過去の舞姫波子と、まだプリマドンナにならない未来の舞姫品子の母子。もとは妻の家庭教師であり、妻にたかって生きてきた無気力なエゴイストの夫矢木と両親に否定的な息子高男。たがいに嫌悪から結びついているような家族の姿の中に、敗戦後、徐々に崩壊過程をたどる日本の“家”と、無気力な現代人の悲劇とを描きだして異様な現実感をもつ作品。》
岡本隆三『纏足物語』福武文庫・1990年
《清朝末期の纒足禁止令まで約1000年にわたって、中国の男たちは「三寸金蓮」(理想的な纒足の異名〉の女を所有することに執着してきた。人類史上空前絶後の奇習・纒足の背後にある、恐るべき人権蹂躪と歪められた貞操観念の交錯の歴史を、秘められた男女関係のエロスを通して究明する。》
川端康成『古都』新潮文庫・1968年
《捨子ではあったが京の商家の一人娘として美しく成長した千重子は、祇園祭の夜、自分に瓜二つの村娘苗子に出逢い、胸が騒いだ。二人はふたごだった。互いにひかれあい、懐かしみあいながらも永すぎた環境の違いから一緒には暮すことができない……。古都の深い面影、移ろう四季の景物の中に由緒ある史蹟のかずかずを織り込み、流麗な筆致で描く美しい長編小説。》
豊田有恒『火の国のヤマトタケル』ハヤカワ文庫・1971年
《肉親に仇なすという忌むべき双子の弟としてこの世に生を受けた大和の王子小碓。父大王の熊襲を征伐せよとの苛酷な命に悲しみの心を抱きつつ死地へおもむいたかれは、途中妖怪変化や刺客たちによって幾多の危機にさらされながらも、けなげに熊襲王川上タケルを打ち果たした。かくて、ここに大和の勇者ヤマトタケルが誕生する。だが早くもその身に迫りくる新たな危機! 人界の片隅に集まり巣くう死霊の邪悪な化身、邪馬台の女王ヒミコのもとに導かれた王子の運命やいかに? 幻想の宝庫日本神話にSFの新境地を拓く、俊英豊田有恒の新神話物語第一弾!》
松本清張『絢爛たる流離』文春文庫・1983年
《昭和初期、九州の炭礦主が愛娘に買い与えてから、安保後の高度成長に沸く東京で、工事現場に働く少年のポケットに収まるまで、3カラットもあるダイヤの指輪は次次と持主を変えて華麗な流転を重ねてゆく。――時代の推移を背景に展開する数奇な運命の饗宴。ダイヤに関わった人々の欲望と愛憎の人間ドラマを描く12の連作推理。》
松本清張『空の城』文春文庫・1982年
《石油部門への進出を焦るあまり苛烈な国際商戦の渦に翻弄され、ついに倒産した巨大総合商社。四千人の社員のうち何人がその無惨な敗北を予測し得ただろうか……? 石油というすぐれて国際的な商品の“魔性”に命運を賭けた大企業の野望と挫折を、徹底した海外取材をもとに壮大な構想で描く、小説《安宅産業の崩壊》。解説・和田勉》
赤江瀑『蝶の骨』徳間文庫・1981年
《岸田流子は15年のあいだに見事な変身をとげ、美しい〈蝶〉になっていたが、それはある“悪意の計画”のためだった。
女の爪に飾りの彫画をしている高村涼介に流子は近づき、やがて涼介は流子の美しさのとりこになるが、この涼介こそ、かつて変身前の流子に一顧だに与えなかった男だったのだ。蝶となった流子は男の果肉の中を飛び交いながら甘美な復讐に酔い痴れる一一愛の執念と官能を描く赤江湯の世界。》
石川淳『夷齋座談(上)』中公文庫・1981年
《古今東西に通暁する夷齋先生石川淳と、川端康成、三島由紀夫、安部公房、貝塚茂樹ら当代の碩学文人12氏が談論風発――精妙な話術が織りなす、興趣溢れる座談10編。上下二巻》
石川淳『夷齋座談(下)』中公文庫・1981年
《和漢洋にわたる深い学殖で知られる夷齋先生石川淳と当代の碩学文人9氏が、藝術談義から学藝百般に到り、果ては歌仙の世界にあそぶ。軽妙洒脱、興趣溢れる座談9編。上下二巻》
森村誠一『誘鬼燈』角川文庫・1979年
《「ここだな」 秋冷えを感じさせる北辺の町はずれにあるアパートの前で、灯の点った窓を見上げながら一人の男が呟いた。やがて、男は水っ洟をすすると、そこにいるはずの女を訪ねて門を入った……。
青森県上北郡野辺地町のアパート桃園荘で、若い人妻の殺害事件が起きた。胸と腹部を鋭利な刃物で剌されていたが、綿密な検索も空しく、凶器はもとより、犯人の手がかりとなる遺留品は、現場から何も発見されなかった。ここに、殺人事件と認定され、捜査本部が開設されて本格的な捜査が始まった。
斬新な手法を取り入れた意欲的本格長編推理。》
都筑道夫『深夜倶楽部』徳間文庫・1992年
《週末毎に集い、怪奇譚を披露しあう「深夜倶楽部」の面々。今夜は老俳優の番だ――。
夫と死別して病臥する妹を、亡夫に変装して見舞ってほしい、と学友から依頼された私は、大役を果たした翌朝、彼の娘から、女は二度目の若い妻だと知らされた。不倫相手の病死で、精神に異常をきたしたとも。そして庭に咲く彼岸花の一叢に立つ女を認めた時、学友は私に杖を振りかざした(死びと花)。七つの恐怖を収録。》
収録作品=死びと花/鏡の国のアリス/姫はじめ/狐火の湯/首つり御門/幽霊屋敷/夜あけの吸血鬼
西村京太郎『炎の墓標』講談社文庫・1984年
《マンモス・タンカーの爆破中止と引きかえに百万ドルを要求する脅迫電話が新太平洋石油にかけられた。百万ドルの振込み先は、バリ島にある小さな商店だった。犯人の真の狙いは何か。また航行中のタンカーをどうやって爆破できるのか。この途方もない脅迫事件の進展があばき出したものは? 壮大なスケールで意外性あふれる秀作。》
リアノー・フライシャー『レインマン』ハヤカワ文庫・1989年
《天才的な記憶力を持つが、強度の自閉症のため入院生活を送っている兄のレイモンド。ことば巧みで利己的な中古車ディーラーの弟チャーリー。父親の莫大な遺産を兄が受け継ぐことを知ったチャーリーは、それを横取りするため彼を病院から連れ出す。その日から、二人の人生を大きく変える奇妙な旅が始まった。愛と感動のヒューマン・ドラマ》
西村京太郎『殺しの双曲線』講談社文庫・1979年
《差出人不明で、東北の山荘への招待状が六名の男女に届けられた。彼らは半信半疑で出かけて行く。雪に埋もれ、幸福感に酔っていた彼らはやがて恐怖のどん底に突き落とされた。殺人が発生したのだ。しかも順々に……。クリスティ女史の名作「そして誰もいなくなった」に、異色の様式で挑戦する本格推理長篇。》
宮本常一『絵巻物に見る日本庶民生活誌』中公新書・1981年
《日本の絵巻物は、すぐれた美術史的価値をもつばかりではない。それは時代の民衆生活を知る貴重な宝庫でもある。職人工匠の道具・小物から物商いの品々、定着農耕民から山間・海浜の民の暮らし、旅の風俗、牛馬猿などの動物たち、火を使う生活のさまざま、衣食住、笑いや哀しみなどの人びとの表情……。本書は、多年日本の庶民と日本の民俗に愛情深い眼を注ぎつづけた著者の、その事物に即して語る学風を伝える遺著となった。》
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