『あなまりあ』は武藤雅治(1951 - )の第6歌集。
作者は歌誌「月光」所属。
決意するほどのことにはあらねど白い便器を見つめながら思ふことあり
ひとりづつよびだされてさくら貝のやうなものをわたされてかくれんぼ
うはごとのやうにだれかの名をひとこと呼んだまままだ生きてゐたのだ
白い屋根の家をひそかに見て坂道をくだる手に紙切れをひらひらさせて
ひとつ灯のしたにあつまるかほとかほとかほとかほとがみんな昆虫のかほ
かげろふのやうにコスモスが咲いてゐるフクシマとか呼ばれても美しい
うさぎを抱いてはいけないと言つたのに柔肌にまたうさぎを抱きしめて
生まれ変はつてみればこの白い壁を自由に出入りできる白い猫になつて
季節はづれの白い花ばかり咲かせてゐる人よいつもこころのさ暗がりに
お墓のなかはいつもからつぽでいちばんとほいところからしづかに狂ふ
玄関を出たところに男が三、四人思ひ思ひの空を見あげ烟を吐いてゐる
なまたまごのきもちとゆでたまごのきもちとはどちらがきもちがいいか
滅びるかもしれないと思つて今日一日は東京の街をゆつくり歩いてゐる
「カヘルになりました」と、ウサギさんからメールがとどかないかしら
ゼブラゾーンわたりゆくときおそひくるもじばけのやうなひとひとひと
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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