草思社
金原まさ子さんはもう俳句関係では誰知らぬ者のないアイドル的存在となっているが、102歳の高齢とおよそ年齢を超越した句集『遊戯の家』『カルナヴァル』の尖った作風は知られていても、どういう来歴の人かはさほど知られていなかった。
今回の一代記『あら、もう102歳―俳人 金原まさ子のふしぎでゆかいな生き方』は順を追った自伝ではなく、日常の楽しみごとや時事的に対する意見なども入った「金原まさ子氏の生活と意見」といった趣きの多くの短章からなっていて、どこから読み始めて、どこでやめてもよい作り。
ご主人と知り合ったのが目賀田男爵邸でのダンスパーティで二人ともダンスが得意だったという、歴史の彼方のような暮らしぶりから、戦メリを見て耽美趣味に目覚め(今でいう腐女子となる)、「い・け・な・いルージュマジック」の忌野清志郎と坂本龍一のキスシーンを見て興奮したりと、私と同世代なのではないかというエピソードまで出てきて、伝記的事実が明らかになるにつれてどんどん年齢不詳に磨きがかかっていく。
金原さんが師事していた桂信子は悪人正機説がわからず「善人しか往生はできません、悪人は往生しちゃいけないんです」と真顔で言い、金原さんが《一足す一は大きな一よ雲の峯》という句を見せると一足す一を二に変えるという種類の真面目な人だったそうで、金原さんの句はおよそ理解を絶していただろう。
ところがこの本を読んだ後、桂信子の全句集を見ていたら最後の句集『草影』の中に次の一句があった。
一に一足せば三かも注連飾 桂信子
金原さんに攪乱された遠い影響ででもあるのだろうか。
昨日初めて金原さんに電話を差し上げてみた。
書いたもののやり取りはあったのだが、本にも書いてあるとおり突発性難聴が出てしまったとのことで御息女とお話するつもりでいたら、すぐ本人にかわられた。受話器で短時間だったらほぼ普通に会話できる状態だったのだが、とにかくお声が元気で私なみに早口なのにびっくりした。
良いことがあったときに感激する力がものすごく強い方である。私などには感動というのがそれなりに負担であったりもするので、この金原さんの躍動感が持続するさまは奇跡的に感じられる。
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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David Bowie - Let's Dance
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