2011年
東京四季出版
「新歳時記通信」で季語の綿密な検証作業を継続している前田霧人の句集『えれきてる』が出た。前田霧人は無季の名句を残した篠原鳳作についての評論『鳳作の季節』ですでに鬣TATEGAMI俳句賞と山本健吉文学賞を受賞しているが句集はこれが初めてとなる。
実作者としては「十七音詩」(解散)、「火星」(退会)、「草苑」(終刊)を経て、現在「天街」「草樹」「杭」に所属。
昭和38年(17歳)から平成23年(65歳)までの900余句から自選249句を収録。序は所属誌のひとつ「天街」代表の野間口千賀。
金色の蝶の飛びゆく枯野かな
これが17歳のときの句。巻頭に据えられて、これだけで1章を占め、以下は28歳以降の句に飛ぶ。一巻を通読しても詩性と格調で図抜けている。
夜桜は触るるそばより壊れけり
家族など時にまぼろし桜桃忌
汗噴いて小さな仏眠りけり
吾子と行けばわらびぜんまいつくしんぼ
吾子と寝て丈半分の温みかな
家族・吾子を詠んだ句のなかでは「小さな仏」が、死を連想させもする「仏」の意外性と、「汗噴いて」の具体性から、真情と子の存在の不可思議さに迫って面白い。
夕月あればそれだけでいい家路かな
天球の星冴えざえと神は在る
放哉の墓ひっそりと夏うぐいす
恋文とも言えぬ文書く夜のあり
手袋を脱ぎ触れるもの皆懐かし
あのひとにいつもイライラ春だったね
木の実独楽飽いたら庭に埋めてやる
ふるさとに旅人でいる昼の月
来るひとは行くひとである枯野道
蟻の列崩してみたき敗戦日
旧地名次々消さる狸汁
こおろぎと名刺交換いたしました
気概、決意表明や心情をじかに詠んだ句が多いのが柄を小さくしているところがあり損だが、気分の悪い句はない。
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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土取利行:サヌカイト青の山(Sanukaito stone at Mt.Aono/Toshi Tsuchitori)
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