歌誌「合歓」第54号(2011年10月号)から。
発行人は久々湊盈子(くくみなと・えいこ)氏。
三橋鷹女らと「羊歯」に参加していた俳人・湊楊一郎はその義父にあたる。
このごろは夫のほうが長くいる厨にスパイスの類が増えたり 久々湊盈子
こののちを共に暮らさん一匹の蚊が目のなかを所在なく飛ぶ
死にたる人はいまどのあたり蒸し暑き処暑の夜更けに覚めて思えば
おしゃべりをする貯金箱がふいに言う「退屈そうだね」雨の午後なり 牧野千鶴子
栃木への日帰り旅行姦しくプチ鬱いつしか鳴りをひそめる 野上千賀子
目をふたつ入れたるだけでそう見える香月泰男の流木のヘビ 山下和代
「わたしの一句」という、俳人による自句自解のページがあって、今号では高野ムツオ氏が《土饅頭百を今夏の景とせり》を解説している。俳句仲間とともに震災後の石巻を訪れたときの句だったらしい。
《一通り被災地を廻り、小さな川端へ出たとたん、車に同乗していた一人が小さく叫んだ。「土饅頭が並んでいる」それは一瞬の間で数え切れなかったが、二、三十は間違いなく作られていた。震災の犠牲者のものである。火葬が間に合わないので、やむなく一時的に土葬にしたのだ。》
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大野一雄「美と力」(ラ・アルヘンチーナ頌)
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