2011年
西田書店
西原天気句集『けむり』は実質第1句集にあたるらしい(著者には先に、人名を詠み込んだ句ばかりを集めた『チャーリーさん』という句集がある)。
栞は三宅やよい、中島憲武、上田信治。314句を収める。
いわゆるうまい句の窮屈さからも、逆に「素人」であることに居直った文人俳句的な自足からも身をかわし、それらに触れるでも触れないでもないところを、けむりのように漂っていく運動といった感じの一冊。
「けむり」とは、浮遊する鳥瞰性と撫でるような虫瞰性とをあわせ持つ、在ることがそのまま消失そのものでもあるような浮遊体のみが兼ね備えることのできる、批評性と愛惜の謂なのかもしれない。
なお既に誰かが指摘していたが、集中特に煙を題材にした句はない。
造本が変わっていて、背表紙がなく、本体をなす紙束の折り目が背に露出していて、カバーの代わりをなす幅広の帯がかかっていなければほとんど書名もわからない。
さらに本文の紙も通常の白のほかに淡いピンクとグリーンの計3色が使われていて、読んでいくと途中、束の変わり目で色が変わる。
配色からして何となく菱餅をめくって読んでいるような気になってくる。
というか、和菓子のような何かが欲しくもなる(これは多分私だけ)。
ゆふぐれが見知らぬ蟹を連れてくる
世界ぢゆう雨降りしきる苔の恋
まだなにも叩いてゐない蠅叩
しまうまの縞すれちがふ秋の暮
しろながすくぢらのやうな人でした
春の雲たまごサンドは頼りなし
風船を貰はむとする大人かな
行く春の煉瓦の互ひ違ひかな
マネキンが遠いまなざしして水着
二科展へゴムの木運び込まれをり
晩春のおかめうどんのやうな日々
満月の縁のうぶげや魂まつり
卒塔婆のやうなアイスの棒なりき
立ち読みの背中を過ぎる昼の鮫
死がふたりを分かつまで剥くレタスかな
思ひ出の品々を這ふごきかぶり
アンメルツヨコヨコ銀河から微風
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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