2011年
文學の森
『退屈王』は、第1句集『ブリッジ』(2001年、翌年第25回俳人協会新人賞)以来10年ぶりとなる林誠司(1965~)の第2句集。林誠司は「俳句界」現編集長で、俳人としては「河」を経て無所属。
父との死別、失職、離婚、後半には上代の「大和」を想望する旅の句が入る。
題材だけを並べると戦前の破滅型作家による私小説のようだが、無論現代の都市生活者なりの洗練が詠み口にある。
自己という通路の細さ、さびしさを通してあらわれる子供たちや大和路は、鬱憂自体をも、抑え込むというよりは投げ出して外界の景物と映発させあうような緊張を帯びた句風のなかで、静かにあたたかく盛り返してくるようにして独自の光芒を放つ。
炎天といふさびしさへ観覧車
父の掌(て)の厚みでありぬ朴落葉
海釣りをして夏雲にかこまるる
こほろぎや妻の枕の濡れてをり
すき焼のフライパンごと出されけり
離婚 子と離れる
ハートあり星あり春のらくがきは
春の雪二段ベッドに子がふたり
もう妻と呼べないひとの日焼顔
白シャツを干して遠のくことばかり
かたはらに吾子のをらざる遠花火
初雪のことに洗濯ものに降る
子に問はれて
お父さんの将来は冬かもめ冬かもめ
まぼろしの鷹をしたがへ旅ひとり
手ぶらにてあゆむ峠や秋の風
柿本人麿をおもふ
雉鳴いて妻恋ひびとの去りにけり
足のせしその石にをり川とんぼ
神々の恋どんぐりをかがやかす
たうがらしあかあか百済仏の道
大和まほろば無人ホームの冷えてをり
火を焚いて吉野へ雲を送りけり
いさかひて磯へかたぶく夏の鳶
きらきらと坂をころがり夏蜜柑
針の出て油菜らしくなりにけり
原発のさびしからんと夏の月
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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