『新撰21』を3人ずつで機械的に区切っていくと、ここが一番落差がものすごいことになるブロックではあるまいか(冨田→北大路が…)。
10人目、村上鞆彦は昭和54年生まれ(1979年。若い順なので、10人目にしてようやく80年代以前まで来た)。「南風」同人で鷲谷七菜子、山上樹実雄に師事。
「澤」の20代・30代特集への寄稿などを見ると、有季定型の枠を守って詠む立場らしい。堅実というかわりとハードで押しの強い写生と、そこから出てくる抒情性が特色。《真清水にたくさんの手の記憶あり》などは重層性と澄明さが両方同時に出ている。
獅子舞のあとの塵泛く日差しかな 村上鞆彦
割れ鏡けふ卒業の髭を剃る
花の上に押し寄せてゐる夜空かな
父の日の夕暮れの木にのぼりけり
枯蟷螂人間をなつかしく見る
11人目、冨田拓也。言わずと知れた第1回芝不器男賞受賞者。このときの登場ぶりは月並みながら本当に「彗星のよう」という印象だった。誰にも師事せ ず、結社にも入らず、塚本邦雄や新興俳句を読み込み、内面の深淵から清新な詩性をつかみ出す鮮烈な緊張感ある作風を独学で築き上げ、われわれの前に突如姿 を現わしたのである。
現在は無所属を通したまま、豈weeklyに毎週ほぼ欠かさず寄稿中。《魂匣(たまばこ)の流れ着くなり実朝忌》など詩的な語に賭けた作りも多く、難字難訓もときどき出てくる。
気絶して千年氷る鯨かな 冨田拓也
日の銅(あかがね)月の鉱(はがね)と雁渡る
晩秋の夢殿を掌(たなごころ)かな
月魄(つきしろ)の透りて氷割れむとす
花冷えの鍵は鍵穴にて響く
12人目、北大路翼。名前はよく聞く方なのだが、今回初めて顔を知った。白塗り、坊主頭で暗黒舞踏のような写真が載っている。高校在学時に今井聖の「街」入会。成人漫画の原作等を経て、会田誠、加藤好弘(ゼロ次元)らに出会い俳人としてパフォーマンス参加とある。
掲載百句中「女 LOVERS」の章は私小説的18禁俳句を並べたてての、捨て身の露悪・偽悪パフォーマンス(ここからも見本に一句引いておく。5句目がそれ)。
飛花落花解雇通知は紙一枚 北大路翼
迷子センターアロハの父が謝り来
たましひの寄り来ておでん屋が灯る
目と鼻に惚れたとマスクの女に言ふ
まいたん☆
陰茎が触れて蛙が触れない
全体に素材のどぎつさに比べて詠み口は意外とあっさりしている。
「女 LOVERS」の中の、「おねえちゃんは元気ですか、ちいちゃん」との前書きのある、一句《変態といはれて嬉し日焼け向く》は、明らかに中曽根康弘元首相 の《したたかといわれて久し栗をむく》を踏まえている。生年不詳のまま載っているのだが、リクルート事件の証人喚問なんて、テレビで見たような年なのだろ うか。
【参考ブログ リンク】
ogihara.com
http://ogihara.cocolog-nifty.com/biscuit/2009/12/2009127-0fac.html
冨田拓也
http://ogihara.cocolog-nifty.com/biscuit/2009/12/2009128-83b4.html
北大路翼
http://ogihara.cocolog-nifty.com/biscuit/2009/12/20091217-6ccd.html
海馬 みなとの詩歌ブログ GO!LEAFS!GO!ぶろーぐ 週間俳句
『新撰21』鑑賞: 村上鞆彦
http://umiuma.blog.shinobi.jp/Entry/770/
『新撰21』鑑賞: 冨田拓也
http://umiuma.blog.shinobi.jp/Entry/772/
『新撰21』鑑賞: 北大路翼
http://umiuma.blog.shinobi.jp/Entry/773/
村上鞆彦
http://dzv00444.dtiblog.com/blog-entry-2475.html
冨田拓也 北大路翼
http://dzv00444.dtiblog.com/blog-entry-2475.html
北大路翼の一句 夢は夜ひらくのだ ……山田露結
http://weekly-haiku.blogspot.com/2009/12/21_27.html
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