邑書林
2009年
しばらく更新も出来ずにいたが、草地豊子氏から出たばかりの川柳作品集をお送り頂いたので、そこから抜粋、紹介する。
グラビアの猿の気品に負けており
アルミ缶潰してまといつく時間
紙たしてたしてキリンの首を画く
花に水たっぷりやって逃げましょう
黙すとき舌は正しい位置にある
喋っているときはつねに間違っているわけである。たとえ独り言であっても言語は他者性そのもの、ストーリーや言い回しの定型の磁場に引きずられ振り回されて、私はもうちょっと別なことが言いたかったのだがと思いつつもその発語の責任は私にかかってくる。
デッサンをするうち桃が腐りだす
取り皿をジャンジャン汚す料理店
たてよこがはっきりしない箱に蓋
晩餐の絵から一つの椅子を出す
息をしているのか壺がしめっぽい
集中治療室一面真桑瓜が這う
バロやカーロのシュルレアリスム絵画を連想させる。なおかつ実感もある。
跳び箱の上はあの世のやわらかさ
血を流すことは他人がしてくれる
悪人正機説の説明で鳥や魚を捕り、解体する業者は悪の自覚を持たざるを得ない。手を汚さずにその結果を食って罪の自覚がない者が「善人なおもて往生をとぐ」の「善人」なのだとの説法を聞いたことがあったがそれを連想。
改札へ急ぐ △ ○ □
仏壇に頭を入れてみる広さ
座布団の際まで耕されてしまう
着着と輪ゴムが溜まる人嫌い
いろがみの裏はみだらな白である
その辺にあるどうということもない物からこういう秘境妙境を引き出す「みだらな白」の発見が鮮やか。
魚だった証をひとつ言えますか
コマーシャルほど歯磨きをしたとして
図書館にわずかに動く苔の群れ
文化の日そろそろ邪魔になる金魚
アメリカがハンマー投げをやめません
ラジオ体操第二終わっている広場
民衆を飾り付けると終わりです
ロッカーの枯れ野一式持ち帰る
何やら懐かしい世界。
巻き貝を生んだ金魚を解雇する
筋肉にくまなくまぶす唐揚げ粉
去勢せずせっくすもせず死んだ犬
パン粉つけてしまえば誰か判らない
ちゅうちゅうアイス今日は八月十五日
草地豊子…1945年和歌山県生まれ。津山市社会教育課川柳教室で講師土居哲秋より川柳の手ほどきを受ける。「津山番傘川柳会」「川柳展望社」「川柳塾」会員。「バックストローク」同人。第3回「川柳展望賞」受賞、岡山県文学選奨川柳部門入選(巻末の略歴より抜粋)。
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