花神社
1998年
前回の『花石』に続いて柿本多映をもう1冊。
第4句集『白體』は、『花石』以後の約3年から287句を収録している。
相聞の椿を殺む机上かな
兄おとと青野に机毀ちけり
鍵盤を青大将が渉るなり
ガス漏れの予感本日星祭
凩や殯の媛の叫びつつ
「殯」は「もがり」と読む。
古代日本で主に仏教伝来以前まで行われていた葬儀儀礼で、本葬までのかなり長い期間、腐敗白骨化の確認されるまで棺に遺体を仮安置することをいう。死者の復活祈念と死亡の確認が主とされるが、民俗学者・五来重の『先祖供養と墓』ではたしか、死を受け入れず祟ろうと荒れる故人を封じ込め、鎮まるのを待つための儀礼という説が出されていた。
ふつうの解であれば、本葬前に息を吹き返した媛の他界へ打ち捨てられた孤絶感の句となるが、この説を踏まえると別の凄みが増す。
土器と土器あはひは冬の空気かな
煮凝や杳き戦のなど暇瑾など
赤ん坊紋白蝶を吐きにけり
盗賊には盗賊の影大ひまはり
吊橋の蟻を追ひ越す遊びかな
冬牡丹ざわざわとある手足かな
螢火を灯し都をあとにする
生国に蒲団一枚のこりゐる
人形の混みあふ春の病かな
純少年ひる白骨となりゐたり
これは永田耕衣の「野を穴と思い飛ぶ春純老人」の「純老人」の造語を踏まえたと思われる。
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