『黄金分割』は小林貴子(1959 - )の第4句集。序文:宮坂静生。
著者は「岳」編集長。
花冷や理髪に革砥ありし頃
宇多喜代子さん曰く
山は大きな水のかたまり蕗の薹
アメリカマサチューセッツ州の湖
チャーゴグガゴグマンチャウグガゴグチャウバナガンガマウグ湖涼し
若者の立居に鎖鳴る晩夏
一月や薔薇星雲を観測す
祖母(おほはは)の化粧箪笥や椿の実
初座敷生者のためのものならず
バーベキューピーマン破裂させてこそ
ヴェネツィアは亡びを急ぎ冬の靄
創(きず)はみな光となりぬ春の玻璃
図書館の高き踏台水の春
福島第一原発 元所長
七月の九日吉田昌郎の忌
本居宣長居
若葉には若葉のものゝあはれかな
真葛原遷都の如く移る雲
霜月や花びらの如ハムを削ぎ
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
半村良『産霊山秘録』(角川文庫)は全1巻版を最近入手したので再読。小中学生の頃、最初に読んだのは上下2分冊になってからの版だったので、こちらは個人的には見慣れないカバー絵(いずれも角川文庫の横溝正史本も手がけていた杉本一文の作品)。
西村京太郎が3点入っているが、そのなかで『十津川警部 トリアージ 生死を分けた石見銀山』(講談社文庫)だけ2011年と比較的新しめの刊行。これだけ装幀のセンスが明らかに違っていて、全面ビジネス書かテレビ画面のように文字だらけ。
杉本徹『天体あるいは鐘坂』(思潮社)は著者から寄贈いただきました。記して感謝します。
当ブログのこの書影シリーズ、ふだん俳句の本は除外しているのだが、寄贈本のうち持田叙子・髙柳克弘編著『美しい日本語 荷風Ⅰ 季節をいとおしむ言葉』(慶應義塾大学出版会)と、神野紗希『もう泣かない電気毛布は裏切らない』(日本経済新聞出版社)は俳句以外の内容が主なので例外的に入れました。こちらも感謝します。
荒巻義雄『紺碧の艦隊17―ウラル要塞崩壊』トクマ・ノベルズ・1995年
《「実は、日本は負けるのです、いったんは……」――大高首相はウランウデから蘇蒙鉄道でウランバートルヘ向かう途中、同行する前原たちを前に敗戦を予感させる謎めいた発言をした! 今やソ連が崩壊するのは時間の問題である。そうなれば、独ソ二つのランド・パワー国家ほまちがいなく連合する。その強大な力に対抗できるのはもはやシー・パワー国家の雄、日本しかいなくなる。まさにランド・パワーとシー・パワーの一騎討ち――迫り来る蒙古決戦を前に起死回生の極秘計画が進行する……。大高首相の真意と戦略とは?》
荒巻義雄『紺碧の艦隊18―東シベリア共和国』トクマ・ノベルズ・1996年
《照和二十五年五月――大高弥三郎はハバロフスクにいた。トロツキー新首相率いる東シベリア共和国発足の記念式典に出席したのも束の間、亜細亜各国代表との会談を精力的にこなした。さらに超長距離特急列車アジアン・エキスプレス、アジア号と乗り継いで訪れた大連で満洲鉄道首脳と会談、「国境なき亜細亜」の実現を訴えた。帰国後、極秘に国賓として迎えたロンメルのために、満洲の地に新国家樹立の用意があることを伝えた。大高の秘策はそれだけでなかった。何と自らの退陣を決意していたのである! いったいなぜ?》
荒巻義雄『紺碧の艦隊19―赤道大海戦』トクマ・ノベルズ・1996年
《独第三帝国の地中海大艦隊第二、第三艦隊は、カリブ海より出撃した米機動部隊要撃のため、アセンション島経由で南米リオデジャネイロ方面に向かいつつあった。これを阻止すべく紺碧艦隊は、新高杉艦隊と協同し、セントヘレナ島へ針路を向けた。前原の搭乗する司令艦・亀天号と紺碧艦隊攻撃主力は、敵航空機動艦隊、地中海大艦隊第二艦隊をいっきに殲滅すべく、セントヘレナ島北西西四五〇キロメートルの海域で息をひそめていた。日独一大艦隊決戦、いよいよ佳境に突入! 世紀の戦いの勝敗はいずこに……?》
荒巻義雄『紺碧の艦隊20―亜細亜の曙』トクマ・ノベルズ・1996年
《照和二十五年七月、大高弥三郎は首都ウランバートルの大地を踏みしめていた。ただちに美しい大草原をバスで疾走し、南ゴビ要塞司令部に到着した。間近に迫る蒙古決戦への大戦略を通達し終えると北京に向かい、周恩来と密会し、「庫倫無防備都市宣言」を提案し、亜細亜国連を調停機関とすることにより亜細亜の秩序を守る環境整備を万全にした。さらに蒙古方面防衛軍本部を訪れ、秘策「カンガルー作戦」の詳細を伝達し、ついに、ヒトラー率いる第三帝国との最後の戦いを待つのみとなった! 最終巻の行方はいかに?》
ロイド・ビッグルJr.『時の復讐』サンリオSF文庫・1982年
《かつて地球では私立探偵、現在は銀河統合体の第一評議員ジャン・ダーゼックにとって、こんなに困惑させられる事件は初めてだった。惑星ニフロンDが突加、太陽に変わってしまったのだ。すべての科学者は、そんなことは不可能だといっているが……。一方、銀河系の4分の1ほど彼方、惑星スカーナフで信じられないほど大量の放射能を浴びて醜く焼けただれた死体が発見された。古式の農業を営むその世界に核の施設など一つもないのにだ。ダーゼックは、この二つの事件に何かの関係があるとにらんで調査にのりだした。
さらに人口が密集し、工業も繁栄している惑星ベズプロに脅迫状が届けられた。10億の10億倍のカネと14歳から17歳までの女性を宇宙船に乗せて用意しろ。さもないとベズプロも新しい太陽に変えてしまう、と。誰か一級の科学者による犯罪なのか、それとも悪趣味で大規模な悪戯なのか。ミス・シュループの活躍も楽しいシリーズ第5弾!!》
野村美月『ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件6』ファミ通文庫・2014年
《竜樹、聖羅が出席するため、ロマンシアの音楽祭に同行することになったシャール(♂)。船上で聖羅と過ごす楽しい時間を経てやっと到着! と思いきや、護衛のギルマーも加えたシャール争奪戦勃発! そんな中「世界を救ってほしい」とささやく赤い髪の美女がシャールの前に現れて……? さらにはポーラローズ姫と、コスプレ少年ヨルン、不気味な“終末教”まで登場し、音楽祭に不吉な影が迫る――。ファンタジー家庭教師コメディ、待望の第6巻!》
稀にしか出会わない、街景のうるんでゆく眺望――
この、地球の夜という水槽に
幾度も声にならないあいさつを、おくる
(「アクアリウム」)
「鐘坂、影坂、……いま急発進したバイクの後ろすがたはモノクロ、でも遠ざかるにつれ順々に、色彩をまとってゆく。」(「群青の」)。都市は黙示となって光と影が時間をつたう――。やがてこの惑星のはてにはるかな瞬間の眺望がひらく。5年ぶり、待望の第4詩集。カバー作品=村松桂》
川村二郎『語り物の宇宙』講談社・1981年
《伊吹山の天狗に妻を掠われ、山々を遍歴する「甲賀三郎」。地獄巡りの「小栗判官」。ギリシャ神話に通う「しんとく丸」。浄瑠璃、歌舞伎、説経節等に深く息づく庶民の英雄たち。柳田国男、折口信夫らの先駆的業績を踏まえつつ、遥かな神話、伝説に始源する「語りの世界」の魅力を豊饒な自立した言語表現として初めて本格的に論究する。現代文学の地平を新たな視点から照射する画期的文学論。》
野口武彦『江戸のヨブ―われらが同時代・幕末』中央公論新社・1999年
《安政地震・吉原遊女の義捐金、一生くすぶった旗本の私小説、ものみな踊りで終わる幕府の解体…幕末には現代日本があった! 江戸が発信するアナーキーの予言。》(「BOOK」データベースより)
丸谷才一『文章読本』中公文庫・1980年
《当代の最適任者が、多彩な名文を実例に引きながら、豊かな蓄積と深い洞察によって文章の本質を明らかにし、作文のコツを具体的に説く。最も正統的で最も実際的な文章読本。》
野村美月『ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件7』ファミ通文庫・2015年
《「僕はグリンダ=ドイルじゃない」と竜樹たちに告白した矢先、ついに本物のグリンダがその姿を現わした。激しく動揺する聖羅に、「必ず戻って誕生日を祝う」と約束したシャールは、グリンダを追いかけ光の中へ! しかし、メレディスの森で置いてきぼりを食らったシャールが迷い込んだその先は、伝承で語られる二千年前の決戦の真っただ中! しかもシャールが“神託の黄金の天使”だって――!? 大人気ファンタジー家庭教師コメディ、最高潮の第7巻!》
野村美月『ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件8』ファミ通文庫・2015年
《子供たちに胸を張れるような立派な大人になるため、グリンダを残し、エーレンを去ったシャール。だが何とか大学に合格し、外交官になるべく勉強をはじめたものの、ことあるごとに押しかけてくる聖羅に、振り回される日々を送ることになり――!? 十二歳、十四歳、十六歳と成長していく聖羅と、変わってゆく二人の関係。そして二千年前に飛んだ時に見た、十七歳の聖羅との“約束の未来”が訪れて……。大人気ファンタジー家庭教師コメディ、堂々フィナーレ!!》
神奈木智『無敵のLOVE POWER』アイス文庫・2003年
《図書委員の響は、最近貸し出し係が回ってくる日が憂鬱だ。なぜなら…校内でも有名な三人組が、決まって響をかまいに(?)現れるからだ。それも手に手に美味しそうなお菓子やランチをたずさえて…。成績優秀、ルックスよし、性格よしのお金持ちの(ちょっと変わっているけど)澄土、都乃生、浩介の三人がなぜ、自分を構うのか、響にはわからない。黒縁眼鏡、黒髪の地味~な自分の何が彼らのツボにはまったんだろう?中でも都乃生の眼差しは熱くて…。》
栗本薫『緑の戦士』角川書店・1995年
《緑、緑、緑。そこにあまりにも美しすぎる緑色の世界だった。そして人間のように言葉を話す花や木たち。――不思議な異空間フロリウムに迷い込んだちょっと物憂げな女子高生・水村るかは、伝説の花の騎士となり、悪の手によって連れ去られた王女フロラを救うために旅立つ。栗本薫が放つ新たなる冒険ファンタジー!!》
栗本薫『町』角川ホラー文庫・1997年
《新見貴広は、恋人の三島知佳子をドライヴに連れ出した。彼が目指したのは、誰も知らないような小さな町……貴広はそこで知佳子を殺してしまうつもりだった。だがたどり着いた町は、何かがおかしかった。――ここはどこだ。いまはいつなのだ? 町が、俺を見つめている?! そして貴広は、生を持たぬ者たちに囲繞されてゆく――。この世の果ての町に迷い込んだ男の恐怖。待望の書き下ろし長編!》
横田順彌『星影の伝説』徳間文庫・1989年
《ハレー慧星が地球に接近した明治四十三年、東京で若い娘が失踪し、記憶を失って戻ってくるという事件が相ついで起こった。警視庁刑事を兄にもつ黒岩時子の友人も被害にあい、時子に思いをよせる鵜沢龍岳が調査にのり出した。龍岳は、押川春浪主宰の〈冒険世界〉に科学小説を書き始めた新進作家だ。やがて、前回ハレー慧星が接近した時にも、同様の事件があったことをつきとめるが……。会心の書下し長篇!》
栗本薫『さらば銀河1』カドカワノベルズ・1987年
《身長二メートル六〇。体重は五〇〇キロに及ぶ。鋼鉄と合金によって造りあげられた超戦士、その名はブルー。銀河政府が生んだ最強の戦闘用マシン。辺境星区での苛烈な激戦のすえ部下全員を喪くし、彼は僅かな安息を求めクロノポリスへ降りたつ。「ブルー、あなたを探してた」忽然と現れたひとりの女。オリヴィア。天使の如く、王女の如く、七色を映す彼女の瞳に、ブルーは揺れた。曾て人間だった彼の心は何かを求めた。旅の始まりだった。恋。焦燥。喘ぎ。そして鋼鉄の接吻。永く遠い、常闇の孤独への旅。物語はいま、愛に彩られて宇宙へと向かう――。人気絶頂の著者が放つ書下しSFファンタジー、感動は数万光年の彼方へ。》
半村良『黄金奉行』祥伝社文庫・1994年
《“黄金奉行”とは、金山の不正を正すために徳川家康が設けた極秘の職である。代々その役に就く猿渡佐渡守のもとに、羽州天童で大量の辰砂が盗まれたとの報が届いた。辰砂を焼くと金の精錬に不可欠な水銀になる。盗賊たちは金鉱の鉉を見つけたのだ。奉行たち一行は直たに北上した。が、かの地では、天童九郎なる首魁が、奥羽復古に向けて反乱を興さんとしていた!》
持田叙子・髙柳克弘編著『美しい日本語 荷風Ⅰ 季節をいとおしむ言葉』慶應義塾大学出版会・2019年
《季節の和の文化に酔いしれる
永井荷風の生誕140年、没後60年を記念して、
荷風の鮮やかな詩・散文、俳句にういういしく恋するためのアンソロジー。
▼永井荷風「生誕140年・没後60年」記念出版。
▼荷風の美しい日本語を堪能できるアンソロジーを全3巻で刊行。
永井荷風の生誕140年、没後60年を記念して、荷風研究の第一人者で作家・持田叙子、気鋭の俳人・髙柳克弘が、荷風の美しい日本語を詩・散文、俳句から選りすぐり、堪能できる全三巻のアンソロジー。》
内田義彦『社会認識の歩み』岩波新書・1971年
《日本の社会科学の「高度成長」はめざましいが、一般の人にはますますよそよそしいものになっていくのは何故か。マキャヴェリ、ホッブス、スミス、ルソーなど、社会科学史上の結節点に位置する先人たちの知的遺産を読み解く試みを通して、一人一人が自らのうちにどのように社会科学的認識の芽を育てていくべきか、読者とともに模索する。》
黒崎宏『ヴィトゲンシュタインと禅』哲学書房・1987年
《肯定が否定であり、否定が肯定である「即非の論理」こそ禅の公案を解く鍵。これはたとえば、語り得ぬゆえに指し示されるほかない神は、神ではない、ということを証す論理ではないか。前期『論考』に発する論理実証主義、後期『探求』の影響下にある日常言語学派など、現代哲学の源流というべきウィトゲンシュタインの哲学によって禅の核心を解く。》(「BOOK」データベースより)
松本清張『異変街道(上)』講談社文庫・1989年
《幕府直轄の要衝、甲府勤番に役替されたばかりの鈴木栄吾が死んだ。死んだはずの栄吾に会ったという向両国水茶屋の主人が何者かに殺された。栄吾は生きている――、親友、銀之介は真相究明のため甲州街道を西へ馳る。そのあとを女が、そして岡っ引が、謎の影が追いかける。街道に異変がおきている――。》
松本清張『異変街道(下)』講談社文庫・1989年
《隠れ里、台里の秘儀。甲府勤番支配の山根伯耆守江戸屋敷と甲斐を結ぶ面妖な青日明神祠の点と線。絵馬に記された謎の符諜――。甲斐武田氏の隠された金脈をめぐる欲望が、人々を陰謀と殺戮へとみちびいたのか。栄吾の死をうたがう銀之介の目前で手がかりの糸はもつれ切断されて迷宮の深底へひきずりこむ。》
西村京太郎『南伊豆高原殺人事件』徳間文庫・1987年
《東京の神宮外苑で若い女性の暴行死体が発見された。解剖結果から、警視庁捜査一課の十津川警部は、よく似た暴行殺人事件が一週間前にも神奈川県平塚で起きていることに思い当たり、手がかりを求めて亀井刑事とともに、平塚に向った。だが、捜査の裏をかくように第三の死体が発見され、しだいに事件は意外な展開を見せはじめた……。東京―神奈川―南伊豆を結ぶ、人気絶頂の長篇トラベル・ミステリー。》
半村良『江戸群盗伝』文春文庫・1996年
《盗みとはアートなり。悪辣非道なお武家様には、きっちりと盗っ人の意地を見せましょう。立ちむかうはジゴロの間男七之助、忍び込み名人猫足の勘次、情報収集の達人貫太……。誇りのために手練手管の限りを尽す盗賊たちの技の冴え。大江戸の闇のネットワークを描いて、語り口巧みな悪漢小説の逸品です。 解説・清水義範》
五木寛之『スペインの墓標』実業之日本社・1976年
《青春の挫折そして孤独と虚無感に襲われる男たちの満たされぬ日々――ある者は見果てぬ青春の夢を追う。またある者は暗い翳を宿して彷徨する。日常生活に埋没する人々の心のなかの亀裂と不安を、鋭く描く五木寛之傑作小説集!!》
収録作品=スペインの墓標/優しい狼たち/フィクサーの視界/遙かなるカミニト/グラスの舟/夜のシンバル
松本清張『鬼火の町』文春文庫・1987年
《朝霧にかすむ大川に無人の釣舟が浮んでいた。やがて二人の男の水死体が流れ着く。現場の川底にあった豪華な女物煙管は謎を解く鍵か? 反骨の岡っ引藤兵衛にのしかかる圧力の正体は? 藤兵衛を助ける颯爽の旗本釜木進一郎、足をひっぱる悪同心、無気味な寺僧や大奥の女たちを配して江戸を舞台にくりひろげる長篇時代推理!》
柴田元幸・沼野充義・藤井省三・四方田犬彦編『世界は村上春樹をどう読むか』文春文庫・2009年
《村上春樹氏の作品は、初めて海外に紹介されてから20年以上経ち、今や30カ国を超える言語に翻訳されている。2006年には日本で村上作品をめぐる国際シンポジウムが開かれ、17カ国の翻訳家、作家、出版者が各国での「ハルキ事情」を縦横に語り合った。本書は、村上作品の魅力が多面的に語られたこのシンポジウムの全記録である。》
西村京太郎『無明剣、走る』角川文庫・1984年
《徳川綱吉の時代、幕閣の主導権をめぐる柳沢吉保と酒井但馬守との争いに巻きこまれた阿波二十五万石。藩をわがものにせんとする奸賊、江戸家老の野望。幼い藩主を助ける、浪人隼人、闇の棟梁仏の源十郎、豪商鳴門屋重兵衛。阿州剣山に眠る巨額の埋蔵金は、誰の手に? 鬼才が初めて挑む長編時代小説。》
半村良『産霊山秘録』角川文庫・1975年(泉鏡花文学賞)
《本能寺・関ケ原・幕末そして戦後…日本歴史に記録されているいくつもの動乱期。そこでは必ず謎の一族〈ヒ〉が暗躍したと伝えられる。
念力移動・遠隔精神感応……三種の神器を用い、人智を超えたその特殊能力を駆使して動き回る〈ヒ〉。そして今、時は戦国、一族の長、随風は信長に天下を取らせるべく活動を開始、白銀の矢となって全国の忍びのところへ飛んだ。
数百年にわたる〈ヒ〉一族の運命を描き、日本歴史に新角度から壮大な構想で切りこむ著者会心の長編伝奇SF。第一回泉鏡花文学賞受賞作品。》
西村京太郎『十津川警部 トリアージ 生死を分けた石見銀山』講談社文庫・2011年
《「十津川警部に告ぐ。十億円を支払え。さもなければ、石見銀山は爆破され、世界遺産の一つが消える」。犯人からの声明に当惑する十津川。しかし、かつて事件現場で十津川が下した治療順位判断(トリアージ)が原因で、足を切断した被害者が、石見銀山の傍に住んでいることが判明。因縁を感じる十津川。名警部の捜査が始まる!》
エドワード・W・サイード『人文学と批評の使命―デモクラシーのために』岩波現代文庫・2013年
《人文学の危機が現代にもつ意味とはなにか。人文学的価値観はいかにデモクラシーに寄与しうるか。生涯を通して人文主義者を体現したエドワード・サイード。他者の歴史と思想に反映する自己批判からこそ、正確な自己認識が生まれると説き、人文学の真の目的をここに論じる。人文学再生にむけた、サイード最後のメッセージ。(解説=富山太佳夫)》
波多野精一『時と永遠』岩波文庫・2012年
《波多野精一(1877-1950)は、近代日本における宗教哲学を体系的に確立した最初の思想家である。『時と永遠』は、波多野の透徹した哲学的思索の到達点を示す代表作。無常なる現世の時間性を克服する真の永遠性とは何であるのか。永遠への道は、不死性でも無終極性でもなく、「他者」との生の共同、愛の人格的交わりにおいて開かれる。(注解・解説=芦名定道)》
水野和夫『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』集英社新書・2017年
《資本主義の終焉によって、世界経済の「常識」が逆転した。経済成長を追求すると、企業は巨大な損失を被り、国家は秩序を失う時代になったのだ。生き残るのは、「閉じた経済圏」を確立した「帝国」だけである。
「長い21世紀」という五百年ぶりの大転換期に始まる、新しい「帝国」システム。そのもとで、米英・欧州・中露の経済はどう変わるのか? 日本を救い出す方策とは何か?
ベストセラー『資本主義の終焉と歴史の危機』で高い評価を受けたエコノミストが描く、瞠目の近未来図!》
飯島裕子・ビッグイシュー基金『ルポ 若者ホームレス』ちくま新書・2011年
《かつてホームレスといえば、50歳以上の男性が多数を占めてきた。しかし近年、貧困が若者を襲い、20~30代のホームレスが激増している。彼ら「若者ホームレス」は、なぜ路上暮らしを余儀なくされたのか。どのような家庭で生まれ育ち、どんな人生を歩んできたのか。若者ホームレス50人へのインタビューをもとに、若者が置かれている困難な状況を明らかにする。貧困が再生産される社会構造をあぶりだすルポルタージュ。》
岡田温司『マグダラのマリア―エロスとアガペーの聖女』中公新書・2005年
《聖母マリアやエヴァと並んで、マグダラのマリアは、西洋世界で最もポピュラーな女性である。娼婦であった彼女は、悔悛して、キリストの磔刑、埋葬、復活に立ち会い、「使徒のなかの使徒」と呼ばれた。両極端ともいえる体験をもつため、その後の芸術表現において、多様な解釈や表象を与えられてきた。貞節にして淫ら、美しくてしかも神聖な、〈娼婦=聖女〉が辿った数奇な運命を芸術作品から読み解く。図像資料多数収載。》
小池昌代・四元康祐『対詩 詩と生活』思潮社・2005年
《響きあう孤心
ボーニフッテモ カマワナイ
詩意識と生活意識の豊かな拮抗のうちに言葉を紡ぎ出す名手が、その亀裂と融和そのものを手探りする。交錯する2つのいま・ここ。現代詩のフロントラインに立つ注目の詩人が、矛盾と逆説をもって「私」をひらく鮮烈な試み。》
ジャック・デリダ『精神分析のとまどい―至高の残酷さの彼方の不可能なもの』岩波書店・2016年
《著者は、精神分析がその理論(欲動の経済論)に自閉せず自らを制約する彼方(残酷さの彼方)を思考することにより、主権とそれが横暴をあらわにする戦争や死刑とに対抗する言説を紡ぎだすよう促す。精神分析の衰退を背景として開かれた会議(2000年)における真摯で率直な提言であり、彼の倫理的思考の基本枠組みを示す好著。》
横溝正史『真珠塔・獣人魔島』ソノラマ文庫・1976年
《宝石王柚木老人が、全財産を投げうって作った秘宝・真珠塔。そのありかを示す暗号8・4・1は、いったい何を意味するのだろうか――名コンビ三津木俊助と御子柴進少年が、秘宝・真珠塔をねらう怪人金コウモリや、瀬戸内海の小島で世にも奇怪な獣人と対決する、横溝正史の傑作二作品を収録。》
神野紗希『もう泣かない電気毛布は裏切らない』日本経済新聞出版社・2019年
《俳句甲子園世代の旗手、待望の初エッセイ集
恋の代わりに一句を得たあのとき、私は俳句という蔦にからめとられた。
幼い息子の声、母乳の色、コンビニのおでん、蜜柑、家族、故郷……日常の会話や風景が、かけがえのない顔をして光り出す。
人は変わらないけど、季節は変わる。言われてみればそうかもしれない、と頷く。
定点としての私たちが、移ろいゆく季節に触れて、その接点に小さな感動が生まれる。過ぎ去る刻をなつかしみ、眼前の光景に驚き、訪れる未来を心待ちにする。
その心の揺れが、たとえば俳句のかたちをとって言葉になるとき、世界は素晴らしいと抱きしめたくなる。生きて、新しい何かが見たいと思う。(「あとがき」より)》
蓮實重彦『映画時評 2009-2011』講談社・2012年
《「身震いするほどの甘美な錯覚」
「目頭を熱くしての祝福」
「傑作とよぶことをためらうほどの途方もなさ」
3年間に見続けた、映画という名の奇蹟の数々
『チェチェンへ アレクサンドラの旅』/『我が至上の愛~アストレとセラドン~』/『チェンジリング』/『オーストラリア』/『グラン・トリノ』/『四川のうた』/『それでも恋するバルセロナ』/『私は猫ストーカー』/『セントアンナの奇跡』/『サブウェイ123 激突』/『アンナと過ごした4日間』/『イングロリアス・バスターズ』/『パブリック・エネミーズ』/『ユキとニナ』/『インビクタス/負けざる者たち』/『アバター』/『ノン、あるいは支配の空しい栄光』/『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』/『アウトレイジ』/『シルビアのいる街で』/『何も変えてはならない』/『ブロンド少女は過激に美しく』/『ナイト&デイ』/『クリスマス・ストーリー』/『ゴダール・ソシアリスム』/『アンストッパブル』/『ヒア アフター』/『ファンタスティック Mr.FOX』/『引き裂かれた女』/『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』/『奇跡』/『SUPER8/スーパーエイト』/『エッセンシャル・キリング』/『ツリー・オブ・ライフ』/『ザ・ウォード/監禁病棟』/『ミカエル』》
和田誠・三谷幸喜『それはまた別の話』文春文庫・2001年
《ビリー・ワイルダーについての対談相手に「三谷幸喜さんは?」といわれ「大賛成!」と答えた和田氏。中学のときに『お楽しみはこれからだ』を読んで以来、和田フリークを自任する三谷氏。出会うべくして出会った二人が「裏窓」から「トイ・ストーリー」、「ダイ・ハード」まで、映画マニアかつ実作者という立場から、ウラのウラまで語り尽くした対談集。》
投稿情報: 10:02 カテゴリー: このひと月くらいに読んだ本の書影 | 個別ページ | コメント (0)
『明朝体』は森下秋露(1976 - )の第1句集。序文:小澤實。
著者は「澤」同人。
使ひ捨てカイロ固まる毛羽立ちて
イグアナの尻尾床暖房の上
キャッシュカード我が名の突起冷たしよ
戻したる干椎茸や絞れば鳴る
釜揚げのしらす柔しよ飯粒より
トロ箱に蛸伸びきるや剥がせざる
子の口をあふるる母乳日脚伸ぶ
ピアスの穴ふさがりかけや新社員
骨折の先輩見舞ふ日焼の子
換へし花かさりと鳴るや墓参
腹と腹合はせ授乳や明易き
警官のメッシュのベスト躑躅咲く
嬰泣くや柚子湯の柚子の寄り来れば
プールサイドに尻の跡あり皆立てば
サングラス畳まれ右の蔓が上
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『椎拾ふ』は藤永貴之(1974 - )の第1句集。序文:本井英。
著者は「夏潮」運営委員。
沈丁花鍵を取り出すとき匂ふ
飛魚の飛びつゝ曲がり行けりけり
噴煙を立たせて霧の晴れにけり
穴惑流れに落ちて流れけり
スリッパに海女の名マユミ、カズ、ヒデヨ
塵取にとられし雹やくつゝきあひ
ホームセンター裏とはなりぬ墓洗ふ
桐一葉塀をこすりて落ちにけり
榾の火を熱しと猫の目つむれる
割箸でつまめば硬し土瓶割
春燈の楼閣なしてフェリー航く
種池に軒灯暗く点りたる
線分を短く星の飛びにけり
実朝のそして公暁の忌なりけり
山裾に沿うて落ちゆく冬日かな
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
装幀として懐かしいものは眉村卓と筒井康隆の再読を除くと今回はそんなになかった。
新城貞夫『前奏曲―魂には翼がある』、日原正彦『詩集 降雨三十六景』、八木幹夫『郵便局まで』はそれぞれ版元または著者から寄贈いただきました。記して感謝します。
赤江瀑『獣林寺妖変』講談社文庫・1982年
《関ケ原合戦のおり、千数百名の軍兵の血を吸って落城した伏見桃山城。その床板を使った洛北の禅寺・獣林寺の血天井を学術調査中、ルミノール鑑定にひときわ青く燃えたって発見された、新しい血の斑痕……歌舞伎の魔に挑み、燃え朽ちていった魂の咆哮を描く表題作のほか、「ニジンスキーの手」「禽獣の門」「殺し蜜狂い蜜」の阿片的魅力の代表作三篇も収めた、伝奇ロマン傑作小説集。》
収録作品=獣林寺妖変/ニジンスキーの手/禽獣の門/殺し蜜狂い蜜
花果唯『BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました』ビーズログ文庫アリス・2017年
《男子高校生・天地央は気がついた。ここが前世の自分=腐女子が愛したBLゲームのクリア後の世界で、しかも主人公の弟に転生したことに! 兄の情事を覗けると喜ぶも、失恋した攻略キャラ達のその後も気になる! 彼らの新しい恋(ただしBLに限る)を見守ることこそが我が使命! と燃える央……だが気づけばクーデレな新キャラ相手にイベント発生?? 生BLを拝めるご褒美ポジが一転、メインキャラに昇格!!? 》
野村美月『ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件』ファミ通文庫・2012年
《『グリンダ・ドイルを廃業する』そんな言葉を残して、“万能の天才”グリンダは、同盟国への派遣を目前に失踪した。このままでは国際問題に――というわけで身代わりとして白羽の矢が立ったのが、グリンダの双子の弟、つまりこの僕、シャールだった。いや無理! 僕男だし! 天才の姉と違ってニート予備軍の浪人生なのに! 抵抗も虚しく女装させられ、同盟国の王様一家の家庭教師をやることに……!? ファンタジー家庭教師コメディ待望の文庫化!》
野村美月『ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件2』ファミ通文庫・2012年
《失踪した双子の姉、"万能の天才"グリンダ=ドイルの替え玉として、女装してエーレン王室の家庭教師をするはめになった僕、シャール(♂)。紆余曲折の末、王子や姫たちと仲良くはなれたけど、今度はなんと竜樹王子とイケメン騎士ギルマーから、同時に愛の告白をされてしまう! 突然のモテ期が――って男にモテても嬉しくない! 聖羅からは白い目で見られるし、アニスはお泊まりにやって来るし、一体どうすれば――!? ファンタジー家庭教師コメディ第2巻!》
野村美月『ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件3』ファミ通文庫・2013年
《天才の姉・グリンダの替え玉として、女装して同盟国エーレン王室の家庭教師を務めている僕、シャール(♂)。濡れ衣を着せられたアニスのため、密室事件の謎を解くハメになったり(僕に名探偵役は無理!)、子供たちを引率してお祭りに行くことになったり(何故か僕を巡って竜樹王子と聖羅が張り合ってる!?)、今日もトラブルの種は盛りだくさん! けれどそのお祭りには、本物のグリンダが現れるという情報があって――。
ファンタジー家庭教師コメディ、第3巻!!》
野村美月『ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件4』ファミ通文庫・2013年
《女装しての替え玉家庭教師生活にも慣れてきた僕、シャール。そんな僕を男と知らず慕ってくる竜樹王子に隣国から縁談が!? 是非これを機会に、真っ当に女の子と恋愛して欲しい。応援する気満々だったけど、やってきた姫が――うわぁ、アレ、何!? 竜樹王子は真っ青だし、双子達は僕を巻き込んで撃退作戦を練り始めるし、ど、どうしよう!?
聖羅との甘々短編「エーレン王室式・新婚さんゴッコ」等、番外編も盛り沢山のファンタジー家庭教師コメディ、第4巻!!》
宇田賢吉『電車の運転―運転士が語る鉄道のしくみ』中公新書・2008年
《時速一〇〇キロ以上の速さで数百トンの列車を率いて走行し、時刻通りにホームの定位置にピタリと停める......。このような職人技をもつ運転士は、何を考え、どのように電車を運転しているのだろう。また、それを支える鉄道の仕組みとはどのようなものだろう。JRの運転士として特急電車から貨物列車まで運転した著者が、電車を動かす複雑精緻なシステムと運転士という仕事をわかりやすく紹介する。》
新城貞夫『前奏曲―魂には翼がある』コールサック社・2019年
《一九六五年当時の沖縄は米軍占領下であり、沖縄戦の悲劇に加えて膨大な米軍基地に取り囲まれながら、新城氏はニーチェを手掛かりにして国家や社会や宗教などの支配から逃れようと、根源的な自由を「前奏曲」を響かせるように軽やかに書き記していたに違いない。(鈴木比佐雄「解説」より)》
神香うらら『白薔薇王子~意地悪従者と淫らな呪い~』プリズム文庫・2011年
《ブランドル王国の第三王子・ニコルは、白薔薇を思わせる美貌の青年。最近の密かな悩みは、幼い頃から仕えてくれている側近のランスロットを無性に意識してしまうこと…。そんなある日、旅先の森で『乙女の乳首』という可憐な花を手折ったニコルは、魔女に呪いをかけられてしまう。それは、夜ごと乳首が疼き、男性のあるものをかけなければ鎮まらないという破廉恥極まりない呪いで…❤》
野村美月『ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件5』ファミ通文庫・2014年
《女装&替え玉な家庭教師生活ももう半年ほど。生徒たちに懐かれたのは嬉しいけれど、聖羅が毎日メイド服を着て、お茶を淹れてくれるようになったのは絶対マズイ! それ以外にも、真面目で一途過ぎる竜樹王子に、ブラコン気味の更紗姫、その更紗姫にベッタリな織絵姫、お母さんっ子の真王子……特定の相手しか目に入らない問題児ばかり。彼らの世界を広げるため、“先生”として一計を案じた僕は――。ファンタジー家庭教師コメディ、好評第5巻!》
ライアル・ワトソン『アフリカの白い呪術師』河出文庫・1996年
《探検家の書き記した旧きアフリカに憧れ、十六歳で未開の奥地へと移り住んだイギリス人がいた。エイドリアン・ボーシャというその青年は、てんかん症とヘビ取りの才能が幸いして、白人ながら霊媒・占い師の修行を受け、アフリカの内なる伝統に迎え入れられた。
人類の三〇〇万年の進化を一人で再現することとなった男の驚異のドキュメント!》
辻真先『酔いどれ探偵李白―幻説楊貴妃』トクマ・ノベルズ・1994年
《唐は玄宗皇帝の治世。開元の治とうたわれた名君も政に倦み、楊貴妃にうつつをぬかす始末。悪宰相・李林甫の死因に毒殺説が流れ、警備にあたっていた方術士・葉法善に嫌疑がかかった。汚名をすすいでほしいともちかけられたのは詩仙・李白だ。宮廷を追われ、江南を旅していた詩人は再び長安の土を踏み、調査に乗りだす。厳重な護衛下にあった宰相を誰がどうやって殺害したのか? 折しも安禄山の乱が王朝を震撼させる。殺人事件の背後に、唐を滅亡へと導く大陰謀が隠されていようとは!! 酒豪詩人・李白の名推理!》
栗城偲『後輩が目を合わせてくれません』プラチナ文庫・2016年
《映研の後輩・主税と目が合わない。仲が良かった後輩の態度に落ち込む航流は、彼からの突然の告白に茫然とした。が、やっぱり目が合わない! 問い詰めると、好きすぎて緊張して顔が見られないと言う。呆れる航流だったが、抱きついて互いの顔が見えなければ平気と知り、慣れるまでくっついて過ごすことにした──けど、だからって電車の中でケツ揉むか!? このムッツリえっち!》
水上勉『爪』中公文庫・1975年
《縁日の夜、東京の下町から失踪した若い女性の死体が、北近江の余呉湖・で発見された。その爪を彩るピンクのマニキュアは何を物語るのか――終戦直後の混乱した社会状況を背景に、謎ときの興味をこえて深い人間の業を描く推理小説の傑作。》
西村寿行『汝は日輪に背く』徳間文庫・1987年
《一匹狼のヤクザ宮田雷四郎は、母の静代にせがまれシルクロードへと旅立ったが、数日後、静代はチベット山中で半狂乱のところを保護された。「雷四郎が殺された。警視庁の白川さんへ」とだけ言い残してだ。
かつてボルネオでの日本人誘拐事件で雷四郎とも知り合いだった白川と医師の剣持は仇を討つべくネパールへ飛んだ。だがそこは、密教と性交秘画の、妖しい禁断の地であった……。鮮烈のバイオレンス巨篇。》
水上勉『静原物語』中公文庫・1975年
《昭和十六年四月。桜の花のほころび初める洛北静原の里で、ひとりの男の死を追って、ひとりの女がみずからの若いいのちを断った――。蛇性の化身に渦巻く〈愛〉と〈業〉の修羅を描いて、水上文学に新しい境地をひらいた意欲作。》
かんべむさし『奮戦!リストラ三銃士』徳間文庫・2000年
《早期退職優遇制度で会社を辞めたが、再就職先の話が宙に浮いてしまった、大手電機メーカー課長の平田。上司にセクハラを受け、やむなく退職した春名さち子。高校中退、転職歴無数、ようやく落ち着いた印刷会社は社長が夜逃げ、バッグ一つで大阪から上京してきた長吉。そんな三人が出会って考えた。自分たちで会社を作り、いろいろなアイデアを売り込もう。しかし……。抱腹絶倒、長篇ユーモア小説。書下し。》
ウイルヘルム・ヴォリンガー 『ゴシック美術形式論』岩崎美術社・1968年
《ヨーロッパ中世に花開き、大聖堂で頂点を極めた「ゴシック美術」はどのように産み出されたのか? ドイツを代表する美術史家が、芸術を創造する人類の根本的衝動にまで遡り、ゴシックの内奥に潜む情念を鮮やかに描き出す。『抽象と感情移入』に続く主著。》(「BOOK」データベースより)
四方田犬彦『「かわいい」論』ちくま新書・2006年
《世界に冠たる「かわいい」大国ニッポン。キティちゃん、ポケモン、セーラームーンなどなど、日本製のキャラクター商品が世界中を席巻している。その市場規模は二兆円ともいわれ、消費社会の文化商品として大きな意味を担うようになった。では、なぜ、日本の「かわいい」は、これほどまでに眩しげな光を放つのか?本書は、「かわいい」を21世紀の美学として位置づけ、その構造を通時的かつ共時的に分析する、はじめての試みである。》
菅野昭正編『九鬼周造随筆集』岩波文庫・1991年
《『「いき」の構造』で知られる哲学者九鬼周造(1888‐1941)は、また情趣に満ちた味わい深い随筆の書き手でもあった。敬愛していた岡倉天心の思い出と母への慕情とが幼い日の回想のうちに美しく綴られた「根岸」「岡倉覚三氏の思い出」、偶然論を語りながら人生の無常に思いをはせる「青海波」など、24篇を精選した。》
水上勉『沙羅の門』中公文庫・1977年
《琵琶湖畔の古刹の一人娘千賀子が男友達とのゆがんだ愛に走ったのも、父と若い継母との同衾中をかいまみたからだったか――沙羅の木の花の香に殉じた奔放な女の底深い業を美しく哀しく描く長篇。》
カント『啓蒙とは何か』岩波文庫・1950年
《『プロレゴーメナ』を書き終えてから10年の間に発表した彼の歴史哲学に関する小論5編を収める。啓蒙とは何か、人類の進むべき道、人類の起源、世界の終わり、理論としては正しいが実際には役立たぬという批判などの興味あるテーマを、かれの哲学的原理を応用、一般の読者を対象に解りやすく論じたものである。》
古田博司『ヨーロッパ思想を読み解く―何が近代科学を生んだか』ちくま新書・2014年
《なぜヨーロッパにのみ、近代科学を生み出す思想が発達したのだろうか。それは「この世」の向こう側を探る哲学的思考が、ヨーロッパにのみ発展したからなのだ。人間の感覚器官で接することのできる事物の背後(=向こう側)に、西洋人は何を見出してきたのだろうか。バークリ、カント、フッサール、ハイデガー、ニーチェ、デリダらが繰り広げてきた知的格闘をめぐって、生徒との10の問答でその論点を明らかにし、解説を加える。独自の視点と思索による、思想史再構築の試み。》
磯崎新『造物主義論―デミウルゴモルフィスム』鹿島出版会・1996年
《デミウルゴスは「ティマイオス」においては造物主、グノーシス主義においては神の他者、フィチーノにおいては芸術家、フリーメーソンでは大宇宙の建築家、ニーチェにおいてはツァラトゥストラと姿を変えて語られてきた。そして今日ではテクノクラートのなかにエイリアンのように寄生しているようにみうけられる。自らが産出した『建築』を、その出自と振舞いを確認するために召換されたにもかかわらず、ときに、デミウルゴスは『建築』を扼殺しようと試みもする。》(「BOOK」データベースより)
松村秀一『ひらかれる建築―「民主化」の作法』ちくま新書・2016年
《ケンチクとタテモノ―─。近代的夢の象徴としてイメージされてきたケンチクと経済行為として営々と生産されてきたタテモノ。一九七〇年代半ばに「建築家」を志して以来、つねにそのあいだで葛藤してきたが…。二一世紀、局面は大きく変わった──。居住のための「箱」から暮らし生きるための「場」へ。私たちの周りに十分すぎるほど用意された「箱」は今、人と人をつなぎ、むすぶ共空間<コモン>を創造し、コミュニティとなる。これからあるべき「ひらかれる建築」の姿を、「民主化」をキーワードに、関わった「三つの世代」の特徴と変遷から描き出す。》
陣内秀信『東京―世界の都市の物語』文春文庫・1999年
《世界第二の経済大国、日本の首都・東京。ハイテクの先端をいくこの都市は、またアジア的な巨大な迷宮でもある。江戸、明治、大正、昭和、平成と400年に及ぼうとする首都としての歴史がいまも生き続けている。高層ビルの谷間で垣間見る江戸の風情、下町に息づく「水の都」の伝統……。歴史、文化を通して捉え直す東京再発見ガイド。》
浅倉久志編『世界ユーモアSF傑作選1』講談社文庫・1980年
《ほんのりとしたユーモアをちりばめて宇宙のかなたから送られてきた笑いのSFカクテル16種――「終わりの始め」「ベムがいっぱい」「美味球身」「魔王と賭博師」「おれと自分と私と」「かわいそうなトポロジスト」など、バラエティーに富んだ作品群から、きみ好みのすてきな“笑い”を発見しよう。》
収録作品=終わりの始め(チャード・オリヴァー&チャールズ・ボーモント)/ベムがいっぱい(エドモンド・ハミルトン)/美味球身(ラリー・アイゼンバーグ)/魔王と賭博師(ロバート・アーサー)/おれと自分と私と(ウィリアム・テン)/かわいそうなトポロジスト(シリル・M・コーンブルース)/呼吸のつづく狒々がいて(アーサー・エディントン)/ノーク博士の島(ロバート・ブロック)/コンピューターは問い返さない(ゴードン・R・ディクスン)/宇宙三重奏(ロバート・シェクリイ)/主観性(ノーマン・スピンラッド)/コフィン療法(アラン・E・ナース)/ガムドロップ・キング(ウィル・スタントン)/夢は神聖(ピーター・フィリップス)/進めや、進め!(フィリップ・ホセ・ファーマー)/女嫌い(ジェームズ・E・ガン)
笹沢左保『結婚関係』集英社文庫・1980年
《愛想の尽きた夫を殺した40代の妻、秘かにアパートを借りて孤独を楽しむ30代のエリート亭主、姑に苛立ち浮気をする20代の若妻。そんな3人に突然、脅迫の電話がかかってきた。しかも同一人物かららしい。何の関係もなかった3組の夫婦が、意外な糸で結ばれてゆく……。さまざまな結婚を通レ信頼し得る愛の型を問う異色サスペンスロマン。》
小此木啓吾『エロス的人間論―フロイトを超えるもの』講談社現代新書・1970年
《現代ほど「人類の進歩」が問われている時代はない。世代の断絶、家族の解体、歴史意識の喪失、自然の破壊など高度に発達した現代社会は、多年にわたる人間への信頼を無残にもうちくだいてしまったかのようにみえる。そんなとき、人間はいかにあるべきなのだろうか。本書はフロイト、ライヒ、フロム、マルクーゼなどの人間分析の歴史をたどり、いままでの社会を支えていた合理主義的自我人間ではなく、人類誕生以来ずっと存在していた自然人に注目する。その自然人という見方、すなわちエロス的人間観こそ、繁栄と進歩という幻想のなかで、生の不安におののく現代人に新しい方向を約束する。》
荒巻義雄『紺碧の艦隊13―印度洋地政学』トクマ・ノベルズ・1994年
《現在、印度戦線は、一気に錯綜しつつあった。虎狩作戦実施の電文を受けた紅玉艦隊から発進した新型奇襲機・鮫龍が、ロンメル控えるデリー司令部の空襲に大成功。見事に中枢を麻痺させたことにより、敵前線部隊は情報的に完全に孤立化した。今こそ、秘本兵法『三十六計』の第六計“声東撃西”の策の出番である。東に声んで西を撃つ――敵を攪乱し、錯覚させるために、後世日本陸軍が仕掛けた妙手とは……? ますます激化する日独攻防戦、ついに陸上戦に突入す。超人気の〈紺碧〉シリーズ第13弾!!》
荒巻義雄『紺碧の艦隊14―史上最強内閣』トクマ・ノベルズ・1994年
《照和二三年五月三日――後世日本では、再び総選挙が実施された。任期を残してのこの国政選挙は、大高首相の決断によるものである。長期安定化した政権にもかかわらず、あえて衆議院を解散したのは、日米講和成立により、後世世界大戦の戦局が第三段階に突入した、と判断したからである。根本的な世界構造の大変革の到来を皮膚で感じた大高は、来るべき新局面に備えるために、国家の再構築を行なおうというのである。数日後、国民の圧到的支持を得て選挙に大勝利し、発足した史上最強の新内閣の全貌とは……?》
荒巻義雄『紺碧の艦隊15―印度南方要塞』トクマ・ノベルズ・1994年
《照和二十三年七月――激務の疲れを癒やすために箱根の別荘に来ていた大高首相は、太正五年に発行された『日本征服』という独逸の翻訳書に見入っていた。四半世紀以上前に書かれた奇書の予言が、現在の後世世界に酷似していたのである。しかも独逸がいずれソ連と同盟する可能性があることすら示唆していた。さらに深まる戦局の難解さと世界平和への道のりの遠さを実感していた矢先、ロンメルが直接、指揮をとるため、デリーからバンガロールに到着したとの報らせが入り……。ついに南印度で日独大激突、勝敗はいかに?》
眉村卓『天才はつくられる』角川文庫・1980年
《恐るべき天才少年少女のグループがあらわれた! 彼らはテレパシーを修得し、念力で自由に物を動かしテストでも抜群の成績を修めている。が、彼らは、何か巨大な悪の企みを抱いているらしい……。
ある日、ひょんなことから、ちょっぴり超能力を身につけた史郎にも、グループに入るように誘いがきた。そして、断わった史郎に、彼らは命を取ると脅しをかけてきたのだ。史郎は、友人の敬子とともに、天才グループと断固闘う決意を固めたが……。
スリルあふれる、学園SFサスペンスの傑作。「ぼくは呼ばない」を併録。》
収録作品=天才はつくられる/ぼくは呼ばない
眉村卓『出たとこまかせON AIR』角川文庫・1979年
《さあさあ皆さん始まりだよ!
ぶっつけ本番、出たとこまかせ!
ワルのり、気まぐれ、苦しまぎれ!
突飛で変てこりんで愉快なお話!
――そばつゆ甘いかしょっぱいか?
――過去は何色? そして未来は?
――金言、格言をウラから見れば?
SF的発想と、ユニークな知識が満載されたこの一冊で、あなたは楽しみながらインテリジェンスを磨くことができる。さあこの「出たとこまかせON AIR」に、ピタリとチャンネルを合わせてみましょう。》
筒井康隆『串刺し教授』新潮文庫・1988年
《崖から転落して鉄柵の尖端に串刺しにされた大学教授を目撃したガソリン・スタンドのサーヴィスマンが最初にしたことは? 写真週刊誌時代の未来を予見した作品として「東海道戦争」などと並ぶ表題作。やくざが女学生の言葉で会話し、女学生が中年紳士の言葉で会話し、中年紳士が主婦の言葉で…会話する「言葉と〈ずれ〉」。人間がきつねをだます奇怪至極の「きつねのお浜」など全17編。》
収録作品=旦那さま留守/日本古代SF考/通過儀礼/句点と読点/東京幻視/言葉と〈ずれ〉/きつねのお浜/点景論/追い討ちされた日/シナリオ・時をかける少女/退場させられた男/春/妻四態/風/座右の駅/遙かなるサテライト群/串刺し教授
筒井康隆『48億の妄想』文春文庫・1976年
《この地球上に住む48億の人間のうち、いったい正気なのは誰か。少なくともその大部分が同じ幻想に捉われているとしたら、それを描く新しい「共同幻想論」を書くのが現代の文学者の務めであろう。テレビ絶対の時代、テレビに踊らされる人間、マスコミを痛烈に諷刺した筒井康隆の画期的な処女長篇小説。 解説・平岡篤頼》
荒巻義雄『紺碧の艦隊16―敗戦の予感』トクマ・ノベルズ・1995年
《照和二十四年六月――大高首相は日本の負ける夢を見た。このところ、頻繁に同じ夢を見ていた。正夢か、逆夢か。願わくは逆夢であってほしいが、先のことはわからない。国内・国外ともに問題が山積しており、解決への道は程遠い。いずれにせよ、近いうちに国民国家の時代は終わるというのが、大高の見通しであった。国民国家が歴史のある発展段階で終わらざるをえないのは、国民国家の宿命でそれが戦争の原因になるからである。時代は急速に暗雲たちこめり先行きがまったく見えない状況――大高の選択はいかに?》
投稿情報: 15:13 カテゴリー: このひと月くらいに読んだ本の書影 | 個別ページ | コメント (0)
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