閑中俳句日記(別館) -関悦史-
日々つれづれの中、目にした句集などについて取り上げていきます。
2013年7 月26日 (金)
「鏡」第9号(2013年7月)
「鏡」(発行編集:寺澤一雄)第9号(2013年7月)から。
夕顔や書斎の古代硝子壜 笹木くろえ
謎多き人の年譜や濃紫陽花 森宮保子
勝つためにできることなし走り梅雨 東 直子
さやうなら魔術のやうにビール注ぐ 佐藤文香
盛装の男炎帝より戻る 寺澤一雄
ガムランのゆるき重さや熱帯夜 村井康司
先日、ツイッターで
北区好きな俳人が意外と多い
のに驚いたが、「鏡」の発行所も北区だった。
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Talking Heads - Lady Don't Mind
「儒艮」vol.2(2013年8月)
「儒艮」(編集発行:久保純夫)vol.2(2013年8月)から。
松下カロの桑原三郎論「暴力としての言葉」等掲載。
身に余る乳房のふたつ短夜 久保純夫
(「藤田嗣治を眺めながら」)
少年の白きスーツや日雷
白桃やなかの胎児が透けてゆく
個人誌なので以下は全て招待作品。
空耳のはじまる赤きかき氷 仲田陽子
尺蠖が休んでいたり肩の上 城貴代美
少女から少女へ投げし杜若 松下カロ
百歳の怪人うようよ五月闇 藤川游子
メンバーの厳選さるる茸狩 岡田由季
ソーダ水カンブリア紀の無言劇 木村 修
黒揚羽天皇陵に消えにけり 杉浦圭祐
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Miles Davis Group 'Berlin 1971'.flv
「川柳カード」3号(2013年7月)
「川柳カード」(発行:樋口由紀子、編集:小池正博)3号(2013年7月)から。
特集は「2010年代の川柳」で、飯島章友、湊圭史、きゅういち、兵頭全郎が寄稿。
後記によると、9月28日に大阪で「川柳カード」第2回大会があるらしい。ゲストに俳人の佐藤文香。
おぼろ夜の椅子の数だけ臀部あり 榊 陽子
ブタクサの視線の中で国造り 小池正博
経営コンサルタントさんはセロテープ 石田柊馬
電流はひそかに眠るものたちへ 広瀬ちえみ
家系図を広げS席埋め尽くす 平賀胤壽
古書店が奈良を盗んだようにある 筒井祥文
眉剃って水琴窟になっている 清水かおり
殴らせて拳骨の中身を当てる芸 湊 圭史
墨摺って正気になってしまったわ 草地豊子
馬車馬が初めて馬車を見た日の午後 兵頭全郎
独楽まわる闇をどんどん深くして 前田一石
どこからでも見えてだれも見ない家 松永千秋
スプーンを曲げた直後に息絶える 丸山 進
退屈でひっぱってみる兎の毛 樋口由紀子
会員作品欄に西原天気さんがいる。
A子さん(40歳・河童) 西原天気
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Helikopter-Streichquartett (Helicopter Quartet) [Full Piece] - Karlheinz Stockhausen (
カールハインツ・シュトックハウゼン
作曲
ヘリコプター弦楽四重奏曲
)
「円座」2013年8月号
「円座」(発行:武藤紀子、編集:中田剛・小川もも子)2013年8月号から。
春鹿となり訪ね来よ東大寺 武藤紀子
風薫る植えしばかりのオリーブに 中田 剛
麻薬犬の嗅いでゆきたるサングラス 秋山百合子
新じやがの玉のごときをふかしけり 狩谷洋子
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Anton Bruckner Symphony No 6 A major
Kent Nagano
Montreal Orchestra
2013年7 月17日 (水)
「里」2013年7月号
「里」(編集・仲寒蝉、発行・島田牙城)2013年7月号から。
何度か続けて投句してきた佐藤文香選句欄の「ハイクラブ」だが、先月妙にいろいろ句の締切が重なってしまって、私は欠詠。
手の蟻を見つめてをりぬ認知症 美月
バーコード読み取る音や梅雨晴間 秋山菜穂
瓶のなか蝶とぶすごく大きな瓶 上田信治
筍飯炊けば仏壇カタと鳴る 小林苑を
ちひさくてむらさきの花砂に触れ 佐藤文香
五月雨の萬粒同じ村の中 島田牙城
美しき廃墟となりぬ蝸牛 月野ぽぽな
林檎より銅の器が光受く 九里順子(特別作品「静物」から)
以下、佐藤文香選句欄「ハイクラブ」から。
今回は上田信治さんが6句採られて巻頭。
蛸の目のきろりと動くだいぶ嫌 上田信治
麦藁帽子のつばがぶつかるくらい近く 福田若之
行くも帰るも世界の夏の生足よ 高山れおな
緑陰のほかは全体的に池 石原ユキオ
月浴びて少年となる蝮かな 坂本 丹
男波弘志氏が「Respect to the 句集」コーナーで私の
『六十億本の回転する曲がつた棒』
を評してくれているが、
『新撰21』
の拙作を陰惨に感じて、ずいぶん苦手意識を持たれていたらしい。
《しかし『六十億本の回転する曲がつた棒』に収められた句群を、関氏が現代の風俗に眼を外さず、それに真つ向から突進してゆく姿を見たとき、私自身が現在に眼を背けて理想郷にのみ耽溺しているのではないか、との反問が起りつつあるのである。》
最後の部分で祖母介護中の句
《ズボン上げてやつて乳房が見えてしまふ 関悦史》
を引き、これを男波氏が、私の母の死と重ね合わされているのではないかと読んでいた。
句集の情報だけからではたしかに私の母は生死不詳なので補足しておくと、私には生母と継母がべつべつにおり、前者はどこかで生きているのだろうと思うが、こちらが二八歳の時に一度会ったことがあるだけで、もう顔を合わせてもおそらくわからない。
後者は(中三の時まで、私はこの継母を実の母と思わされてきたのだが)、膠原病の長患いの末、数年前に亡くなった。
この継母とも私は幼時に一年足らず同居した期間があるだけで、以後親戚の間を転々とし、五歳から先は祖母に引き取られて育ったので、要するに「母」は両方ほぼただの他人である。
なので私は他の人のいう「母さん」「おふくろ」なるものがどういうものであるのか、実感としては全くわからない。
この辺の話は、テレビの『Edge2』に出た折にも少しした。
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A Y.M.O. FILM PROPAGANDA '84 - Solid State Survivor
2013年7 月13日 (土)
「ジャム・セッション」第3号(2013年6月)
「ジャム・セッション」(編集発行・江里昭彦)第3号(2013年6月)から。
江里昭彦と、中川智正死刑囚2人の同人誌だが、第3号はゲストとして高木晶子の10句が巻頭に。
梅雨の傘うねり無遅刻無欠勤 高木晶子
中川、江里はそれぞれ16句、8句と、エッセイを掲載。
河馬にさも似ん 服薬確認に口開けて 中川智正
雨含み雲湧く 松本の夜のごとく
中川智正の句は長い前書きを持つものが多く、1句目には以下の前書きあり。
《動物園の河馬は、歯を磨いてもらうとき、口を開けていた。拘置所にいる私は、配られた薬を確かに呑んだかどうか、刑務官に口を開けて見せなければならない》
エッセイには立て替え以前の拘置所の話が出てくる。虫が多いが、猫も餌をねだりに来たようだ。
《餌をやってはいけないという規則が印刷されてありましたので、そういう事をしていた人も沢山いたのでしょう。実際、猫に餌をやったために、一人部屋の中で何日かじっと座り続ける懲罰を与えられた人もいました。猫は窓毎に収容者が違うということも知っていました。また、私が餌をやらないと分かったら、二度と窓枠には乗ってきませんでした。》
心臓のような球根平壌(ピョンヤン)へ 江里昭彦
はばたきを聴くため母と橋に佇(た)ち
*
「ジャム・セッション」は年2回のみ発行、部数は250部、しかも非売品。
江里氏のあとがきによると、この禁欲的な数字は、遺族の処罰感情などに配慮し、死刑囚作品の発表の仕方に一定の節度を求めるべく、あえて課したものという。
江里氏本人は普段インターネットはやらないそうなのだが、外山一機氏と私がネットに記事を上げたので、それを見て問い合わせた人が何人かいたらしい。
読まれたい(であろう)作者と、発表時の節度とのジレンマを緩和する可能性を江里氏はネットに見出している。
「らん」No.62(2013年夏)
「らん」(発行・鳴戸奈菜、編集・五十嵐進、西谷裕子、皆川燈)No.62(2013年夏)から。
特集は「金原まさ子第四句集『カルナヴァル』を読む」で、月犬、M・M、嵯峨根鈴子の句集評と、他の同人たちによる一句鑑賞(金原まさ子は以前から「金子彩」の名で「らん」に参加している)。
丑丸敬史が「一身上の都合」で退会。
日記には白い俳句が眠っている 五十嵐進
月光がでで虫を抱きだきころす 金子 彩
ウエットティッシュ百箱うかぶ春の海
キッチンに柳の精はもういない
疾走の虻に飛び去りとびさりぬ
母が来てレモンを投げる河童の忌 久富風子
カラオケに仏壇震へをり旧家 腐川雅明
サーファーの倒れて海のしばし白
恋か愛かそれが気になる蝉の殻 鳴戸奈菜
薪能首の当りを狙いけり 藤田守啓
朧夜の海へ電話をかけている 皆川 燈
こちら地球めざしの裏にバーコード もてきまり
きさらぎのはじめは天目茶碗かな 森川麗子
消しゴムで消すミヤコ・ホテルの春灯 山口ち加
ゲシュタポはタンポポならず裏の駅 結城 万
地中海色と決めけりサングラス 片山タケ子
生臭きこゑを残して白鳥は 九牛なみ
リラ冷えの人入れて立つチェロケース 嵯峨根鈴子
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Daniele Roccato - INTERFERENZE - A Tribute to Jimi Hendrix
「絵空」vol.4(2013年夏)
「絵空」vol.4(2013年夏)から。
土肥あき子、中田尚子、山崎祐子、茅根知子の4人の同人誌。
蒸籠ごと出されてゐたる柏餅 土肥あき子
草矢放ちたり硝子の砕けたり 中田尚子
形見とは黴に好かれてしまふもの 山崎祐子
夕立の後の大きな硝子窓 茅根知子
茅根知子の連載「いわき吟行」その4では、去る5月3,4日に行われた大國魂神社例祭(神輿が海にザブザブ入っていくので神輿渡御祭、浜降りなどとも呼ばれる)の模様が日記風に書かれていて、ツアーに参加した四ッ谷龍さんと私の名も登場。
下の動画は市民会館での上演らしいが、宵祭でこれが大國魂神社の社殿と向かい合わせになった舞台で奉納されるのを見てきた(演者も多分同じ人)。
この時の模様を私はICレコーダーに実況風に吹き込んでいたのだが、編集が面倒でそのまま放置してある。
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大國魂神社大和舞(福島県いわき市)
2013年7 月11日 (木)
「井泉」第52号(2013年7月)
「井泉」
(編集発行・竹村紀年子)第52号(2013年7月)から。
「井泉」は歌誌だが、今回は巻頭の招待作品欄に拙作15句
「ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』による9句
他」
というのが掲載されている。
何故(なぜ)かそのとき哄笑せりと、小さなる砂場に父は火に囲まれて 高橋万里子
顔知らぬ父をおもへばベスビオの上の梅雨なき国のあを空 竹村紀年子
病む人に闘う光与えむか牙城のごとく京大病院 竹村倉二
日本最古の新属新種の真獣類兵庫県産
「カワイイ化石」
東眞秀子
台湾からの復員の日の女房の笑顔が今も忘れられない 峯邑三郎
何となく〈焼きドーナツ〉のもの足りず揚げし油の匂い懐かし 江村 彩
YES WE SCAN のバナーが街をゆく大統領をおちよくりながら 岡嶋憲治
この街は遺跡のやうだ何もかもあるやうでないないやうである 喜多昭夫
目をつむり「冷たい」「お茶」と言ひしのみ よもや最後の言(こと)と思はず 黒宮朋子
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Beauty playing didgeridoo in Carcassonne France
「あすてりずむ」第2号
「あすてりずむ」(編集発行・小早川忠義)第2号から。
3人が作品5句ずつと短いエッセイを発表。
夏つばめ始発電車の一両目 後閑達雄
線香の微かな反りや梅雨に入る 金子 敦
塩素剤プールの底に跡まるく 小早川忠義
「あすてりずむ」はコンビニエンスストアのコピー機におけるネットワークプリントにおいて発行されるもの。
セブンイレブンでは予約番号 8BPPZDYT サークルKサンクス・ファミリーマート・ローソンはユーザー番号
AY37Y230H4 。A4判1枚60円。プリントして折りたたむと冊子型になる(宮本佳世乃・山田露結の「彼方からの手紙」と
同じ方法だが、あちらは最近出る気配がない)。
※追記=
ダウンロード期限は7月14日の23:30までとのこと
。
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森山 威男 Quartet, jazz inn LOVELY, 2012年8月10日, My Favorite Things
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