8月に読んだ本から、俳句関係のとか必要に迫られてのものは除いて、物件として懐かしいとか何かがあるものの書影。
ジョイス・キャロル・オーツ『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』河出書房新社・2013年(ブラム・ストーカー賞、世界幻想文学大賞)
《ミステリー! ホラー!! ファンタジー!!!
心の暗闇にある何かから目が離せない。
現代アメリカ随一の短篇の名手が自ら編んだ傑作集
ブラム・ストーカー賞、世界幻想文学大賞受賞
世界がひどく残酷だということを、
また思いだしたい気分の夜。
ぜひこの本を読んでみてほしい。
きっと満足できるから。 ——桜庭一樹(小説家)
美しい金髪の下級生を誘拐する、有名私立中学校の女子三人組(「とうもろこしの乙女」)、
屈強で悪魔的な性格の兄にいたぶられる、善良な芸術家肌の弟(「化石の兄弟」)、
好色でハンサムな兄に悩まされる、奥手で繊細な弟(「タマゴテングタケ」)、
退役傷病軍人の若者に思いを寄せる、裕福な未亡人(「ヘルピング・ハンズ」)、
悪夢のような現実に落ちこんでいく、腕利きの美容整形外科医(「頭の穴」)……
1995年から2010年にかけて発表された多くの短篇から、著者自らが選んだ悪夢的作品の傑作集。
ブラム・ストーカー賞(短篇小説集部門)、世界幻想文学大賞(短篇部門「化石の兄弟」)受賞》
収録作品=とうもろこしの乙女 ある愛の物語/ベールシェバ/私の名を知る者はいない/化石の兄弟/タマゴテングタケ/ヘルピング・ハンズ/頭の穴
三島由紀夫『美徳のよろめき』新潮文庫・1960年
《心の渇き。肉の欣び。
生れもしつけもいい優雅なヒロイン倉越夫人節子の無垢な魂にとって、姦通とは異邦の珍しい宝石のようにしか感得されていなかったが……。作者は、精緻な技巧をこらした人工の美の世界に、聖女にも似た不貞の人妻を配し、姦通という背徳の銅貨を、魂のエレガンスという美徳の金貨へと、みごとに錬金してみせる。“よろめき”という流行語を生み、大きな話題をよんだ作品。》
中井久夫『「昭和」を送る』みすず書房・2013年
《〈文字は入学までは遊びの道具であった。小学校への入学は、全く別種の漢語の世界に入ることである。「第何班」「当番「委員」「級長」「副級長」「何とか係」「集合」「朝礼」「整列」「礼」「歩調」「体操」「罰則」「賞状」などなど、学校用語は実に官庁用語的であり、また、れっきとした権力用語である。教育は、ただ、ものを教わることだけでなく、権力体制の中に織り込まれ、その一部となることである〉
『みすず』連載の「臨床再訪」から「病棟深夜の長い叫び――ジル症候群」「在宅緩和ケアに関与する」など4篇を筆頭に、逝去直後にひととしての昭和天皇を描いた長文の表題作、ユニークな論考「笑いの生物学を試みる」、その他、いじめについて、3・11後と震災について、臨床引退後の日々についてなど多様な文章39篇。『日時計の影』以来久々におくる、精神科医の第8エッセイ集。》
中井久夫『「昭和」を送る』 | トピックス : みすず書房
荒巻義雄『超弦回廊 アトランティス大戦1』C★NOVELS・2003年
《ナイル河畔に偉容を誇る巨大四角錐体(ピラミッド)――歴代王朝の悲願がついに完成した。夜明けの光が差し込んだ瞬間、巨石構造物が鳴動。青年王クフの眼前で〈折り畳まれた時空〉への門が開いた! クフの魂鴫は遥か6000年の時を遡り、伝説の帝国アトランティスヘと転生。戦士クフの名を受け、帝国辺境の小国の王女ネフリティースに仕える身となった。だがこのとき、世界には不穏な戦火の兆しが……。動乱の超古代帝国に降臨した若き戦士の闘いが始まる!!
渾身の新シリーズ、堂々開幕!》
高齋正『愛車のキー』徳間文庫・1985年
《歴代の名車、名ドライバーを復元して世界一を競う夢のインディ2071。永遠に走り続ける自動操縦車(コンピューター・カー)。魔の眠りをもたらすカー・ステレオ。空を飛ぶ車。自由に色の変わる塗装。絶対に安全な装置など、未来世界の夢のような車社会の先に待つものは、皮肉な結末、恐怖、そして苦い笑いであった。
カーSFに新境地を拓いた著者が車への限りない愛情を込めて描くSF掌篇集。》
収録作品=レーシング・ドライバーの自画像/インディ二〇七一/史上最高のレーシング・ドライバー/安全装置/スパイ作戦/ファッションカー/カーステレオの怪/愛車のキー/お迎え/スーパーカーの世界/酔払い運転/一号車/ステッカーの時代/案内装置/ラッシュは避けたが……/通勤/匿名の時代
豊田有恒『無窮花作戦』徳間文庫・1985年
《名スパイと知られた“太白山の虎”に率いられ、八名の秘密工作員が日本に向った。情報をいち早くキャッチした敵対する情報部はゲリラ狩りで勇名をはせた辣腕部員を急遽日本に送り込んだ。
青森県西津軽郡の海岸に深夜ひそかに上陸した工作員はなにものかに襲われ、“虎”のほかわずか二名が生き残った。
不幸な戦争のために分断された人々の悲劇を日本を舞台に描くスパイ・アクション。》
加納一朗『白い残像』徳間文庫・1986年
《クリスマス・イヴ、拡張問題で揺れる米軍基地から拳銃を奪った十九歳の黒人兵が脱走した。米軍の依頼で捜査に乗り出した県警の刑事は、遺留品のマッチから子持ちの娼婦・美代に行きつくが、その夜、美代の家主で基地拡張賛成派の宮地が射殺された。目撃者は犯人が黒人だったという……。
軍用犬まで出動して臭跡を追うが、なぜかふっつりと跡切れた。闇に疾る黒人兵が狙うものは何か!? 長篇問題作。》
五木寛之『ソフィアの秋』講談社文庫・1972年
《“ソフィアの秋”に美しい聖像画を通し聞こえくる古い寺院の鐘の音。オスロの白夜に死んだ恋人の姿を求める“ヴァイキングの祭り”。パリの“残酷な五月の朝に”開く花火にも似た男の夢……ヨーロッパの街々に繰り展げられる孤独な物語四篇を収めた海外小説集》
収録作品=ソフィアの秋/ヴァイキングの祭り/ローマ午前零時/残酷な五月の朝に
西村寿行『滅びざる大河』角川文庫・1982年
《一本の川にかかる“かずら橋”を境に、敵・味方でいがみ合う町と村があった。互いに相手を罵倒し、陰惨な暴力沙汰も絶えない。そしてこの対立と憎悪は、強姦事件、放火事件をきっかけに、ますますエスカレートしつつあった。
――そんななかで起きたひとつの殺人事件。村の実力者が何者かの手によって撲殺されたのだ。村と町との対立と緊張は、ついに一触即発の状態にまで高まった!
西村寿行が、人の心のバイオレンスを描く、話題の長編サスペンス。》
西村寿行『回帰線に吼ゆ』角川文庫・1980年
《囚人訓練船北斗丸は、瞬間最大風速70メートルの暴風雨圏の真只中にいた。激しい大波に揉まれてエンジンは焼きつき、機関室は水びたしとなっていた。
しかも船上では、いましも一人の囚人の扇動で暴動計画が進行していた。
“船長と看守を縛り上げて脱走するのだ。そして以前、俺が強奪した四億円の金の隠し場所に向かう。急がなければ、そこは間もなくダムエ事で水没してしまう!”
解き放たれた飢えた狼の群れは、殺人・略奪・強姦と、血の匂いをまき散らしながら目的に迫っていった…。
欲望だけにとり憑かれた人間たちが繰りひろげるバイオレンスを描く、西村アドベンチャー・ノベルの傑作!》
寺山修司『新・書を捨てよ、町へ出よう』河出文庫・新装版・2006年
《ピブロフィリア(書物狂い)の青年期に歌人としてスタートし、古今東西の本に精通した著者が、言葉と思想の再生のためにあえて時代と自己に向けて放った鮮烈なアジテーション。“青少年のための家出入門”などの実用的エッセイから、美空ひばり論、渥美清論などの鋭利な人物評まで寺山修司の広範な視点がわかる名著。 ◎解説=橋本治》
ドン・デリーロ『ボディ・アーティスト』新潮社・2002年
《映画監督の夫を自殺で失ったローレン。精神のバランスを崩す彼女の前に、謎の男が現れる。まともに口を利くことができず、時間の経過も認識できないらしい男は、やがて自殺した夫の声で話し始め、知りえないはずの夫婦の会話を再現し始める。彼に引きずられるようにローレンの「現実」も変化をはじめて…。一人の女性の変わりゆく姿を透明感のある美しい文体で描いた、アメリカ文学の巨人デリーロの精緻な物語。》(「BOOK」データベースより)
現行版=筑摩書房 ボディ・アーティスト / ドン・デリーロ 著, 上岡 伸雄 著
松本清張『生けるパスカル』角川文庫・1974年
《こめかみに青筋をたて、矢沢のアトリエに飛び込んできた妻。「殺してやる!」と喚いた彼女は、画架のそばにあった揮発油を奪うと、いきなり彼の頭から振りかけた。その手にはいつの間にかマッチが……。
画家の矢沢辰生は、美術記者から聞いたイタリアの作家ピランデルロの小説「死せるパスカル」に激しい共感を覚えた。主人公と同じ妻の異常な嫉妬に悩む彼は、自分も小説のように妻から解放されたいと強く願う。そしてある日……。
歪んだ夫婦の心理に鋭いメスを入れた傑作!》
収録作品=生けるパスカル/六畳の生涯
レスター・エンブリー『使える現象学』ちくま学芸文庫・2007年
《現象学は、いまや社会学や文化人類学、精神医学など広汎な学問分野に大きな影響を与え、その思考方法は哲学の枠を超えてさまざまな可能性へと開かれている。しかし、難解な専門用語に阻まれ現象学を学ぶのは容易ではない。本書は、学んで覚える現象学への入門書ではなく、「現象学を行う」ための実践的な手引き書であり、現象学的な予備知識がなくても、自ら現象を探しだし、探究を進められるように読者を導いてくれる。難解で複雑な諸問題に取り組む能力の獲得をめざし、役に立つ現象学が身につく一冊。世界各国で翻訳されている著名な書。練習問題つき。本邦初訳。》(「BOOK」データベースより)
佐藤栄作『見えない文字と見える文字―文字のかたちを考える』三省堂・2013年
《「見えない文字(字体)」をあぶり出すユニークな発想!文字のかたちを楽しむ待望の一冊。》(「BOOK」データベースより)
岡井隆『歌集 ヘイ龍カム・ヒアといふ声がする(まつ暗だぜつていふ声が添ふ)―岡井隆詩歌集 2009-2012』思潮社・2013年
《なぜ生きて歌ふのか〈死〉に訊いてくれかなり近くに居る筈だから
原子力は魔女ではないが彼女とは疲れる、(運命とたたかふみたいに)
「この本は、一つにはわたしの新しい詩集である。……二つには、わたしの新しい歌集である」(「この本について」)。高見順賞受賞詩集『注解する者』以後の自由詩と、短歌新聞社賞受賞歌集『X――述懐スル私』以後の短歌、東日本大震災をまたいで詠われた岡井隆の苛烈なる詩の現在を集成する。吉本隆明氏を追悼する1章、および入沢康夫、平出隆、穂村弘各氏との対話も収録、日本語の未来へ捧げられた戦後現代詩歌の到達点。装幀=毛利一枝》
高取英『寺山修司―過激なる疾走』平凡社新書・2006年
《寺山修司―俳人、歌人、詩人、小説家、エッセイスト、シナリオライター、競馬評論家、煽動家、映画監督、演劇実験室・天井桟敷主宰者など、肩書きは一〇を超える。一九六〇年代後半に日本のアングラ文化を創造し、今も、サブカルチャーの先駆者などとして注目されている…。あなたはいったい誰ですか?寺山のスタッフを経て劇作家となった著者がその生涯を描く、“決定版”寺山修司のすべて》(「BOOK」データベースより)
梶山雄一・瓜生津隆真訳『大乗仏典14 龍樹論集』中公文庫・2004年
《人類の生んだ最高の哲学者の一人龍樹は、言葉と思惟を離れ、有と無の区別を超えた真実、「空」の世界へ帰ることを論じた。主著『中論』以外の八篇を収録。》
山田風太郎『忍法笑い陰陽師』角川文庫・1978年
《生まれた時代が悪かった。大平の世に忍術など何の役にも立たない。今は、くの一の妻と二人で大道易者稼業を綾ける果心堂。だが、その独特の占いには、絶大な効力が秘められている……。
珍しく客が来た。いかにも強そうな大柄な武士だ。絶世の美女を賭けた試合が迫り、その勝敗を占って欲しいと言う。相手は美男で評判の若い剣客である。それに比べこの男のひどい顔はどうだ。これじゃ試合に勝っても女が祝言に応じるはずがない。同情した果心堂は、ぜひこの男に勝たせようと思った。そして「おん根相拝見」と言うや否や、彼は男の股間に手を伸ばした!
奇抜な発想と強烈なユーモアで描く抱腹絶倒の連作忍法帖。》
小林久三『火の鈴』角川文庫・1980年
《“これはまぎれもなく傑作だ!”
12年前、太平洋映画に入社した私は、その脚本に触れて感動した。だが、あまりに暗すぎる内容のため映画化されず、作者の行方も知れなかった。
撮影所内で鬱々としていた私は、作品に漂う暗く沈んだ作者の心象に共感し、〈幻の脚本家〉を追い求めた――これが人生の迷路にはまりこんだはじめであった。
唯一の手がかりである、脚本に描かれた城下町を訪れ、明らかになったのは20余年前に起きた人妻殺害事件への疑惑だった……。
日常生活の内に潜む燃える炎のような人間の情念を描いた傑作ミステリー。》
収録作品=火の鈴/火の穽/火の壁/火の坂道
吉行淳之介『街の底で』角川文庫・1971年
《「街の底で」は、吉行文学の中で「暗室」に見られるような贅肉を削ぎ落し、性と死ととなりあった純粋ではあるが狭い極限状態の洞窟への指向と、「すれすれ」「浮気のすすめ」「軽薄派の発想」など粋人、通人的な遊びと風俗への奔放な指向とを、「技巧的生活」などと共に総合し、橋渡しする彼の文学の過程の中の重要な作品である。そして安保反対闘争について一言一句も触れてないにもかかわらず、この作品は六十代安保世代の青年の挫折的心情を、深い場所から的確に、切ないほど表現していることを、今日、読者は見出すに違いない。 ――解説より》
藤本義一『大人の玩具箱《上巻》』徳間文庫・1983年
《マリアナ沖海戦生き残りの元少尉・磯貝は、過去に猥褻図画販売により実刑の体験があるが、そんなことでこの道を断念する気はさらさらない。彼にとってポルノは権威に対する武器であり、男のロマンなのだ。
彼のみならず、町工場の経営者、タクシー運転手等、セックス・クリニックに集まる不能者たちば“完璧”を目ざして涙ぐましい努力をつづけている。それを見るにつけ、磯貝にはポルノ産業の夢が無限に広がってゆく。》
藤本義一『大人の玩具箱《下巻》』徳間文庫・1983年
《セックス・クリニックを舞台に名作春本の現代語訳に着手した磯貝のポルノに賭ける執念はすさまじい。ある日、並大抵の刺激では反応を示さない彼の一物が突然勃起、それはまた新しいポルノのアイデアが湧いてくる瞬間だった。あるいは、アメリカにポルノ視察に行ったクリニックの一行は、新しい発見に随喜の涙を流す。
大人の夢がいっぱいの玩具箱――あなたを夢の国へ誘うポルノチック小説の傑作!》
ベーコン『ニュー・アトランティス』岩波文庫・2003年
《航海記に模したユートピア物語.孤島「ベンサレムの国」の歴史,外交政策,社会体制を伝え,学問研究所「サロモンの家」の構想を語る.科学技術の進歩の夢と予言に満ちた本書は,政治不信の現代への警世の書としても読める.プラトン,モアの流れを汲む,ベーコン(1561―1626)未完の遺稿.ローリー著ベーコン伝を付す.》
ガンディー『獄中からの手紙』岩波文庫・2010年
《1930年,ヤラヴァーダー中央刑務所に収監中のガンディーは,修道場(アーシュラム)でみずからの教えを実践する弟子たちに宛てて一週間ごとに手紙を送る.真理について,愛について,清貧について,不可触民制の撤廃について,国産品愛用運動について…….ただただ厳粛なる道徳的観点からのみ行動した,「偉大なる魂」(マハートマ)の思想と活動原理.(新訳) 》
寺山修司『幻想図書館』河出文庫・新装版・2006年
《反体験主義者のユートピアとしての読書を拒絶し、都市を、地球を疾駆しながら蒐集した奇妙な“書物”のかずかず。―「髪に関する面白大全」「娼婦に関する暗黒画報」「寝ながら読む寝台をたのしむ本」「靴の民俗学を読む方法」「眠られぬ夜の拷問博物誌」など、半径一メートルの想念が彼方に飛躍する、興味つきない書物案内。》(「BOOK」データベースより)
饗庭孝男『聖なる夏』小沢書店・1982年
《著者撮影のグラビア頁が36頁あり、地図(裏には教会建築の名称図解)が付き、その後に目次が来る。13のロマネスク教会の紀行である。本文レイアウトは、9ポイント活字で、37字×15行と字数が少なく、天地がゆったりとしていて読みやすい。
私は、豪華本の類を好む者ではないが、小沢書店の書物には、限られた条件のなかで、商品というよりも、芸術作品を著者と共同制作しようとするようなところがあった。『聖なる夏』はその代表的な一冊といってよいと私は思う。
この学術的な紀行エッセイを読み、私は饗庭孝男の虜になったといってよい。そこには、私がそれまで日本語で書かれた批評的散文に感じたことがない甘美さがあった。》
饗庭孝男ノート(その5)『聖なる夏』 - 神谷光信のブログ
吉行淳之介『ダンディな食卓』グルメ文庫・2006年
《都会的センスで洗練された文体とミステリアスな手法で、人間関係を鋭く描いた作家・吉行淳之介。本書は、その著者が食べ物の話を枕に、男女問題、文人たちとの幅広い交流、酒、幼少期の思い出など、とびきり楽しく、自在に語った軽妙洒脱なエッセイ集。銀座のフランス料理店を舞台にモノクロの世界に侵入してくる原色の恐怖を描いた不思議な昧わいの短篇小説『菓子祭』を収録。
(解説・結城信孝)》
幸田露伴『五重塔』岩波文庫・1994年
《技量はありながらも小才の利かぬ性格ゆえに,「のっそり」とあだ名で呼ばれる大工十兵衛.その十兵衛が,義理も人情も捨てて,谷中感応寺の五重塔建立に一身を捧げる.エゴイズムや作為を超えた魔性のものに憑かれ,翻弄される職人の姿を,求心的な文体で浮き彫りにする文豪露伴(一八六七―一九四七)の傑作. (解説 桶谷秀昭)》
谷川渥『肉体の迷宮』ちくま学芸文庫・2013年
《三島由紀夫、ミケランジェロ、
人形、肉欲……
官能的かつ独創的な芸術論
さまざまな芸術表現を横断しながら、ねじれ、歪み、時には傷つき、さらけ出される身体と格闘した美術作品を論じる異色の肉体表象論。
【解説: 安藤礼二 】
ねじれ、ひきつり、傷つき、腐る肉体。このトポスに派生するあらゆる問題系を鮮やかに論じる。「自然」を特権的な画題としてきたゆえに、希薄な肉体のイメージしか持たなかった日本人が、明治以降、量塊的な肉体表象を持つ西洋美術に対峙した過程を取り上げた「『日本人離れ』の美学」をはじめ、ユイスマンスが魅せられたグリューネヴァルトの磔刑図、フランシス・ベーコンの叫ぶ教皇などの作品を取り上げる。東西の美術・文学・哲学を自在に横断しながら、“肉体”と格闘した美意識を論じる独創的な表象論。》
寺山修司/田中未知編『寺山修司未発表歌集 月蝕書簡』岩波書店・2008年
《短歌,俳句,詩,そして演劇,映画にかつてない足跡を残し,現代に影響を与え続ける寺山修司.彼は少年時代から短歌を書き始め,20代の時に出した『田園に死す』以来歌作を中断していたが,晩年に書きためた作品群が発見された.幻想の家族,少年,生と死,言語と書物などをテーマに新たな寺山世界の出現を知らせる歌集! 解説=佐佐木幸綱》
鹿島茂『平成ジャングル探検』講談社文庫・2007年
《性の王国「歌舞伎町」、疑似恋愛の街「銀座」、ルーマニアがよく似合う「錦糸町」、安吾も呻いた魔界「上野」、性活とシネマで賑わう「渋谷」……。東京の12の盛り場に分け入り、ときには高級クラブからデリヘルまで。歓楽街の成り立ちと今の容貌を捉えつつ、得体の知れないメガロポリス東京の実態に迫る。》
五木寛之『メルセデスの伝説』講談社文庫・1990年
《狂気の天才ヒトラーが日本へ贈った悪魔的名車、グロッサー。伝説の霧に包まれる未曽有のスーパーカーを追って、TVプロデューサー島本理江の野心は燃える。彼女の仕事に関わった鳥井貢は、白銀のメルセデスに隠された父親の死という、もう一つの謎に突きあたる。昭和史の闇に挑んだ傑作スーパーロマン!》
山田風太郎『風眼抄』中公文庫・1990年
《奇想天外な物語で読者を酔わせる著者が描く、小説の周辺。少年の日の風景、戦中戦後の青春、親しい友のこと、さらには卓越した日本文学論など。明晰かつ瓢逸な筆致で記す、忘れえぬエッセイ集。》
吉行淳之介『恋愛論』角川文庫・1973年
《古くて新しい永遠のテーマ、《愛》という神秘の扉に、いま初めてひとつの鍵が用意された…。清冽華麗、巧緻をきわめた独自の文学世界を展開する“性の殉教者”吉行淳之介。その深い知識と豊かな経験をいかし、平明な文章で、現代の若ものにおくる出色の愛のエッセイ。スタンダールの古典にも比肩すべき、本格的な恋愛論である。
(村上芳正画・イラスト23葉付)》
藤原新也『台湾 韓国 香港―逍遥游記』朝日文芸文庫・1987年
《このアジア漢字文化圏における、牛の歩みのようなゆったりとした旅は、私の33歳のときのものである。多分その旅は、熱い青春期を終え、壮年期に移るはざまの、あの言いようもなく所属感の失われた時に、ひとを不意につつみこむ、やわらかい「繭の中の遊境」であったのかも知れない。》(「BOOK」データベースより)
大崎善生『九月の四分の一』新潮文庫・2006年
《体中で君の存在を感じている。たとえ今は遠く離れていても――。深い余韻が残る四つの青春恋愛短篇。
逃げるようにして、僕はブリュッセルへ辿り着き、世界一美しい広場で、ひとり悄然としていた。潰えた夢にただ悲しくてやる瀬なくて。そこで奈緒と出会った。互いの孤独を埋めるような数日間を過ごし、二人は恋におちるのだが、奈緒は突然、姿を消した。曖昧な約束を残して(表題作)。――出会いと別れ、喪失と再生。追憶の彼方に今も輝くあの頃、そして君。深い余韻が残る四つの青春恋愛短篇。》
収録作品=報われざるエリシオのために/ケンジントンに捧げる花束/悲しくて翼もなくて/九月の四分の一
フィリップ・K・ディック『空間亀裂』創元SF文庫・2013年
《時間理論を応用してつくられた超高速移動機の内部に亀裂が発見された。そこからは別の時間、別の世界が覗き見られるという……。ときに西暦2080年、世界は人口爆発に苦しめられていた。避妊薬は無料となり、売春も法的に認可されている。史上初の黒人大統領候補ブリスキンは、かつて夢見られ今は放棄された惑星殖民計画の再開を宣言するが……。ディック中期の長編、本邦初訳! 訳者あとがき=佐藤龍雄/解説=牧眞司》
牧眞司/フィリップ・K・ディック『空間亀裂』(佐藤龍雄訳)解説全文[2013年2月]
川村二郎『懐古のトポス』河出書房新社・1975年
《文学の根への問い
「はかり難い過去」への、畏怖と明晰な距離を保持しながら、文学の現在を支える過去との交渉過程を辿り、隠れた血のざわめき、その輝きを求めて、「分析説明する近代の目」が逸してしまった<文学の相貌とその力>の核に迫る長篇評論。
文学の「根」とは、時間の暗い深層、すなわち過去の中にひそんでいて、時間の表面、すなわち現在の中で営まれる文学の行為を活気づける力というほどの意味で用いた(……)なぜこのモチーフにそれほどこだわるのか。(……)昨日を無視する進歩派や、昨日を絶対視する保守派、そのいずれでもない場所で、生の持続と変化のさまを捉えるのが、文学の果し得る最も重要な役割の一つだと考えるからである。
著者」》
ひとでなしの猫 川村二郎 『懐古のトポス』
パヴェーゼ『流刑』岩波文庫・2012年
《反ファシズム活動の理由で逮捕されたパヴェーゼ(1908-50)が南イタリアの僻村に流刑されたときの体験を色濃く映した自伝的小説.背後に峨々たる山々が聳え立ち,眼前には渺々たるイオニア海が広がる逃げ道なしの自然の牢獄.その中で築かれた村びとたちとの静かで穏やかな交流の日々を背景に,流刑囚の孤独な暗い心の裡を描き出す.》
モーリス・ブランショ『書物の不在』月曜社・2007年
《晩期ブランショにおける活動の究極となる最重要論考を初出誌版より初邦訳。著者最大の評論集『終わりなき対話』の末尾に置かれた同論考の単行本版との異同を附す。書くこと、作品、書物、法をめぐる未聞の思惟がここに開示される。》(「BOOK」データベースより)
トリスタン・ツァラ『ランプの営み』書肆山田・2010年
《ほら、あれがダダさ。否、これがダダである――われわれは存在する。喧嘩する、大騒ぎする、悪戦苦闘する。何ものにも従属せぬ自由奔放な光を世界に放射する/黒人芸術について、アルプ、アポリネール、ルヴェルディ、そしてミュージックホールのドラマ、またロートレアモン、マン・レイについて…すなわちダダについての22の報告。》
アウグスト・モンテロッソ『全集 その他の物語』書肆山田・2008年
《秘かな野心がある。一つの文章だけでできた短編作品、あるいは一行だけの作品による短篇集を作りたい。だがいまだにモンテロッソの「恐竜」(本書所収)を超える作品は書けないのだ。─イタロ・カルビーノ》
平岡篤頼『記号の霙―井伏鱒二から小沼丹まで』太田出版・2008年
《日本最古の文芸誌「早稲田文学」の責任編集者として、また早稲田大学文芸科の創始者のひとりとして、重松清、堀江敏幸、小川洋子、角田光代らを教え育てた平岡篤頼。みずからも芥川賞候補作家として、クロード・シモン、ロブ=グリエらヌーヴォー・ロマンの翻訳者として、江藤淳と「フォニー論争」を展開した批評家として、マルチに活躍した男の、逝去直前に構想していた最後の批評集。 》
フリオ・コルタサル『愛しのグレンダ』岩波書店・2008年
《ボルヘス,ガルシア・マルケスと並ぶラテンアメリカ文学の中心的作家,コルタサルの代表作.都市の闇,男女の営みにひそむ幻想と恐怖,エロティシズム.パリやブエノスアイレスなどを舞台に意欲的手法で書きつがれる作品は,失われた世界へのノスタルジーと過酷な政治状況を背景に深い感動を呼び,小説の新しい可能性を伝える.》
フィリップ・ソレルス『ステュディオ』水声社・2009年
《ランボー、そしてヘルダーリンをめぐってあふれ出す、豊饒なことばのエチュード。》(「BOOK」データベースより)
野溝七生子『女獣心理』講談社文芸文庫・2001年
《美術学校を出、銀座の店頭装飾を仕事にした女性征矢(ソヤ)は、やがて伯爵のパトロンのサロンで、男達の憧憬の的となり、突然に失踪。巷では堕落した街の女になったとの噂が出る。澄みとおる程美しい目をし、ギリシャ神話の白鳥の姿のゼウスと交わった女神に擬えて「レダ」を呼ばれた神秘の女が奔放に生き永遠の美と自己愛に殉じ狂おしく果てる姿を、「私」の眼を通し描く。日本文学に希れな、鮮烈な女性像。》
イヴ・ボヌフォワ『ありそうもないこと―存在の詩学』現代思潮新社・2002年
《現代フランスの高名な詩人によって書かれた、詩と芸術をめぐる、言葉の本来の意味における珠玉のエセー集。壮麗にして厳格この上ない詩的言語=否定神学によって織りなされた比類なきバロック的宇宙が、われわれの眼前にもうひとつの光り輝く現実性として現前する。》(「BOOK」データベースより)
ホセ・ドノソ『隣りの庭』現代企画室・1996年
《軍事政権を嫌いスペインに暮らすラテンアメリカの作家たち。
政治的トラウマもやがて色褪せ、歴史の風化という問題に直面する
人間の実存的不安を描く。》
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András Schiff plays Bach French Suites (11.06.2010)
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