不調続きで何も読めない日が増えた。調子のいい日に易しいのを数冊まとめて読んでいる。
佐藤存『雲の名前』は著者から寄贈いただきました。記して感謝します。
深田祐介『地球味な旅』新潮文庫・1996年
《人生は「食、旅、出会い」の三拍子。サラリーマン時代も、世界を取材で廻る現在も、筆者を捲き込んで展開するエピソードは、小説顔負けの面白さ〈『三叫』という妖しい美食のこと〉〈バケツ一杯の生ウニ体験〉〈勤続疲労とアルコールの関係〉そして〈終戦の日の青年兵の爽やかな優しさ〉等々。笑いに彩られた珍談・交友録の裏に、うっすらと流れる郷愁を織り込んだ、滋味豊かな紀行エッセイ集。》
椎名誠『波のむこうのかくれ島』新潮文庫・2004年
《長年の憧れだったトカラ・宝島に上陸し、小笠原でクジラに遭遇し、対馬でヤマネコ美人に出会い、鹿児島・硫黄島で究極の露天風呂を満喫……北は北海道天売島から、南は沖縄水納島まで、日本一の島旅作家が潮風に吹かれてさすらうまま綴った、ニッポン離れ島紀行。島はいいぞーッ。海は広いし、空は青いし、魚が新鮮で酒もうまい! 南方写真師・垂見健吾〈たるけん〉の写真満載。》
阿刀田高『早過ぎた予言者』新潮文庫・1986年
《占星術発祥の地バビロニアに、一人の予言者がいた。彼、カプタマスは、恋の成否、放蕩息子の行く未、王の結婚など、万象についてイシュタルの女神に伺いを立てた。予言者は神の下した一握りの暗示をもとに、微に入り細を穿った未来の情景を描き出す。バビロニアの民は、こぞってお告げに耳を傾けた……。古今東西の物語に材を採り、当代随一の語り部がつくり上げた、12の華麗な短篇。》
収録作品=早過ぎた予言者/酔い盗人/雪おんな/小暗がりの女/花の器/モナ・リザは微笑む/当たらぬも八卦/花酔い/夢を見た男/天国への確率/ロマンチック街道/お梶供養
星新一『ほら男爵 現代の冒険』新潮文庫・1973年
《“ほら男爵”の異名をもつ男の直系、シュテルン・フォン・ミュンヒハウゼン男爵は育ちの良い32歳の独身男性。祖先の執念のせいか、旅に出かけると必ず奇妙な事件が待ちうけている。愛すべきわが男爵の前に出現するのは、人魚、宇宙人、ドラキュラ伯、ミイラ男、美女、魔女、インディアンetc……。懐かしい童話の世界に現代人の夢と願望を託した、シニカルでユーモアのある現代傑作冒険記。》
椎名誠『活字のサーカス―面白本大追跡』岩波新書・1987年
《旅に出る時、どんな本を持っていくか。本書はこの「カバンの底の黄金本」の選び方から始まり、SF、ロマン・サバイバル・ドキュメント、そして動物学、海洋学等々のサーカス。活字の不思議世界への探険をタテ糸に、日本全国津々浦々、はたまた世界の辺境地においての足による実践的見聞をヨコ糸に織りなす椎名流超読書のすすめ。》
椎名誠『ジョン万作の逃亡』角川文庫・1984年
《昼食時の食堂で同じテーブルに居合わせた見知らぬ4人の男たち。それぞれの脳裏をかすめる敵愾心がやがて大混乱へと発展する――「悶絶のエビフライライス」
都会に暮らす平凡な「友達夫婦」間に徐々に翳がさしはじめる、その微妙な心理を描写する「米屋のつくったビアガーデン」
ブンガクを志す同人誌の集りと思って参加した男が見たものはなにか――奇想天外な発想の内に孤独な男女の心情が浮かび上がる「ブンガク的工事現場」
飼い犬ジョン万作は度々、鎖を千切って逃亡をはかる。それを追う主人公は不気味な宗教にとりつかれた妻の裏切りを知る「ジョン万作の逃亡」
SF・ロマン・怪奇・推理・純文学すべての要素が盛りこまれ、「小説」の本当の面白さが堪能できる傑作集。》
収録作品=悶絶のエビフライライス/米屋のつくったビアガーデン/ラジャダムナン・キック/ブンガク的工事現場/ジョン万作の逃亡
斉藤英一朗『T・T過去からの殺し屋』角川文庫・1986年
《ユフラテ80キロと取引きされると噂される超高価な宝石“サテライト・オブ・マルス”。徹、ティッキー、立橘の泥棒三人組は、その獲物を盗み出すため、カタルーニャ美術館に忍びこんだ。だがそこには、ティッキーにとって忘れることのできない“アルバレットの鏡”があった。
宇宙の勢力分野をもかえうる〈鏡〉に隠された秘密とは何か? 徹と悪の天才ガンマン・カラドとの息づまる死闘。事件は1年半前、徹と大富豪の娘・ティッキーの出会いの時から始まった。――
盗みの天才・徹、爆弾作りの名人ティッキー、殺人大好き人間立橘の三人組が、またまた起こす大騒動。書下し痛快SFアクション。》
五木寛之『深夜の自画像』文春文庫・1975年
《〈あとがき〉より――この本に集録された文章は、ぼくがこの十年たらずの間に書いた、いろんな形の感想である。とにもかくにも、ここに一冊分の雑文がある。今となって少し首をかしげるような所もあえてそのまま収録することにした。これは三十三歳から四十二歳までの自画像のかけらみたいなものかもしれない。 解説・松本鶴雄》
谷崎潤一郎『陰翳礼讃』中公文庫・1975年
《人はあの冷たく滑かなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、昧に異様な深みが添わるように思う。(本文より)――西洋との本質的な相違に眼を配り、かげや隈の内に日本的な美の本質を見る。
目次 陰翳礼讃
懶惰の説
恋愛及び色情
客ぎらい
旅のいろいろ
胆のいろいろ》
阿刀田高『ローマへ行こう』文春文庫・2019年
《夫に怪しい女がいるらしい、何か相談がなかったか、と友人の妻から詰め寄られた「ローマヘ行こう」。書店の主人に依頼された、月一回、誰もいない家の鍵を開け、花を換え、テープレコーダーのスウィッチを入れるという奇妙なアルバイト「家族の風景]ほか、普通に生きる大人たちの大切な秘密を描く全十篇。 解説・内藤麻里子》
収録作品=/家族の風景/めぐりあいて/第三の道/文学散歩人/ローマへ行こう/くちなしの夢/鈍色の記憶/夢は噓つき/赤い月の夜に/夢売り
生島治郎『あなたに悪夢を』ケイブンシャ文庫・1991年
《香港に赴任している私は、ここでの生活に満足していた。食べ物も旨いし、なにより美貌の中国人秘書との情事にすっかり溺れていた。次第に妻の存在が疎ましくなってきたある日、秘書が案内してくれた秘密パーティで食した超美味な特別料理に魅せられてしまった。そしてその日から妻が行方不明に……。全編を奇妙な恐怖で包んだ異色ショートホラー&サスペンス集。》
収録作品=香肉/過去の女/蜥蝪/遺伝/夜歩く者/念力/頭の中の昏い唄/ダブル・ショック/殺しあい/ヤブイリ/世代革命/夢幻器/誰……?/名人/前世/大脱走/いやな奴/顔/ゆたかな眠りを/暗い海暗い声
三島由紀夫『愛の渇き』角川文庫・1951年
《百貸店で靴下を買う発端から、鍬をふるって若い園丁を惨殺するまで、女主人公の未亡人は、非のうちどころのない絶望者として行動し希望という希望をひとつひとつひねりつぶしながら絶望の弁証法を身をもって示すために、愛よりも、愛の代替物である嫉妬にたいして、必死にすがりつく。鬼才三島の代表作。》
島田一男『死者の館』徳間文庫・1984年
《監察医務院ヘタイ人女性の変死体が運び込まれた。解剖の結果、乳房にビニール袋入りのヘロインが埋め込まれており、それが破れて中毒死したものと判明。警視庁捜査一課は背後に大規模な麻薬密輸グループがあると見て捜査に乗り出すが、このタイ女性と偽装結婚して彼女を入国させた日本人男性も怪死を遂げていた……。女性監察医・金田圭子と捜査一課・遠藤警部のコンビが活躍する好評シリーズ第二弾!》
五木寛之『隠された日本 九州・東北 隠れ念仏と隠し念仏』ちくま文庫・2014年
《五木寛之が日本史の深層に潜むテーマを探訪するシリーズ「隠された日本」の第2弾。九州には、かつて一向宗が禁じられ、300年もの間の強烈な弾圧に耐えて守り続けた信仰、「隠れ念仏」の歴史がある。それに対して東北には、信仰を表に出さず秘密結社のように守り続け、「隠す」ことで結束した信仰「隠し念仏」がある。為政者の歴史ではなく、庶民の「こころの歴史」に焦点を当て、知られざる日本人の熱い信仰をあぶり出す。》
五木寛之『隠された日本 加賀・大和 一向一揆共和国 まほろばの闇』ちくま文庫・2014年
《五木寛之が日本史の深層に潜むテーマを探訪するシリーズ「隠された日本」の第4弾。人々を惹きつけてやまない古都の、もう一つの顔とは? 加賀百万石の城下町・金沢が成立する前には、百年近く続いた「百姓の国」があった。第一部では、この共和国と、一向一揆の真実に迫る。第二部では、生と死の世界をわける結界・二上山をめぐる謎と、「ぬばたまの闇」と形容される大和の深い闇を追求する。》
幸田露伴『一国の首都』岩波文庫・1993年
《一国の首都は譬へば一人の頭部の如し――全国民に首都への愛情と自覚を訴え、善美なる「世界の東京」建設を、雄大な構想と緻密な観察のもとに書き上げた大論文。今なお痛切な問題提起と卓見に満ちた露伴(1867‐1974)の筆は、市街整美から教育機関、道路、上下水、衛生、防災、警察、公園、娯楽、売淫史に及ぶ。「水の東京」を付す。 (解説 大岡信)》
筒井康隆『活劇映画と家族』講談社現代新書・2021年
《巨匠筒井康隆が書き下ろす『活劇映画と家族』は文化と人間性を考察する意欲作である。
筒井氏が長い時間をかけて見続けてきた活劇映画には、ロマンと家族愛とアクションが織り込まれ、究極の娯楽であり、また人間模様が明確に打ち出されていると氏は断言する。
本書は新書の枠を超えて、混乱の第2次世界大戦前夜から復興の時を迎えた映画全盛期につくり出された活劇映画の魅力と溢れるヒューマニティを痛快に描きつくす氏の集大成となる作品である。
ハンフリー・ボガードやジョン・ウエイン、ジェームズ・キャグニーなどの主演男優、キャサリン・ヘップバーン、ローレン・バコールら主演女優のみならず脇役陣の多彩な魅力にも触れつつ、ハワード・ホークス、ジョン・ヒューストンなど監督の魅力にも迫る視点も独特で、まさに巨匠の傑作である。》
林真理子『ルンルンを買っておうちに帰ろう』角川文庫・1985年
《私はこの本の最初の2、3ページ、いや2、3行をちょっと読んで、いや眺めてみるつもりで開いてみて、止められなくなって、一時間あまりで読んでしまったのである。それだけではない、友人の誰彼に電話をかけてサワリを読んでやり、一読を勧めた。
サワリといっても、この本は全体がサワリのようなものだから、サワリを読んでやるのにえらく時間がかかった。仕事がないわけでもないのに、頼まれもしないこんなことに数日を費したのは、私のおっちょこちょいもさることながら、そうさせずにはおかないものが真理子さんの文章の中にあったからである。 高橋睦郎「解説」より》
星新一『きまぐれ暦』新潮文庫・1979年
《地震対策に東京で原爆を爆発させたらどうか。デノミの際には〈円〉のかわりに〈尺〉を単位にしてはどうか。歴史は現在から過去へと逆に教えたほうがいいのではないか。――旅、ギャンブル、食物、言葉、酒、漫画などの身近な話題をとり上げ、ひとひねり半の考察を加えたウィットあふれるエッセー集。頑固な頭もたちまちもみほぐし、発想の転換をうながす愉快な話のコレクション。》
マックス・ヴェーバー『職業としての政治』岩波文庫・1980年
《あらゆる政治行動の原動力は権力(暴力)である。政治は政治であって倫理ではない。そうである以上、この事実は政治の実践者に対して特別な倫理的要求をつきつけずにはいない。では政治に身を投ずる者のそなうべき資格と覚悟とは何か。ヴェーバー(1864‐1920)のこの痛烈な問題提起は、時代をこえて今なおあまりに生々しく深刻である。》
佐藤存『雲の名前』思潮社・2023年
《名を与え続けること、
無軌道に啄む煤けた翼や
信号機の結界を 隕石の大きさで
横切る水素バスの 鱗粉を
束ねながら 空には時折 雲の国があらわれる
(「雲の名前」)
これまでになく、またとない形状で移ろう世界と私たち、固有の生を見つめるために。――ひそめた文字を持ち寄れば、きっと、新しい名前になる。第2詩集。装画=甲村有未菜 》
収録作品=愛の陰画/蠍たち/パッション/死んだ眼/夏の終り/犬と少年/悪い夏
山田正紀『謀殺の弾丸特急』ノン・ノベル・1986年
《美人添乗員を含む八人の日本人観光団が、“黒い貴婦人”の愛称を持つ名蒸気機関車C57に乗って、東南アジアを旅しようと小国アンダカムを訪れた。だが、優雅でのんびりとした異国情緒を味わうはずの一行を迎えたのは、同国軍の激しい銃撃であった。理由もわからぬまま、C57に乗って必死の逃走劇が始まった……。ガン・ジープ、戦闘ヘリ、そして戦車まで駆使して、執拗な追跡を繰り広げる戦争のプロを相手に、SLだけが頼りの素人観光客たちはタイ国への国境を突破できるのか!? SF界の人気実力派が、奇想天外のアイデアとサスペンスを満載し、壮大なスケールで贈る長編超冒険小説の傑作!》
五木寛之『蒼ざめた馬を見よ』文春文庫・1974年(直木賞)
《極秘に国外での出版を望むソ連老作家の幻の原稿を求めて、レニングラードの夜に暗躍する鷹野隆介――彼の周辺に張りめぐらされた恐るべき政治の罠。「近来に類をみない精神宇宙のサスペンス・ドラマ」「小説の形をとった現代の人間論」と激賞された直木賞受賞の表題作をはじめ、「天使の墓場」など五篇を収録。 解説・佃実夫》
収録作品=蒼ざめた馬を見よ/赤い広場の女/バルカンの星の下に/弔いのバラード/天使の墓場
津村記久子『浮遊霊ブラジル』文春文庫・2020年(川端康成文学賞、紫式部文学賞)
《定年退職し帰郷した男の静謐な日々を描く川端康成文学賞受賞作(「給水塔と亀」)。「物語消費しすぎ地獄」に落ちた女性小説家を待ち受ける試練(「地獄」)。初の海外旅行を前に急逝した私は幽霊となり旅人たちに憑いて念願の地を目指す(「浮遊霊ブラジル」)。自由で豊かな小説世界を堪能できる七篇を収録。 解説・戌井昭人》
収録作品=給水塔と亀/うどん屋のジェンダー、またはコルネさん/アイトール・ベラスコの新しい妻/地獄/運命/個性/浮遊霊ブラジル
渡辺格『人間の終焉―分子生物学者のことあげ』朝日出版社・1976年
収録作品=妖精/タイム・ボックス/景品/窓/適当な方法/運の悪い男/贈り主/タバコ/初雪/被害/白い記憶/救助/繁栄の花/泉/美の神/ひとり占め/冬きたりなば/プレゼント/奇妙な社員/砂漠の星で/夜の流れ
ジョルジュ・シムノン『黄色い犬』角川文庫・1963年
《ここはブルターニュ半島の小さな港町、コンカルノー。夜ふけの通りを、強い風が吹き抜けていく。寝静まった街の中で、そこだけまだ明りの残るホテルのカフェでは、町の名士3人がテーブルを囲んで談笑していた。
モスタガン氏が最初にホテルを出た。強風の中を千鳥足で数歩進んだ氏は、そこでばったり倒れた。腹を撃ち抜かれていた。そしてそのそぱに、得体の知れない大きな黄色い犬が……。
市長の依頼を受け、メグレは捜査に乗りだした。だが事件は事件を呼び、町には不吉な出来事が相次ぐ。その現場には、必ずあの不気味な黄色い大の姿があった……。
シムノンの初期代表傑作!》
内田百閒『馬は丸顔』旺文社文庫・1983年
《「むかしの回顧談とか近年の身辺雑記とか格別筋も山もない日常の話ばかりなのだが、著者にかかるとみな面白くなる」(渋澤秀雄)と評された百鬼園随筆文集。表題作をはじめ、世界中から“人並みはづれたノツポやデブの大飯喰らひ”がやって来た東京オリンピックの話など、名文二十二篇を収録。》
内田百閒『北溟』旺文社文庫・1982年
《「阿房の鳥飼」と自称する百鬼園先生の、小鳥にたいする愛情がそのまま伝わってくるような一連の小品「頬白」「葦切」「春信」「うぐいす」「蜂」、十七歳のときに失った父の思い出「たらちをの記」など、表題作「北溟」をはじめ三十七篇を収めた随筆文集。》
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