猛暑で呆けている間に7月も終わった。
小室直樹『アラブの逆襲―イスラムの論理とキリスト教の発想』カッパ・ブックス・1990年
《アメリカの行動は常に正しいのか。こう問われれば、即座にイエスと答える人は、そうはいないだろう。しかし国連で圧倒的に支持されたとなるとどうか。そうなると何だか正しいことのように思えてくる日本人は、かなりいるのでは。ここに陥介がひそむ。
いつでもどこでも、このように反応していたのでは、国際政治の本質を見失うことにもなりかねない。だいたい国際法といっても、キリスト教の亜流に過ぎない。イスラム教徒のフセインに通じなくてあたリ前。そのフセインをして自ら反(かえりみ)て縮(なお)しとさせる所以は何か。
神の恩恵(グレイス)を確信するからである。恩恵といっても、キリスト教とイスラム教では、意味を異にする。ならば、どこがどう違うのか。(著者のことば)》
立岩二郎『てりむくり―日本建築の曲線』中公新書・2000年
《反った屋根を「てり屋根」、ふくれた屋根を「むくり屋根」と呼ぶ。「てり」と「むくり」が連続し、凸凹の滑らかな反転曲面をもつのが「てりむくり屋根」だ。神社仏閣の軒先にかかる唐破風がその典型である。この形は建築だけでなく日用品に使用され、さらには神輿や墳墓に採用されるなど日本人の死生観とも深くかかわってきた。日本独自の表面はどのように誕生し受け継がれてきたのか。日本文化の深層を「てりむくり」に見立てて読み解く。》
E・ネスビット『砂の妖精』角川文庫・1963年
《ロンドンから離れたとある町に引越して来た五人の子供達は、裏の砂利堀り場で何でも望みを叶えてくれる砂の妖精に会う。そして五人は一日一つの願いを叶えて貰う。きれいになりたい、お金待ちに、翼があったら、強い騎士に…。さて、その結果は…。どの子供の心にもある魔法の世界をネスビット女史は生き生きと描き出してくれる。》
稲垣史生『日本の城―大名の生活と気風』平凡社カラー新書・1975年
《城の一日は、早朝六つ刻(午前6時)の「もうー」で始まる。これは、殿様が「もうお目覚めでござる」というお小姓独特の略語である。今となっては、なんとも不可思議な大名生活、映画・TVでいいかげんに考証されている大奥生活を正確に再現してみた。そして、見る者にがぎりない郷愁をよびおこす、ふるさとの名城・百余を訪れてみた。》
阿利莫二『ルソン戦―死の谷』岩波新書・1987年
《昭和一九年暮れ、フィリッピン。日本軍はレイテ決戦で壊滅的打撃を受け、ルソン持久作戦に移る。第一回学徒出陣の学徒兵としてこの作戦に投入された著者は、飢えと疲労の行軍のなかで病いを得て倒れ、「死の谷」とよばれた谷間の病院で終戦を迎える。極限状況におかれた人間の姿を、四十余年を経たいま、痛恨の思いで振り返る。》
フレドリック・ブラウン『宇宙の一匹狼』創元推理文庫・1966年
《火星と金星が、地球の植民地となった時代。世界には悪徳と腐敗が横行し、まともなことはなに一つないご時勢。そんなときに、何百万光年ものかなたから、一つの不思議な岩が太陽系に近づきつつあった。考えることのできる、ほとんど万能のこの生物的無生物は、いわば宇宙の変わり腫であり、ごろつきである。いっぽう人間界きってのごろつきの犯罪人クラッグは、この宇宙の一匹狼のような岩を迎えて、いかなることをしでかすか?》
梅原龍三郎・高濱虚子・藤山愛一郎・呉清源他『人生對談』角川新書・1955年
池澤夏樹『ブッキッシュな世界像』白水Uブックス・1999年
《『マシアス・ギリの失脚』によって作家的成熟を成し遂げた池澤夏樹。世界文学の信奉者からその担い手の一人へと変身を遂げた彼が、自らの養分となった書物の世界を語る。『百年の孤独』の精緻な分析、サリンジャーの小説の背後にあるもの、ポスト・モダニスト達の冒険、そして20世紀末の芸術の諸相》
アンドレイ・タルコフスキー『映像のポエジア ――刻印された時間』ちくま学芸文庫・2022年
《「それ独自の事実のフォルムと表示のなかに刻み込まれた時間―ここにこそ、私にとって芸術としての映画の第一の理念がある」。その理念が有機的統一をもって結晶する〈イメージ〉。『惑星ソラリス』『鏡』『サクリファイス』など、生み出された作品は、タルコフスキーの生きた世界の複雑で矛盾に満ちた感情を呼び起こす。俳優や脚本のあり方をはじめとする映画の方法は、現代において涸渇した人間存在の源泉を甦らさんとする意図とともに追求された。戦争と革命の時代である二十世紀に、精神的義務への自覚を持ち続けた映画作家の思考の軌跡。》
福沢諭吉著・会田倉吉校注『福翁自伝』旺文社文庫・1970年
《福沢諭吉は近代日本の生んだ最も偉大な先覚者の一人である。
幕末、攘夷開国で国論が沸騰していた時代から、明治維新、日清戦争に至るまでの近代国家誕生の激変のまっただ中にあって、その生きた時代とその生涯を語ったこの記録は、伝記文学の白眉としてあまりに名高い。》
田尻祐一郎『江戸の思想史―人物・方法・連環』中公新書・2011年
《荻生徂徠、安藤昌益、本居宣長、平田篤胤、吉田松陰――江戸時代は多くの著名な思想家を生み出した。だが、彼らの思想の中身を問われて答えられる人は多くないだろう。それでも、難解な用語の壁を越え、江戸の時代背景をつかめば、思想家たちが何と格闘したのかが見えてくる。それは、〈人と人との繋がり〉という、現代の私たちにも通じる問題意識である。一三のテーマを通して、刺激に満ちた江戸思想の世界を案内する。》
勝目梓『仮面の火祭り』講談社ノベルス・1984年
《布施稔は47歳、アル中気味の私立探偵で、妻子と別居し愛人と暮している。ある日、唐沢明夫という男から、妻の浮気相手を捜してほしい、との依頼を受けた。生まれたばかりの彼の娘が、実の娘ではない、という疑いからである。調査を進める布施の前に意外な人間関係が浮彫りにされ、殺人事件が展開されていく……。》
グラント・キャリン『サターン・デッドヒート』ハヤカワ文庫・1988年
《土星の衛星イアペトゥスで、異星人の遺物が発見された。スペースコロニーの考古学教授クリアスらが調査した結果、土星近傍には同様の物体が隠されており、その指示に従えば異星人が太陽系に残した“贈り物”が見つかるという。かくしてこの“贈り物”を手に入れるべく、苛酷な環境の土星系を舞台に、クリアスらを乗せたコロニーの宇宙船と地球側の宇宙船とで白熱したレースがはじまった! 待望のニュー・ハードSF登場。》
松谷浩尚『イスタンブールを愛した人々―エピソードで綴る激動のトルコ』中公新書・1998年
《アジアとヨーロッパとを隔てるボスポラス海峡の両岸にまたがる国際都市イスタンブール。ここにさまざまな目的で滞在した日本人を含む一二人の人物の行動と記録を通して、オスマン帝国の崩壊からトルコ共和国の誕生まで一世紀にわたる激動のトルコの内外情勢をエピソード豊かに紹介する。同時に、歴史の宝庫としての古都の魅力や、同じアジアの一員としてかつて列強に対抗した日本とトルコの不思議な親近感をも伝えてくれる。》
福永武彦『夢見る少年の昼と夜』新潮文庫・1972年
《帰りの遅い父を待ちながら優しく甘い夢を紡ぐ孤独な少年の内面を、ロマネスクな筆致で描いた『夢みる少年の昼と夜』。不可思議な死をとげた兄の秘密が、やがて自己の運命にもつながっていることを知る若い女性の哀れ深い生を描いた『秋の嘆き』。他に『死神の馭者』『鬼』など、意識の底の彷徨を恐ろしいほどに凝視し、虚構の世界にみごとに燃焼させた珠玉短編あわせて11編を収録する。》
収録作品=夢見る少年の昼と夜/秋の嘆き/沼/風景/死神の馭者/幻影/一時間の航海/鏡の中の少女/鬼/死後/世界の終り
酒井シヅ『病が語る日本史』講談社学術文庫・2008年
《古来、日本人はいかに病気と闘ってきたか。人骨や糞石には古代の人々が病んだ痕が遺されている。結核・痘瘡・マラリアなどの蔓延に戦いた平安時代の人々は、それを怨霊や物の怪の祟りと考え、その調伏を祈った。贅沢病といえる糖尿病で苦しんだ道長、胃ガンで悶え死にした信玄や家康。歴史上の人物の死因など盛り沢山の逸話を交え綴る病気の文化史。》
岩村忍『西アジアとインドの文明』講談社学術文庫・1991年
《西アジアとインドは、過去五千年以上にわたり幾多の戦乱を繰り返してきた。しかもこの地域は、メソポタミヤとインダスという世界最古の文明を二つまで含み、また、仏教やイスラム教などの世界宗教をはじめとする高い文化の花が開いた。本書は、中国やヨーロッパなどの歴史と関連づけながら偉大な文化圏の実像を総合的に捉える。多民族の錯綜する広大な地域に展開する波乱に満ちた民族興亡の歴史。》
牧野雅彦『ヴェルサイユ条約―マックス・ウェーバーとドイツの講和』中公新書・2009年
《第一次世界大戦は、アメリカの参戦とドイツ帝国の崩壊を経て休戦が成立し、パリ講和会議が開かれる。だが、「十四箇条」に基づく「公正な講和」を求めるドイツ、「国際連盟」による世界秩序の再編を目指すアメリカ大統領ウィルソン、そして英仏の連合国首脳の思惑には大きな隔たりがあった。それまでの講和のルールになかった「戦争責任」をドイツに求めるべきなのか。人類初の世界戦争の終結をめぐる息詰まる駆引を描く。》
吉行淳之介・篠山紀信『ヴェニス 光と影』新潮文庫・1990年
《熟した果実に蟻が群れるように、世界中から観光客が集まる水の都ヴェニス。かつては栄光と繁栄を誇り、後には頽廃と没落の都として、今や世紀末を代表するかのようなこの土地に、作家と写真家は入った…。作家のペン、写真家のカメラがとらえた栄光の都市ヴェニスの官能の名残り、そして死のイメージ…。文学と写真のプリズムを透して、今。たそがれのヴェニスは揺れる…。》
吉田知子『お供え』講談社文芸文庫・2015年(川端康成文学賞)
《毎朝、何者かに家の前の「カド」にお供えを置かれ、身に覚えのないまま神様に祀り上げられていく平凡な未亡人。山菜摘みで迷い込んだ死者たちの宴から帰れない女。平穏な日常生活が、ある一線を境にこの世ならぬ異界と交錯し、社会の規範も自我の輪郭さえも溶融した、人間存在の奥底に潜む極限の姿が浮かび上がる七作品。川端康成文学賞受賞。》
収録作品=祇樹院/迷蕨/門/海梯/お供え/逆旅/艮
奥村土牛『牛のあゆみ』中公文庫・1988年
《「土牛、石田を耕す」――寒山詩よりつけた雅号のとおり、歩一歩、地道な画業精進を重ね、日本画壇最高峰に至った奥村土牛。百歳にしてなお壮年をしのぐ流麗な描線と端厳な色彩で観る人を静謐の境地に誘い、さらに新境地に挑み続ける土牛芸術の秘奥を明かす自伝。(カラー図版12頁、モノクロム図版24頁入り)》
森本哲郎『そして―ぼくは迷宮へ行った。』角川文庫・1979年
《人間の想像力によって、世界は迷宮となる。だがそれは、不安とともに安堵があり、恐怖とともに期待がある魅力あふれる迷宮である。各国に残る遺跡は、そうした想像力を限りなくかきたて、時間を越えた迷宮へと人を誘う絶好の場所である。
本書は、『サハラ幻想行』で、砂漠を思索の場に選んだ著者が、世界各地を歩いて遺跡の前に立ち、古代人の生の営みと宇宙観の迷宮へ踏み込んだ記録である。トンブクトゥ、クレータ島、モヘンジョ・ダロ、ルクソール、イースター島、アンコール、明日香村……これらの地の訪問記は数多いが、本書の読者は、著者独自の想像力が、そこに新しい世界を現出させたことを知るのである。》
荒俣宏『小説 妖怪大戦争 ガーディアンズ』角川文庫・2021年
《日本列島を東西に分断する裂け目、フォッサ・マグナ。そこに眠る古代の化石群が1つに結集し、巨大な妖怪獣へと姿を変えた。向かう先は東京。人間には天災にしか見えない襲来に、妖怪たちだけが真相と行く末に気づいていた。このままでは世界が滅んでしまう。止められるのは、伝説の妖怪ハンター、渡辺綱の血を継ぐ小学生・渡辺兄――。突然〈世界を救う勇者〉に選ばれた少年と、彼を巻き込んだ妖怪たちの大冒険が今始まる!》
荒俣宏『日本仰天起源』集英社文庫・1994年
《天皇に始まり、お墓と神社の関係、トイレの起源まで日本の根っこを探り、空海の謎から天狗・妖怪の不思議を解きあかす。さらに少年の日のなつかしの東京風景を描き、現代の東京を論じる。著者が長年温めてきた日本へのこだわりが初めて一冊の本となった文庫オリジナル編集「日本論」。今あらためて、日本の面白さ日本の恐ろしさを知る!》
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