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『迦陵頻伽』は柏木博(1937 - )の第1句集。序文:小川軽舟。
著者は「鷹」会員。
車より蝮要るかと言はれけり
アウンサンスーチー女史の蚊を打つや
霧動き邪馬台国の見ゆるかな
畦越えて最短距離を鼬逃ぐ
あたたかや先に逝くのを譲り合ひ
囀や少し気取りし子の遺影
それぞれに違ふ方見て春の海
毛虫焼くたぢろがざるを疎みつつ
十五匹ゐる筈なのよ目高の子
隠すべきところを示す水着かな
老人が墓石のごとく月の浜
ゆく道の草に消えけり秋の暮
八月のラッシュアワーの目玉かな
提灯のごとく大きく宵の月
ビニル傘始めうれしき霰かな
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『あきる野』は伊丹啓子(1948 - )の第3句集。
著者は「青群俳句会」顧問。
太鼓橋の晴着を映す 池の鯉
木馬に乗って デジタル庁の門叩く
ラムネ瓶はシュールな女体 浜の舎(いえ)
街歩き 内耳に魔笛ひびきつつ
父逝かせるに父に縋るよ 強き父
骨壺の父が居残り 無人の家
青梅街道 廃屋 神社 又廃屋
古町 白壁 抱擁の影考妣(ちちはは)か
ドリーA ドリーB呼ぶ 羊雲
蓄音機 疾うに失せしはエノケン座
スカイツリーの光輪回る 月蝕下
崖あれば落ちる夢みる 秋の暮
まず鸚鵡返しではじまる 腹話術
月蝕に わが身削れてゆくような
白磁大小狐のうたげ 塔頭 春
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『しみづあたたかをふくむ』は森賀まり(1960 - )の第3句集。
著者は「百鳥」「静かな場所」同人。
草の蜘蛛ふはりと何もなき方へ
学寮の茂に匂ひありにけり
向う岸冬満月に近くあり
はんざきのどさりと抛りたるごとし
冬林檎三つ傾きあひてをり
片目づつ別の桔梗を見てゐたる
十月の砂地を歩きつづけたり
鳥の巣の踏みくぼみたるところかな
夏の蝶空に大波あるやうに
電線のよく見えてゐる夕涼み
紙袋鳴らしてあるく寒さかな
水吸うて新聞あをし花八ツ手
鸚鵡貝春の触手を揉みあへる
浜木綿のばうと光れる砂地かな
草じらみ鞄の朽ちてゆくかたさ
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
今回は知名な装幀画家が手がけているのに言われないと気付かないような本が幾つかあって、リチャード・N・パタースン『ラスコの死角』(ハヤカワ文庫)は生頼範義、久世光彦『一九三四年冬―乱歩』(新潮文庫)は建石修志、兵藤正之助『野間宏論』(新潮社)は辰巳四郎である。
ネッド・ウォード『ロンドン・スパイ―都市住民の生活探訪』法政大学出版局・2000年
《今から三百年前のロンドン。その「目ぼしい場所の完全な実地検分」を企てた著者は、「昼夜を問わず横行する人類共通の虚栄や愚行」を目撃・観察し、喧騒・不潔・残酷・粗野・猥雑、しかしまた笑いと活力と人間味に溢れた都市住民の生活の裏と表を縦横に語り尽くす。当時の正統的文学の向こうを張って、ひたすら「面白く役に立つ話」を集め、悪口雑言・地口・オノマトペア・風刺詩を自在に操った目くるめく言語宇宙は、読む者の心胆を深くえぐるであろう。》
藤本義一『生きいそぎの記』講談社文庫・1978年
《映画とは影を売るのでげす、だから愉しいのでげす――影の虚しさを知りつつ、すさまじい執念をもって生きいそぐ、映画監督川島雄三の鬼哭充満する表題作。太棹三味で大道芸を売る姉妹の哀しいまでも異様な生涯「上方苦界草紙」他三編。直木賞受賞作「鬼の詩」につながる、芸の鬼たちの狂気と哀切をとらえた作品集。》
収録作品=生きいそぎの記/上方苦界草紙/人面瘡綺譚/赤線・飛田大門/柩の舟人
リチャード・N・パタースン『ラスコの死角』ハヤカワ文庫・1984年(アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞)
《大統領の友人ラスコの会社が、株価操作を行っているらしい――経済犯罪対策委員会の特別捜査官パジェットは、ひそかにラスコの身辺を洗い始めた。だが、その矢先に、情報をくれるはずだったラスコの社の経理部長が、何者かに轢き逃げされてしまった。しかも、被害者が遺した謎のメモを頼りに必死の調査を続けるパジェットまで命を狙われ始めたのだ! 株価操作、殺人、謎のメモと、政治の壁に守られたラスコを結ぶ糸はどこに……ロス・マクドナルドを継ぐと絶賛された期待の新星の第一級サスペンス! アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞受賞!》
三田村鳶魚編/朝倉治彦校訂『江戸年中行事』中公文庫・1981年
《元禄期の「御城之年中行事」「町中年中行事」をはじめ、「新吉原年中行事」「増補江戸年中行事」「東都遊覧年中行事」など十五篇を収め、ほぼ二百年にわたる江戸の公事・祭事・行事・行楽の変遷を比較して、江戸文化と生活の実態を明らかにする。》
つかこうへい『ストリッパー物語』角川文庫・1985年
《主役は、ストリッパーの明美。山形、新潟、青森と、流れ流れのステージぐらし。すでに若くはなく、脚ももう昔のように高くはあがらない。重さんという恋人がいて、心底、明美につくしてくれる。ひたすら明美の喜ぶ顔だけが生きがいという、いい男。
その重さんに、実は美智子という高校生の娘がいて、一人アメリカに勉強に行くというのだ。「悪い男にツカまるな、金は足りるか? アメリカで風邪など引くな」明美と重さんの思いはいつか美智子へのひとつの希いとして合体し祈りへと昇華していく。
愛は不滅!――日本のすみずみを、地球をかけめぐる「愛の真実」を描いた長編傑作!》
池澤夏樹『のりものづくし』中公文庫・2018年
《これまでずいぶんいろいろな乗り物に乗ってきた……汽車による初めての大移動、ワープロを乗せてひとり車を飛ばした芥川賞受賞直後、娘と乗った新幹線、札幌とチューリヒの市電の違い、ヒマラヤで出会った頼れる愛馬、念願かなった南極旅行日誌などなど。バラエティ豊かな乗り物であっちへ行ったりこっちへ行ったり、愉快痛快うろうろ人生。 (文庫オリジナル編集)》
内田樹・平川克美・名越康文『僕たちの居場所論』角川新書・2016年
《自分の居場所を見つけられない人が増えていると言われる時代、それぞれ違う立場で活躍してきた朋友の3人が、自分らしさとは、つながりとは何かについて鼎談。叡智が詰まった言葉の数々にハッとさせられる1冊。》
阿刀田高『私が作家になった理由』集英社文庫・2021年
《小説家を志していたわけではない──。戦争疎開のいじめと敗戦を経験した少年時代。父を亡くし生活苦のなかの早稲田大学進学、在学中の結核発症。闘病後の就職難を経て、国立国会図書館に勤務し始めると、執筆の誘いが……。思えば、温かな家庭の原体験と折々の読書が、いつしか作家活動の基盤となったのかもしれない。短編の名手が、辛口ユーモアを交え自己を省みて綴る時代批評&自伝エッセイ。》
橋爪大三郎『世界は四大文明でできている』NHK出版新書・2017年
《「キリスト教文明」「イスラム文明」「ヒンドゥー文明」「中国・儒教文明」ー現下世界を動かす四大文明の内 実とは? 各宗教が文明圏の人びとの考え方や行動にどのような影響を与えているのかを明快に説く。世界63億人の思考法が一 気につかめる! 有名企業の幹部に向けた白熱講義を新書化するシリーズ、第1弾。》
藤井太洋『Gene Mapper -full build-』ハヤカワ文庫・2013年
《拡張現実技術が広く社会に浸透しフルスクラッチで遺伝子設計された蒸留作物(Distilled Crop)が食卓の主役である近未来。遺伝子デザイナー(Gene Mapper)の林田は、L&B社のエージェント・黒川から、自分が遺伝子設計をした稲が遺伝子崩壊(ジーン・コラプス)した可能性があるとの連絡を受け、原因究明にあたる。ハッカーのキタムラの協力を得た林田は、黒川と共に稲の謎を追うためホーチミンを目指すが──電子書籍の個人出版がたちまちベストセラーとなった話題作の増補改稿完全版。》
山本七平『聖書の常識』講談社文庫・1989年
《聖書を知らない人はいないのに、聖書についての正しい知識となると、私たち日本人は、きわめて心もとない。聖書は一冊の本ではなく、一定の方針で編集された全書である。とりわけ旧約聖書は世界最古の歴史書であり、キリスト教だけではなく、ユダヤ教やイスラム教の聖典でもある……。さまざまな角度から解説を試みた、ユニークな聖書入門書。》
今村仁司『近代の労働観』岩波新書・1998年
《一日のかなりの時間をわれわれは労働に費やす。近代以降、労働には喜びが内在し、働くことが人間の本質であると考えられてきた。しかし、労働の喜びとは他者から承認されたいという欲望が充足されるときである。承認を求める欲望は人間を熾烈な競争へと駆り立てる。労働中心主義文明からの転換を、近代の労働観の検討から提起する。》
柏木博『デザインの教科書』講談社現代新書・2011年
《デザインを知れば、日常生活がもっと豊かになる!
「デザインとは何か」という基本的な質問から、デザインを決める要素、20世紀のモダンデザインから時代が変わっていまのデザインが求められている役割の変化まで。デザイン評論家として知られる著者が書いた、受け手・使い手の立場でデザインを知るための絶好の入門書。》
久世光彦『一九三四年冬―乱歩』新潮文庫・1997年(山本周五郎賞)
《昭和九年冬、江戸川乱歩はスランプに陥り、麻布の〈張ホテル〉に身を隠した。時に乱歩四十歳。滞在中の探偵小説マニアの人妻や、謎めいた美貌の中国人青年に心乱されながらも、乱歩はこの世のものとは思えぬエロティシズムにあふれた短編「梔子姫」を書き始めた――。乱歩以上に乱歩らしく濃密で妖しい作中作を織り込み、昭和初期の時代の匂いをリアルに描いた山本周五郎賞受賞作》
田辺聖子『オムライスはお好き?』集英社文庫・1983年
《窓際族とさげすまれ、女房、子供にいびられる中年男は卵料理に生きがいを見いだした。シブチンでええ格好しいの妻、親爺を煙たがる子供らに囲まれて、孤独で寡黙なお父さんの胸の中の呟きが、おかしくて哀しい表題作。やっと建てたマイホームを女房一族に占領され、挙句の果てに転勤命令。愛家家の悲哀を描く「かたつむり」他、男権弱化の世の中で夕暮れを迎えた男女の甘くも苦い極めつきの7編。》
収録作品=かたつむり/結婚しない男/わすれ貝/ノコギリ足/渡り鳥おやじ/種貸さん/オムライスはお好き?
荒俣宏『レックス・ムンディ』集英社文庫・2000年
《南仏の古代遺跡に眠る遺物の発掘。謎の宗教団体からの依頼を受けたレイハンター青山譲は、聖地レンヌ=ル=シャトーへと向かう。彼がかつて発掘に成功し、封印したその石棺をふたたび暴くために。遺物の正体とは、はたして何なのか。世界の王、レックス・ムンディの復活を預言するのは……。膨大な資料と想像力のもと、ヨーロッパ文明最大の謎とタブーに挑む、アドベンチャー・ホラー長編。》
山崎正和『演技する精神』中公文庫・1988年
《アリストテレスの「藝術論」、世阿弥の「演技論」などを論じ、更に二十世紀前半の知的関心および現代の意識理論のありうべき典型的な方向を代表する、ベルクソン、サルトル、メルロ=ポンティ等の業績を検討しながら、独創的な「演技」の概念によって新しい人間学と芸術学の体系化を試みる、画期的労作。》
F・レカナティ『ことばの運命―現代記号論序説』新曜社・1982年
《本書は、序で著者が述べているように、記号論(とりわけ語用論)あるいは言語哲学への入門書である。記号にかんする古典理論から話を説きおこし、旧分析と新分析の角逐を仔細に見きわめつつ、最後に語用論的パラドクスにまで説き及んでいる。》(訳者あとがき)
兵藤正之助『野間宏論』新潮社・1971年
《人間が生きるとはどういうことなのか。流動の激しさがともすると自分のよって立とうとする場をすら見失わせがちな現代、重層する難しさを伴ってぼくらに迫ってくるのがこの問いだ。答をもちえぬまま、このことに思いをひそめるぼくを前につき動かすものに芭蕉の「不易流行」がある。変らざるものと移ろいゆくもの「其本を一つなり」との考えのもとに、「誠をせめん」とした姿勢がそれだ。そして野間宏の文学もまた、その「誠をせめる」なかから生まれてきたものに他ならない。》
フリードリッヒ・ニーチェ『ニーチェ全集12─権力への意志(上)』ちくま学芸文庫・1993年
《韻文による壮大な哲学的主著『ツァラトゥストラ』を書き終えたニーチェが散文表現による体系的理論書として計画し、書き残した厖大な遺稿群の集成。ニーチェの実妹エリーザベトがペーター・ガストの協力を得て編纂したもの。本書は著作としては未完に終った思想的素材の塊りであるが、晩年のニーチェの思索生活の影が映しだされた精神のドラマの工房であり、彼の世界観形成の内部秘密に解明の光を投げかけてくれる思索の宝庫である。本巻には全四書のうち、「第一書 ヨーロッパのニヒリズム」および「第二書 これまでの最高価値の批判」を収録。》
フリードリッヒ・ニーチェ『ニーチェ全集13─権力への意志(下)』ちくま学芸文庫・1993年
《権力への意志とは何か。ニーチェの提唱する権力とは超人の理想、ディオニュソス的精神、さらに自由なる精神が発現される源泉としての生命の根源的な力である。権力への意志を偏狭な解釈のうちに閉じこめるのではなく、肯定的な価値として深く純粋に捉え得るかどうかは、われわれ自身の本書全体の理解にかかっているといえよう。ニヒリズムを超える新しい価値定立の原理を権力への意志に求めた晩年のニーチェ。彼が切り開いた未来の哲学の可能性はこの厖大な哲学的断章の森の中に秘められているのだ。本巻には全四書のうち、「第三書 新しい価値定立の原理」および「第四書 訓育と育成」を収録。》
エトムント・フッサール『内的時間意識の現象学』ちくま学芸文庫・2016年
《現代哲学、思想、そして科学にも大きな影響を及ぼしている名著の新訳。フッサールの現象学はなによりも学問の基礎づけを目指すが、その際「いちばん根底に横たわる」問題が時間である。時間は一瞬で流れ去るのに、多くのものはなぜ持続的に「存在する」ということが可能なのか。フッサールは、「客観的時間」というものへの信憑を括弧に入れて、それが意識のなかでどのように構成されるのかを解明する。そして、時間を構成する意識それ自体が時間のなかに現れてくるという根本的な事態に光を当て、「意識の壮大な生体解剖」を行う。詳密な訳註と解説を付し、初心者の理解を助ける。》
あすか『砂漠の男神子』ショコラ文庫・2015年
《ムアンミル王国で遺跡発掘をしていた大学生の睦月は、地下通路から偶然王宮の神殿に迷い込んでしまう。そこには精悍で威厳に満ちた王子、ハイダルがいた。次期王の前に現れる伝説の「神子」だと認定された睦月は、彼が王にふさわしいかどうかを見極めることになる。ハイダルに一目で憧れを抱いた睦月は謎のしきたりに戸惑いつつ役目を果たそうとするが、伝説に懐疑的なハイダルは睦月を追い返すための画策を始めていた――。》
長野まゆみ『銀木犀』河出文庫・1997年
《銀木犀の繁の中には、ちょうど少年ひとりが身を屈めて休むことができる隠れ処があった……樹木に蔽われた古い庭に通う燈水のまえに現れた奇妙な少年は誰? 降り続く雨の中、樹に沈みゆく燈水を描いた、文庫オリジナル作品。》
長野まゆみ『聖月夜』河出文庫・1994年
《「ほら、天使が降りてくる。」──フラノがつぶやくと、ミランには何も見えなかったけれど、仔犬のタッシュが吠えたて、天使が羽根を震わせたように雪が降り始めた。降誕祭の夜空に紡がれる、素敵な物語を集めた夢のおはなし集。》
収録作品=星降る夜のクリスマス/仔犬の気持ち/少年アリス 三月うさぎのお茶会へ行く/クリスマスの朝に
長野まゆみ『行ってみたいな、童話の国』河出文庫・1997年
《この物語、ほんとうは、子どもたちに聞かせるような話ではないのです……「ハンメルンの笛吹き」「ピノッキオ」「にんじん」――笑いとざわめきと官能にみちた物語の国を、夢み、旅する、長野まゆみの残酷童話集。》
収録作品=ハンメルンの笛吹き/ピノッキオ/にんじん
小林頼子『フェルメール―謎めいた生涯と全作品』角川文庫・2008年
《作品数はわずか30数点、空間トリックと光の独特な描写、計算されたモチーフ――。
未だ謎多く注目を集め続ける、17世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメール。その魅力をフェルメール研究の第一人者がわかりやすく解説したハンディサイズのガイドブック登場! 全作品を、オールカラーで掲載。作品解説とともに、研究によって明かされた秘密、同時代の画家との対比や時代背景まで紹介。初心者にもおすすめの保存版!》
松任谷由実『ルージュの伝言』角川文庫・1984年
《八王子に一軒の呉服屋さんがあって、そこで生れ育った、空想癖がすごく強い一人の少女。
空想が始まると、丸一日、坐りっぱなしでも大丈夫といった、いささか風変りな子。
その少女がいつしか歌に興味を侍ちはじめ、遂にスーパー・スターになった。ユーミンの誕生。
そのユーミンが、いま初めて自分のことを語ります。
子供の頃の話、歌について、仲間達とのアレコレ……。
光り輝く感性の海の彼方から、あなたに向けてメッセージ。さあ、ユーミン世界へどうぞ。》
生島治郎『兇悪の紋章』徳間文庫・1990年
《総会屋まがいの会社ゴロで、関東一帯に勢力を持つ暴力団岩倉組の顧問をやっていた角塚茂が、新宿のホテルで殺された。
捜査は難航した。現場に遺留品は何一つなかった。おれが特捜部長の矢部警視に呼ばれ、捜査を命じられたのは、迷宮入りが噂されはじめたころだ。警視のカンでは、事件の陰で糸を操っているのは、財閥系の三竹商事だという。おれは捜査を開始した。表題作他四篇収録の連作ハードボイルド。》
収録作品=兇悪の紋章/兇悪の眼/兇悪の壁/兇悪の燦めき/兇悪のささやき
ハリー・クレッシング『料理人』ハヤカワ文庫・1972年
《平和な田舎町コブに、自転車に乗ってどこからともなく現われた料理人コンラッド。町の半分を所有するヒル家にコックとして雇われた彼は、舌もとろけるような料理を次々と作りだした。 しかし、やがて奇妙なことが起きた。 コンラッドの素晴らしい料理を食べ続けるうちに、肥満していた者は痩せはじめ、痩せていた者は太りはじめたのだ……。悪魔的な名コックが巻き起こす奇想天外な大騒動を描くブラック・ユーモアの会心作》
田中光二『鋼鉄海峡』徳間文庫・1991年
《鎌倉市大船駅前にダイビング用具店を営む諏訪元春は四十路を迎えたが、二十年前に失踪した元潜水艦長の父蔵人のことが、今も胸底にわだかまっていた。ある日、当時父が米国人に宛てた、“船が準備されたので、用員を揃えて渡米する”旨の手紙がLAからもたらされた。諏訪は探索を始めたが、宛先の人物は失踪中で、その娘は、残された古い戦艦の写真が手掛かりになるはずだと言う。長篇海洋アドベンチャー。》
新井素子『チグリスとユーフラテス(上)』集英社文庫・2002年(日本SF大賞)
《遠い未来。惑星ナインへ移住した人類は、人工子宮を活用し、世界に繁栄をもたらした。だが、やがてなんらかの要因で生殖能力を欠く者が増加し、ついに〈最後の子供〉ルナが誕生してしまう。滅びゆく惑星にひとり取り残されたルナは、コールド・スリープについていた人々を順に起こし始める。時を越え目覚めた者たちによって語られる、惑星ナインの逆さ年代記。第二十回日本SF大賞受賞作》
新井素子『チグリスとユーフラテス(下)』集英社文庫・2002年(日本SF大賞)
《〈最後の子供〉ルナは、ついに〈ナインの創始者〉レイディ・アカリのコールド・スリープを解いてしまう。四世紀にわたる眠りから覚めた彼女に、ルナは問う。最後の子供になると知りながら、なぜ母親は自分を産んだのかと。だが、覚醒したアカリがとった行動は、思いもよらないものだった……。生の意味を問い直し、絶望の向こうに確かな希望を見出す、感動の超大作。》
投稿情報: 08:49 カテゴリー: このひと月くらいに読んだ本の書影 | 個別ページ | コメント (0)
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