長いこと続いた腹痛は快方へ向かってきた気がするが、月の後半はまたろくに何も読めず。
装幀としては豊田有恒『改体者』(角川文庫)は和田誠バージョンの方が欲しかったがその前の中島靖侃バージョンを見つけて買ってしまった。
アンダスン『ワインズバーグ・オハイオ』(新潮文庫)は旧訳版の方で、角川文庫の眉村卓作品のカバー絵を描いていた木村光佑の装幀だったために買ったもの。現在は新訳が出ている。
熊谷ユリヤ『記憶の翼は果てしなく交錯し』は著者より寄贈頂きました。記して感謝します。
熊谷ユリヤ『記憶の翼は果てしなく交錯し』思潮社・2021年
《想い出の守り手へ
いくたびも真夏の星でであい
いくたびか真冬の宙で
すれちがいながら。
(「忘れてはならない出来事が」)
東日本大震災、そしてコロナ禍。災禍に旅立った魂の記憶に寄り添い、無限の音空間に解き放つ。静寂と深淵のかなたへ――11年ぶりの新詩集。》
豊田有恒『改体者』角川文庫・1978年
《21世紀、宇宙への進出は、人類最大の課題だった。宇宙環境に適応するため、頭脳以外のすべての人体を改造したサイボーグが創られ、彼らはエリートとされた。だが、その改造技術の進歩は著しく、毎年おこなわれた装備のモデルチェンジは、優秀な功績をあげた者にしか受けられなかった。
激しい競争に敗れ、はるかなる宇宙に逃亡した男を待ちうける運命は……。表題作ほか5篇を収録。宇宙を舞台とした著者会心のハードSF集。》
収録作品=改体者/植民者/帰還者/殺人者/襲撃者/絶滅者
小谷野敦『夏目漱石を江戸から読む―新しい女と古い男』中公新書・1995年
《近代日本文学を代表する作家で、英文学者でもあった漱石。その作品は、英米文学の受容とともに論じられることが多かった。本書は漱石作品を、人形浄瑠璃や歌舞伎、浮世草子、人情本、読本のような江戸期の文学と西洋文学との交点に生まれたものとして捉え、比較文学の手法を用いて分析、『坊つちやん』の武士的精神が『虞美人草』以降、恋愛の世界と交錯し、同性関係と異性関係の絡み合いとして、『こゝろ』が生まれる過程を考察する。》
二村ヒトシ・金田淳子・岡田育『オトコのカラダはキモチいい』角川文庫・2017年
《僕たちは、僕たちの本当の快楽についてまだ何も知らない――。AV監督の二村ヒトシ、ボーイズラブ研究家の金田淳子、腐女子で文筆家の岡田育。現代の性の三賢人が「男性の肉体の官能」を徹底考察!男女双方のポルノグラフィからゲイ文化まで、縦横無尽に語った画期的な入門書。誰もが自分の肉体に向き合えば、毎日がちょっと生きやすくなる!? 各界で話題騒然の一冊に、「BL界の最前線」について大幅加筆した完全増補版。》
ツカサ『ノノノ・ワールドエンド』ハヤカワ文庫・2016年
《「世界なんて終わっちゃえばいい」暴力を振るう義父と受け入れるだけの母、良いことなんて何もない毎日に絶望する中学3年生・ノノ。彼女の願いをかなえるかのように、白い霧に包まれた街から人々は消え、滅びのときは数日後に迫った。望み通りの終末に怯えて逃げ出したノノは「世界が終わっちゃうのは、あたしのせい」と告白する白衣の少女・加連と出会う。そして少女二人きり、何処にも辿り着けないおしまいへ向かう旅が始まる。》
五味康祐『小説長島茂雄―五味一刀斎が贈る惜別の詩』カッパ・ノベルス・1970年
《長島茂雄は、なぜ巨人軍監督を辞めなければならなかったか? あふれる情報の中で、長島を知悉した五味一刀斎が、作家の眼から本質に迫ったのが本書である。――スーパースター長島茂雄が、昭和39年11月、婚約を発表したとき、一人の女性が彼との愛の生活をこまごまと大学ノート二冊に書き残して自殺した。重大な危機に陥ったヒーローのために、陰で奔走したのが、関西某球団オーナーの愛人と噂される木戸充子だったが……?
長島に限りない声援を送り続けた五味康祐が、長島ファンとプロ野球ファンに捧げる、知られざる“秘話”と、人間長島の栄光と苦悩のドラマ!》
《長島茂雄の人間的魅力 文芸評論家 尾崎秀樹
戦後の剣豪小説リバイバルに大きな役割をはたした五味康祐は、剣とスポーツとをドッキングさせ、『一刀斎は背番号6』などのすぐれた作品を書き、今日のスポーツ小説流行の先駆をなしたが、その裏には、ひとつのことに闘魂をかたむける人間にたいしての、ふかい共感と尊敬の念があったと思われる。この『小説長島茂雄』は、ミスター・ジャイアンツ長島への、五味一刀斎の敬愛の情をこめたもので、それが一冊にまとまったことは、長島ファンにとっての何よりの贈り物だ。この作品を読むことで、あらためて長島の人間的魅力が理解されるにちがいない。》
津原泰水『ヒッキーヒッキーシェイク』ハヤカワ文庫・2019年
《「人間創りに参加してほしい。不気味の谷を越えたい」ヒキコモリ支援センター代表のカウンセラーJJは、パセリ、セージ、ローズマリー、タイムという、年齢性別さまざまな4人の引きこもりを連携させ、あるプロジェクトを始動する。疑心に駆られながらも外界と関わろうとする4人だったが、プロジェクトは予想もしない展開を見せる。果たしてJJの目的は金か、悪意か、それとも? 現代最高の小説家による新たな傑作。》
野田昌宏『宇宙からのメッセージ』角川文庫・1978年
《惑星ジルーシアはロクセイア12世率いるガバナス帝国の侵略にあい、今や滅亡の危機に瀕していた。帝国軍は反抗する者を虐殺する一方、住民を酷使して不可解な土木事業を進めていた。
わずかな生存者とともにたてこもった酋長キドは、ジルーシア救済の悲願を込めて、8つの木の実を宇宙に放った。密命を帯びて、戦士ウロッコも帆船型宇宙船でひそかに飛びたつ――。
宇宙にちらばった木の実は、おんぼろ貨物船の玄八、シロー、酔いどれ将軍ガルダ、そして美人海賊三姉妹たちの手に渡った。メッセージに応えてジルーシアヘ向う勇士たち。待ちうけるロクセイア12世の黒い野望とは何か?
傑作スペース・ファンタジー!》
平井和正『メガロポリスの虎』角川文庫・1975年
《メガロポリスの治安をいっさい取りしきる“超コンピューター”。かれは人類にとって最も有能な召使いだ。だが、もしかれが何かのはずみで自分の意思を持ったとしたら? この恐ろしい可能性を、人々は誰も考えない。そして、今、人類は少しずつ滅亡への道をたどり始めていた……。
発達しすぎた機械文明の恐怖を、一人の男の異常な行動を通じて描く、平井和正のSF長編傑作。》
豊田有恒『核ジャッカー追跡』ケイブンシャ文庫・1994年
《ニューデリーの日本大使館に、インド情報省から極秘の要請が入った。日本人ゲリラがインド国内に潜入して核ジャックを企んでいるというのだ。ゲリラは日本赤軍のメンバーらしい。防衛駐在官の鹿島渉は、インドの原子力開発のメッカであるボンベイ地区を対象にしているというわずかな情報を手掛かりにボンベイに急行したが……。世界を震撼させる長篇国際冒険小説。》
アンダスン『ワインズバーグ・オハイオ』新潮文庫・1959年
《19世紀文学から現代アメリカ文学への橋渡しの役割を果したアンダスンの代表作。『グロテスクなものについての書』『神様の力』など25編の短編からなる本書は、オハイオ州のワインズバーグという架空の町に住む人々を各編の主人公とし、25人の主人公たちの間にさまざまな社会的関係をもたせるという特異な形式のもとに、新文明の興隆にあってさびれてゆく田舎町の沈滞した生活を描く。》
収録作品=グロテスクなものについての書/手/紙玉/母親/哲学者/誰にもわかりはしない/信仰(第一部)(第二部)/身をまかす(信仰第三部)/恐怖(信仰第四部)/着想家/冒険/品位/内省的な少年/タンディ/神の力/女教師/孤独/或る自覚/「へんくつ」/つかずじまいになったうそ/酒/死/世間知/出発
豊田有恒『聖徳太子の叛乱』徳間文庫・1997年
《時は六世紀。用明大王の死後、大和では蘇我氏と物部氏の権力抗争が激化していた。排仏派の物部氏は穴穂部王子と結んで蘇我馬子を滅ぼし、王子を大王に、自らは大臣となり仏教徒狩りを始めた。彼らにとっての脅威は用明大王の子・厩戸王子。暗殺を企てる大王とかつての妻・刀自子妃、そして物部氏の手からかろうじて逃れた厩戸王子は、仏教徒とともに大王を倒すべく立ち上がる……。壮大なる古代ロマン。》
和久峻三『多国籍企業殺人事件』講談社文庫・1981年
《海野海運は、四ノ宮紗代の乱発した小切手の決済ができず、苦境に立った。紗代の背後には、事件を契機に会社乗っ取りを謀る大海運会社の、むきだしの野望が感じられる。時あたかもエネルギー危機の最中で、国際石油戦争は熾烈に展開される。会社の存亡を賭けて、巨大企業の謀略と闘う男の魅力を、雄大なスケールで描く冒険推理。》
森村誠一『カリスマの宴』角川文庫・1979年
《国産か? 輸入か? 次期主力戦闘機選定をめぐっての紛糾した論議のさなか、重大な影響力を侍つ国防庁幹部が都内の料亭で変死した。心臓麻卑と発表されたが、当夜、女が一緒だったことが判明し、殺人の疑いも出て来た!
業務内容の怪しげな中央経済管理社に再就職した木崎民治は、そこで偶然、前に心を魅かれた女性及川真樹に再会した。だが、彼女には何か秘密があるらしく、妙に態度がよそよそしい。そして、あの変死事件の現場に居たのが真樹ではないかとの疑惑が強まった時、彼女は突然、失踪してしまった……。
汚れきった政界を痛烈に告発しつつ、独創的なトリックと見事な構成で描いた意欲的長編推理。》
山田正紀『弥勒戦争』角川文庫・1978年
《戦後間もない頃、焼野原の街には闇市が建ちならび、人々は飢え、世は混沌としていた――。
「掟を無視し、とてつもなく巨大な悪しき独覚が、世界を変えようと動き始めている。悪いことが起こらねばよいが……」一族の老師はつぶやいた。釈迦入滅後、ひたすら滅びの道を歩み、世と関わりを持つことを禁じられ、わずかな人数になった超能力者集団、独覚一族。一族のなかの“悪しきもの”は誰なのか? やがて、老師の思惑どおり、世相は濁り、朝鮮半島に戦火のきざしがあらわれてきた!
山田正紀が新たな視点で、戦後の動乱期を舞台に描いた、会心の“神シリーズ”。》
オルコット『花物語』角川文庫・1969年
《「もしこの物語に収められている、ありふれた花の中に、少しでも、美しさと明るさを見いだしてくれるならば……」と、すでに『若草物語』などでわが国に最も親しまれているオルコット女史が、病の床にある間慰めと喜びになった花々を通して少女たちに書きつづった愛情あふれる物語。本書がオルコット女史最後の作品になった。》
森村誠一『日本アルプス殺人事件』角川文庫・1977年
《北アルプス山中のスキーコースを、鮮やかなシュプールを描いて滑り降りる一組の男女。だが、きまぐれな山の天候が突然悪意を剝き出しにし、猛吹雪と激しい冷え込みが二人を襲った。
その時、運悪く女が転倒、はずれたスキーが一瞬のうちに谷底へ流れ落ちた。女はもう一歩も動けない。男は、すがりつく女を振り捨てると吹雪の中に姿を消した。女のスキーの止め金は前夜、男から贈られたものだった……。
雄大な日本アルプスの観光開発が生み出す莫大な利権をめぐり、複雑にからみ会う人間の愛憎を浮き彫りにした、著者会心の長編山岳ミステリー!》
飛浩隆『象られた力』ハヤカワ文庫・2004年(日本SF大賞、星雲賞)
《惑星〈百合洋〉が謎の消失を遂げてから1年、近傍の惑星〈シジック〉のイコノグラファー、クドウ圓は、百合洋の言語体系に秘められた“見えない図形”の解明を依頼される。だがそれは、世界認識を介した恐るべき災厄の先触れにすぎなかった……異星社会を舞台に“かたち”と“ちから”の相克を描いた表題作、双子の天才ピアニストをめぐる生と死の二重奏の物語「デュオ」ほか、初期中篇の完全改稿版全4篇を収めた傑作集。》
収録作品=デュオ/呪界のほとり/夜と泥の/象られた力
三宅榛名『アイヴスを聴いてごらんよ』筑摩書房・1977年
《十代で自作自演のピアノ・リサイタルを開き、ジュリアード音楽院作曲科で学んだ個性的な作曲家・三宅榛名が、都はるみからアイヴスまでを自由に論じて開かれた音の世界をさぐる。フレッシュな感覚溢れるエッセイ集。》
西村寿行『鬼狂い』講談社文庫・1985年
《愛する娘を白血病で失ったとき、夏目の妻は家出した。六年経って再会した妻は、愛娘の骨を肌に抱き、末期ガンにあえいでいた。妻のために夏目は警察をやめて、家を売り、死出の旅に同行する。そして彼はいつか犯罪者になり、警察に追われていた。夏目らを援ける老婆の集団、野良犬……。西村寿行の小説世界の一大結晶を示した凄烈ハードロマン。》
赤川次郎『ロマンティック』角川文庫・1986年
《女は傷ついているんだから。ずっと、奥の、目に見えないところが……。そんなの男の人にはわからないんだ。志村奈美。17歳。――お嬢様学校として知られている私立女学院高三年生。親友の爽子と彼女のかつての恋人史雄のよりを戻させようと、男三人、女三人で湖のほとりの避暑地へと出かけるが……。
17歳の少女の夏の一週間の休暇。退屈と、混乱と、恥ずかしさと、感激と……。そして大人へ。人気最高潮の赤川次郎が放つ、オリジナル青春ラブ・サスペンス。》
高木彬光『黒白の虹』角川文庫・1975年
《株には奇妙な魔力がある。わずかの間に莫大な利益をあげるチャンスを求めて、大衆は“相場”にすい寄せられる。――気違いじみた暴騰相場にわく兜町で、ある日突然、誰からも見すてられていた旧〈満鉄〉の株が動きはじめた。そこには、金もうけのためには手段を選ばぬ悪質な策謀があった。当然のように、数日後株価は暴落、何人かの投資家が自殺をし、失踪した。
それから6年、この事件が忘れさられたころ、さらに大きな“落し穴”が密かに準備されて……。
相場のトリックを鋭くついた、著者会心の傑作本格推理。》
柴田錬三郎『眠狂四郎異端状』新潮社・1975年
《大飢謹に苦しむ秋田藩は、清国の銀貨を鋳造し密貿易を企てる。その動きを察知した水野越前守忠邦の側用人・武部仙十郎は、秋田藩を利用し阿片の密輸によって、忠邦が閣老主座を手にするための軍資金を捻出しようと計る。仙十郎の頼みで、狂四郎は抜荷船に乗り込み清国へ向う。初めて日本を離れた狂四郎が、占星術使いの異人らと共に南支那海を舞台に活躍する狂四郎シリーズ最終作。》
シリル・ベジャン編『ディアローグ デュラス/ゴダール全対話』読書人・2018年
《これまで一部のみ翻訳されていた、デュラス/ゴダールの3つの対話を、マルグリット・デュラス・アーカイブ、並びにフランス現代出版史資料館のマルグリット・デュラス寄贈資料に残る音声資料から完全再現。
『ラ・マン』等の作品で知られる、作家マルグリット・デュラスと、『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』などの映像作品で、世界的に影響を与えた、ヌーベル・バーグの旗手ジャン=リュック・ゴダールが、三回にわたって対話した、そのテレビ番組の映像原版から文字を新たに起こしなおし、忠実に再現された、本国フランスでも一昨年までお蔵入りになっていた記録。
本書は、映画研究者による膨大な註釈(ほぼ全頁)付。ふたりの文学・映画を読み解くうえでも、また当時の状況を理解するうえでも大変貴重なものであり、日本の単行本では、これほどの詳細な註を付すことはありえない。また、ゴダールが、ここまで内面を吐露した会話はデュラス以外の相手とではありえない!》
ドナルド・ニービル『スポメニック 旧ユーゴスラヴィアの巨大建造物』グラフィック社・2020年
《セルビア・クロアチア語やスロヴェニア語で「記念碑」という意味を持つ“スポメニック”。旧ユーゴ圏に点在し、近未来的な雰囲気を醸し出す建築物81点を、歴史、建築デザイン、立地に関する情報とともに紹介。》
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