腹痛がずっと続いて当然眠れもせず、様子を見ているうちに病院に行けないほど衰弱した一ヶ月だったので先月より更に何も読めなくなった。
読むのが惜しくて買ってそのまま置いてあった眉村卓の遺作『その果てを知らず』はようやく読んだ。コーンブルース『シンディック』も高校生の頃買い逃したのを後に入手して積読だったもの。こういうのは生きているうちに通読しておきたい。
髙柳克弘『そらのことばが降ってくる―保健室の俳句会』(俳句の本だが小説)は著者から寄贈いただきました。記して感謝します。
シリル・M・コーンブルース『シンディック』サンリオSF文庫・1985年
《腐敗した政府がシンジケート組織のモブ‐シンディック連合軍によって海へ追い落されてから、北アメリカ大陸は東西に二分され、東部はシンディックに、西部はモブに支配されている……。
シンディックのファミリーの末端に連なるチャールズ・オルシノは、劇場で彼自身のガードマンによって狙撃された。幸い無事だったが、このところファミリーの人員が相次いで狙われていた。
海の向こうでシンディックの転覆を図ってしきりにスパイを潜入させてくる「政府」の仕業か?
事態を重く見たシンディックは、真相究明のために、逆に「政府」側にスパイを潜入させることに決めた。チャールズは自らその役を買って出るのだが……
フレデリック・ポールとの共作『宇宙商人』によって知られ、35歳で世を去った鬼才コーンブルースの傑作SF長編。》
森毅『数学の歴史』講談社学術文庫・1988年
《数学は勝れて抽象的な学問である。しかし、だからといって数学が社会や世俗の人間活動から孤立して発展してきたわけでなはい。また数学者が、その人間的関心の全てを二六時中数学に集中し続けているわけでもない。それが証拠に、確率論は賭博と縁が深い。という次第で、著者は、〈数学〉を主人公にしながらも〈社会〉を断念しない数学史の記述という難題に挑んだ。あふれる機知と興味深い逸話の数々。比類のない人間臭い数学史の成立。》
徳田秋声『黴』岩波文庫・1949年
《直接自身の生活に取材した最初の作品。自然主義文学の代表作であるのみならず、秋声はこの長篇で小説家としての地位を確立した。》
渡辺温『アンドロギュノスの裔―渡辺温全集』創元推理文庫・2011年
《横溝正史の右腕として『新青年』の編集をしながら小説の執筆に励んでいた渡辺温は、原稿依頼に赴いた谷崎潤一郎宅からの帰途、貨物列車との衝突事故で27年の短い生涯を閉じた。僅かな活動期間に遺した短篇、脚本、映画に関する随筆、翻訳など、多彩な分野の作品を執筆年代順に網羅。初の文庫版全集として一冊に集成した。憂愁と浪漫に溢れる、影絵の如き物語世界を御堪能あれ》
収録作品=影/少女/象牙の牌/噓/赤い煙突/父を失う話/恋/可哀相な姉/イワンとイワンの兄/シルクハット/風船美人/勝敗/ああ華族様だよと私は噓を吐くのであった/遺書に就て/アンドロギュノスの裔/花嫁の訂正/或る母の話/男爵令嬢ストリートガール/浪漫趣味者として/巷説「街の天使」/悲しきピストル/指環/モダン夫婦抄/モダン夫婦抄 赤いレイン・コートの巻/四月馬鹿/夏の夜語/春ノ夜ノ海辺/夕の馬車/小さな聖人達に与う/淋しく生きて/若き兵士/森のニムラ/足(鏡/不幸/風景/足)/兵隊の死/子供を泣かしたお巡りさん(子供を泣かしたお巡りさん/石あたま/一年生のお爺さん)/氷れる花嫁/進軍/老いたる父と母/子供と淫売婦/氷れる花嫁/山(どぶ鼠/山)/降誕祭/縛られた夫/新薬加速素/絵姿/外科医の傑作/王様の耳は馬の耳/島の娘/矮人の指環/想出すイルジオン/或る風景映画の話/オング君の説/なんせんす・ぶっく/『疑問の黒枠』撮影を見る/古都にて/関西撮影所訪問記/アルペン嬢の話/アルペエヌ嬢の話 続/兵士と女優/十年後の映画界/十年後の十字街/各種アンケート
眉村卓『自殺卵』出版芸術社・2013年
《作家生活50周年を迎えた著者が描く、8つの異世界譚!
「われわれの贈り物で、死んで下さい。人間はもう充分生き過ぎました。」……
年金生活者で独り暮らしの主人公の自宅に、そんな異様な手紙が届けられた。
世界中で、差出人不明の卵型の自殺器と手紙がばらまかれる。
徐々に人口が減り始め、〈死〉が日常になる…終末SFの傑作「自殺卵」
ほか書き下ろし「退院前」、「とりこ」の2作を収録した全8編!》
収録作品=豪邸の住人/アシュラ/月光よ/自殺卵/ペケ投げ/佐藤一郎と時間/退院後/とりこ
眉村卓『その果てを知らず』講談社・2020年
《日本SF第一世代として活躍した眉村卓が晩年の病床で書き継いでいた遺作。SF黎明期に起こったこと、そして未来はどうなるのか――
今から60年以上前、大学を卒業して会社員となった浦上映生は文芸の道を志し、SF同人誌「原始惑星」や創刊されたばかりの「月刊SF」に作品を投稿し始めた。サラリーマン生活を続け、大阪と東京を行き来しての執筆生活はどのように続いていったのか。
晩年の彼が闘病しつつ創作に向き合う日常や、病床で見る幻想や作中作を縦横無尽に交えながら、最期に至った“この世界の真実”とは。
これぞ最後の「眉村ワールド」!》
藤沢道郎『物語 イタリアの歴史―解体から統一まで』中公新書・1991年
《皇女ガラ・プラキディア、女伯マティルデ、聖者フランチェスコ、皇帝フェデリーコ、作家ボッカチオ、銀行家コジモ・デ・メディチ、彫刻家ミケランジェロ、国王ヴィットリオ・アメデーオ、司書カサノーヴァ、作曲家ヴェルディの十人を通して、ローマ帝国の軍隊が武装した西ゴート族の難民に圧倒される四世紀末から、イタリア統一が成就して王国創立宣言が国民議会で採択される十九世紀末までの千五百年の「歴史=物語」を描く。》
野矢茂樹・西村義樹『言語学の教室―哲学者と学ぶ認知言語学』中公新書・2013年
《「雨に降られた」はよくて「散布に落ちられた」がおかしいのは、なぜ? 「西村さんが公園の猫に話しかけてきた」の違和感の正体は? 認知言語学という新しい学問の、奥深い魅力に目覚めた哲学者が、専門家に難問奇問を突きつける。豊富な例文を用いた痛快な議論がくり返されるなかで、次第に明らかになる認知言語学の核心。本書は、日々慣れ親しんだ日本語が揺さぶられる、“知的探検”の生きた記録である。》
若桜木虔『アポロンの剣闘士』集英社文庫コバルトシリーズ・1979年
《紀元二〇二一年、地球は人口増加に悩んでいた。交通事故で恋人を失ったアラン・M・西城は、消えた宇宙植民船シリウス号を追ってはるかな宇宙の旅に出た。そして着いたところは、地球とよく似た恒星で、文明もまた似かよっていた。その恒星でアランは、野性的な美女ノエラと、神々しいほどに美しいエレオノーラの姉妹と出会った。アランは、一目でエレオノーラに恋したのだったが……。》
若桜木虔『ブラックホールの彼方で―アポロンの剣闘士2』集英社文庫コバルトシリーズ・1984年
《地球防衛軍で鍛えあげられた腕前をもつアランは、地球に似た第三惑星で武術の競技会に出場した。優勝すれば聖美姫エレオノーラと結婚できる。だが試合は引き分け。アランはエレオノーラを連れ出そうとして失敗。絶望したアランだったが、奇跡によって生き返ったノエラとともに悪魔族討伐の命を受けた。戦いに敗れたアラン達は、逃亡の途中でシリウス村へ立ち寄り、人々と再会を喜び合った。》
飯島洋一『37人の建築家―現代建築の状況』福武書店・1990年
《どのような表現でも、それを生み出した時代背景を背負っているのではないか―。現代世界を代表する建築家37人の作品を語りながらその思考を探り、ポストモダンの言葉と共に多様な価値観の時代を現出した戦後を、新視点から検証する。》(「BOOK」データベースより)
夢枕獏『ねこひきのオルオラネ』集英社文庫コバルトシリーズ・1979年
《すごいものに出会った時の、恐怖感にも似た寒けが、チェロ弾きの青年をおそっていた。ふと知り合ったオルオラネ爺さんの指が奏でる、三匹のねこたちの演奏が始まったのだ。曲はベートーベンの第九、三匹たちから作り出される生きた音楽、ねこの声の微妙な色あい。だがリズムは徐々に変貌していった。これはジャズではないか。拍手、喚声、口笛り!! イヴの晩の酒場は興奮と熱気に包まれていた。》
酒井邦嘉『言語の脳科学―脳はどのようにことばを生みだすか』中公新書・2002年
《言語に規則があるのは、人間が言語を規則的に作ったためではなく、言語が自然法則に従っているからである―。こうしたチョムスキーの言語生得説は激しい賛否を巻き起こしてきたが、最新の脳科学は、この主張を裏付けようとしている。実験の積み重ねとMRI技術の向上によって、脳機能の分析は飛躍的な進歩を遂げた。本書は、失語症や手話の研究も交えて、言語という究極の難問に、脳科学の視点から挑むものである。》
野坂昭如『生誕の時を求めて』中公文庫・1978年
《挫折の世代の後に現われた、無関心で心優しい、老いた若者たち。テロの祭典の果てに彼らが見たものは何か――。生誕の日から失われた、自らの〈風景〉を求めてさすらう、若者たちの終末への旅。》
西村寿行『修羅の峠』徳間文庫・1982年
《木曾経文村の守り神とされる地蔵菩薩が盗まれ、探索に出た武平は修羅の峠に刻まれた十王像にまつわる奇妙な伝聞を知るが、やがてその十王像前で惨殺された。大正時代、乞食の権治と呼ばれる石工が刻んだという十王像には何が秘められているのか?
謎を追う武平の娘津恵と県警捜査員五堂は、戦争が生んだ狂気の血を現代まで引く権力の亡者を追いつめるが……。
巨匠の作品群に一極点を示す力作長篇。》
瀬名秀明『パラサイト・イヴ』角川ホラー文庫・1996年(日本ホラー小説大賞)
《“EVE1”。
若き生化学者の永島利明にとって、それは非業の死を遂げた愛する妻・聖美の肝細胞にほかならなかった。だが彼は想像もしなかった。その正体が、《人間》という種そのものを覆す未曾有の存在であることを……!。第2回日本ホラー小説大賞を受賞、日本のエンターテイメントを変えた超話題作ついに文庫化!!》
志賀直哉『暗夜行路』新潮文庫・1990年
《祖父と母との過失の結果、この世に生を享けた謙作は、母の死後、突然目の前にあらわれた祖父に引きとられて成長する。鬱々とした心をもてあまして日を過す謙作は、京都の娘直子を恋し、やがて結婚するが、直子は謙作の留守中にいとこと過ちを犯す。苛酷な運命に直面し、時には自暴自棄に押し流されそうになりながらも、強い意志力で幸福をとらえようとする謙作の姿を描く。》
冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』ハヤカワ文庫・2013年
《あなたはそこにいますか――謎の問いかけとともに襲来した敵フェストゥムによって、竜宮島の偽りの平和は破られた。島の真実が明かされるとき、真壁一騎は人型巨大兵器ファフナーに乗る――。シリーズ構成、脚本を手がけた人気テレビアニメを、冲方丁自らがノベライズ。一騎、総士、真矢、翔子それぞれの無垢なる“青春”の終わりを描く。さらにスペシャル版「蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT」のシナリオを完全収録。》
髙柳克弘『そらのことばが降ってくる―保健室の俳句会』ポプラ社・2021年
《教室に行けず保健室に通うソラは、俳句が大好きな同級生に巻き込まれ、俳句会に参加することに。気鋭の俳人が描く青春小説!》
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