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2020年10月
深夜叢書社
『赫赫』は渡辺誠一郎（1950 - ）の第4句集。
著者は「小熊座」編集長。
母を失う
影もなく母を連れ去る桜かな
春の限り炉心の底の潦
西隅の澱みとなりぬ蚊の姥は
磐座の高みにつるむ蜻蛉かな
東京に降りて小さな落葉踏む
血縁は荒縄のごと梅の花
三月の海が薄目を開けるとき
韃靼の夢もろともに毛虫焼く
深秋や最中もわれも薄き皮
心臓を欲しがる夜の菊人形
自転車に贅肉はなし鳥曇
魂を隠しきれない水着かな
コンビニの灯へと確かな恵方道
竹林に猥書ちらばる秋気かな
空蝉を放らば牛馬微動せり
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
2020年10月
ジャプラン
『「組曲＊構想」』は夏木久（1951 - ）の第4句集。
著者は「連衆」「豈」「俳句新空間」に参加。
隙間ごとに銀河染み込み木工所 ※前書略
薔薇園のはるか渚の授乳室
心太つけば即座にグノシェンヌ
オウンゴール！唐揚さえもまた黙考
ふいれんつえのふあんなあきのふあんふあーれ
美しく割られし卵の憂鬱
毒舌家またアルパカに踏み込まる
星痺るストックホルムの手術室
原子炉とパセリな夢の腐れ縁
書初は遠い喇叭の水辺かな
コンセントに埃のたまり出埃及記
秋蝶がピアノの渕を浮き沈む
狐火の上をドローンの彷徨く夜
抽斗を開ければマラソンランナーまたひとり
蠟づくりの心臓があり蜂蜜があり
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『亀の失踪』は瀬戸正洋（1954 - ）の第6句集。
著者は「里」創刊に参加。
秋の暮ジェットコースターは落ちる
封筒に現金入れて林檎かな
東京タワー雑煮となるまでの時間
高級目刺だと言はれ確かにさう思ふ
春深しウイスキーのあと甘いもの
冷房の神様が居て頭痛かな
どら焼きの賞味期限や茶立虫
冬耕やバスが通り過ぎたら昼
階段がありエレベーターがあり春昼
日向にも日陰にもゐる毛虫かな
柘榴落ちて横断歩道を転がれり
蕨餅食うてカプセルホテルかな
籐椅子や脳細胞は萎縮する
線香花火の指のかたちやみなそれぞれ
塩羊羹と万年筆の寒さかな
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『奎星』は小池康生（1956 - ）の第2句集。
著者は「銀化」同人、「奎」代表。
ストローの先で回るや石鹼玉
たけのこの白きところに値の書かれ
蠅生まるビル一面に室外機
噴水のわづかに顔にかかる距離
復習ふなり硝子に踊り映し込み
ななふしのやうにどこかにゐてくれる
いくつかは老舗で揃へおでん種
シーソーに妻から浮いて夕桜
いちにちが了るだけなり秋の暮
林檎嚙む林檎のなかに倦みし音
冬眠の蛇金色に変はりけり
アマリリス芦毛の馬を選りて乗る
森奥へ曲がつてゆきし翡翠かな
六本の脚持つ鉢や台風来
しぐるるや裾野に旨き店並ぶ
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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