最寄りのブックオフが閉店してしまった。
付近で生き残っている古本屋はもはやあと一軒だけ。ここがなくなったら住めた土地ではなくなる。
斎藤栄『黒白の奇蹟』講談社文庫・1987年
《箱根芦ノ湖の遊覧船上で財閥の御曹子が殺された。現場になぜか碁石がひとつ。交際範囲から、女流最高位を狙う棋士や、ファンの美女らの人間関係がクローズアップされたが、そのうちに第2の殺人が発生した!
囲碁と暗号を素材にして人間の愛憎をからめ、巾広く展開されてゆく、著者得意の本格ミステリー。》
生島治郎『夢なきものの掟』講談社文庫・1979年
《葉宗明を捜す紅真吾は上海で信じがたい噂を耳にした。葉は阿片密売人になるほどの落ちぶれようだという。真吾は秘密結社青幇と接触し、葉を知る女をつきとめるが、彼女は既に殺され、その喉には葉のナイフが……。国際都市上海を舞台に阿片密売の利権をめぐる組織の暗闘と二人の男の正義の戦いを活写する冒険小説》
永井路子『太平記紀行―鎌倉・吉野・笠置・河内』中公文庫・1990年
《天皇親政にあくまでも固執した波瀾の生涯をおくった後醍醐天皇、北条政権を倒し主導権を握ろうともくろむ足利尊氏、更に楠木正成・護良親王……それぞれの思惑を胸にくり広げた変革と動乱の跡を辿る。従来の南北朝史に新たな視点を加える歴史紀行。》
植村清二『楠木正成』中公文庫・1989年
《皇国史観における忠臣のシンボルとされたために、戦後の日本史が黙殺してきた楠木正成。「太平記」等の記述を手がかりに、革命軍人としての正成の力量に正当な評価を与え、歴史の醍醐味であるその英雄的資質を敢えて論ずる、東洋史学者の興味つきない異色の論考。》
トーマス・M・ディッシュ『いさましいちびのトースター』ハヤカワ文庫・1996年(ローカス賞・イギリスSF協会賞)
《だんなさまは、いったいどうしたんだろう? 森の小さな夏別荘では、主人に置き去りにされた電気器具たちが不安な日々を送っておりました。ある時ついにちびのトースターが宣言します。「みんなでだんなさまを探しに行こう!」かくしてトースターのもとに電気毛布、掃除機、卓上スタンド、ラジオなどが集結し、波乱に満ちた冒険の旅に出たのですが……けなげでかわいい電気器具たちの活躍を描く、心温まるSFメルヘン。ローカス賞・イギリスSF協会賞受賞。》
菊地秀行『幻妖魔宴』角川文庫・1987年
《幾つもの夜が巡り、幾つもの言の葉が生まれた。殺戮があった。背徳があった。幻夢があった。こうして、幾つもの感動が、未知なる世界の門を叩いた。同時に、これが“現実”だと教えてくれた。菊地秀行という名の、時代の要請から生じた輝ける星の到来であった――。デビュー以来、絶大なる支持を得、いまや人気絶頂の著者の贈る、小説・エッセイ・評論・対談など満載のバラエティ・ブック。ファン必読の一冊であると同時に、世紀末を迎えようとしている我々人間への、過激にして静謐なる黙示録。幻にして妖しき魔性の宴へ、ようこそ。 》
収録作品=雨の日に/分岐点/霧の中のなれそめ/魔空伝説カケル 他
林京子『やすらかに今はねむり給え・道』講談社文芸文庫・2016年(谷崎潤一郎賞)
《昭和二十年、長崎の兵器工場動員で奪われた女学生達の青春。やがて作られた報告書には「不明」の文字がならんでいた。消えてしまった「生」の記録を日記・資料を基に綿密に綴った事実の被爆体験。無数の嘆きと理不尽さ。その年の五月から原爆投下の八月九日までの日々を、忘れないように、繰り返さないように、という鎮魂の願い。林京子の原点でもある谷崎潤一郎賞受賞作。他「道」を収録。》
佐藤愛子『ソクラテスの妻』中公文庫・1974年
《「ソクラテスの妻」は自分の分身をフィクションの世界で動かした最初の作品である。ここから七年後の直木賞受賞作「戦いすんで日が暮れて」への道が続いている。「加納大尉夫人」安代は私の分身ではない。私の親友がモデルである。分身でないだけ私は安代に安心して愛情を注ぐことが出未た。また安心して残酷になることが出来た――。(著者のことば)
苦いユーモアとペイソスに支えられた若き妻と大の哀歌を描く著者の出世作三篇を収録。》
収録作品=ソクラテスの妻/二人の女/加納大尉夫人
島田雅彦『優しいサヨクのための嬉遊曲』福武文庫・1985年
《「社会に変化を起こすのは家庭的な人間しかいない。平凡な人間でなきゃだめさ」「考えるっていうのは悩むことなのよ。悩んだり、苦しんだりしたくなかったら考えない方がいいんですって」――今、左翼がサヨクに変わる。1961年生まれの著者がしなやかな感性と形式感覚で80年代の青春群像を鮮かに描いた衝撃のデビュー作。》
三上次男『ペルシアの陶器』中公文庫・1993年
《鮮麗な色彩、若々しく変化に富むデザイン、伸びやかな器形――。イスラーム教成立以来、ペルシアを中心に中近東一帯で製作された陶器は、イスラーム美術の精華であり、世界陶磁史においてひときわ美しい高峰をなす。本書は、多種多様で各地に特色ある製品を生み出してきたイスラーム陶器の歴史を豊富な図版を用いて具体的に説き、さらに中国陶磁器との関連・交流を指摘する。碩学が深い愛情をこめて広大な学間的視野のもとに書き進めた労作。》
小堺昭三『密告―昭和俳句弾圧事件』ダイヤモンド社・1979年
《太平洋戦争前夜、とつじょ新興俳句運動を襲った特高弾圧。日本俳壇史に刻まれたこの陰惨な事件の陰には、野心に満ちたある密告者の演出があった。運命の犠牲者たちと俳壇群像を描いて、いまはじめて明らかにする事件の真相。》
鮎川哲也『密室殺人』集英社文庫・1979年
《天野法医学教室の逸材で美貌の医学生香月エミ子のバラバラ屍体が、大学の解剖室で発見された。殺害現場は、警察の捜査で割り出されたが、密室である解剖室への移動と犯人の意図は解けない。素人ながら犯罪捜査に天成の才能を持つ貿易商星影は、警察の依頼で、完全密室の謎ときに挑んだ(「赤い密室」)。ほか、密室を主題にした謎解き推理傑作四篇収録。》
収録作品=赤い密室/白い密室/青い密室/矛盾する足跡/海辺の悲劇
結城昌治『虫たちの墓』講談社文庫・1979年
《米軍将校を処刑した村井を縦糸とするこの長篇小説は、多彩なエピソードによって、戦中・戦後の時代精神、風俗を浮き彫りにする。戦後三十数年を経た今日、B・C級戦犯容疑に問われた元兵士たちの胸の中を、なお、乾いた風が吹き抜けるのはなぜか。生死を賭して戦場から辛うじて帰国した兵士たちを通じて、一兵士・一市民にとって国家とは何かを問うた問題作。》
有吉佐和子『複合汚染』新潮文庫・1979年
《工場廃液や合成洗剤で川が汚濁し、化学肥料と除草剤で土が死に、食物を通して有害物質が人体内に蓄積され、生れてくる子供たちまで蝕まれる……。さまざまな有害物質の複合による影響は現代科学でも解明できない。恐るべき環境汚染を食い止めることは出来るか?――小説家の直感と広汎・周到な調査によって自然と生命の危機を訴え、多くの読者を震駭させた問題の作品。》
松岡裕太『可愛い執事の育て方』もえぎ文庫ピュアリー・2009年
《幼い頃に両親を亡くし児童養護施設で育った相田克幸は、知人の紹介で全寮制執事養成学校の私立神宮司学園に入ることに。この学園では一年生は執事修行の一環として、二・三年生と寮で同室となり、彼らを仮初めのご主人様に見立てて仕えなければならない。克幸も氷の寮長の片桐英知に仕えることになるが、克幸が執事業務等でそそうをするたびに、Hでみだらなお仕置きをされて……❤》
松岡裕太『千夜一夜の愛奴』プリズム文庫・2013年
《大学受験に失敗した琥晴は浪人生活中だ。ある日、考古学者の父から発掘先の国の王子が、日本へ花嫁探しに行くので面倒を見て欲しいと頼まれる。その王子・アスナは褐色の肌にハッとするほどの美貌と圧倒的なオーラを持つ美丈夫だった。しかし、アスナは受験勉強をしたがる琥晴を振り回したあげく、なんと夜伽の相手に指名してきて…!? 花嫁探しにやってきたんじゃないのかよっ! 夜毎甘い悲鳴が響き渡る、アラビアン調教ラブ♡》
栗城偲『まじかる漢の娘』プラチナ文庫・2014年
《世界征服を目論む秘密結社のボスを襲名した光煌は、宿敵であり、初恋の相手である魔女っ子戦隊のピンク・雅と対峙するのが楽しみだった。ところが初対戦の日、現れたのは逞しく成長した体をピンクの衣装に包んだ漢!! 光輝は夢破れ激昂する。そして悪の秘密結社と魔女っ娘戦隊との戦いの火蓋は切られた──はずだが、光輝の企みはことごとく失敗し、その度に雅に宥められて!?》
久我有加『無敵の探偵』ディアプラス文庫・ 2004年
《永人の勤める探偵事務所に、新たなアルバイトがやってくることになった。その男の名前を聞いて、永人は愕然とする。長谷川涼――高校三年間、何かにつけて永人にからみ、張り合ってきた男。次第に相手にしなくなった永人に、長谷川が冷たい視線を投げ、背を向けて以来の再会だった。ところが四年ぶりに会った彼は、以前とは違う柔らかい表情を見せるようになっていて……? 話題の探偵純情物語、ついに文庫化!!》
有吉佐和子『連舞』集英社文庫・1979年
《華やかにかざす舞扇に、苦渋に満ちた女の日々が今、花ひらく。名門の血を享けて天才少女を謳われる異父妹と、いつも較べられる秋子。稽古舞台の片隅でひっそりと精進する彼女に、誰も注目するものはなかった。因襲の舞踊界で、踊りひと筋に生きる女の愛と憎しみ、戦火をはさんで転変する女心を流麗に描いた長篇。
解説・進藤純孝》
エリック・F・ラッセル『超生命ヴァイトン』ハヤカワSFシリーズ・1964年
《事件の端緒は、まったく突発的だった。
まずスエーデンの著名な科学者ビョルンセン教授が急死した。検屍医は、急性の心臓病と診断した。ついで、イギリスのガスリー博士が、舗道で、友人と話している最中に倒れて死んだ。死因は心臓病だった。同じ日、ドイツのルーサー博士と、アメリカのメイヨ博士とが変死した。ルーサー博士は心臓病でメイヨ博士はビルの16階から墜落死したのだった。こうした著名な科学者たちの連続的な怪死に、最初に疑念を抱いたのは、アメリカ政府の渉外係官グレアムだった。彼は、全世界の警察の手を借りて捜査した結果、恐るべき事実が明らかになった――最初の事件が起ってから五週間内に、全世界のトップクラスの科学者19人が同じような原因で死んでいたのだ! しかも、死者たちは一様に、メスカリンやメチレン・ブルウ系統の麻薬をのみ、ヨードチンキを身体に塗っていた……。
だが、恐怖は、さらにその後に来た。アイダホにあるナショナル・カメラ会社のシルバー・シティ工場が、ある時、三万の従業員もろとも、大爆発を起したのだ。そして唯一の原因と考えられるのは、同工場に所属のビーチ教授が写した正体不明の奇怪な光球生物の姿だった!
超生命ヴァイトンの挑戦に、絶滅の危機にさらされた人類! エリック・フランク・ラッセルの代表的傑作!》
リーノ・アルダーニ『第四次元』ハヤカワSFシリーズ・1970年
《著者リーノ・アルダーニは、イタリア唯一のSF専門誌「未来」の編集にたずさわるかたわら、自らSFを創作し、SF評論の分野でもめざましい業績をのこしている文字どおりイタリアSF界をしょって立つ男である。とくに奇妙なユーモアにあふれた文明批判的なSFを得意とし、その豊かな風刺性と未来へ切りこむ鋭い洞察力は従来英米SFの模倣の域を出なかったイタリアSFに、大きな光明をもたらした。
着想の奇抜さ、アイデアの斬新さとあいまって、そのストーリイ・テリングは第一級の冴えを見せる――イタリアが生んだ気鋭のSF作家にご注目を!
*
全太陽系征服を図る火星の植民他人と地球人類の熾烈なスパイ戦を描く「秘密諜報員の死」、一人の男が突然、犬に変り、犬が男に変身して彼の妻の体を愛撫する「太類」、上司の命令に絶対服従しなければならない火星人スパイの苦悩をユーモラスに描いた「命令は絶対なり」夢を現実化するドリーム・フィルムの開発がもたらす来たるべき画像文明の悲喜劇「おやすみ、ソフィア」等12篇を収録。イタリア第一のSF作家兼編集者の珠玉短篇集!》
収録作品=秘密諜報員の死/鉱山/犬類/完全な技術家政治/クラーケン/命令は絶対なり/赤い証明/好奇心ある人々/最後の真実/腕が20本ある月/コロク/おやすみ、ソフィア
ブライアン・W・オールディス『暗い光年』ハヤカワSFシリーズ・1970年
《三つの太陽の周囲を複雑な軌道を描いて公転する惑星ダプドロフには、犀に似た巨大な生物ユートッドが住んでいた。主太陽の交替による気候の変動ごとに、その性別を変えていく彼らは、一千年の長寿をもち、数億年の歴史を有する高い文明を誇っていた。その文明は、地球のそれとはまったく異質の奇怪なものだった。彼らはなによりも排泄物との接近の度合いを文明の尺度と考え、文字通り泥と糞尿にまみれることに最高の喜びを感じていたのだ……。
トランスポーネンシャル推進装置の発明によって、宇宙の深淵に進出した地球人類は、2035年、はじめてこのユートッドと遭遇した。
だが宇宙観、文明観の根本的に異なるユートッドとの出会いは、意思の疎通ができないまま、悲しむべき結末に終った――地球探険隊は、群らがって混浴していたユートッドをライフルで射殺し、二匹を地球に連れ帰ったのである!
*
イギリス文学界の新らしき旗手が、知性とは何か、人類とは何か、という哲学的命題に深く切りこんだ野心の大作!》
小林秀雄『考えるヒント』文春文庫・2004年
《読者は、どのページを開いてみても、読むほどに、いつの間にかかつてないようなかたちで、精神が躍動しはじめるのを感じておどろくにちがいない。(中略)読者の精神は、緊張を強いられ、そこから一気に解放され、さらに静止し、さらに躍動する。つまり、読者は、みずからそれと知らずに考えはじめている。 解説・江藤 淳》
ドストエフスキー『貧しき人びと』新潮文庫・1969年
《世間から侮蔑の目で見られている小心で善良な小役人マカール・ジェーヴシキンと薄幸の乙女ワーレンカの不幸な恋の物語。往復書簡という体裁をとったこの小説は、ドストエフスキーの処女作であり、都会の吹きだまりに住む人々の孤独と屈辱を訴え、彼らの人間的自負と社会的卑屈さの心理的葛藤を描いて、「写実的ヒューマニズム」の傑作と絶賛され、文豪の名を一時に高めた作品である。》
井上光晴『地下水道』岩波書店・1987年
《政治の季節に,情報戦争に,そして性に傷ついた青年たち.過剰な青春を過ぎて,いま……新宿,〈地下生活者〉の集団に訣別を告げる男,街娼の組織を脱出する女.不可解な暴力が彼らを襲う.自由への道は果してひらかれるのか》
若桑みどり『イメージを読む』ちくま学芸文庫・2005年
《絵画は美しいのみならず、描かれた時代の思想・宗教観を密かに映し出している。ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂の天井画、レオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》、デューラーの《メレンコリア》、ジョルジョーネの《テンペスタ(嵐)》。世界の名画のなかでもとくに謎に満ちたこれらの作品から、絵画の隠された謎をさぐる。画家が本当に描きたかったのは何か、何に託してその意図を伝えたか?美術研究の成果を存分に駆使しながら、絵画に描かれた思想や意味を鮮やかに読み解くスリリングで楽しい美術史入門。》
東海林さだお『目玉焼きの丸かじり』文春文庫・2018年
《ポンと割ってジュッ。目玉焼きは誰かが作ったのがいきなり目の前に出てくるより、自分で作って食べるほうがはるかにおいしい――。パセリの哀れな境遇を嘆き、枝豆の正式な食べ方についてマジメに考えを巡らせ、つぶアン派かこしアン派かで、人物像を鋭くプロファイル。大人気食エッセイシリーズ第37弾! 解説・姜尚美》
池内紀『カント先生の散歩』潮文庫・2016年
《難解にして深遠、時計の針のように正確無比で謹厳実直、容易に人を寄せ付けない……そんなイメージがガラガラと崩れてしまう、人間「カント先生」の生涯を描いた伝記風エッセイが、待望の文庫化。就職、友情、お金、そして老い――さらに「批判三部作」完成までの知られざるドラマを、ドイツ文学者で名エッセイストが優しい筆致で描く。》
高橋源一郎・山田詠美『顰蹙文学カフェ』講談社文庫・2011年
《太宰治も三島由紀夫も中上健次も皆「顰蹙」の人だった? 文学は顰蹙買ってナンボ! 顰蹙買うのも才能のうち! 自らを顰蹙作家と自認する店長・高橋、副店長・山田両氏が発見した顰蹙文学の魅力とは? 多彩で偉大で顰蹙で目の離せないゲストを迎え、「文学さん」への捩れた愛を語り尽くす抱腹絶倒の鼎談集。》
小松和彦『日本妖怪異聞録』講談社学術文庫・2007年
《妖怪は山ではなく、人の心に棲息している。妖怪とは幻想である。そして、自分たちの否定的分身である。国家権力に滅ぼされた土着の神や人々の哀しみ、怨み、影、敵が形象化されたものである。
酒呑童子、玉藻前、是害坊天狗、崇徳上皇、紅葉、つくも神、大嶽丸、橋姫。日本妖怪変化史に燦然と輝く鬼神・妖怪たちに託されたこの国の文化史の闇を読み解く。》
古井由吉『楽天の日々』キノブックス・2017年
《恐怖が実相であり、平穏は有難い仮象にすぎない。何も変わりはしない――
現代日本最高峰の作家による、待望の最新エッセイ集。
デビューから五十年にわたり、ジャンルの壁を超え「エッセイズム」を追求してきた古井由吉。この十数年の作品を中心に、様々な紙誌から百余篇に及ぶエッセイを集成。
一九九一年発表の短篇小説「平成紀行」を特別収録。
古井作品の多くを手掛ける菊地信義による装幀。
高密度な写実表現で知られる諏訪敦が描く、古井由吉の肖像を装画として使用。
読むことと書くこと、古典語のおさらい、芥川賞選考、阪神淡路大震災、東日本大震災、気象、草木や花、エロス、老い、死、大病と入院、ボケへの恐怖、最初の記憶、大空襲下の敵弾の切迫など、多様なモチーフを端正かつ官能に満ちた文章で綴る。
「悲観に付くほどには、物事をきびしく見る人間ではない。楽天に付くほどには、腹のすわった人間でもない。いずれ中途半端に生きてきた。それでも、年を取るにつれて、楽天を自身に許すようになった。理由は単純、老齢に深く入れば来年のことすら、ほんとうのところ、生きているものやら、わからないのだ。この春も、また自分にめぐってくるものやら、知れない。だからこその楽天である。」(本文より) 》
金子光晴/聞き書き・桜井滋人『金子光晴 金花黒薔薇艸紙』小学館文庫・2002年
《『金花黒薔薇艸紙』は、好色話の連鎖である。そこには金子さんが身をもって体験した女性の姿が当然反映している。一例をあげると、ほかの男と同衾してきた女の体が満足しきっていることを知って、悲しみと怒りにもだえる男の心が描かれている「乾いた女」など、その即物的な表現が人生の残酷さの表現になっていてぼくはすっかりまいったが、これなど、金子さんが実際に覚えのある人生の残酷さだと思わざるを得ない。
行き合ったさまざまな女の回想がちりばめられているが、これは八十にならんとする金子さんの夢でもある。
(三木 卓 解説より)》
中上健次『水の女』講談社文芸文庫・2010年
《無頼の男の荒ぶる性と、流浪の女の哀しき性――。獣のように性を貪りつくそうとする男たちに対し、ある女は、自らの過去を封印し、その性に溺れ、またある女は、儚い運命のなかにそれを溶かし込む。またある女は、男の性を弄ぶ。紀伊を舞台に、土俗的世界に生きる男女の性愛を真正面から描いた傑作短篇五作。緊密な弾力のある文体で、性の陰翳と人間の内部の闇を描破した中上文学の極北。》
収録作品=赫髪/水の女/かげろう/鷹を飼う家/鬼
栗本薫『火星の大統領カーター』ハヤカワ文庫・1988年
《大統領選挙に破れ、失意の日々を送る元大統領ジミー・カーター。しかし、彼が気がかりな夢からさめてみると、なんとそこは火星! 赤色人、緑色人がウロウロする宮殿の中で、エドガー・ライス・バロウズ描くところの火星の大元帥カーターと対面するのだった! 抱腹絶倒の表題作「火星の大統領カーター」そして老宇宙パイロットと若い密航者の心理の襞を描く「最後の方程式」ほか、様々なパターンのパロディ作品をここに結集! 五人のイラストレーターによる挿絵とともに、SFを愛してやまぬ著者がおくるSFへのラヴ・レター。待望の文庫化!
収録作品=火星の大統領カーター/エンゼル・ゴーホーム/ロバート・E・ハワード還る/ナマコの方程式/最後の方程式
森真沙子『悪魔を憐れむ歌』廣済堂ブルーブックス・1985年
《一人のロックミュージシャンの謎の死が、十五年前のロックバンド〈DAMNED〉を甦らせた。
死の謎を追い、事件の核心を摑むべく調べまわる、被害者の恋人で、音楽評論家の萩野まゆみをあざ笑うかのごとく、次々と殺されていく事件関係者たち。
60~70年代の学園紛争の中で、彗星のように光を放って駆け抜けた幻のバンド〈DAMNED〉に隠された罪とは!? そして事件の鍵をにぎる過去の男たちは今……。》
大藪春彦『暴力列島』角川文庫・1979年
《今や日本列島は風前の灯びだった。全学連過激派の手によって米軍専用列車が襲撃され、大量の毒ガスが奪われたのだ。もし事態がマスコミに漏れればパニックは必至だ!
国際特別情報機関のエース鷹見徹夫に緊急呼び出しがきたのは、ハスキー・ボイスで売り出し中の美人歌手・沢桂子とのお楽しみの真最中だった。舌打ちをして東名高速を200km以上でブッ飛ばす彼を待つのは、過激派どもを追いつめ、殲滅させる計画だった。一匹の野性獣・鷹見徹夫が野に放たれるときが来た!
『俺に墓はいらない』(角川文庫刊)とともに、パワフルな主人公鷹見徹夫の活躍する傑作アクション長編!》
水島忍『二人の伯爵と奪われた寵姫』ガッシュ文庫・2012年
《どうしてヨーロッパの王国で、魅惑的な二人の伯爵に押し倒されているんだろう? ――森と湖と古城の国シェーンヴァルト。覚えているのは映司という名前だけ。記憶を失って目覚めると、美しい男達が心配げに自分を見つめていた。金髪のアレクシスと赤毛のレオンハルト、二人の伯爵と映司は旅行先で親しくなったらしい。心細くて縋るものがない映司に、なぜか彼らは執着をみせる。愛していると言って、それぞれ快楽を教えこむのだ。…気付くと、映司は囚われていた。――美しい古城の寵姫の部屋に。》
旦部幸博『珈琲の世界史』講談社現代新書・2017年(辻静雄食文化賞)
《ヒトが何かを食べるとき、その食べ物に込められた「物語」も一緒に味わっている――そんなセリフを聞いたことはないでしょうか。
コーヒーはまさにその最たる例です。カップ一杯のコーヒーの中には、芳醇なロマンに満ちた「物語」の数々が溶け込んでいます。その液体を口にするとき、私たちはその中の「物語」も同時に味わっているのです。コーヒーの歴史を知ることは、その「物語」を読み解くことに他なりません。歴史のロマンを玩味するにせよ、知識欲の渇きを潤すにせよ、深く知れば知るほどに、その味わいもまた深まるというもの。一杯のコーヒーに潜んだその歴史を、この本で一緒に辿ってみましょう。
先史時代から今現在に至るまで、コーヒーが辿った歴史を、起源に関する最新仮説なども交えながら、できるだけわかりやすく本書にまとめました。近年話題の「スペシャルティ」「サードウェーブ」「純喫茶」なども、じつは混乱の多い言葉なのですが、それぞれの歴史をきちんと知れば、「なるほど、そうだったのか!」と目からウロコが落ちて、すっきり理解できることでしょう。
「イギリス近代化の陰にコーヒーあり」「フランス革命の陰にもコーヒーあり?!」「世界のコーヒーをナポレオンが変えた?」「コーヒーで成り上がった億万長者たち」「東西冷戦とコーヒーの意外な関係」……などなど、学校で歴史の時間に習ったいろんな出来事が、じつは意外なかたちでコーヒーとつながっていることに、きっと驚かされるでしょう。》
中井久夫『樹をみつめて』みすず書房・2006年
《〈私はふと思った。植物界を人間と動物の活動の背景のようにみなしてきた。植物に注目するのは、もっぱら人間のために役立つかどうかという点からである。中米のサトイモは人間のホルモンであるステロイドのまとまった量を作ってくれるとか。石油代わりの液を出す植物に注目して「地球にやさしい」とか。…医学は人体を宇宙の中心に据えた天動説生物学になりがちである。天動説は根強い。医学だけではない。自国からしかものが見えない傾向が強まっているのも天動説復帰であろう。時には植物の側から眺めると見えてくるものがある。そういう眼を持ちたいものである。何の役に立つかという天動説的観点から離れ、役に立たないどころか悪臭を放つ実を降らせるフクギの、いわば存在自体を肯定して、福をもたらすとするのが沖縄の心ばえである。おそらく無用にみえるものの存在を肯定すること自体が福をもたらすのであろう〉(樹をみつめて)
それぞれ100枚を超える長文エッセイ「戦争と平和についての観察」「神谷美恵子さんの「人と読書」をめぐって」の2編を軸に、「甲南裏山物語」「治療における強い関係と弱い関係」「数学嫌いの起源」「最晩年の定家」など、書き下ろしもふくめ22編を収録。著者の現在の視点をつたえる。》
木村尚三郎『ヨーロッパ文化史散歩』音楽之友社・1982年
《ヨーロッパに関する情報は日本中にあふれているが、果して我々はヨーロッパをよく理解しているのであろうか。著者の歴史学者としての知識と旅の体験は、日常生活のあちこちに日・欧の発想のちがいを感じとり、日本人向けに手直しされない西欧の姿を描き出す。》
神楽日夏『くちづけで世界は変わる』ガッシュ文庫・2010年
《愛したい、愛されたい。けれど――。運命の相手との交わりで発情期を迎え、性別が決まる一族・ルルフォイ。真珠のごとき肌に銀の髪と紫の瞳――発情期に生きた宝石と謳われる美貌に変容する彼らは、貴族の男性に望まれて女性になるのが常。そんな一族の中で、リュリは出生時から男性体。変容が叶わない自分は伴侶と巡り会えないだろうけれど、友がいるから…。そう心を慰めていたリュリだが、親友と信じていたカイルから求婚され…!? 淫靡なおとぎ話、二編収録。》
田中光二『母なる森の血よ』徳間書店・1991年
《環境テロリストから懸賞金をかけられた謎の男。救世主か狂人か?彼を追う日本人女性写真家が見た驚愕の奇跡とは?》(「BOOK」データベースより)
増田寛也編『地方消滅』中公新書・2014年
《このままでは896の自治体が消滅しかねない――。減少を続ける若年女性人口の予測から導き出された衝撃のデータである。若者が子育て環境の悪い東京圏へ移動し続けた結果、日本は人口減少社会に突入した。多くの地方では、すでに高齢者すら減り始め、大都市では高齢者が激増してゆく。豊富なデータをもとに日本の未来図を描き出し、地方に人々がとどまり、希望どおりに子どもを持てる社会へ変わるための戦略を考える。第8回新書大賞受賞作。》
ジョルジュ・ペレック『ぼくは思い出す』水声社・2015年
《ジョー・ブレイナード『ぼくは覚えている』に想を得て、四八〇の「忘れられた、どうでもいい凡庸な思い出」を列挙しつづける、言語遊戯の作家ならではの「記憶」をめぐる奇妙な試み。
戦後から六〇年代にかけてのフランス版枕草子!?》
ジョルジュ・ペレック『美術愛好家の陳列室』水声社・2006年
《1913年、一枚の絵に全米は騒然となった。そして、美術市場を巻き込んだ大騒動が…。錯綜する“傑作”。》(「BOOK」データベースより)
川上量生『鈴木さんにも分かるネットの未来』岩波新書・2015年
《ネットの世界では何が起きているのか。ネットの世論は、どのようにつくられるのか。テレビ、新聞を凌駕するのか。そしてリアルとの関係は……。パイオニアとして、さまざまな試みを実現してきた著者が、縦横無尽に綴る。ネットによって、世界は、どこに向かっていくのだろうか?》
水上勉『一休』中公文庫・1978年(谷崎潤一郎賞)
《権力に抗し、教団を捨て、地獄の地平で痛憤の詩をうたい、盲目の森女との愛に惑溺してはばからなかった一休のその破戒無慙な生涯と禅境を追跡した谷崎賞受賞に輝く伝記文学の最高峰。》
村上春樹『中国行きのスロウ・ボート』中公文庫・1986年
《そうだった。村上春樹の初めての短篇集『中国行きのスロウ・ボート』が安西水丸の洒落たカヴァーで出版されたのは、1983年の初夏のことだった。僕たちは我れ先にと取り合い、結局、二冊買って、どっちがよけいボロボロにするか、競ったものだった。
あれから三年弱、1986年が明けて早々、その文庫本が出た。この小さな書物が、新たなどんな思い出を作ってくれるのだろうか。嵐や小波はいくつかあったけれど、僕たちの大いなる夏は続いている。》
収録作品=中国行きのスロウ・ボート/貧乏な叔母さんの話/ニューヨーク炭鉱の悲劇/カンガルー通信/午後の最後の芝生/土の中の彼女の小さな犬/シドニーのグリーン・ストリート
ホセ・ドノソ『ロリア侯爵夫人の失踪』水声社・2015年
《ドノソの小説はチリにとっての〈神々の黄昏〉だ。(フリオ・コルタサル)
ドノソのすべてがいつも最良の文学だった。(マリオ・バルガス・ジョサ)
“アイロニーに貫かれた官能的文体”
外交官の娘としてマドリードに来たブランカ・アリアスは、若くしてロリア侯爵と結婚する。若さ、富、美貌、すべてを備えた侯爵夫人に唯一欠けていたのは、夫との〈愛の達成〉だった。未亡人となりながらも快楽を追求し続け、さまざまな男性を経験するブランカにおとずれるものとは……!?
軽妙なタッチで人間の際限ない性欲を捉え、その秘められた破壊的魔力を艷やかながらもどこか歪に描き出す、ドノソ的官能小説!!》
髙月まつり『予告された恋の行方』もえぎ文庫・2010年
《保育士・麻野雄介の前に突如現れ、唇を奪った男。それは雄介の幼なじみにして美貌の美術品蒐集家・ジャックだった。幼少の折に雄介と結婚の約束をしたと言うジャックは、雄介に溢れる愛を垂れ流しながら、彼に自分との結婚と渡英を迫る。雄介はジャックの求愛を単なる親愛の情と受け止めていたが、いつしか恋心と遠い記憶を揺り動かされて…。英国紳士が降らせる、愛とプロポーズの雨あられ❤》
バーバラ片桐『蜜愛❤ラブツインズ』B-PRINCE文庫・2012年
《麗樺学園の美形双子・真咲と真綾。純情でおとなしい真咲には、通学電車で毎日密かに見つめる他校の生徒・望月がいた。真咲のピンチを助けてくれた、かっこよくて優しい望月が大好き……そんな一途な真咲の熱い想いを察した真綾のはからいで、なんと学園祭で女の子のふりをして望月とダンスを踊れることになって!? めちゃめちゃツンデレな真綾と生徒会長の恋も収録。Hでかわいくてきゅんきゅんな女装男子学園ラブ。》
清岡卓行『大連港で』福武文庫・1995年
《アカシヤの大連の歴史、地理、風俗へ、自由に拡散してやまない連想が、そこで送った生活の哀歓と交錯しつつ、大連への愛という、運命的な一点に向かって求心する長篇小説。》
角田喜久雄『東京埋蔵金考』中公文庫・1980年
《十七万五千両に及ぶ徳川御用金の埋蔵場所は、根岸の幽霊屋敷と上野の山の戦争との関係は、――江戸東京に伝わる秘宝埋蔵の言い伝えからその発見を夢みてすべてを注ぎ込んだ有名無名の人々の物語。》
石原藤夫『地球の子ら』徳間文庫・1984年
《海辺のペーブメントを少年と犬が走っていた。少年の胸には半透明の小さな球体があった。とても大切なものであった。犬がトンネルに飛び込み少年のものと同じものをくわえてもどってきた。それは、過去の人類が思いをこめた生命の種子であった。
そしてふたたび悲劇が起こった。
滅亡した年のなごりを詩情豊かに謳う表題作ほか七篇。ハードSFの旗手が贈るちょっとブルーな近未来SF。》
収録作品=画像文明/地球の子ら/情報エリート/セックス電話時代/コンピュータ時代/偽作「モンキー・レンチ」/水色の月/テレビ教育時代
宮崎惇『学園魔女戦争』鶴書房・1978年
《持病の頭痛に悩まされていた木綿子は、ハリ治療中事故に会い、精神動力の超能力を身につける。以来、彼女を狙う黒い影。
第一の襲撃、第二の襲撃……。
襲いかかるハチの群れを、瞬時に炎と化し、川の水を空へ舞い上る竜の如く逆巻かせる、恐るべき彼女の精神動力が発揮される。
敵はだれだ!? その目的は? 壮絶な魔女対魔女の死闘が、平和な学園を地獄と化した。》
阿刀田高『日曜日の読書』新潮文庫・1998年
《当代随一の本読み上手が、“小説など読んでるヒマはない”超多忙な企業人たちのために、名作の楽しみ方・味わい方を指南する。取り上げるのは、大江健三郎から吉本ばななまで10作品。大手メーカーの社員研修で文学の講座を長年担当した著者が、その成果をまとめた苦心の作だが、読書に不慣れなビジネスマンたちに追及されて明かす、小説家阿刀田高のナマの声が読みどころである。》
塩谷隆志『ピンボケ宇宙戦争』ソノラマ文庫・1979年
《遠い宇宙の果てでは、ゴラム機械軍団とオーラ星精神体との戦いが終末の段階を迎えようとしていた。ワープ反動砲、反物質砲を操ってのゴラム軍の猛攻に、念カバリヤーで必死に防戦していたオーラ星も壊滅寸前だったのである。力には力を、物質には物質をと、オーラ星は援軍を求めることを決定した。使命を帯びたオーラ星精神端末は限りなくテレポートを重ね、遙か彼方の島宇宙のはずれ、ちっぽけな恒星系の第三惑星に知的生物の存在を発見した。それは地球だった。そして彼が接触を試みた最初の生命体こそ、真純、竜介、美可の仲良しトリオだったのである。――《妖怪流刑宇宙》に続く奇想天外な痛快SF!!》
フィリップ・ティエボー『アントニオ・ガウディ―建築家の見た夢』創元社・2003年
《バルセロナの景観はアントニオ・ガウディの登場によって一変した。建築史上、類を見ない規模で今なお建設中のサグラダ・ファミリア教会、自然と建築物が見事に融合したグエル公園、「恐竜の隠れ家」といわれたカサ・ミラ。詩・絵画・音楽・彫刻などのジャンルにおいては、複数のアーティストが共同で成し遂げた芸術の近代化を、建築の分野では、ただひとりで行なったとされる、近代建築史における比類なき天才、ガウディの全生涯。》
柳瀬尚紀『日本語は天才である』新潮社・2007年
《縦書きも横書きもOK。漢字とかなとカナ、アルファベットまで組み込んで文章が綴れる。難しい言葉に振り仮名をつけられるし、様々な敬語表現や味わい深い方言もある。言葉遊びは自由自在──日本語には全てがある、何でもできる。翻訳不可能と言われた『フィネガンズ・ウェイク』を見事に日本語にした当代随一の翻訳家が縦横無尽に日本語を言祝(ことほ)ぐ、目からうろこの日本語談義。》
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