『白い田』は髙橋みずほ(1957 - )の歌集。
飛行機の雲ゆるゆるとめぐりだすような風もつ老いというもの
ゲリラとわかれて山からおりてきた父の戦後は飛沫の湿り
信じるは透明ガラスのくだけたるほそき破片が光るよ
見えぬもの読み取ってゆく韻文のことばのような植物生理
ポプラ並木の葉の風をうけながら胃に流す冷や茶漬け
ピンクの靴はいた青い人間がいた細道に菜の花が咲く
透明なメダカの子だとわかるまで頭突きの水の波紋のなかに
群れ咲くものひとひらひとひら去り道辺にまた群れて
絶滅をまたれていたる種かとふと気がついて眠りにつける
ひとつ玉かかえておとす手のひらにするりと抜ける風のある
まどいもあっけらかんと消し去ってしまうパソコン画面
なやみつつつくる言葉をふっつり呑み込んでゆくむげんに空間
突然の雨に 雷 黒揚羽軒を越え屋根に向かうも
遠き夏父たおれたという知らせセピアいろの蝉がいたこと
骨格も気性もにたる子のこされてしみじみ指の骨などさすり
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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