『風の挽歌』は髙坂明良(葛原りょう、1978 - )の第1歌集。
作者は、俳句では第4回芝不器男俳句新人賞対馬康子奨励賞受賞。
ばらばらの雨の行方はたれも知らないただ俺の臓腑は豪雨
彼岸花に火を点ずれば一族が手花火持ってわれを囲みぬ
涯(はたて)から君の微笑む陽を幾度わたしは見送りしてきただろう
赤ん坊の正視ひとつに崩されて俺の荒野に揺れる菜の花
大量の服薬終えて星空が今さらわたしの膝で遊ぶの
折鶴が上手に折れてしまう夜どこかで人が自殺している
山腹のサナトリウムの蕾硬く「桜はまだね」と言い寄る媼(おみな)
二〇一一年四月、宮古、田老
瓦礫のうえに烏まんなか人動きうごめく下の下で死んでる
俺という火に触れている夜だからつぎつぎ星が点り続ける
人形は人間になり操りの糸のすべてを己ずと断ちて
母に
銀の狐と母は呼ばれてうつくしの横顔があり豊けき尾のあり
群衆にダイヴしたまま息継ぎを忘れてぼくは魚になろう
森田直樹逝去、享年二十五
「ナオキ!」と呼べば眠たい目をこすりきみは「なーに?」とだらしなく言う
どこからか声押し殺して泣いている方位乱れる僕らの樹海
喘息のベンチに置かれわれの手に吉村昭「破獄」一巻
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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