今月、前半は古本屋の閉店セールのときに買い込んだBL本の類を一日数冊のペースで消化していたのだが、後半、俳句甲子園のために松山に行って、帰ってきてから多忙と疲れでものの見事に一冊も読めなくなった。
広瀬隆『東京に原発を!』とソール・ベロー『雨の王ヘンダソン』は、古本屋で見かけて、高校の帰りに寄っていた神立ブックセンター(当然今はない)に並べてあったのを思い出して買ったもの。昔の本屋内の間取りや空間を思い出すきっかけになる装幀の本を見ると、それだけで買ってしまう。
他に装幀で懐かしいのは小松左京『三本腕の男』、平井和正『新幻魔大戦』(いずれも生頼範義)、城山三郎『辛酸―田中正造と足尾鉱毒事件』(大川範彰)、山田風太郎『甲賀忍法帖』(佐伯俊男)など。
日原正彦『詩集 瞬間の王』と財部鳥子『続・財部鳥子詩集』は著者から寄贈いただいたもの。感謝します。
山田風太郎『甲賀忍法帖』角川文庫・1974年
《――その忍者は白壁にピタリとはりついた。とつぜん、すぼめた口から異様なものが飛んだ。膠のように粘性の強烈な痰だった。それをじっとみつめていた家康の目が、一瞬光った。いまや、徳川家三代目の相続者について、家康自身から、おどろくべき一つの賭が発せられた! おぞましい毒茶事件や狙撃をくりかえすはげしい相続争い。家康が決断した奇策とは……。
ギリギリの肉体と精神の鍛練によってみがき上げた忍者たちの殺人ゲーム、著者会心の怪奇忍法小説。》
城山三郎『辛酸―田中正造と足尾鉱毒事件』角川文庫・1979年
《日本が近代国家に生まれかわって、まさに最初に出遭った“試された時”でもあった。
――足尾銅山の資本家の言うがままになって、渡良瀬川流域・谷中村を鉱毒の遊水地にする国の計画が強行されようとしていた。国家の名と手で行なわれた家屋強制ぶち壊しに遭った反対派農民たちの苦悩と、〈谷中救済〉の資金づくりのためにわが家を抵当にまで入れ、衆議院議員を辞し〈強権〉に抵抗した田中正造のすさまじい生きざま。
「この村以外にねしの死場所はない!」と、老いたる正造は日本最初の公害問題に激しく対処、彼の泥まみれの歳月、人生をあざやかに描いた名著。》
笹沢左保『悪魔たちの誘拐』角川文庫・1982年
《警視庁を退職したばかりの早乙女正義に持ち込まれたのは、銀行頭取の令嬢亜矢子をガードすることだった。亜矢子が誘拐されるという密告があったからだ。
だが、ぴったりガードする早乙女の一瞬の隙をついて、亜矢子は近所に住む女子中学生と共に誘拐された。その直後「悪魔たち」と名乗る犯人グループが巨額な身代金を要求してきた。この二重誘拐には、何かかくされた罠があるのか――。しかも事件発生前、早乙女の身辺で一人の女子大生が殺されたのだ。
誘拐と殺人が複雑にからみ合う傑作ミステリー。》
佐々木敦『ニッポンの文学』講談社現代新書・2016年
《批評家・佐々木敦氏による『ニッポンの思想』『ニッポンの音楽』から連なる待望の3冊目。
今回のテーマは「文学」。各主要文芸誌でも精力的にすぐれた論考を発表している著者が、あらためて「日本」の「文学」を解き明かします。
戦後、とりわけ70年代末からの日本の文学シーンにはどのようなことがあり、どのような歴史があるのか。つまり、ニッポンの小説はどのような歴史=物語を持っているのか。前2冊と同じく、80年代(70年代末)から始まるディケイド論で論じていきます。
「文学」と呼ばれている小説と、一般的には「文学」と見なされていない小説とを、全く同等に扱うという視点で日本の小説史をたどり直す試みは、今までなされて来ませんでした。
狭義の「文学」と他のジャンル小説を同一平面上で語ってゆくことで、「芥川賞/直木賞」という制度によって今なお維持されている「文学」の聖性を相対化しようとするのが本書の目的です。》
広瀬隆『東京に原発を!』集英社文庫・1986年
《そんなに安全で便利だというのなら東京に作ればいいじゃないか。新宿西口に建ててみたらどうだ! 過疎の浜の人は死んでも仕方ないというのか。チェルノブイリ事故で一層はっきりした原発の危険を最新データを駆使して説く衝撃のテキスト。人類の安全と代替エネルギーの根本問題を、豊富なイラスト、写真を元に鋭く抉るノンフィクションの話題作!
解説・野坂昭如》
ソール・ベロー『雨の王ヘンダソン』中公文庫・1988年
《生に倦み、内的欲望に駆られ、富からも教養からも逃れ、アメリカを捨てアフリカ奥地をさまよう初老の男ヘンダソン。その空しい冒険を乾いた笑いのうちに描き出し、病める現代の混沌と無秩序を暴く、アメリカ文学の白眉。》
水島忍『微熱のムーンストーン』ガッシュ文庫・2007年
《第一印象はいけ好かないヤツ。元島陽介の天敵・マーセルは金髪にモデルのような長身の美形で、世界的に有名なマジシャンだ。何故か陽介にだけいつも冷たい彼は、陽介の親友・和人が好き。だけどある日「おまえの匂いは私を惹きつける」と、キスをされエロい手つきで身体中を弄られてしまう。マーセルは自分のことなんて好きじゃないのに。ひどいことする大キライなはずの彼が気になって…。》
弓月あや『チャイナ・ノアール―憎しみの果て』プラチナ文庫・2009年
《命と引き替えても、両親の仇を…!! 復讐を誓う雪水だが、騙されオークションにかけられてしまう。太腿も露わなドレスを着せられ、無骨な手で嬲られ、絶望的な快感に悶えさせられた時、一人の青年が、破格の値段で雪水を買い取った。薬で朦朧としていたのを一晩中介抱してくれた彼。優しさに感激したが、その名に雪水は愕然とする。彼こそが憎い仇、ウォン家統帥・テレンスだなんて!! だが彼は狼狽える雪水を、強引に組み敷いた。それは愚かな復讐のへの嘲笑だろうか? それとも…!?》
染井吉乃『花冠のセオリー』幻冬舎ルチル文庫・2009年
《各々が特別な能力を持つ者たちで構成される人材派遣会社「愛こそすべて」。そのナンバーワン社員・稲嶺剣は、社長から有無を言わさず仕事先に派遣されてしまう。事業を営んでいた両親を火事で亡くした高校生・至誠に「本当の恋を教える」という依頼だが、自分を指名してきたにも関わらず至誠は剣と触れ合うことはおろか、目すら合わせてくれず……!?》
月村奎『WISH ウィッシュ』ディアプラス文庫・2007年
《尚也は母と義父を事故で亡くし、半分だけ血のつながった弟の裕一郎と二人暮らしをしている。小学生の弟との生活を守るため、大学の授業の合間を縫って、バイトに明け暮れる日々だ。そんな尚也がバイト先で出会い、今は裕一郎の担任になった高野は、二人をいつも温かく見守ってくれている。だから尚也は一生言わない、高野に密かな恋をしていることを……。ゆっくり歩む恋人たちを描いたデビュー作、待望の文庫化!!》
水島忍『禁じられたX』ガッシュ文庫・2007年
《不慮の事故で大学生の神津大輔は全ての記憶を失い、血のつながらない兄の芳樹と同居することになった。設計事務所勤務のちょっと過保護すぎる兄は優しく、大輔は徐々に惹かれていく。そんな兄から「お前は俺の恋人だった」と告げられて驚きながらも嬉しく思う大輔。記憶を失くしても大輔の身体は兄のことを感じたがっているが、兄は自分に触れてくれない。自分たちは本当に恋人同士だったのだろうか。そんなある日、バイト先のオーナーに「本当の恋人は僕だ」と襲われそうになり…。》
片岡義男『美人物語』角川文庫・1982年
《女であることを変えることはできません。ですから、彼女は、生理的な魅力は美しく洗練させつつも、頭のなかでは女であることを忘れるのです。女、という枠組から、彼女は自らを解き放ちます。美人物語は、そこからはじまります。》
収録作品=Dm16小節/私のような女/よりかかってドライ・ジン/エンド・マークから始まる/女は気だてと人は言う
阿佐田哲也『ヤバ市ヤバ町雀鬼伝1』講談社文庫・1990年
《バクチ打ちの血が騒ぐ。レートは一晩数億円、勝負のアヤで命も賭ける。不動産屋やソープランド経営者たち今風成り金の集まる街に吸い寄せられた雀プロ、警官、ヤクザの群れ。ギャンブル・サバイバルの種目もどんどん広がって、いったい生き残るのは誰か!? トボケた雀鬼の奇策、秘技が満載の長編小説。》
小松左京『三本腕の男』角川文庫・1980年
《ぼくは、いわばやとわれ調査員だ。相手の視線をとらえると、何でも喋らせてしまう特技を買われて、この仕事を引き受けた。今も、酒好きの退役アメリカ陸軍大佐に会って、アメリカについての率直な意見を訊きたいというと、彼は実によく喋った。話の途中、ふと何かの気配を感じて外をのぞくと、人通りの絶えた暗がりの道路に乗用車がとまっている。 どうも追けられていたらしい。今まで取材と称して、有力上院議員や“黒い回教徒”の一員に会って、必要以上に喋らせたのがまずかったようだ。ついにぼくは、世界中の諜報機関から追われる身となった。だが、取材データをこんなにもほしがる理由は何なのだろうか……。》
収録作品=三本腕の男/フラフラ国始末記/時間エージェント
渡辺淳一『白い宴』角川文庫・1976年
《医学の進歩と人間の生命の尊厳をめぐって、北国の街にくりひろげられる生と死と愛の迫真のドラマ。――
昭和43年8月、札幌医大で行なわれたわが国最初の心臓移植手術は、医学的事件であると同時に社会的事件として、大きな反響を呼んだ。
本書は、当時、同じ大学の整形外科講師であった著者が、その事件の事実関係を克明に追ったドキュメント風の小説であり、著者の医師から作家への転身の契機ともなった記念碑的作品。
初期の長編『小説・心臓移植』を改題、加筆した力作である。》
阿刀田高『危険信号』講談社文庫・1986年
《美津子は幼いころからよく腹痛をおこした。それも肝心なときに──楽しい山登りの前夜、友達の家に遊びに行くとき、就職試験の折……。そして会社の同僚の並木から遠出のドライブに誘われたときも腹痛がおき、淡い恋は去ってしまった。結局並木は美津子の友人芳枝と結ばれたのだが、これには裏があった!
人生の危険信号を軽妙に描く秀作集。》
収録作品=子宝温泉/雨あがり/鳩の血/女ごころ/幼い脅迫者/糸の女/赤鰊/裸で殺そう/奇妙な儀式/女の戦争/走る男/危険信号
渡海奈穂『マイ・フェア・ダンディ』ディアプラス文庫・2007年
《大富豪の生き別れの孫になりすまし財産を山分け―。そんな途方もない話に飛びついて、条件ぴったりの苦学生・塩田を探し出したチンピラの山崎。山崎のことが気に入ったらしく、塩田は拍子抜けするほどあっさり話に乗ってくる。お互い孤児で天涯孤独の境遇だが、バカがつくほどお人好しな山崎と、超現実主義者の塩田。塩田を孫らしく仕立て上げるため、共同生活を始めた二人だが……? 一世一代のラブ&ゲーム!!》
森本あき『こんにちは、赤ちゃん~パパとパパの子育て日記』セシル文庫・2015年
《親にゲイとバレて勘当された優貴は大学を中退せざるをえず、独り働いて生きていくことにしたが、偶然勤め先に来た忠志とお互い一目惚れし、男同士だけど入籍して晴れて夫婦となった。生活が落ち着いたころ、待ち望んだ赤ちゃんを養子に迎えられることになり、男夫婦の子育てが始まる。始めての育児は戸惑うことばかりで、毎日を乗り切るのも一苦労だったが――。パパ2人の子育て奮戦記!》
石倉リサ/原作・監修:「まほう×少年×Days!!!!!」PROJECT『まほう×少年×Days!!!!! 遊園地に仕掛けられた黒い罠〈CD付〉』ビーズログ文庫アリス・2016年
《マジックセイバーズ……まさかの解散!?
魔法王国セフィラの落ちこぼれ王位継承者候補であるユウキ、ヒカル、タクト、ラン、ダイチの5人は、一人前の魔法使いと認められるまで、《マジックセイバーズ》として人間界で修業することに! 学園に通いながら奮闘するが、性格の全く違う彼らは、ついに互いへの不満が出てしまう。そんな気まずさを残したまま、課外授業で訪れた遊園地に爆弾が仕掛けられたことを知る! その影にはあのお騒がせの双子の魔法使いが――!? 5人一緒でしか変身ができないのに、彼らは無事に人々を助けることができるのか? それとも……!?》
水澤なな『MANSHIN荘シークレットサービス 7Daysパニック!』ビーズログ文庫・2014年
《『満身荘』。そこは、大手総合病院の院長・長万部満により入院患者の中から選抜された、年齢も職業もばらばらの7人が暮らすマンション。だが! その裏の顔は、表沙汰にできない闇の任務を請け負うシークレットサービス!! そんな彼らの元に、満を誘拐したという一報が入り!? 表題作をはじめ、4コマ漫画や短編などお楽しみ満載の1冊が登場♪ さぁ、痛メンたちよ――出動のお時間です!!》
きたざわ尋子『だけど運命じゃない』白泉社花丸文庫・2009年
《自宅から二時間離れた大学に通うことになった崎本由貴は、入試の時に知り合った森翔太に声をかけられ、翔太の家が経営するイタリアンの店を手伝う代わりに同じ建物にある住居に住まないかと持ちかけられる。親に金銭的負担をかけたくない由貴は、その条件に甘えることにする。店で働く二人のコックを紹介された由貴は、そのうちの海渡というコックを見て目を瞠る。海渡は由貴が中学のころ、グレた双子の弟の身代わりでいじめられていたときの助けてくれた「憬れの人」に面影が似ていて……!?》
阿刀田高『アイデアを捜せ』文春文庫・1999年
《アイデアだけでは小説にはならない。頭の中に浮かんだアイデアをどのように熟成させ、一篇の小説にしていくか――。短篇の名手が豊富な自作と、古今の名作を例にとり、自らの創作の舞台裏と、小説作法を語るエッセイ集。小説を書きたい人も、読むだけの人も必読。意外な発見があることを保証します。 解説・藤原伊織》
平井和正『新幻魔大戦』徳間文庫・1980年
《エド1999年、地球人類は突如〈幻魔〉の来寇をうけた。防戦するはエスパー戦闘集団、だがそのエスパーもわずか20名になり、人類に明日はないと思えた――。
そこへ江戸時代からタイム・リープしてきた超能力者お蝶を見て、エスパーを束ねるベアトリス王女は起死回生の奇策を思いついた。幻魔来寇に抗しきれる超能力を持つ新人類をつくるための……。やがて「真・幻魔大戦」に至る大河小説のモニュメント。》
ポール・ボウルズ『真夜中のミサ』白水社・1994年
《コスモポリタン都市タンジールを舞台に、愛と死、倒錯とデカダンスが横溢する「真夜中のミサ」、友人の助けを借りて両親を毒殺する青年の復讐譚「ジュリアン・ヴリーデン」……。伝統的な語りから実験的なモノローグまで多彩なスタイルを駆使して描く後期傑作集。様々な土地と時間が交錯する。》
眉山さくら『花とミツバチ、秘密の関係』B‐PRINCE文庫・2010年
《大学で植物の研究に夢中な恂哉は、美人だが気が強くて世間知らず。新種の蘭に魅せられた恂哉は、新進気鋭の准教授・岩見に、南半球の孤島まで一緒に探しに行って欲しいと頼む。しかし、引き受けてもらう代わりに、とんでもない条件を出されて!?研究の為に渋々頷いた恂哉は、傲岸不遜な岩見に翻弄されつつも、次第に彼の真摯な仕事ぶりに惹かれ始め…。初めての恋と蜜のように甘い快楽を教えられる旅❤ 大量書き下ろしあり!!》
榊花月『負けるもんか!』ディアプラス文庫・2006年
《血の繋がらない兄を追い――憎くて愛しいその人をどうにかする予定で、山奥の全寮制男子高校に入学した馨。ところが入寮早々起こしたトラブルの罰として、生徒会副会長鷹司の雑用係をする羽目になる。なんで俺がこんな目に!! 鷹司に呼び出されるたび腹が立つのに、だんだん兄よりもその食えない男が気になってきて……? 「でも、しょうがない」の青籃学園を舞台に描く、書き下ろし寮生活エンジョイ☆学園ラブ!》
日原正彦『詩集 瞬間の王』ふたば工房・2017年
財部鳥子『続・財部鳥子詩集』現代詩文庫・2017年
《「無」へと豊かに広がる言葉
七月の空気は透明な裸
恥ずかしいから蓮池に隠れている
大きな葉のしたから蕾を高々と掲げて
みんなに見せている
(「七月」)
「「詩は滅びない。なぜならすでに空無だから」/生き残り、生き抜いた者だからこそ/かくも激しく詩を幻視する。/今ここを突き抜けて「無」へと豊かに広がる言葉。/財部鳥子の詩は、/傷を負った全ての生きものが、帰還をめざす領土だと思う」(小池昌代)。満洲体験にはじまる長い歳月を生き、人の生死を見据えて、年輪を経るごとにみずみずしくも馥郁たる世界をあらわした詩人の後期作品集成。
解説=那珂太郎、入沢康夫、佐々木幹郎、阿部日奈子、渡辺めぐみ》
梅本洋一『建築を読む―アーバン・ランドスケープTokyo‐Yokohama』青土社・2006年
《超高層ビルばかりの街は楽しいか。美しい景観そして快適な建築とは、具体的には如何なるものか。メトロポリスに奔流する資本の野放図な論理と欲望が、ありうべきランドスケープを混乱させ歪めてはいないか。ひとつの大型マンション建築で、見慣れた街と風景が永遠に消えてゆく。変貌著しい都市空間に理想的建築の数々を求め遍歴する。東京・横浜の過去現在を往還しつつ街歩き・建物ウォッチング。》
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