『ウォータープルーフ』は沼尻つた子(1971 - )の第1歌集。
作者は「塔」会員。フリーペーパー及び同人誌「ないがしろ」発行。
折り畳み椅子は鋭くかち合えり雇用保険の説明会に
吾の知らぬ兄を知りいる兄嫁の華奢な手首を果汁がつたう
ホスピスの通路を父と腕組んでバージンロードのように歩いた
死の床へ屈みて歌の種を拾う愚かな愚かなあなたの娘
梧桐(あおぎり)の伸びゆく枝に届き得ぬ両腕 養育権を失う
「おかあさん、おしごと、ばいばい。」ミニカーを握りしままの手を振りにけり
日々の糧あがなうための職を得る試験にカナダの首都を問われる
ちんまりと総務課に座す チロルチョコ八十六個分の時給で
苦情処理フローチャートに無き苦情聞きつつメモへ描く積乱雲
臥すわれの枕辺に娘はぬいぐるみ並べて涅槃図をこしらえる
投げ易きアルミニウムの鍔持てる灰皿を会議室に並べる
れんこんの穴に暮らしていた頃の匂いがします筑前煮には
午前三時
アパートの鍵を幾度も差し損ね気づくおのれの四肢のふるえに
繰り返し子に掛けやる湯ガイブヒバクナイブヒバク皮膚うらがえしたし
黙禱時に目を閉じるなと指示のありレジの金銭担当者には
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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