『惑乱』は堀田季何(1975 - )の第1歌集。
作者は「短歌」同人。
電燈のいきなり白く見えてきてもはや夕餉のときと悟りき
ウイルスとの関係少し遠くなり他人行儀に病を語る
クワカクワカ族神話
人間をうまさうに喰ふ神がゐて信仰心とはむらきもの味
大脳を十の議題と六十の詭弁で充し会議に臨む
実話
目をひとつ盲ひたる祖母ふたりゐて一つづつ開く眼(まなこ)に見あふ
地球儀の傾き地球の傾きとずれて世界は右へ右へと
『ガラスの仮面』
underdog(まけいぬ)になるためだけに登場し姫川亜弓まさしく天才
インプラント義歯
肉体の欠けたる部位をつねにして補ひゆけばわれは精神
ネガフィルム知らぬ児童の撮る写真被写界深度調整完璧
ショパンよりフォーレがそぐふ場のひとつ特別養護老人ホーム
鳥類と人類おなじ二心房二心室とや天使は奈何(いかん)
沈沈(しんしん)と雪ふる歩行者天国を行き交ふ市民死霊のごとし
病室の天井に乾びたる黴(かび)死斑のごとく我を俯瞰す
のびて来て物乞の手のひらきたり生命線のゆたけき長さ
鳥たちの歌うつくしく夕餐の美味となるべく籠ゆ出されつ
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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