季節の変化のせいか、連日不調続きで、神田古本まつりには行ってきたが、その後二日ほど疲れてわけがわからなくなっていた。今回、装幀が懐かしいのは小学生か中学生の頃に新品で買った荒巻義雄『神聖代』の徳間文庫版だが、このカバー絵を描いた北海道の画家、芹田英治が今年死去していた。
赤川次郎『ミステリ博物館』フタバノベルス版も外見の懐かしさだけで読んだものだが、多作な作者の埋もれた名品。
高見順『生命の樹』文春文庫・1990年
《ふとしたことから知り合った銀座のバーの女・由美子との情事。由美子は不思議な魅力を持つ女だが、その私生活にはどこか謎めいたところがあった。「先生、私、顔を切られちゃった」由美子からの電話だった……。親子ほども齢のはなれた女に惑溺する小説家の生命の渇き。透徹した文書で描く高見文学の傑作長篇。 解説・栗坪良樹》
斑鳩サハラ『Pretty Baby3』B‐PRINCE文庫・2008年
《待ちに待った学園祭当日! 見目麗しく頭脳明晰、全校生徒の憧れの的❤な俺の恋人・日浦会長が、なんとホストに大変身っ! ただでさえカッコイイ会長から、甘く低い声で同伴出勤(!)まで誘われて、俺のドキドキはMAX❤ ところがそんな会長に、美男美女との浮気発覚~!? さらには俺を狙う日浦家の最強ブラザーズまで登場!!
会長の甘~いお仕置きエッチと濃蜜な愛がぎっしり詰った大人気学園ラブ、堂々完結❤》
斉藤斎藤『渡辺のわたし』港の人・2016年
《短歌界の革命児ともいわれ、今もっとも人気の歌人による第一歌集の新装版。自由奔放な作風で現代社会に生きる者の心の揺らぎを巧みに突く名作が目白押し。歌人・阿波野巧也による解説を新たに収録。》
椎名誠『イスタンブールでなまず釣り。』情報センター出版局・1984年
《1 全長五メートルのヨーロッパ大鯰を訪ねてさまよい歩く祖国はみだし的なまず探検隊がイスタンブールで遭遇した恐怖の大逆転技とは何か? 2 ダンゴ探検隊が帝都をかけまわって見つけたマンジュウの国際的真実とは何か? 3 ヒマ人カイボリ団が三流河川の流れの先にかい間みたドジョウとザリガニの悲しみとは何か?
などなど椎名誠とその怪しい仲間たちが愛と空腹のはざまをさすらう非日常的世間旅の大オムニバスちょっと怒濤の9編!》
井上ひさし『ジャックの正体―エッセイ集3』中公文庫・1982年
《自分のことしか考えない弱虫なのに、おだてに乗りやすくおみこし担ぎが大好きなジャック。そこに我々自身の姿を見出す卓抜な民衆論を始め、社会党への恋文など傑作社会批評のすべて。》
白石かずこ『JAZZに生きる―わたしの内なる異邦人の旅』旺文社文庫・1982年
《これから創り出すものへの期待で、精神がたえず暴風雨のように高揚する季節──“青春”の雄たけびのなかで、ずぶ濡れになってJAZZを聴いていた──JAZZの宇宙から心のポエジーを繰り出す詩人・白石かずこが、素直に、気ままに、自由につづったアドリブ・エッセイ。 解説 池田満寿夫》
ツヴェタン・トドロフ『民主主義の内なる敵』みすず書房・2016年
《シリア内戦、IS、難民、テロ。「進歩、自由、人民」というリベラルな理念が内なる敵を生み出す。新たな多元主義と民主主義再生へ向けた、渾身の政治文化論。》(「BOOK」データベースより)
コレット『青い麦』旺文社文庫・1967年
《南フランスの海辺の町を舞台に、青年期にはいろうとする時期の少年と少女の幼い愛の交渉を描いた、コレットの代表作。若い恋人たちの不安で傷つきやすい心理のうつろいを、みごとな自然描写と女性的な鋭い繊細な感覚のうちに織りあげた、美しい青春の書。》
巽孝之『盗まれた廃墟―ポール・ド・マンのアメリカ』彩流社・2016年
《知の巨人ポール・ド・マンを脱構築する!「ウォーターゲート事件」から「ソーカル事件」へおよぶ射程で、ド・マンを中心にアウエルバッハ、パリッシュからニクソン、ポー、リチャード・ホフスタッター、アーレント、メアリ・マッカーシー、バーバラ・ジョンソン、オスカー・ワイルド、マージョリー・ガーバー、そして水村美苗におよぶテクストが縦横無尽に読み解かれる。アメリカ文学思想史最大の謎にアメリカ研究の第一人者が挑むエキサイティングな論考!》(「BOOK」データベースより)
都筑道夫『危険冒険大犯罪』角川文庫・1984年
《さて、みなさん、おまちかね。鬼才、都筑道夫が創りだした異色の名キャラクターの登場――まずは、女にめっぽう手が早く、悪い事も平気でやる、ごぞんじ片岡直次郎。お金と興味次第でどんな難問題でも引きうける〈よろずもめごと〉相談の事務所を構えている。今回は、依頼主が盗まれたという、高価な絵をとり戻す珍事件。ドタバタタッチで大回転!
つづいての登場は悪意に満ちたアイデアなら法に触れても何でも預かる、〈悪意銀行〉を経営する、近藤庸三と土方利夫の迷コンビ。スリラーやスパイ小説の読みすぎで、ひたすら命がけの冒険に憧れる、大事業主の孫の夢を壊すこと。
ユーモラスにスラプスティックに展開する、危険冒険大犯罪のかずかず。》
収録作品=俺は切り札/帽子をかぶった猫/肩がわり屋/ああ、タフガイ!/ギャング予備校
仁木悦子『枯葉色の街で』角川文庫・1982年
《ジャンパーの襟に首をすくめ、夕飯のことを考えながら、江見次郎は混雑する夕暮の商店街を歩いていた。「今夜は納豆にするか」と独り言しながら角を曲った時、次郎は誰かにつき当られた。死んだ弟によく似た平べったい顔の青年だった。ごめん、と一言謝り、青年は人ごみの中に消えていった。
帰宅した次郎は、ジャンパーのポケットに見知らぬ札入れを発見し驚いた。中には、全部名前の違う八枚の名刺が入っていた。明らかにあの青年の仕業である。青年に親近感を抱いた次郎は、警察には届けず、名刺を足がかりに持ち主を探すことにした。だが、これは恐るべき殺人事件への誘いだった……。
叙情豊かな筆致で謎に迫る傑作長編ミステリー!》
収録作品=誰の屍体か/一時一〇分/他殺にしてくれ/消えた奇術師/冷凍人間
佐多稲子『素足の娘』新潮文庫・1961年
《冬だというのに足袋が嫌いで、素足で駆けてゆく娘を見て、村の若い衆が囁きかわす――。外見には野放しのお転婆娘と見える少女にも、性のめざめと人間的なめざめが訪れていた。昭和14、5年の瀬戸内の港町を舞台に、激しい意欲をみなぎらせて人生に体当りしてゆく14歳の少女の姿は、作者の天賦の才とぎりぎりの生活体験、そして時代に対する必死の抵抗から生れたものである。》
戸川昌子『白昼の密漁』講談社文庫・1984年
《毎月の生命保険契約高の成績争いで、ライバルの同性としのぎを削る美人セールス・御園登代子にしのび寄る甘い罠。疑惑の影がつきまとう奇妙な契約者たちに不安を抱きながら、唯一人信頼のおける嘱託医との情事に溺れる彼女は、やがて不可解な陰謀の渦に巻きこまれてゆく。保険契約にうごめく人間の赤裸々な姿をスリル十分に描いた問題作。》
五百香ノエル『マイ・ディア・プリンス』ディアプラス文庫・2010年
《ほんのわずかな間、幼稚園のクラスメートだった異国の王子様・アラムから受けたプロポーズは、ひな騎の大切な初恋の思い出。帰国したアラムとひそかに文通を続けていたひな騎は、自分を『ヤマトナデシコ』だと思っている彼のために、女装写真を撮ってまで、理想の女の子のフリをしていた。けれど、アラムが十年ぶりに来日し、ひな騎が本当は男だとバレてしまい──? 再会から始まるロイヤル・スイート・ラブ❤》
赤川次郎『ミステリ博物館』フタバノベルス・1982年
《「殺人を見に来ないか?」――その言葉が耳に入ったのは、私がソファの端に座っていたときに、しゃべった当人が、すぐわきを通り抜けて行ったからだった。大安と日曜日の重なった日のこのホテルは、想像もしなかったような混雑で、ロビーは、披露宴を終えた客たちで溢れていた。私は、友人の中尾旬一を待っていたときに、その奇妙な言葉を耳にしたのだった。例のとおり予定より一時間も遅刻して中尾が到着したとき、ちょうど若杉貞子が私たちの方に来て、「中尾先生にお願いしたいことがありますの、人殺しがありそうなのです。」といった。大安吉日の夜に、不安不吉な殺人事件が起こりそうだというのだ!!――『密室』ほか、6編の連作形式で本格ユーモアの新しいタイプを展開する赤川ミステリの醍醐昧!!》
収録作品=密室/人間消失/脱出/怪談/殺人予告/幽霊屋敷/汚れなき罪
芳沢光雄『就活の算数』セブン&アイ出版・2012年
《瞬時の計算&計量能力などの非言語問題(=算数)は「一般常識」として、就活の際、その能力が問われている。四則計算などの基本事項から、いちいち紙に書いて筆算しない、ひと目でサクッと計算&計量できる「算数のキモ」まで、本質を理解するように解説。みんながつまずく「算数」の項目をもう一度わかりやすく復習できる一冊。高校生~大学生の就活や転職活動にも役に立つ。》(「BOOK」データベースより)
梶山季之『びかたん・うけくち』角川文庫・1982年
《「鼻下短・受唇・片靨…」とは、新宿の粋人で“ドス源”ことドスケベの光本源左衛門が、過去32年間、約5000人の女体に接し、その責重な体験を、コンピューターで弾きだした女体の神秘の分析順位だそうだ。
〈これだけは知っておきたい女の快感部分〉や〈いい女の鑑別法〉を知りたい方は、本書を読まずして通り過ごすことは出来マッセン!
女体悦楽、爽快人生、抱腹絶倒短篇豊富、乞御一読万々歳!》
収録作品=ああ、通り魔/ちょっとご免よ/ピンピン太郎/お先に失礼!/すってんころりん/バーゲンセールやでェ/鼻下短受唇片靨/筆おろし大明神/泣き泣きの壷
石川淳『狂風記(上)』集英社文庫・1985年
《波瀾万丈の物語性。それを支える神の如き語り手の存在や御都合主義。趣向・見立て・語呂合わせなどの戯作の技巧。あるいは歴史的仮名づかいまでも、作者はがらくたの山から掘り出してきて、時めくものへ戦いをいどむ。おそらくこれは戦後文学史のなかでも特筆されるべき文学的戦いのひとつだろうと、わたしは思う。 (井上ひさし氏評)》
石川淳『狂風記(下)』集英社文庫・1985年
《これは、面白いかといわれればまことに面白い、大人の読者のための痛快な伝奇小説だといっていい。話の内容としては、講談の白浪物としての「天保六花撰」でも思い出してもらいたい。生のダンディスムと、粋な悪に生きようとする青年男女の一味徒党が、昔ならお家騒動――今日なら大会社の主権交替をめぐって、現代の都会を背景に、反体制=美的行為の仇花(あだばな)をふんだんに撒(ま)き散らす、という趣向である。面内い。(秋山駿氏評) 解説・高橋源一郎》
荒巻義雄『神聖代』徳間文庫・1980年
《イジチュール大教国の〈至福千年〉は終末をむかえようとしていた。謎の女乞食に救われ、神聖者職の資格を得た若者Kの使命は「ボッス星」の研究であった。
〈快楽の惑星〉ボッスの秘密は、1000光年の彼方におおいかくされていた。その糸口をたぐっていくKが遭遇した不可解な出来事に、不気味な影をおとしているのは異端者ダルコダヒルコの存在だった……。
壮大なスケールで展開される野心的大作。》
佐野洋『犯罪総合大学』講談社文庫・1985年
《実在した毒物殺人に刺激された女子大生の殺意(文献学的事件)、ガン宣告を巡る妻と夫の駆け引き(医学的事件)、青酸カリ殺人の怪(薬学的事件)、母を殺した男を追うOLの心の襞(心理学的事件)、飼い犬主人殺しの真相(生物化学的事件)、小学生と担任女教師の謎の関係とは(教育学的事件)――知性派作家による六つの大どんでん返しミステリー集。》
収録作品=文献学的事件/医学的事件/薬学的事件/心理学的事件/生物化学的事件/教育学的事件
豊田有恒『進化の鎮魂曲』トクマノベルズ・1987年
《藻類化石専門の古生物学者・桜田は、政情不安定な西アフリカ・ガボン共和国に飛んだ。十七億年前の太古の昔に自然に出来上った天然の原子炉の調査のためである。原子物理学者たちによる調査は既に進行していたが、化石に関する調査は、全く手つかずの状態だったのである。日に日に悪くなる政情の中、なんとか調査を開始した桜田だったが、怪し気な記者につきまとわれ……。進化の謎に挑む科学者を描いた「進化の引金」他、著者得意の進化テーマによる連作7篇を収録。「大破局」は、本書のための特別書下し。》
《氏の行動力には驚くばかりだ。ホンダ・トランザルプ600Vという、強力なオフロードバイクを愛車に、取材に意欲的な毎日である。先日は、安土桃山時代に千利休の手で目利きされ、その頃珍重されたと言われる、幻のルソン壺を求めて、中国・広州に飛んだ。その体験がどんな小説になるか、楽しみである。》
収録作品=進化の引金/大破局/鯨が海へ行った日/進化の鎮魂曲/雲梯/肉食の猿/進化の軌跡
オースン・スコット・カード『無伴奏ソナタ』ハヤカワ文庫・1985年
《生後六カ月にして音とリズムに対する天分を認められ、二歳にして音楽テストで“神童”と評されたクリスチャン。かれは森の奥深くで人工的な音、他人の音楽を禁じられて育てられた。聴くことを許されたのは鳥の歌、風の歌、雷鳴など自然の奏でる音楽だけだったが………禁じられた音楽を聴いてしまった天才音楽家の運命の変転を描く表題作、無重力戦闘室で命がけの戦争ゲームを展開する11歳の指揮官を迫力ある筆致で描く処女作「エンダーのゲーム」など、ファンタジイからハードコアSFまで、独創的なアイディアと奔放華麗な想像力で、あらゆる読者を魅了する傑作11篇を収録!》
収録作品=エンダーのゲーム/王の食肉/呼吸の問題/時蓋をとざせ/憂鬱な遺伝子を身につけて/四階共同便所の怨霊/死すべき神々/解放の時/猿たちはすべてが冗談なんだと思いこんでいた/磁器のサラマンダー/無伴奏ソナタ
吉行淳之介『悪友のすすめ』角川文庫・1976年
《遊びの達人が、スラプスティック式つまりドタバタ喜刺風に語る、小説家や漫画家、奇人怪人粋人、美女たちとのユーモラスな交遊。
麻雀パチンコ酒女、そのほか風変りでおかしいエピソードを紹介しながら、人生の手ざわり豊かな、憂世の巷に爆笑、哄笑の花々をまきちらす洒落た本。(『スラプスティック式交遊記』改題)》
高木彬光『狐の密室』角川文庫・1980年
《私立探偵、大前田英策は、ある財閥の当主から、息子の結婚問題について調査を依頼された。相手は龍良教の尼僧だが、彼女は依頼主の陰し子かもしれないし、この縁談に関して脅迫状が送られてきたというのだ。
しかも、信者をよそおい、教団本部に潜入した英策の目前で、第一の殺人がおこったのだ。被害者は、御堂の中で祈禱中の教祖。そのうえ、周囲に降り積った雪には、足跡一つなかった。完全な「雪の密室」になっていたのだ。
英策は、あの神津恭助に助けを求めた――。宗教団体をめぐる連続殺人に二人の名探偵が挑む長編推理。》
阿佐田哲也『ドサ健ばくち地獄(上)』角川文庫・1984年
《人はただ、奴のことを「健」と呼ぶ。無籍者で、住所不定。どの組織にも属さない一匹狼だ。かつて「麻雀放浪記」のなかで、出目徳の死体を裸にひん剥いて、泥溝の中に叩きこんだ、あの健とご承知おき願いたい。但し、あれから十年たった頃のお話。正確にいえば昭和三十二年から三十三年にかけてのことである――。
種目は麻雀、チンチロリン、手ホンビキ。一匹狼達の、身を切られるより辛い金を張っての凄まじい闘いが始まる! 阿佐田哲也が「麻雀放浪記」以来久々に放つ、長編悪漢小説。》
阿佐田哲也『ドサ健ばくち地獄(下)』角川文庫・1984年
《東京一レートが高い地下賭場の女主人「殿下」。集まった客は、遊び屋春木、バーテン滝、落語家花スケ、根っからのプロ利之肋、ドサ健といずれも一癖も二癖もある連中。金のケリは金でつけろ。それが彼らの鉄則だ。金がなくなった時が負ける時だ。誰をコロすか、誰がコロされるか? 一匹狼達の攻めとしのぎあいの壮絶な闘いが始まる。
阿佐田哲也が渾身の力をこめて描く、長編悪漢小説。》
アルフレート・デーブリーン『マナス』白水社・2016年
《戦勝の歓声が上がる中、会戦から帰還したマナスは戦場での恐るべき死の光景を嘆き、自ら死を求めて亡者が原へと赴く。彼はそこで悲惨・非道の様々な亡霊を目撃する。シヴァ神配下の三悪鬼などとの闘争の末に死んだマナスは、愛妻サーヴィトリーによって甦るが、最終的に彼が見出したものは…。》(「BOOK」データベースより)
庄野潤三『せきれい』文春文庫・2005年
《四季を彩る庭の花、賑やかな鳥たちの訪れ、食卓を賑わす旬のもの、懐かしい歌とピアノの音色、善き人びとの去来……。変わるものと変わらぬもの。静かだけれど、本当に豊かな暮らしがここにある。子供たちが独立し、山の上のわが家に残された老夫婦が送る、かけがえのない日々を透徹した視点で描く傑作長篇。 解説・小澤征良》
中上健次『奇蹟』朝日新聞社・1989年
《まばゆいほどの生の極みにかけ昇った極道・中本タイチの禍々しくも美しい生涯。神の国紀州・新宮の地を舞台に、闘いの性と淫蕩の血を刻印された若者たちの“生と死”、“罪と罰”を圧倒的な文体で描く、中上文学の新たな金字塔。》
佐野洋『不幸な週末』角川文庫・1981年
《私立探偵樋田敬一は、ある日、自分の身許を明かさない奇妙な客から、人妻の操行調査を頼まれた。銀座のレストランで問題の人妻豊原悦子を教えてもらった樋田は、早速、尾行を開始した。美人だが、化粧や動作が変に人工的で、マネキンのような印象を与える。やがて、総白髪の初老の男と合流した彼女を追って樋田は店を出た……。
一週間後、樋田は二人連れの刑事の訪問を受けた。殺人事件が起き、現場から、裏に樋田探偵事務所のゴム印を捺した写真が発見されたというのだ。被害者は、あの初老の男だった!
輻輳する謎と意外な結末。推理文壇の第一人者が読者に贈る傑作長編推理!》
F・W・クロフツ『樽』創元推理文庫・1965年
《ロンドンの波止場では汽船の積荷おろしが始まった。ところが、四箇の樽がつり索からはずれ、樽の一つからは、ぶどう酒のかわりに、金貨と死人の手があらわれた! 色めきたった船会社は警察へ連絡したが、捜査陣の到着前に問題の樽は紛失し、謎はいよいよ深まっていく。発送元はパリの美術商だった。捜査の手はドーヴァー海峡をはさんで英仏両国にまたがり、消えうせた樽のゆくえを追ってロンドン警視庁の精力的な活動が始まる。緻密で冷酷な犯人の完璧なアリバイをいかにしてくつがえすか――アリバイ捜査の醍醐味を描くクロフツの代表作!》
石井辰彦『逸げて來る羔羊』書肆山田・2016年
《にげてくるこひつじ─そのおののきとあらがい 石井辰彦 連作短歌 …一匹(イッピキ)の羔羊(こひつじ)が逸(に)げ來る
嗟嘆とともにあるほかない、未来へのひそやかな呼びかけ……白皙の(敗衣の)羊飼に問ふ。─何故に爾の羊は鳴かぬ/是の世の誰そ彼時に、ひとり問ふ。─何故あの夏に死ななかつたか?》
藤田直哉編著『地域アート―美学/制度/日本』堀之内出版・2016年
《「地域アート」とは、一体何なのか。多彩な論考で検証する。そこから見えてきた「日本」「制度」「美学」とは。2020年、東京オリンピックへ向けた、これからの「文化」がここから見えてくる。》(「BOOK」データベースより)
吉行淳之介『一見猥本風』角川文庫・1975年
《結婚間近かな良家の令嬢が誘拐される。マンションに幽閉した令嬢を、男は全裸にし、処女を確認した…。ポルノ風の書出しから意外な犯人の正体を描く奇妙な味の短編「一見猥本風」。
ユーモアとペーソス、そして乾いたエロティシズム。練達の筆致で、デリケートな男女の機微を巧みに写し、人生の深淵を鋭く挟る異色の作品集。》
山田智彦『城への招待』角川文庫・1981年
《――ある朝、支店長に呼ばれた私は、まもなくS湖畔ではじまる特別講習会に参加するよう命令された。暑い日中、鞄をかかえて御用聞きのように顧客の家を預金督促にまわるよりは、一か月間の講習の方が、割りのいい仕事のように思った。だが……。
中堅の銀行員が社員セミナーで体験した異様な人間集団と奇妙な出来事。社員を、企業のためにいかに都合よく〈改造〉するかを鋭く描いた「告発」ほか、経済小説の最高傑作!》
筒井康隆編『'74日本SFベスト集成』徳間文庫・1983年
《1974年前半のSF界の話題は、前年からの「日本沈没」ブームが、小松左京の、同作品による日本推理作家協会賞受賞や、同じく彼が1億2000万円の収入で文壇長者番付5位にランクされる形で、まだ続いていた。
後半では、半村良「不可触領域」の直木賞ノミネートがある。新聞社対テレビ局の超能力論争なども話題になったが、現在の日本SFとは本質的に無関係であろう。23歳の山田正紀が登場した。(「解説」より要旨)》
収録作品=眉村卓「屋上」/小松左京「夜が明けたら」/筒井康隆「佇むひと」/豊田有恒「渋滞」/諸星大二郎「生物都市」/真城昭「砂漠の幽霊船」/星新一「有名」/かんべむさし「決戦・日本シリーズ」/田中光二「スフィンクスを殺せ」/石川喬司「夜のバス」/亜羅叉の沙「ミユキちゃん」/河野典生「トリケラトプス」/永井豪「真夜中の戦士」/半村良「フィックス」
ロバート・シェクリイ『宇宙市民』ハヤカワ文庫・1987年
《ニュー・ジャージー州シーカークの町は、不正と腐敗にみちていた。正義をなによリ愛するマーヴィン・グッドマンは、もうがまんできなかった。ユートピアだと聞いている、銀河の果ての惑星トラナイヘ思いきって旅立つのだ! だが、彼を待っていたのは、あまりにも奇妙なユートピア社会だった……「 トラナイヘの切符」、エルボナイ星の若きスカウト団員ドロッグが獰猛なミラッシュをみごと仕留める話「狩猟の問題」、宇宙に自分だけの星を求めた男がたどる皮肉な運命を描く表題作ほか、短篇の名手シェクリイがつづる、シニカルなユーモアと優しさにみちた傑作12篇を収録!》
収録作品=名前のない山/会計士/狩猟の問題/時間泥棒/世界一幸運な男/触るべからず/無から有/トラナイへの切符/最後の戦い/徘徊許可証/宇宙市民/愚問
式貴士『吸魂鬼』集英社・1980年
《陽介は小さい頃から“神かくし”にあうくせがあった。新婚早々、陽介の神かくし現象がまた起きた。新妻妙子の魂を、夫の陽介がすっかり吸い取り、陽介の魂は記憶喪失同然の状態に……。陽介の体に妙子の心が入りこみ、妙子の体はぬけがらになった。魂を吸い取る吸魂鬼の出現!! それから始まる阿鼻叫喚、見るもおぞましいこの世の地獄。
鬼才式貴士が描く、世紀末スーパーSFの傑作。》(角川文庫版内容紹介)
収録作品=SF作家倶楽部/吸魂鬼/エイリアン・レター/海の墓/カメレオン・ボール/触覚魔/シチショウ報告
F・W・クロフツ『ポンスン事件』創元推理文庫・1969年
《だれがポンスン卿殺しの犯人なのか? 容疑者は三人いた。ミステリの愛読者は、冒頭のたった一行のヒントから犯人を推定しはじめるだろう。しかし事件は後半にいたって三転四転して読者を翻弄する。これがクロフツの独壇場であり、アリバイ崩しの妙技でもある。本格推理小説の醍醐味と重厚な謎とき、そして意外にも犯人は? タナー警部の執拗な捜査を描く本書は、待望の本邦初の完訳本である。》
S・S・ヴァン・ダイン『グリーン家殺人事件』創元推理文庫・1959年
《ニューヨークのどまんなかにとり残された前世紀の古邸グリーン家で、二人の娘が射たれるという惨劇がもちあがった。この事件を皮切りに、憎悪、嫉妬、貪欲がうずまくにごりきった空気のなかに、幽鬼のように一家のみな殺しを企てる、姿なき殺人者が跳梁する。あいつぐ連続殺人に一家の人間は一人二人と減っていく。とうぜん、残りのなかに犯人がいるにちがいない。しかし、冷徹、神のごときヴァンスも、この難事件を前にしてしだいに焦慮のいろを加えてきた……。二千冊の推理小説を読破したヴァン・ダインが、綿密な計算と構成にもとづいて書きあげた第三作は、一ダースにのぼる彼の全作品中一二をあらそうほどの決定的名作となった。》
高井有一『蟲たちの棲家』集英社文庫・1979年
《「子供を産めよ、誰のでもいいさ、君に似た子供を産めよ」再出発を目前にした多津子に私はいった。――学生時代からの友人三砂は劇作家への志を果さず、京都に元女優の多津子と暮らしていた。その三砂がある雨の夜、泥酔の果てに轢死した。死後の整理とかかわりあうなかで共に生きた青春が私の前に甦ってくる。帰り来たらぬ青春への挽歌を艶やかに描いた長篇小説。 解説・小坂部元秀》
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