『雲の小舟』は平松彌榮子(1925 - )の第4句集。序文:高野ムツオ、「あとがきに代えて」:我妻民雄。
作者は「馬酔木」「鷹」「序曲」を経て「小熊座」同人。
「あとがきに代えて」に「平松彌榮子はいま、覚醒よりも睡眠の長い時間にいる」とあり、句集刊行時にはあとがきが書ける容態ではなかった模様。
おはじきから黒い揚羽が舞ひあがる
人来ねば渦巻きなほす蝸牛
切株の露にきてゐる一羽われ
山を裂きいちまいの海春を呼ぶ
蔓引けば世の幕あがる葛の花
肋より光の漏れて冬の暮
這ひ出でて紅梅ところどころの世
めがねはづせば蝶の声あり杉並区
兄病む空雲の鯨に雲の鱶
就床の痩骨日傘たたむがに
たてがみ白きパンパスグラス夫逝けり
冬菊と地球の外へ墜ちかかり
昆布採り了へたる海の茫漠と
米寿たる身にいまさらの雪景色
放浪はじまるいちめんの蛇苺
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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