馬場駿吉さんの『加納光於とともに』は、名古屋に行ったときにご本人から頂いたもの。ちなみにその前にある瀬戸内晴美『見出される時』(集英社文庫)はその加納光於の装幀。
お会いした時に、ご事情は伺っていたのだが、馬場さんが館長を務める名古屋ボストン美術館は、ボストン美術館からの作品貸与契約が切れるのに伴い、閉館が決まった。馬場さんの案内で「ルノワールの時代 近代ヨーロッパの光と影」展を見たのが、個人的には最初で最後の観覧になってしまった。
今月は全身に湿疹が出て、熱、咳と続き、病院に行く以外ほとんど起きていられなかったので、読んだ冊数だけは増えた。
高島裕『廃墟からの祈り』北冬舎・2010年
《「無知と顛廃のさなかにあって、わたしたちの憧れと希求は、
どんな意味をもちうるのだらうか。」
伝統を切断し、荒廃した精神が蔓延する時代に、生命の豊かさ、美しさを伝える、詩歌への祈りに満ちた、著者初の魂の文章集。》
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』ハヤカワ文庫・2004年(世界幻想文学大賞)
《青年はある晩、黒髪の美女が縛りつけられ、漂流しているボートを目にした。女を救出し、浜へと泳ぎ戻った青年は愕然とする。その人物は男だったのだ! 盗品とおぼしき大きなルビーを腹部に隠していた男は、よく見るとやはり美しい女にも見える。その男はいったい……。「リリオスの浜に流れついたもの」をはじめ、メキシコのキンタナ・ローを舞台にした美しくも奇妙な物語3篇を収録する連作集。世界幻想文学大賞受賞。》
西村寿行『原色の蛾』角川文庫・1977年
《一瞬、車を運転していた京子には、それが黄と赤に染め分けられた蛾に見えた。そしてその蛾は、フロントグラスいっぱいに拡がって暴風雨の空に舞い上がった……。
が、路面に倒れていたのはマキシドレスを着た若い女だった。目撃者はいない。ためらう京子を夫は車に押し込みそのまま二人で現場から逃走してしまった。しかし、一週間後“目撃者”と名乗る男から電話がかかって来た…‥。
財産と信用失墜を恐れて、死体を置き去りにした医師夫婦を襲う悪夢!
エンターテイナー西村寿行が描く、ロマンとサスペンス溢れたミステリー傑作集。表題作他六篇収録。》
収録作品=原色の蛾/闇に描いた絵/黒い蛇/高価な代償/毒の果実/恐怖の影/刑事
西村寿行『垰 大魔縁』角川文庫・1987年
《秋葉文七は、再び強カジープ、ゴールデン・イーグルを駆って旅に出た。亡くなった娘の小菊が、以前歩いて記述を残した峠路を訪ね歩くのだった。しかし、彼がたどり着いた扼胆の集落は、小菊が人の住むところではなく、亡霊の世界であると記した場所であった。そして、夜闇の中に現われたのは……。
次々と降りかかる苦難を、愛車とともに闘い乗り超える男の詩情と、亡き娘との熱き心の交流を描く、サスペンス・ロマンの傑作! 名作『垰』続編。》
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『輝くもの天より墜ち』ハヤカワ文庫・2007年
《翼をもつ美しい妖精のような種族が住む銀河辺境の惑星ダミエム。連邦行政官のコーリーとその夫で副行政官のキップ、医師バラムの三人は、ダミエム人を保護するため、その星に駐在していた。そこへ〈殺された星〉のもたらす壮麗な光を見物しようと観光客がやってくるが……オーロラのような光の到来とともに起こる思いもよらぬ事件とは?『たったひとつの冴えたやりかた』で言及されていたファン待望の物語、ついに登場》
ウラジミール・ナボコフ『ナボコフの一ダース』サンリオSF文庫・1979年
《「唯一の真実の数は一であり、残りは単に繰り返しにすぎない」このナボコフの発言は、ジョイス、プルースト、プーシキンなどの文学遺産を通ってプロチノスまで遡ることができる。現実が虚構の繰り返しか、その逆か。ともかく合わせ鏡ともいうべき意識の地獄を覗くために双生児のイメージが多用されるのは当然のことだ。同姓同名の男にまちがわれてレストランの鏡をこわしたといって逮捕されたり、借りたこともない本の返済を迫られるポオの「ウイリアム・ウイルスン」を思わせる「一族団巣の図、1945」、18歳で傑作を書いてロシアのランボーといわれ、24歳で溺死したはずの詩人ペーロフを自称する老人が記念祭に現われる「忘れられた詩人」、家族から見世物にされる怪物双生児の話を読まれるがいい。本書は文体の魔術師ナボコフの唯一の反宇宙がSF、ポルノ小説、童話、探偵小説などの体裁で繰り返される溜め息の出るような美しい13の短篇の結晶からなるものである。》
収録作品=フィアルタの春/忘れられた詩人/初恋/合図と象徴/アシスタント・プロデューサー/夢に生きる人/城、雲、湖/一族団欒の図、一九四五年/いつかアレッポで……/時間と引き潮/ある怪物双生児の生涯の数場面/マドモアゼルO/ランス
D・H・ロレンス『乾し草小屋の恋―ロレンス短篇集』福武文庫・1992年
《いくたびかの夏を過ぎて再会するかつての恋人との切ない別れ(「春の陰翳」)、対照的な兄弟がそれぞれに出会う甘い無垢な恋(「乾し草小屋の恋」)など。生の回復を掲げ、「性」の問題に大胆かつ真摯に取り組んできたロレンスが、田園地帯を舞台に、男女の恋をめぐる豊潤な心象風景をみごとに描く初期傑作短篇集。 》
収録作品=春の陰翳/乾し草小屋の恋/桜草の道/牧師の娘たち
メルヴィル『タイピー―ポリネシヤ綺譚』福武文庫・1987年
《名作「白鯨」で世界文学の最高峰に立つメルヴィルが、自らの捕鯨船生活に材をとった処女作。船からの脱走、島の美しい娘との淡い恋、食人種〈タイピー〉族の村での軟禁生活――南海の楽園マルケサスを舞台に繰り広げられる怪奇とロマンに溢れた一大冒険小説。》
和久峻三『呪いの紙草履―赤かぶ検事奮戦記2』角川文庫・1978年
《雪深い奥飛騨の山村では、古来より紙草履を作って人を呪い殺す風習が伝わっている。ある日、その草履が家々の軒下に置かれ、村は騒然となった。
さっそく、刑事の張りこみが開始された。が、その裏をかいて、またしても投げこまれた紙草履を見た、心臓の弱い女性はショック死し、ついで彼女の娘も吊橋から突き落され殺害された! 呪われた家を洗った「赤かぶ検事」は、被害者の家の主人が、飛騨の帰雲城にまつわる莫大な埋蔵金発掘に狂奔していることをつきとめた。事件は思わぬ方向に進んだが……。
表題作ほか3篇を収録した「赤かぶ検事」シリーズ第2弾!》
収録作品=呪いの紙草履/躓きの石/残酷な高原の朝/雨降って地固まる
和久峻三『被告人、名無しの権兵衛―赤かぶ検事奮戦記4』角川文庫・1980年
《春の観光客でにぎわう飛騨高山駅で、中年男が置き引きの現行犯で逮捕された。男は犯罪事実については、あっさり認めたが、本籍や氏名については頑として黙秘をおし通した。身許不詳のままでは起訴にもちこめず、勾留期限も間近に迫り、取り調べにあたった、“赤かぶ検事”は、ほとほと困り果てた。そこで、一計を案じ「本籍、不詳。住居、不定。氏名、不詳。……被告人は、年齢47、8歳。容貌、別紙添付の写真のとおり……」という前代未聞の起訴状を作成した。
表題作ほか、少女の強姦殺人事件をめぐる弁護士との虚々実々のやりとり、白骨死体発見で逮捕された女の時効問題等、赤かぶ検事がユーモラスに展開する法廷推理。》
収録作品=被告人、名無しの権兵衛/陰毛/小糸坂の白骨/蝸牛庵の遺産
梅崎春生『悪酒の時代/猫のことなど―梅崎春生随筆集』講談社文芸文庫・2015年
《『桜島』『日の果て』『幻化』など、戦後派を代表し
生と死を見つめ続けた梅崎春生。
多くの作家や読者を惹きつけやまない、その自由な精神、
人生や社会への深い洞察とユーモアとアイロニー。
鬱々とした戦時の記憶を奥に潜ませながら、
内なる孤独と向き合った作家の日常への思い。
人に優しく、酒におぼれた梅崎春生の名随筆集。》
中村真一郎『雲のゆき来』講談社文芸文庫・2005年
《彦根藩2代目藩主の生母・春光院の弟、青春時代には江戸の噂になるほどの艶名を売り、やがて隠棲、僧侶としても文筆家としても一代の名声を担った元政上人。彼の清冽な詩の世界に遊び、事蹟を訪ねる旅に出ようとした「私」は、父への憎しみを跡付けるための旅をする1人の国際女優と同道することに。幸と不幸の間で揺れ続ける2つの旅の終着は……。現代文学の可能性を拓く詩的で知的な冒険。》
エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロ『食人の形而上学―ポスト構造主義人類学への道』洛北出版・2016年
《アマゾンの視点からみれば、動物もまた視点であり、死者もまた視点である。それゆえ、アンチ・ナルシスは、拒絶する―人間と自己の視点を固定し、他者の中に別の自己の姿をみるナルシス的な試みを―。なされるべきは、小さな差異のナルシシズムではなく、多様体を増殖させるアンチ・ナルシシズムである。動物が、死者が、人間をみているとき、動物が、死者が、人間であるのだ。ブラジルから出現した、マイナー科学としての人類学。》(「BOOK」データベースより)
山下洋輔『ピアノ弾き乱入列車』徳間書店・1988年
《ターボ全開。疾走するピアノ弾きが、時代に風を起す。格闘技ジャズピアノで、世界中を制覇しつつある山下洋輔が、1980年~88年に出会った各界の凄玉たち。超絶・過激・知的・刺激的なテーマは多岐に及び、抱腹絶倒・空前絶後のデスマッチ。時代に風穴をうがつ疾風怒涛の出前興行。》(「BOOK」データベースより)
五木寛之『夜のドンキホーテ』角川文庫・1975年
《東山正剛先生、生涯を子弟教育に捧げて齢72、純情熱血の九州男子である。ふとしたことから手にした週刊誌のヌード写真、エロ記事の氾濫に憂国の情勃然として、一身をもって世の退廃を改めんと、ラ・マンチャならぬ、地元博多をいで立った。
目ざすは東京!
トルコ風呂、マリファナパーティー、ロックのリズム、オートバイ族に学生デモ、……百鬼夜行の風俗に、先生の情熱大いにたぎるが。……
随所に、爆笑、哄笑、失笑、微苦笑をさそうスラプスティックな展開の中に、鋭い文明批評をこめた、傑作ユーモア小説。》
福島正実『異次元失踪』角川文庫・1975年
《静かな夜の浜辺を散歩する若い女。だが突然、竜巻に襲われたようにスカートがめくれあがり、かん高い悲鳴と共に彼女は消えてしまった。その場所には、確かに彼女がいたことを示すサンダルの跡が……。
生徒の降矢の信じられないような話を聞いた時、私は不吉な予感がした。そして案の定、やがて私はとんでもない事件に巻き込まれていった。
〈四次元への消失〉は本当にあるのだろうか? この謎に挑戦し、福島正実が描いたジュニアSFの傑作!》
東海林さだお『某飲某食デパ地下絵日記』文春文庫・2003年
《デパートでいちばん輝いている場所、食品売り場、通称「デパ地下」。なぜ人はデパ地下へいくとウキウキするのか。小田急百貨店新宿店の地下にたたずむ逸品のひとつひとつをショージ君が味わい深く考察。トレンドも老舗も春夏秋冬もすべてつまった味の宮殿を探険したら、今宵は美味珍味で一献。見て、読んで、取り寄せもできます。》
小松左京・米山俊直・石毛直道『人間博物館―「性と食」の民族学』文春文庫・1986年
《題はいかめしいが、中身はやさしく面白く、笑いながら世界の「性と食」についての民族学が学べます。入試地獄はなぜ必要か? 人は人まで食べてきた、ソープランドこそ最高の「病院」だ!? など12章。抱腹絶倒の“社会人類学”の入門書。あとがきにかえての座談会は、小松左京、米山俊直、石毛直道の三氏が覆面を脱いでのご登場。》
ラディゲ『肉体の悪魔』新潮文庫・1954年
《青年期の複雑な心理を、ロマンチシズムヘの耽溺を冷徹に拒否しつつ仮借なく解剖したラディゲ16―18歳のときの驚くべき作品。第一次大戦のさなか、戦争のため放縦と無力におちいった少年と人妻との恋愛悲劇を、ダイヤモンドのように硬質で陰翳深い文体によって描く。ほかに、ラディゲ独特のエスプリが遺憾なく発揮された戯曲『ペリカン家の人々』、コント『ド二ーズ』を収める。》
許光俊『クラシック魔の遊戯あるいは標題音楽の現象学』講談社選書メチエ・2014年
《突如として楽曲の本質が生起する圧倒的な体験とは?あとう限りの指揮者・演奏家たちの録音を聴き尽くし、作品の理念に触れる―徹底した印象批評こそが鑑賞者を恍惚と神秘的瞬間に誘う。クラシック・ファン必読の新しいクリティカル・エッセー。》(「BOOK」データベースより)
横溝正史『幽霊男』角川文庫・1974年
《等々力警部がまっ先にホテルのバスルームヘ飛び込んだ。そこには、湯を真っ赤に染めて浴槽に浮かぶ全裸の女の死体が……。
ブームに乗って大いに繁盛する、いかがわしい、興味本位のヌードクラブ。そこに所属する三人の女が次々に惨殺された。それも金田一耕助や等々力警部の眼前で……。かつてない程の屈辱を味わった名探偵の闘志が燃える。神出鬼没の無気味な犯人幽霊男との対決は?
横溝正史の傑作怪奇ミステリー!》
谷恒生『異空間アドベンチャー』徳間文庫・1988年
《深夜スナックやディスコに出入りし、シンナー遊びで何度も補導された高校生の花崎達也と野口雪子は、ある夜、新宿で奇妙な仮面の男に出会い、突然、異空間に放り出されてしまった。――ヒマラヤの麓の町で飢えと恐怖に脅えるニ人は、奇怪な仮面をつけた謎の集団に襲われ、三つの眼をもつ不思議な塔に逃げこむ。が、雪子は捕えられ、満月の夜、ヒンドウの神のいけにえにされるというのだ‥…・!? 異色長篇。》
高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』講談社文庫・1985年(群像新人賞)
《人々は昔、親によってつけられた名前をもっていた。それから人々は、自分で自分の名前をつけるようになった。だが、恋人たちは違ったやり方で……。
繊細な感覚と深い思索で選ばれた言葉、快いリズムと技巧を凝らした表現。遊びの精神と独創的魅力溢れる新らしい文学の誕生。群像新人長篇小説賞優秀作。》
金沢百枝『ロマネスク美術革命』新潮選書・2015年
《11~12世紀のロマネスクこそは、ヨーロッパ美術を大きく塗りかえる「革命」だった。宮廷文化から民衆文化への流れのなかで、知識より感情を、写実よりかたちの自由を優先する新たな表現が、各地でいっせいに花ひらく。古代ギリシア・ローマやルネサンスだけがスタンダードではない。モダン・アートにも通じる美の多様性を、豊富な図版を例に解きあかす。》(「BOOK」データベースより)
ヴォルフガング・シャウフラー編『マーラーを語る―名指揮者29人へのインタビュー』音楽之友社・2016年
《世紀末ウィーンを代表する作曲家兼指揮者グスタフ・マーラー(1860‐1911)。音楽家等は、彼の作品とどう対峙してきたのか。本書は、世界を代表する29人が、マーラー作品との出会い、演奏の難しさ、怖さ、楽しさ、マーラー・ルネサンスの立役者バーンスタインのこと、そして音楽と人種の問題…を熱く語る。》(「BOOK」データベースより)
斎藤栄『奥の細道殺人事件』集英社文庫・1977年
《俳聖・松尾芭蕉を研究テーマとしている東陽大学国文科講師の三浦八郎は、芭蕉忍者説の裏付けをとるため奥の細道を歩く計画を進めていた。その矢先、一人息子が工場廃液から生じる有毒ガスのために不慮の死……。怒る三浦は公害企業への復讐を誓う。芭蕉忍者説と公害問題を結び、推理小説の新分野に挑戦した異色話題作。 解説・中島河太郎》
山田風太郎『伊賀忍法帖』角川文庫・1974年
《節くれだった毛深い腕で美しい女体を抱きしめる荒法師。その粘体みたいに柔軟な腰が女を波のように翻弄する。やがて女の口から痛苦とも法悦ともつかぬ悲鳴がほとばしり出た……。
主家三好氏の美姫右京太夫を我が物にせんと企む松永弾正は、7人の根来僧に命じ、媚薬を作るために必要な美女を狩り集めさせた。若き伊賀忍者笛吹城太郎は、最愛の妻を彼等に奪われ、生贄にされた怒りを胸に、敢然と復讐を誓う。
伊賀忍法と根来忍法の激しい対決を描く待望の忍法帖シリーズ第3弾!》
今東光『河内ぞろ』徳間文庫・1984年
《河内の三ぞろ――大西家の三兄弟・仁助、多度吉、永三はそろいもそろって親分と呼ばれる一匹狼のヤクサ、その名は大阪中に聞こえた。が、この兄弟、軍鶏そっくりで寄ると喧嘩。父親・文吾の葬礼でも、焼場の係員へのポチを誰が出すかでののしりあう始末……とはいえ新興ヤクザの縄張り荒しには兄弟1つとなって撃退するという――。
著者独壇、河内人情と風物を浮き彫りにする傑作連作集。》
ヴォルフガング・シュトレーク『時間かせぎの資本主義―いつまで危機を先送りできるか』みすず書房・2016年
《資本と国家の結託が民主主義を揺るがす。いま資本主義は危機の渦中にある。貨幣のマジックで危機を押さえ込む「時間かせぎ」はどこまで可能か。欧米で大きな反響を呼んだ、資本主義の新たな歴史。》(「BOOK」データベースより)
ジュリア・クリステヴァ『恐怖の権力―〈アブジェクション試論〉』法政大学出版局・2016年
《文化を母なる〈アブジェクシオン〉(おぞましきもの)の排除と抑圧の体系としてとらえなおし、〈アブジェクシオン〉の復権により父性=象徴秩序からの離脱をはかり、知の再構築をめざす野心的論考。精神分析学、人類学、文学の各領野を自在に横断し、文化記号論の新たな地平をひらく。》
瀬戸内晴美『見出される時』集英社文庫・1981年
《「生きていくということは、じぶんの失われた時への追憶であり、見出された時の確認であるのかもしれない」 生命の完全燃焼と魂の全き自由を常にもとめて生き続けた著者が、徳島での幼い日から中尊寺で得度するまでの「時」を振り返り、結婚、文学、放浪、仏縁、幸福などについて語り半生の足跡を綴る自伝的エッセイ。 解説・嶋岡晨》
馬場駿吉『加納光於とともに』書肆山田・2015年
《疾駆する加納光於の画業に並走する50年の思考
共震スル精神の接近─3度にわたる対話を併録
画家と並走する思考の軌跡》
向井雅明『ラカン入門』ちくま学芸文庫・2016年
《ラカンを理解する最短ルートは、その理論を歴史的に辿ることだ―。鏡像段階、対象a、想像界・象徴界・現実界など多種多様な概念を駆使し、壮大な理論を構築したラカン。その理論は、精神分析のあり方を劇的に刷新し、人文・社会科学全般に大きな影響を与えた。本書では、その難解な思想を前期・中期・後期に腑分けし、関心の移り変わりや認識の深化に注目しながら、各時期の理論を丹念に比較・検討していく。なぜラカンはこれほどに多彩な概念を創造し、理論的変遷を繰り返したのか。彼が一貫して問い続けてきたこととは何だったのか。その謎に挑んだ好著、『ラカン対ラカン』増補改訂版。》(「BOOK」データベースより)
荒俣宏『文明の大陸移動説 神の物々交換』集英社文庫・1998年
《さまざまな事物が交易で広がるように、文化も人から人へと伝達されてゆく。現代のコロンブスたらんとす荒俣宏の、食からはじまり、美を求め、驚異を知り、真実を求める旅。その地球規模の路上観察から、文明混合のパズルがここに謎解かれる! 不思議と好奇心と知的興奮に満ちた旅に、さあでかけよう。》
佐野洋『死者の電話』新潮文庫・1985年
《突然かかってきた電話は、かつて娘の婚約者だった男からであった。だが彼は一年前、アメリカで病死した筈なのだ……。どんでん返しの妙を見せる表題作「死者の電話」ほか、二十八年前の記憶が意外な形で蘇ってくる「古い名刺」、ブラックな後味の「歯の痛み」など、13編を収録する。奇抜な仕掛け、意表をつく結末でミステリーの醍醐味を満喫させる新潮文庫版封切りミステリー第2弾。》
収録作品=盗作の事情/地に帰る/死者の電話/歯の痛み/濡れた葉書/怠けた蟻/暗い窓/父の筆跡/約束/不幸な香水安らかに眠れ/古い名刺/赤い蜘蛛
陳舜臣『九点煙記―中国史十八景』徳間文庫・1987年
《太古の中国は九つの州にわかれていたという。このすべても天上からみれば九つのおぼろなモヤにすぎない。このような俯瞰は歴史に対するわれわれの姿勢を連想させる。後世の人であるわれわれは大筋はわかっているが細部は見えにくい。ときには描かれた遠景の人物の目の表情を見たい。そんな気持でいる人たちを満足させるのが小説家、とくに歴史小説家というものではあるまいか(本文より)。珠玉の歴史エッセイ。》
井上ひさし『四捨五入殺人事件』新潮文庫・1984年
《講演会をひきうけたのはよかったが、つれていかれたのはテレビもない山の中の温泉旅館、しかも折からの大雨で村に一つしかない橋が流された。陸の孤島で身動きできない二人の作家の前に突然起こる殺人事件。殺された旅館の女主人は、昔苛斂誅求をほしいままにした領主の末裔だった。事件の背後には、何世代にもわたる怨念が……。推理小説嫌いも必読の「文庫封切り版ミステリー」》
角田喜久雄『雪太郎乳房』春陽文庫・1980年
《錦絵「江戸七美人」の一人に描かれた美女お喜美は、御用聞き並木の仙蔵の愛娘であった。お喜美の住まいの裏隣に、若い浪人佐川重四郎がいた。重四郎とお喜美がまきこまれた大江戸の夜を恐怖に陥れた怪事件とは!? 娘ばかりをねらう全身真っ赤な幽霊であった!
並木河岸の材木問屋、桝屋五郎右衛門の娘お銀が次にねらわれていた。その身代わりに立った気丈なお喜美は、赤いお化けの一味にいずこへか拉致されていった!
大身旗本笠松十郎兵衛の屋敷には、八重・雪太郎という美しい姉弟があった。笠松家をめぐる陰謀の元凶長山典膳に、一味になることを誘われた重四郎は!? 野州足利一万一千石戸田家の次男駒之丞とうり二つの重四郎の正体は!? ――赤屋敷の恐怖は興趣満点に展開!》
荒俣宏『ビジネス裏極意 商神の教え』集英社文庫・1997年
《商売には色香がなくてはならない。商売はカルチャーでなくてはならない。商売はドラマチックでなくてはならない。つまり商売とは芸である! 繁盛をもたらす福の神の存在を求め、老舗の老舗たる由縁を探り、楽しみながら儲ける秘訣を知る。あらゆる商売の神秘と成功の極意をルポする荒俣宏流ビジネス指南書。》
テリー・イーグルトン『シェイクスピア―言語・欲望・貨幣』平凡社ライブラリー・2013年
《彼は、ヘーゲル、マルクス、ニーチェ、フロイト、ウィトゲンシュタイン、デリダを、よく読んでいたに違いない―シェイクスピア作品に内在する現代的問題の挑戦的な読解を通じて、読むとは何か、文学とは、批評とは何か、そして、シェイクスピアとは何かを知ることができる、最良の入門書。》(「BOOK」データベースより)
清水一行『九連宝燈』角川文庫・1980年
《間髪を入れず柳沢の右手がくねり、別の牌が山に返された。対戦者は誰も気づいていない。麻雀の役でも奇跡的な九運宝燈に、絶対必要な牌を手に入れたのだ。だがその直後、彼は背後に、刺すような鋭い視線を感じた!
社員同士の麻雀で、九連宝燈を完成させた柳沢誠一は、後に居た矢代美根子にイカサマの現場を見られたような気がした。もし彼女が、誰かに話せば、卑劣な人間として柳沢の社内的評価は一気に悪化する。折しも彼は、社の実力者平岡取締役に認められたばかりであった。美根子の口を塞ぐべく決心した彼は、早速、行動を開始したが……。
表題作ほか、傑作六篇を収録!》
収録作品=銀の聖域/石の塔/硫酸の海/租界で育った/鬼の報酬/九連宝灯/俄かな屈折
清水一行『惨劇―石油王血族』角川文庫・1987年
《「チャンスは今日しかないな」朝刊の日付を確かめて、幸雄は現金強奪計画の実行を決意した。サラ金の返済期限が目前に迫り、もう時間的余裕はない。資産家の伯父に借金を申しこむと「サラ金にでも行け!」とにべもない。怨みは憤怒となり、殺意に形を変えた。彼は、深夜伯父の家に忍びこみ、石油王長原家の莫大な資産を一人占めした憎い伯父一家を、片っ端から惨殺していった……。
戦慄すべき凶悪犯罪を浮彫りにした傑作ミステリー。》
布野修司『景観の作法―殺風景の日本』京都大学学術出版会・2015年
《戦後,近代建築の普及に伴って日本の景観は激変した。近年美しい景観への回帰が叫ばれ法的な枠組みも整いつつあるが,新たに創られるべき風景の姿やそれを創る方法など,議論は絶えない。本書は,これまで日本が経験してきた景観の変遷や風景をめぐる紛争の実例を振り返りつつ,景観をつくり出す「作法」の有り方について考える。》
筒井康隆『スタア 筒井康隆劇場 12人の浮かれる男 改題』新潮文庫・1985年
《日本に陪審制度が復活した。おれたちゃ最初の陪審員。マスコミがこんなに注目してるのに、無罪の被告をそのまま無罪にしたんじゃつまらない。なんとか殺人罪にできないものか……『12人の浮かれる男』。新婚スタアの新居びらきパーティにやってきたのは、夫の情婦に妻のヒモ、はては白熊、ターザンまで。大ドタバタのなかでくりひろげられる殺人劇、処女戯曲『スタア』など戯曲全5編。》
収録作品=12人の浮かれる男/情報/改札口/将軍が目醒めた時/スタア
P・D・ジェイムズ『黒い塔』ハヤカワ文庫・1994年(英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞)
《ドーセットにある障害者用の療養所で教師をしていたバドリイ神父が急死した。長年の知人であるダルグリッシュ警視が、折り入って相談があるという手紙を受け取った直後のことだった。はたして神父の相談ごととは何だったのか? 休暇を利用して調べをはじめたダルグリッシュは、療養所内で患者の事故死や自殺が相次いでいることを知るが……現代ミステリ界の頂点に立つ著者の英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞受賞作》
河野典生・山下洋輔『インド即興旅行―ヤマシタ・コーノ・ライブ・イン・インディア』徳間書店・1979年
《インドは4度目の作家・河野典生とインド初体験の山下洋輔が、ピアノならぬテレコ片手にインドを旅し、さまざまな人々・出来事との出会いを語り下した本邦初の即興旅行セッション。》
河野典生『続・街の博物誌』早川書房・1979年
《さあ、ファンタジイ!
いつもの街の、いつもの通り――すこしばかり目をこらしてみれば、ふしぎなものの姿が見えてくる。
ある日、学校帰りの小学生のあとについてやってきた鳥、“ドードードー”と子供たちがはやしたてれば、大きなクチバシ、キョトンとした目の鳥が“ドオドオドオッ”と鳴く。いつのまにかいついたドードーは、ふえにふえ、やがて団地中にあふれかえり……奇妙な闖入者「ドードー」をはじめ、遠い世界の、鰐になった父親をもつ子供からの手紙「アリゲーター」など、独自のファンタジイ世界を展開する著者が描く、瀟洒な都会派ファンタジイの数々!》
収録作品=ひこばえ/闇夜/レンタ・カーの冒険/旅は道づれ/砂漠の神/ある絵画論/魂魄記/旅愁/あわしま―または夢の播種
日影丈吉『鳩』早川書房・1992年
《本書は、戦後最高の幻想作家、日影丈吉の最晩年の作品を中心に編んだもの。
死後も選挙通知が届くために律儀に投票所に通う大男の話「墓碣市民」、病室の壁のマンガめいた顔が患者たちと交わる「壁の男」、天使性と悪魔性を備えた新米看護婦たちを描く表題作「鳩」などユーモアと恐怖の絶妙の混交を示す最新作7篇。さらに日影文学を知るうえで貴重な資料となるばかりでなく、内容的にもきわめて質の高い未発表の初期短篇「ヨハンの大きな時計」「硝子の章」と日記抄「三冊の日記帳から」を収録した。》
収録作品=墓碣市民/冥府の犬/角の家/壁の男/鳥雲に入る/鳩/極限の吸血鬼/〈未刊行初期短篇〉ヨハンの大きな時計/硝子の章/〈三冊の日記帳から〉九十九里日記/仮寓日記/里道日記
黒井千次『黄金の樹』新潮社・1989年
《昭和20年代後半、政治の季節―。文学への志と両親との葛藤に苦しむ、東大生・倉沢明史の前に現れた年上の女・麻子。政治に走る友人たちへの負い目と、彼女への欲望の間で揺れ動く明史。そして、失ったはずの恋人・棗との再会、恋の成就―。彼の青春は一つの完結を迎えた。》(「BOOK」データベースより)
黒井千次『五月巡歴』河出文庫・1982年
《一九五二年五月一日の午後、学生たちの隊列は、皇居前広場に向かっていた――二十余年を過ぎたいま、もう若くはない一人のサラリーマンに一通の手紙が届けられる……青春の熱気と昂揚を生きた男がたどったその後の長い時間。職場からも恋愛からも逃げつづけた男の歳月……戦後史に残る“血のメーデー事件”を背景に、戦後青春の切実な魂の遍歴を描き、新境地を拓いた著者の代表的長篇大作!》
アルフレート・デーブリーン『たんぽぽ殺し』河出書房新社・2016年
《『ベルリン・アレクサンダー広場』の作家がその才能と実験性を大胆に展開した短編を集成。グロテスクでポップな魅力と狂気をたたえた多様で今日的な作品世界。》
収録作品=たんぽぽ殺し/帆走/踊り子とカラダ/アストラリア/処女懐胎/変身/死神の助手/ドア違い/たんぽぽ殺し/青ひげ公/第三の男/うぬぼれ男の手記/修道女と死神/ローベンシュタイン人のボヘミア大移住/ドレスデン=ブカレスト線/秘密裁判/戦争、戦争!/助任司祭/夢遊病の女/天国の恩寵について/ヒンツェルとおてんばレーネ/巨人ヴェンツェル/クロコダイル/リットホーフの幽霊/伯爵になった下男/ローベンシュタイン人のボヘミア大移住
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