今月のは装幀が懐かしいというのは眉村卓、大藪春彦、田中光二くらい。
ジュリアン・グラック『陰欝な美青年』が復刊されてようやく読めた。
荒巻義雄『神聖代』もメタSF全集の一巻として復刊された。こちらは多分、中学生の頃以来の再読だが名作。
ジョン・ダン『エレジー・唄とソネット』現代思潮社・1977年
《マニエリスム文学の絢燗たる開花をみたエリザベス朝時代に沸然と輩出した一群の詩人達のなかにあって、直截な表現と多彩な幻想に富むジョン・ダンは最も傑出していた。彼は、柔弱なハムレット的懐疑と異る強靭な断定的懐疑を基底に据え、男と女との基本的な人間関係に対する不安と幻滅、体制としての宗教、政治としての宗教の否定、そして自らの生そのものに対する猜疑の念を生涯抱き続けた。初期の恋愛詩を編纂した本書は、醜怪な性の傷口から死を経巡る暗闇にはしる嘲罵の詩想と、冷酷なシニシズムに覆われた露骨な官能と、人間の廃墟を打砕くエロティシズムの哄笑とで、自己の生の軌跡を赤裸々に謳いあげるマニエリスム詩文学の絶顛をなす。艶美な変幻に満ちた恋愛詩、緊迫した昴揚感の漲る宗教詩と鋭利な冷笑を含んだ諷剌詩を残しながらも、十八世紀末にコールリッジに再発見されたが、完全な復活は二十世紀になってエリオットによって「形而上派」の代表詩人として評価されるまでまたなければならなかった。》
小林弦彦『旧暦はくらしの羅針盤』生活人新書・2002年
《真冬なのになぜ「迎春」というのか? 俳句の季語とカレンダーの季節感がずれるのはなぜか? 答えは全部旧暦にある。旧暦は日本の季節を読むのに最も適したシステム。旧暦を見直して活用すれば、商売繁盛の決め手にもなる。毎日の暮らしが楽しく、古典や時代劇がもっと分かるようになる旧暦入門。》
大森晋輔『ピエール・クロソウスキー―伝達のドラマトゥルギー』左右社・2014年(渋沢・クローデル賞)
《キリスト教神学と西洋近代思想の交点に輝く幾重にも韜晦のヴェールに覆われた思想家の生涯の探究。その全貌を視野におさめる本邦初のモノグラフィー! 》(「BOOK」データベースより)
ジョン・クロウリー『エンジン・サマー』福武書店・1990年
《舞台は〈嵐〉と呼ばれる大破壊の後の、はるか未来のアメリカ。そこではインディアンの末裔たちが過去の機械文明を失いながらも、一種の牧歌的ユートピア社会を形成していた。そうした集落の一つであるリトルビレアには、大小様々な部屋がさながら蜂の巣のように密集し、このは系、てのひら系、ほね系、といった系統に分かれた奇妙な一族が住んでいた。物語は〈しゃべる灯心草〉と呼ばれる少年の独白によって始められる。彼は少女を相手に、“聖人”になろうとして彷徨した自分の冒険譚を語り出すのであった。〈一日一度〉と呼ばれる美少女や、ドクター・ブーツと巨大な猫族の物語、そしてラピュタと呼ばれる天上都市と謎の水晶体の物語などなど…。本書は象徴と寓意に満ちた、アメリカのファンタシィ界の異才ジョン・クロウリーのSF代表作である。》(「BOOK」データベースより)
扶桑社文庫版
特設ページ
眉村卓『ポケットのXYZ』角川文庫・1982年
《仕事を済ませ、オフィスを出ようとしたときにあらわれたひとりの男。 そいつは以前、私の部下として入ってきた新入社員で、仕事で自信喪失したあげく、自殺してしまったはずの男なのだ。
「幽霊!」
そいつは、ぼくを見つめていたが、やがてかぼそい声を出した……。
「あわれっぽい話」より
珍妙な話、不可思議な話、楽しい話、極端な話……眉村卓の、SFショート・ショート満載。「ポケットのABC」の姉妹編。》
収録作品=あわれっぽい話/類型的な話/アホらしい話/ひまつぶしの話/災難 A/災難 B/災難 C/災難 D/番号札/番号時代/番号と名前/番号魔にして数字占い/どこかにありそうな話/ミスター哲学者/電話の反応/今週の賞/走る (1)/走る (2)/走る (3)/走る (4)/新年宴会/酒癖/立食パーティ/ローパーよりの報告/逃げる話/かなえてあげよう/そいつ/追跡と逃走/人生設計/運命のいたずら/仕事場にて/ピッカピカ その(一)/ピッカピカ その(二)/ピッカピカ その(三)/ピッカピカ その(四)/ピッカピカ その(五)/るんるんの(A)/るんるんの(B)/るんるんの(C)/るんるんの(D)/踊る ユウレイ/踊る探検隊
大藪春彦『凶銃ワルサーP38』角川文庫・1988年
《ヒットラー参謀ケストラーが特注し、幾多の悪夢を生み、戦後アメリカヘと流れ再び数多の人の嘆きを嘗め尽した一丁の銃、ワルサーP38。この因果に満ちた鋼鉄の夢魔を手にしたその時、衣川恭介に運命の幕が降りた。兄を凄惨なリンチによって喪くし、その復讐のため、衣川は凶銃を手に殺戮の徒と化した。警官を殺る。汚濁の商売人を殺る。そして衣川は、最後の目標が政財界の黒幕である事を知り、同時に己れの運命を悟る。命は、限りなき野望に初めて輝やくのだ――。
奈落へ奔る事によって幻滅と悦楽を得ようとする男の、摂理と本能をハードボイルドに昇華させた、大藪文学の金字塔。》
アルフレッド・ベスター『ピー・アイ・マン』創元推理文庫・1970年
《10年前に死んだ恋人そっくりの女性を求めて惑星間を飛びまわる男。『現在』を変えようとして時間死した男たちの話。電話の混線で、この世と平行して存在する異次元の女性と話した男。 20世紀の男女が見たハリウッドの二流映画を地で行く25世紀の社会。大爆発の後、地球上にただひとり生残った娘のまえに現われたひとりの男との話など全七編。異色のSF作家、ベスターが前衛的な技法と洗練された文体で描く独創的なSF短編集。》
収録作品=時間は裏切り者/マホメットを殺した男たち/この世を離れて/ピー・アイ・マン/花で飾られた寝室用便器/そのままお待ちになりますか?/昔を今になすよしもがな
末井昭『東京爆発小僧』角川文庫・1985年
《花が女で男が蝶か。こぬか雨ふる黄昏の街を、しみじみ男が独り往く。ああ、その名も名高きダイナマイト・キッド。メローな電飾に濡れた移ろいの世を背に、爆発小僧は今日もゆく。命短かし恋せよ乙女、なんて私はロンリーハート。涙いっぱい鞄に詰めて、背伸びしてみるネオン街。あなたにあげた愛を返して、夢と希望の露路裏を、うわさの男がひた走る――。
さて、ここに出るは、人の心を食み裏切りを呼吸する街Tokyoに生きる、虚無ゆえの輝きに彩られた街Tokyoに生きる、痛ましいほど純粋なひとりの男の、そんな男の、そんなハートの物語。》
吉行淳之介『石膏色と赤』講談社文庫・1980年
《坂の向うの空で沈みかけていた、大きな夕日。また、鈍い白い光が漂うその下にあった夕暮の野原。幼年期に見た、その赤と白のふたつの夕暮とは、何だったのだろう? 幼年期から成年期にかけて想起された心象風景や体験、あるいは人々の印象などを、独得の感性と語り口で構成した、余韻ゆたかな好エッセイ集。》
池波正太郎『鬼平犯科帳15 特別長篇 雲竜剣』文春文庫・1985年
《二夜続けて腕利きの同心が殺害された。その手練は、半年まえ平蔵を襲った兇刃に似ている。あきらかに、何者かの火盗改方への挑戦だ…あの大鴉のような男が向けてきた刃の凄さを思い返した平蔵は、湧き上ってくる闘志を押えかねて思わず身震いした――恐るべき敵に立向う平蔵の縦横の活躍を描く。初登場! 長篇ならではの興趣満々。》
田中光二『二人だけの珊瑚礁』文春文庫・1983年
《――“現代のアダムとイブ”募集! 初対面の男女がミクロネシアの無人島で一週間の原始生活を――雑誌の呼びかけにチャレンジした若いふたりを待っていたのは……? 表題作の他、車をめぐるしゃれたタッチのSF作品「江ノ島心中」、“未来刑事シリーズ”の「呪術都市」など、鬼才の魅力溢れる傑作短篇八話を収録。 解説・大竹憲一》
収録作品=魚の出て来る日/呪術都市/二人だけの珊瑚礁/虎よ、虎よ!/幻夢の谷/江ノ島心中/霧の記憶/黄金の幾何学
筒井康隆『細菌人間』出版芸術社・2000年
《筒井康隆まぼろしのジュブナイル傑作集30年の時をこえて、ついに登場!いざ、手に汗にぎるなつかしき冒険SFの世界へ!ある晩、キヨシの家の庭に巨大ないん石が落下した。そこから生えてきた人食い植物に巻き付かれて、おとうさんは人が変わってしまう。ガソリンをすすり、恐ろしい形相でキヨシに迫ってくるおとうさん!キヨシはこの危機を脱することが出来るのか?「少年サンデー」に連載されて大好評を博した長篇「細菌人間」をはじめ、宇宙人に奪われた恋人を追って宇宙を駆け回る青年の活躍を描く「10万光年の追跡者」、パラレルワールドに迷い込んでしまった少年と少女の奇想天外な体験談「W世界の少年」など、全5篇を一挙に収録。》(「BOOK」データベースより)
(版元のサイトの内容紹介は別の本のものを誤記載)
収録作品=細菌人間/10万光年の追跡者/四枚のジャック/W世界の少年/闇につげる声
戸板康二『團十郎切腹事件』講談社文庫・1981年(直木賞)
《謎を残す八代目團十郎の死を名探偵老優雅楽が卓抜な着想で推理する直木賞受賞の表題作の他、『車引殺人事件』『奈落殺人事件』など、花道と奈落の明暗の現に生きる役者の世界に材をとる七篇を収録。頭脳明晰にして洒脱、ユニークな名探偵雅楽を得て、歌舞伎の虚構美と謎解きの論理性がみごと結晶した本格推理短篇集。》
収録作品=車引殺人事件/尊像紛失事件/立女形失踪事件/等々力座殺人事件/松王丸変死事件/盲女殺人事件/團十郎切腹事件/奈落殺人事件
創元推理文庫版
三好徹『風塵地帯』角川文庫・1973年
《ベトナムで大量の殺戮が行なわれているとき、バンドンで一人の日本人カメラマンが惨殺された。たちこめる腐臭、死体の右眼はえぐりとられ、無気味な空洞をつくっていた……。
軍の高級将校が幅をきかし、政情不安がつきまとう複雑なインドネシア政界の“黒い影”? 焼きつけるような強い陽差しの中で、日本人特派員の身辺にせまる血なまぐさい殺人事件!
インドネシアを震撼させた1965年9月のクーデターに取材した、スパイ小説の決宝版。》
古井由吉『日や月や』福武書店・1988年
《人と世の危うい関係に、認識のメスを入れて、時代の病理を剔抉し、現代人の歳月の内実をただす、最新エッセイ集。》(「BOOK」データベースより)
フェリックス・ガタリ『エコゾフィーとは何か―ガタリが遺したもの』青土社・2015年
《20世紀を代表する思想家が到達した哲学の全貌を、遺されたあらゆる言葉から描き出す。これは、現代という時代が宿した未来への哲学だ。》(「BOOK」データベースより)
荒巻義雄『神聖代―定本荒巻義雄メタSF全集 第6巻』彩流社・2015年
《1978年に刊行された『神聖代』は、荒巻自身が「傑作」と言って憚らない超大作。主人公Kが何者かに導かれるように行き着いた「ボッス星」。一〇〇〇光年の彼方に隠された「ボッス星」の秘密とは…。著者自身の内宇宙の旅路に読者は誘われ、やがて…。アメリカでの英文翻訳も進んでいる大作の原形ともなった「種子よ」も単行本初収録! 》(「BOOK」データベースより)
土屋隆夫『美の犯罪』角川文庫・1979年
《「奥さん」声をかけたが返事がない。往診に訪れた医師は異変を感じた。毛布をはねのけ、急いで患者の脈をさぐると、すでに停止していた。やがて、医師は死体の異常に気がついた。病み疲れ、肉のそげおちた頬には化粧が施され、乾いた唇は鮮やかな口紅で彩られていたのである。
殺したのは、日頃、孝行娘と近所でも評判の長女だった。彼女は素直に犯行を認めた。だが、殺害の動機については、なぜか黙秘を続けた……。
土屋作品の軌跡を辿る必読の作品集! 表題作ほか七篇を収録。》
収録作品=美の犯罪/殺人ラッキー賞/外道の言葉/三通の遺書/心の影/天国問答/女の穴/肌の告白
松本卓也『人はみな妄想する―ジャック・ラカンと鑑別診断の思想』青土社・2015年
《知られざるラカンの全貌
本書は、精神病か神経症かを判断する「鑑別診断」に、
思想と臨床の両方から光をあて、
まったくあたらしいラカン像を提示しようとするまさに画期の書である。
そこから50年代、60年代、70年代と
ラカンに一貫したテーマがはじめて浮かび上がってくる。》
ジュリアン・グラック『陰欝な美青年』文遊社・2015年
《この眩暈を止めなければ、この無意味な死を―ヴァカンスの倦怠を、不安に一変させる美青年、アランとは誰なのか?グラック初期長篇。》(「BOOK」データベースより)
平岡正明『日本ジャズ者伝説』平凡社・2006年
《ジャズとジャズ喫茶の衰退に、玉砕覚悟で拮抗する、日本各地のジャズ中毒者たち。敗戦後、米国植民地音楽を生き抜いた、瀕死のジャズマンたちの、知られざるディープな物語。ジャズ伝説完結》
中沢新一『日本文学の大地』角川学芸出版・2015年
《魅力的な日本文学を生み出した「大地」とは?画期的な文学案内にして、古典と現代思想の豪華な饗宴!自由闊達に、そして軽快に、日本の傑作古典文学の地層の奥ふかくにダイヴし、自然と文化が溶けあう日本人の「心的空間」を描きだす!》(「BOOK」データベースより)
田中光二『血と黄金』徳間文庫・1989年(角川小説賞)
《“黄金の三角地帯”と呼ばれるインドシナ半島のつけ根、ラオス、タイ、ビルマにまたがる山岳地帯は、全世界のヘロイン供給の八割以上を占める無法地帯だ。この無法地帯では、ケシが生む巨額の富をめぐって武装集団の戦闘が絶えない。若きプロデューサーとして映画界の寵児となった葛木鉄太郎は、テレビ・レポーター風早真希とともに、ヘロインを牛耳る陰の支配者を求めてバンコクへと飛ぶが……。傑作冒険長篇》
斎藤栄『日本海流殺人事件』徳間文庫・1983年
《元島津藩の重臣で莫大な遺産をもつ大和久家は、信助・忠助・孝助の兄弟のうち、忠助が当主となっていたが、その遺言で3兆円の美術品を北海道の美術館に寄贈することになった。その手続に奔走していた信助がなぜか小田原で他殺体として発見され、その妻も殺される。忠助の1人娘波留子は美術品を陸海空の3ルートに乗せて輸送するが、〈ニプルⅢ〉と名乗る怪盗の予告通り、美術品は輸送途中で次々と消えていった!》
講談社文芸文庫編『『少年倶楽部』熱血・痛快・時代短篇選』講談社文芸文庫・2015年
《戦国武将物から人情劇、偉人伝に海洋冒険小説まで。大正から昭和にかけて絶大な人気を博した伝説の雑誌から生まれた傑作短篇を集成。》
収録作品=武田菱誉れの初陣:吉川英治/不思議なノートブック:横山銀吉/お祖父様は犬嫌い:磯村善夫/獣をうつ少年:片岡鉄兵/名優のなさけ:サトウハチロー/小山羊の唄:池田宣政/名剣旭丸:金子光晴/靺鞨嵐:江口渙/肉弾相搏つ巨人:鳴弦楼主人/難破船の犬:十一谷義三郎/南極の黄金船:橋爪健/熊狩り夜話:中川勇/鞍馬天狗:大佛次郎/シルダの馬鹿市民:東山新吉/師弟決死隊:赤川武助/秋空晴れて:朝日壮吉/天晴れ黄八幡兄弟:三木喬太郎/武士の子:赤川武助/我が父強し:大倉桃郎/ぼくらの英雄:梶野千萬騎/大造爺さんと雁:椋鳩十/太平洋の橋:小出正吾
アンナ・カヴァン『われはラザロ』文遊社・2014年
《あらゆる悲しみが やってくる
強制的な昏睡、恐怖に満ちた記憶、敵機のサーチライト……
ロンドンに轟く爆撃音、そして透徹した悲しみ。
『アサイラム・ピース』につぐ二作目の短篇集。
全十五篇、待望の本邦初訳。》
収録作品=われはラザロ/眠りの宮殿/誰か海を想はざる/度忘れ/輝かしき若者たち/わが同胞の顔/天の敵/弟/カツオドリ/写真/あらゆる悲しみがやってくる/ある経験/ベンホー/わたしの居場所/われらの都市
森山大道『写真との対話、そして写真から/写真へ』青弓社・2006年
《写真は光と時間の化石である! 印画紙に刻まれた時代との絶えざる対話から紡ぎ出した言葉とハイコントラストなまなざしの系譜と、街に出ては写真を撮り独りこもっては写真を思う日々の記憶とを集成。写真から写真へと往還する思考の流れがほとばしる写文集。》
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