今月は、降ってわいたような災難がこまごまと来ては、その都度一応片付いていくという、ストレスの波状攻撃のような状態となり、動悸もやまなくなって、一時は本を読むどころではなかった。
知人の古本整理を断続的に手伝うことになった。最後の4冊はそちらから引き取ったもの。
日影丈吉『女の家』徳間文庫・1986年
《正月気分もさめやらぬ一月十七日朝、銀座裏の妾宅で、女あるじ析竹雪枝がガス中毒死した。その妾宅には、一人息子の家庭教師で、雪枝と関係を侍ったため一度は旦那から解雇された祖生武志が、家族同様に出入りしていた。所轄署の小柴刑事は、いったんは自殺として処理するが、事件当夜、付近でガス工事が行われていた情報をつかみ、調査してみると、意外な事実が明るみに出たのだった……。長篇推理。》
日影丈吉『移行死体』徳間文庫・1983年
《アパート代をためにためて放り出された大学生の宇部は、先輩の甘利のアトリエに転がりこんだ。だが、甘利も家主の鳥山から立ちのきを迫られていた。ある日、宇部は先輩から鳥山抹殺の計画を打明けられた。
ついに決行の日……ビルの屋上にあるはずの鳥山の死体が影も形もない!? しかも10日後、海上300キロ彼方の八丈島でその死体は発見された――死体移行の謎をユーモラスな筆致で解く本格ミステリー!》
川又千秋『林彪の罠―筑波・核戦略都市を奪回せよ』ノン・ノベル・1982年
《筑波学園都市の〈高子エネルギー研究所〉が謎の武装軍団に占拠された。緊急連絡を受けてうろたえる政府に、軍団は途方もない要求を突きつけた。“林彪を引き渡せ!”一九七一年、モンゴル領内で墜死したはずの中国の要人がいま、なぜ? 政府は、反逆の戦士・南一勝に協力を強要、軍団壊滅を命じた。一方、紅虎団と名乗る軍団もまた南に援助を要請。苦悩の末、南はある決意を固め筑波へと乗り込む……。前作『対馬沖ソ連艦に突入せよ』で圧倒的支持を得たSF界の俊英が、迫真の描写で読者を魅了する南一勝シリーズ第二弾!》
《著者のことば
前作『対馬沖ソ連艦に突入せよ』の主人公南一勝を、再度登場させた。いわば、帰国第一戦である。
舞台のひとつとして、筑波研究学園都市の一部施設を使用したが、もちろん、全てがフィクションであり、著者の空想にのみ基づくものであることをお断わりしておく。林彪に関する記述も同様である。現実のぱざまを押し開げ、そこに生じた虚構の世界で、主人公を思うさま暴れ回らせてみたい――そんな意図が、楽しんでいただける物語につながっていれば、なによりの喜びである。》
田中光二『怒りの聖樹』ノン・ノベル・1977年
《「――それは強烈な“意志”――すべての人間存在を、この世から拭い去る決意をかためたかのような“意志”だった。――彼は死んだ。あのたぐいまれに高貴な魂の侍ち主が……われわれと心を通い合わせていたあのすばらしい魂が。彼をむざんにも殺した人間だちよ。お前たちにも生きている資格はない。われらは怒りの声をともに上げる。その声に打たれるがいい。そして心を灼き尽くされるがいい。……立ちのぼる黒煙のヴェールをすかして、信じられぬような光景が、そこに在った――」SF小説『大滅亡』で大型新人としてデビューした田中光二が〈牙をむく植物群〉に材を取った、迫力漲る長編SFサスペンス小説の力作!!》
《著者のことば
この世界に、もっともありふれていながら、その存在を見過ごしがちなもの―それが、植物ではないだろうか。彼らはものも言わず、ひっそりと立ち、無心に枝葉をそよがせ、花の香を放っているように見える。動物たちは――とくに人間は、彼らをほしいままにし、殺し、奪い、しかもそのことにどんな罪悪感も抱いていないようである。だが、動物の生存に必要な酸素供給が、植物の手で行なわれている一事を見てもわかるように、じつは地球は、彼ら植物によって支えられている星なのだ。その彼らが主権者としての意志と、それをつらぬく手段を得たとすればどうなるか? これは、その悪夢の物語だ。》
鷲尾三郎『過去からの狙撃者』カッパ・ノベルス・1983年
《十二月の祝日の夜、神戸の高層ビルで一発の銃声が轟いた。駆けつけた巡回中の警備員が目にしたのは、碇山興産社長の射殺体であった。現場は完全な密室、死体の傍らには、一丁の拳銃とイヤリングが落ちていた。そして、窓ガラスには謎の弾痕が………
捜査線上に浮かんだ容疑者は、次々と腐乱死体となって発見される。事件の背景には、第二次大戦の南の島での忌まわしい過去が……。兵庫県警の辣腕警部・各務が、密室トリックの謎に挑む!
ベテラン作家が再起をかけた執念の復帰第一作!》
《私はこの小説を十年あまりの長い歳月をかけて完成させた。専業作家を棄てて就職した会社の同僚から聞かされた恐ろしい南の島での事件。思わず、私は背筋が凍るようなショックを受けた。そして、それまで沈滞していた私の創作意欲が刺激された――。
それをそのまま単純なドキュメンタリーとして記すよりも、一歩突っ込んで、本格推理小説としてまとめたいと思った。その構想には、慎重に取り組み、再び専業で創作に取り組んだ。そして長い労苦の末、やっとこの作品を脱稿したのである。 「著者のことば」》
《ベテラン作家の再起に拍手を
作家 鮎川哲也
いまの若い読者の大半は、鷲尾三郎の名も知らなければその作品を手にしたこともないだろう。が、鷲尾氏は決して新人なんぞではない。昭和24年に「疑問の指環」で登場して以来、京都の造り酒屋で起きた連続殺人がテーマの『酒蔵に棲む狐』を代表作として、70本あまりの長短編を発表したベテランなのである。
この作家は、江戸川乱歩に私淑していたとみえ、氏が亡くなると間もなく筆を折って関西に帰ったきり、一切の友人とも交わりを断った。そして、消息不明の20年が経過する。
氏の心境にどのような変化が生じたのかは知らないけれど、このたび、思いがけなく長編を書き上げてその健在よりを示してくれた。旧知の同僚作家の再起に、私は心からの拍手をおくりたいと思う。》
福本和也『愚か者の戯れ』トクマノベルズ・1983年
《風巻淳、三十一歳。浅黒い肌に髭の剃り跡が青い。容貌は男っぽいが、睫毛の濃く長い目もとや唇にほのかな甘さが漂っている。そんな外見からは誰にも想像できないが、彼は保険会社からは絶大な信頼を得ている凄腕の保険査定員なのだ。アジャスターの仕事は、保険会社から依頼された一件を調査して、保険金を支払うか否かを判定するもので、最近は、高額な保険金を狙う犯罪がますます巧妙、かつ悪質化して風巻たちの責任は重大であった。
ベテラン福本和也が新しい主人公を得て描くハードな人間模様。》
《航空ミステリーで他の追随を許さぬ境地を築きあげた福本和也だが、石油業界を描いた第一長篇『啜り泣く石』など一連の経済小説や人間の愛と欲望を鋭くとらえた『空白迷路』(共に徳間文庫)など、サスペンスタッチの作品でも多くの読者の支持を得ている。推理界のベテランに新たな構想の作品を期待できよう。》
フーコー/ソレルス他『新しい小説・新しい詩』竹内書店・1969年
色川武大『なつかしい芸人たち』新潮文庫・1993年
《学校をサボって浅草六区に通いつめた幼少の頃から、映画・テレビの普及した今日まで、著者が心ひかれ、熱い視線を注ぎ続けた、忘れがたい芸人たち。かれらは、独特の芸と異才で人気を博したが、どこか危ういはみ出し者でもあった……。エノケン、ターキー、金語楼など名だたるスターはもとより、青バットの大下、ヒゲの伊之助から、トニー谷、左卜全、渥美清まで変人・奇人が総登場!》
ウンベルト・エーコ、ジャン=クロード・カリエール『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』阪急コミュニケーションズ・2010年
《紙の本は、電子書籍に駆逐されてしまうのか?書物の歴史が直面している大きな転機について、博覧強記の老練愛書家が縦横無尽に語り合う。》(「BOOK」データベースより)
阿佐田哲也『Aクラス麻雀』双葉文庫・1989年
《麻雀の勝者と敗者とはどこが違うのか――麻雀は性格が極端に反映するゲームである。勝負に合ってる性格と合わない性格とがある。――会社の中の1単位としてならばそれぞれ向く仕事があるだろう。しかし麻雀は1人1国である。経営者であり、営業マンであり、技術屋でなければならぬ。つまりその総合的能力を要求されるのだ。(本文「勝てない格」より)》
ジョルジュ・プーレ『三つのロマン的神話学試論』審美叢書・1975年
《意識がはじめて働きだすとき、その内部に将来意識を支配し、意識につきまとうことになる諸主題が、すでに凝縮して見出される。それゆえ顕在的意識を掘り下げることなくして、筋の通ったテーマ研究というものはない。批評家がさまざまな精神世界に分け入ってその再現行為を行うとき、彼の研究する対象が自己を意識するそのような時を見のがすまいとするのはこのためである。批評家が問いかけるそのやり方は、わたしとは何ものか、わたしはどこにいるのか……といった一人称でしか表わせない一連の質問形式で要約されよう。ここに掲げる三つの試論は、そのような問に対して、答をでなく、そのような問を最初に自分に対して出した人々による個人的屈折、問に照応する屈折そのものを示そうと努めるものである。第一の場合は愛の関係のテーマ、一なる愛を熱烈に求めていながら、愛する対象が増殖重複してゆくその架空の作用のなかに迷いこむ、『シルヴィ』におけるネルヴァルの経験である。………(序より)》
バートン『バートン版 カーマ・スートラ』角川文庫・1971年
《古代インドの【愛の経典]。
著者のヴァーヤーヤナは
修業憎としてひたすら神を見つめながらこれを著した。
きわめて学究的かつ
具体的な“性典”として知られる秘書。》
柄谷行人『哲学の起源』岩波書店・2012年
《アテネのデモクラシーは、自由ゆえに平等であった古代イオニアのイソノミア(無支配)の成功しなかった再建の企てであった。滅びゆくイソノミアを記憶し保持するものとしてイオニアの自然哲学を読み直し、アテネ中心主義的に形成されたデモクラシーの神話を解体する。『世界史の構造』を経て初めてなった政治的想像力のみずみずしい刷新。》(「BOOK」データベースより)
川村二郎『幻視と変奏』新潮社・1971年
《ディアレクティックな詩精神の批評的展開を、緊密な散文の陰翳にゆだね、表現の核心を捉える!
凝視することを楽しむ自我と対象にしのび寄るストイックな感受性との交錯―――表現の奥にわだかまる芸術固有の領域を自己との関りにおいて探り、断片の閃光に似た文章の中に甦らせた評論集。》
《ぼくは書物を読む時、首尾一貫した大作のくまなくなめらかな光沢より、一見脈絡のさだかでない、いわば断片の集積に近い文章の中から、不意にかがやき出る閃光の方を愛するという頃きがある。ぼくのこの書物にそのような閃光がひそんでいる、などという自信は毛頭ないが、もし、ぼくと嗜好の似た読書人がいて、この中から時として欠けたくもりガラスの微光でもうかがわれはすまいか、と期待してくれるとすれば、ぼくとしては望外の幸なのである。(あとがきより)》
池波正太郎『戦国と幕末―乱世の男たち』角川文庫・1980年
《天下、麻のごとく乱れ、日本全国にたくましいエネルギーが満ち、人々が血をたぎらせた時代〈戦国と幕末〉
その歴史の劇的な転換期を生きぬいた男たち――戦国時代の最後を飾る数数の英雄、忠臣蔵で末代まで名を残した赤穂義士、「男伊達」を誇る幡随院長兵衛 そして幕末のアンチ・ヒーロー土方歳三、永倉新八…。
池波正太郎の深い洞察とユニークな史観に基づいて、歴史とのかかわりのなかにさまざまな人間の生き方を語った歴史エッセイ。》
アレクサンダー・レルネット=ホレーニア『両シチリア連隊』東京創元社・2014年
《1925年、二重帝国崩壊後のウィーン。大戦時に両シチリア連隊を率いたロションヴィル大佐は、娘のガブリエーレとともに元トリエステ総督の催す夜会に招かれた。その席で彼は、見知らぬ男から、ロシアで捕虜となって脱走した末、ニコライ大公に別人と取り違えられたという奇妙な体験談を聞く。そして宴もお開きになるころ、元両シチリア連隊の将校エンゲルスハウゼンが、邸宅の一室で首を捻られて殺害される。六日後には、事件を調べていた元連隊の少尉が行方不明となり…。第一次世界大戦を生き延びた兵士たちが、なぜ今“死”に見舞われるのか。謎に次ぐ謎の果て、明らかとなる衝撃の真相とは。二重身、白昼夢、幻視、運命の謎。夢想と論理が織りなす、世の終わりのための探偵小説。反ミステリの金字塔。》(「BOOK」データベースより)
レオ・ペルッツ『ボリバル侯爵』国書刊行会・2013年
《ナポレオン戦争時代のスペインを舞台に、謎の侯爵、さまよえるユダヤ人、青年将校らが織りなす宿命の物語。》(「BOOK」データベースより)
富岡多恵子『砂時計のように』中公文庫・1985年
《小さなブティックを開いている姉由見子と離婚したばかりで心ゆれうごく妹の未知子。二人の間に現われる男、量介とその妻との心理的葛藤。姉妹の眼を通して現代の乾いた恋愛を描く長編。》
山内令南『癌だましい』文藝春秋・2011年(文學界新人賞)
《末期癌を患いながら執筆、文學界新人賞受賞の衝撃作。著者はその10日後、世を去った。絶筆「癌ふるい」も必読。いまだかつてない闘病小説。》(「BOOK」データベースより)
収録作品=癌だましい/癌ふるい
落合恵子『水の時間 風の休日』新潮文庫・1991年
《この町に住んで三十数年、私にはたくさんの思い出がある。――小学生の頃、夏になると買ってもらった白いピケの帽子。その古い店は今も裏通りにある。楽しい読書=靴のうえから用済みのソックスを履いた園児が野原で遊んでいる。草の実がいっぱいついたソックスを植木鉢に植えると、やがて小さな芽がでた。そして友との語らいや仕事のこと……。人生の共生を率直に綴るエッセイ集。》
伊藤進『心理学って役に立つんですか?』川島書店・2003年
《たまには涙もわるくない/悪戦苦闘もわるくない/暗いのだってわるくない/ひとの心は読めるのか/二流を生きるのもわるくない、5つのアプローチから、実例により繰りひろげる現代心理学ミニ講義。》(「BOOK」データベースより)
下山弘『川柳のエロティシズム』新潮選書・1995年
《17文字の仕掛け花火「ばれ句」とは何か。浮世絵の春画とおなじように大流行し、発禁の憂目をみつつ、江戸知識人たちを熱狂させた川柳の醍醐味を徹底評釈する。》(「BOOK」データベースより)
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Schubert Symphony No 4 C minor 'Tragic' Nikolaus Harnoncourt Concentus Musicus Wien
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