相変わらずのろのろしているが、今月は必読書っぽいものを幾つか通読。『21世紀の資本』『江戸しぐさの正体』『啓蒙思想2.0』等。
あとクラークやハガードの、読まずにきてしまっていた名作。
装幀で懐かしいのはジーンズ柄の西村寿行の角川文庫(クラークやハガードのは、私の年齢でも少々昔過ぎる)。
それと講談社ノベルズの高柳芳夫。装幀がこの辰巳四郎のものでなければ古本屋で見つけても読まなかったはずである。
高柳芳夫『モスクワから来たスパイ』講談社ノベルス・1983年
《チェコのプラハにある日本大使館に明日香大使を訪ねて、日本人記者・雨田が顔を見せた。ある古文書を携えて……。雨田が帰った直後叫び声がし、木暮書記館がかけつけると大使が庭に落ちて死んでいた。雨田も殺され、古文書を持って逃げた恋人ヤーナも狙われ始めた……。国際政治の裏面をえぐるスパイ小説の傑作!》
《著者のことば
一九四八年チェコスロバキアの外務大臣ヤン・マサリクは、官邸の三階の窓から墜死した。自他殺いずれとも判明せぬまま、その後のチェコの運命を決定的に変えたこの事件は、現代史の謎の一つに数えられている。本作品は、この謎に一つの解決を与え、その後のチェコと米ソ対立の激流に生きる人々を書いたフィクションだが、ひょっとするとこれは現在世界のどこにも起り得る問題ではないかと思えてならないのである。》
※「書記館」ママ
西村寿行『二万時間の男』角川文庫・1983年
《ある山中で、車に乗ったまま行方不明になった人妻――彼女は、山の茶屋を境にして、プッツリとその跡が途切れていた。
この失踪の背後にあるのは、はたして犯罪か、背徳……? 愛する妻を探し求める夫の顔に苦悩が深い……。しかし、そこには男と女の、逃れることのできない深い業が全てを支配している恐るべき世界があった……。
「二万時間の男」
人間の深奥を見事に描ききる、ハード・ロマンの独壇場。秀作全四編収録。》
収録作品=二万時間の男/滅びる/魔性島/怨讐分かちがたし
トマ・ピケティ『21世紀の資本』みすず書房・2014年
《資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す。本書の唯一の目的は、過去からいくつか将来に対する慎ましい鍵を引き出すことだ。》(「BOOK」データベースより)
下田淳『ヨーロッパ文明の正体―何が資本主義を駆動させたか』筑摩選書・2013年
《欧米の覇権が揺らいでいる。いま行き詰まっているのは資本主義なのか、民主主義なのか、国民国家というあり方なのか。それを問うために、いまこそヨーロッパ文明とは何だったかを見定めねばならない。そもそもなぜヨーロッパが近代以降の世界を制覇できたのか。経済体制、思想形態、政治制度は結果にすぎない。ヨーロッパ固有の何かが、全世界を席巻し得る契機となった何かが根幹にあるはずだ―。近代の歴史を動かした「論理」の基盤に迫る。》(「BOOK」データベースより)
長野まゆみ『月の船でゆく』光文社文庫・2003年
《「…ぼくは月から来たんです。パパを探しに。」回転木馬の調べにのって、少年をめぐる輪舞曲がはじまった―。長野まゆみが贈る白銀色のサスペンス・ファンタジー。》(「BOOK」データベースより)
ムスタファ・シェリフ『イスラームと西洋―ジャック・デリダとの出会い、対話』駿河台出版社・2007年
《友愛、あるいは他者を敬いその言葉を傾聴する態度こそが、理解されるべき何かを把握するためには不可欠である。2003年にパリで行われたシンポジウムでのデリダとの対談をもとに、著者のコメントを追加したテクスト。》(「MARC」データベースより)
ジョセフ・ヒース『啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために』NTT出版・2014年
《いまや西洋世界は〈右翼と左翼〉ではなく、〈狂気と正気〉に分断されている。民主主義や市場経済といった近代社会の礎が危うくなってきている。状況を打開するためには、〈啓蒙思想〉の再起動が必要だ――旧来の啓蒙思想の行き詰まりを保守主義の再評価や認知科学・行動経済学などへの参照を通して反省し、理性と直感、知と情を束ねる新たな世界観を提示する。気鋭の哲学者の渾身の1冊。》
横田順彌『とっぴトッピング』アルゴ文庫・1988年
《「留守番電話」って知ってる? バカにしないでよ、という顔をしたあなた、あなたは本当に「留守番電話」を知っているのか? 自信がぐらついた人はこの本を読んでみよう。ほかにもあなたの知らなかったことがどんどん出てくることは、この私が保証する。
15の不思議な昧が楽しめる、ときめきの世界へ、さあ、どうぞ。》
収録作品=留守番電話/ああ! 栄光の背番号3/宇宙人のテスト/落噺 長屋の珍客/釈迦殿にて/ご先祖さまのプレゼント/傷心旅行/仏門帰依/プラプラ星人の約束/奇跡/極楽殺人事件/進太郎くんの大冒険/作家志願/出エジプト記/究極のSF
黒井千次『夢のいた場所』文藝春秋・1973年
菅野昭正『小説家 大岡昇平』筑摩書房・2014年
《戦後文学史に不滅の輝きを放つ小説群―卓抜な読解に浮び上がる、豊饒な作家の“全体像”。『俘虜記』により作家として出発、ベストセラーとなった『武蔵野夫人』『野火』『花影』、完璧主義による壮大なレクイエム『レイテ戦記』。さらに『事件』、『堺港攘夷始末』まで―歴史の激流の中で誠実な歩みをつづけた小説家大岡昇平の“ながい旅”の軌跡を、透徹した作品分析によって描き出す。》(「BOOK」データベースより)
今東光『東光金蘭帖』中公文庫・1978年
《秀潤深愛の人物論 川端康成
今東光の天馬の快筆毒舌は、今や当代の爽爽事だが、この「金蘭帖」ほど、今君の豊美の本来と、今日の大をなした成長とを、おのづから明発した書はあるまいと思ふ。ここには今君の若い日の師友十六氏が生彩縦横に、今君現在の第二の青春の光圓のうちに描かれて、今君自身のかつての青春とともにその人たちもよみがへる。無類の面白い交友記にとどまらず、稀有に秀潤深愛の人物論であって、それが今君自己の人物論ともなってゐる。》
加藤周一『『日本文学史序説』補講』かもがわ出版・2006年
《世界7カ国語に翻訳され、高い評価を受けた『日本文学史序説』。本書は、この不朽の名著について、著者みずからが集中講義を行った全記録である。『日本文学史序説』のエッセンスを分かりやすく説きつつ、執筆の方法論を明かし、その後の発見なども織り交ぜて縦横に語る。日本文学の細やかな味わいについて、中国や西洋の文学との比較、文学にあらわれた思想について―自著の解説やすでに語られたことの要約に留まらぬ、芸術・文化、政治、社会に及ぶ白熱の講義録。文庫化にあたり、『日本文学史序説』をめぐる、大江健三郎、小森陽一、成田龍一各氏の追悼鼎談を「もう一つの補講」として収録。》(「BOOK」データベースより)
ちくま学芸文庫版
大野一英編著『仏壇物語』探究社・2006年
《いま仏壇といえば誰しもが思い浮かべる箱仏壇(箱の形)は江戸時代に定着したとされるが、果たして、そうか。各産地の仏壇の特色は。その特色を生み出した背景は。宗派上の相違点は。奥の深い、幅の広い仏壇の話。》(「MARC」データベースより)
紀貫之作/鈴木知太郎校注『土左日記』岩波文庫・1979年
《「をとこもすなる日記といふものを,をむなもしてみむとてするなり」という冒頭の一句が示すように,貫之(868?―945)が任地土佐国から船出し辛苦のすえ帰京するまでの一部始終を女性の筆に仮託して綴ったわが国初の仮名文日記。人生の内面や真実を情趣と含蓄に富んだ筆致で描き,次代の女流文学の全盛を導き出す先駆となった。》
清水文雄校注『和泉式部日記』岩波文庫・1941年
《ものおもへば沢の蛍もわが身よりあくがれいづる魂かとぞみる――愛する男を失った式部が,神の力によって悩める魂を鎮めるべく貴船神社に詣でた折の歌である。この日記は,多くの男性遍歴の中で,とりわけ深い愛情を捧げた帥の宮との恋愛生活を,宮との贈答歌を中心に叙述したもの.式部研究第一人者による新校注。》
梅原猛・今出川行雲・梅原賢一郎・奥田昭則『横川の光―比叡山物語』角川学芸出版・2010年
《最澄が開き、多くの名僧が学んだ比叡山。中でも「横川」は円仁、良源、源信、道元などの傑出した独創的宗教者を輩出した。彼らが残した思想や比叡山の意義とは何か。現代の異端・梅原猛が、天台宗大僧正・今出川行雲、そして父との相剋の中で創造的学問を試みる美学者・梅原賢一郎とともに語る。》(「BOOK」データベースより)
川本直『「男の娘」たち』河出書房新社・2014年
《日本最大の女装イベント、コスプレ女装男子たち、女性として日常を送る埋没系―3年に及ぶ綿密な取材でネット以降のトランスジェンダーに肉薄する傑作ノンフィクション。彼(女)たちのライフ・ヒストリー。》(「BOOK」データベースより)
金子勝・伊東俊彦・伊多波宗周・高橋若木・竹田茂夫『社会はどう壊れていて、いかに取り戻すのか』同友館・2014年
《なぜ、こんなにも生き辛くなったのか?アベノミクス、原発、格差、自立強制、差別、バブル…哲学思考を武器に、壊れた社会の象徴的現象を斬る。》(「BOOK」データベースより)
原田実『江戸しぐさの正体―教育をむしばむ偽りの伝統』星海社新書・2014年
《「江戸しぐさ」とは、現実逃避から生まれた架空の伝統である
本書は、「江戸しぐさ」を徹底的に検証したものだ。「江戸しぐさ」は、そのネーミングとは裏腹に、一九八〇年代に芝三光という反骨の知識人によって生み出されたものである。そのため、そこで述べられるマナーは、実際の江戸時代の風俗からかけ離れたものとなっている。芝の没後に繰り広げられた越川禮子を中心とする普及活動、桐山勝の助力による「NPO法人設立」を経て、現在では教育現場で道徳教育の教材として用いられるまでになってしまった。しかし、「江戸しぐさ」は偽史であり、オカルトであり、現実逃避の産物として生み出されたものである。我々は、偽りを子供たちに教えないためにも、「江戸しぐさ」の正体を見極めねばならないのだ。》
田中光二『さらば人間〈新・創命記〉』カッパ・ノベルス・1978年
《幻覚煙草と興奮剤がもたらす快楽の世界……胎児酸素加法で生まれた天才児・矢筈紀彦は、未来にとって申し分ないセックス・パートナーだった。だが紀彦は、未来の生き方を批判して去っていく…。空虚な心でとり残された未来は、精子銀行プロジェクトの責任者である父親の黒河内教授に、人工授精用実験台の第一号になることを志願した。そして妊娠五カ月。だが、未来が受胎した精子は、精子銀行計画に反対するダループがすりかえた、父・黒河内教授の精子であった! (第一話「創性記」)SF界の旗手が、近未来の恐怖を描く問題作。》
《現代は、危機の時代といわれる。急速に加速された技術文明の、さまざまなひずみが現われ、惑星レベルの自然変動が、それに加わりつつある。――しかし、目には見えにくいが、さらに人類にとって重要な、内発的危機も存在するのだ。たとえば、生命科学の急速な発展がそうである。モラルや価値観が、技術・知見に遅れを取り、深刻なギャップが生じようとしている。――それらの危機を、ぼくは小説のかたちで表わそうと試みた。
「著者のことば」》
《田中光二さんは、何か途方もなく大きなものを夢見、探し求めている人だ。そんな気がしてならない。「宇宙よりも、もっと大きなもの」の心臓部へむけて、美しい、すばらしいフォームで、鋭い槍をふかぶかと投げつける日を夢見て、果てしない荒野をたった一人でその獲物を探して旅をつづける若いハンター――そんなイメージが、いつも彼の長身と含羞の中に漂っている。(作家・小松左京)》
アーサー・C・クラーク『地球幼年期の終わり』創元推理文庫・1969年
《20既記後半、地球大国間の愚劣きわまる宇宙開発競争をあざ笑うかのように、突如として未知の大宇宙船団が地球に降下してきた。彼らは、他の太陽系から来た超人で、地球人とは比較にならぬほどの高度の知能と能力を備えた全能者であった。彼らは地球を全面的に管理し、戦争や病気や汚職といった有史以来の人類の悪のすべてを一掃し、その結果、地球にはインターナショナルな理想社会が出現した。しかし、この全能者たちの地球来訪の真意は、はたしてなんであろうか?》
福島正実編『宇宙のエロス エロチックSF』芳賀書店・1972年
収録作品=ロバート・シルヴァーバーグ「上か下か」/H・B・ヒッキイ「抱擁」/リチャード・マティスン「ショク……」/ポール・ウィギン「ミスター・ウーリイ」/ポール・アンダースン「旅路の果て」/ジョン・アンソニイ「蠱惑の珠」/ジョージ・ブラウン「ルシア遊学」/ロバート・シェクリイ「スペース・ワイフ」/ロス・G・スミス「異次元の肌」/ジョー・フライデイ「ワープする欲情」/ジョージ・トーマス「悪魔の火」/リチャード・レン「裸女が戦う」/ダン・モーガン「夢遊ドライブ」/デーン・カーネル「砂漠の女」/フレデリック・マラリイ「宇宙人性教育講座」/リチャード・マティスン「コールガールは花ざかり」
H・R・ハガード『洞窟の女王』創元推理文庫・1974年
《二十年後に開封せよ、と指定された鉄の箱の謎。そのなかにはいっていたギリシャ文字で書かれた奇々怪々な古文書に誘われて中央アフリカの探険に向かった行の行く手に待っていたのは! 人跡未踏のアフリカの奥地に二千年のあいだ生き長らえる絶世の美女! 不朽の恋に永遠の生命を吹きこまれた女王の支配する神秘境! 近代英国最大の物語作家ハガードが、その空想力を縦横に駆使し読者を妖しい幻想と戦慄の世界へと魅了する大傑作である。本邦初の完訳決定版!》
H・R・ハガード『女王の復活』創元推理文庫・1977年
《二千有余年を生きつづけた洞窟の女王は若返るはずの生命の焔をあび、逆に恐るべき老齢の死体と化してしまった。女王の恋人であるレオの念頭からその衝撃は片時も消えることなく、彼は、必ず生きかえると誓った女王のことばを信じて日日不安と期待に胸をふくらませていた。そしてある夜、幻の中で女王は復活を告げる。彼は、その幻に現われた情景を探し求めて神秘の国チベットヘと旅をつづけた。はたして幻の告知どおり、女王とおぼしき女性と再会するが……。巨匠ライダー・ハガードが、雄渾な筆致と奔放な想像力で描く『洞窟の女王』の続編。》
結城康博『孤独死のリアル』講談社現代新書・2014年
《「孤独死はもはや身近な問題」。地方自治体の高齢者福祉担当職を経て研究者になった著者が、経験や現場の本音をふまえて語る。》(「BOOK」データベースより)
鶴見俊輔『思い出袋』岩波新書・2010年
《戦後思想史に独自の軌跡をしるす著者が,戦中・戦後をとおして出会った多くの人や本,自らの決断などを縦横に語る.抜きん出た知性と独特の感性が光るこの多彩な回想のなかでも,アメリカと戦争の体験は哲学を生きぬく著者の原点を鮮やかに示している.著者80歳から7年にわたり綴った『図書』連載「一月一話」を集成.》
岩波新書 思い出袋
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Mahler - Symphony No 1 in D major - Kubelik
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